新しく事業を始めるには、初期費用(イニシャルコスト)や事業継続費用(ランニングコスト)などのまとまったお金が必要です。新規事業にかかる費用を自己資金で賄えない場合は、助成金や補助金などを利用して資金を調達する方法があります。
この記事では、新規事業向けの助成金や補助金制度の中から、厳選した9つの制度を紹介します。最適な助成金・補助金制度を選択できるよう、制度ごとの違いを理解していきましょう。
新規事業に活用できる助成金や補助金制度をひとつずつ解説します。内容をしっかりと理解し、活用につなげていきましょう。
IT導入補助金とは、中小企業や小規模事業者等の労働生産性を向上させるために、業務効率化やDXのためのITツール導入を支援する補助金制度です。ITツールの要件は申請枠ごとで指定があるため、公募要領でしっかりと確認する必要があります。
IT導入補助金を申請するには、「事業実態確認書」が必要ですが、これは直近分の法人税の納税証明書が該当します。納税証明書は税務署で発行する書類であり、納税するには決算の後確定申告をしないといけません。つまり、一度も決算をしたことがない法人は必要書類が揃わないため、IT導入補助金が申請できないのです。
決算を一度行い、納税証明書を取得すれば、IT導入補助金の申請が可能となります。2期目以降にITツールを導入するのであれば、IT導入補助金の利用を検討すると良いでしょう。
IT導入補助金については、以下の記事もご覧ください。
【最大450万円】IT導入補助金とは?2022年度の対象とスケジュール、申請方法
ものづくり補助金は、正式名称を「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」と言います。中小企業・小規模事業者等が、相次いで直面する制度変更等に対応できるよう、生産性向上のための設備投資等を支援する補助金制度です。
ものづくり補助金の申請対象は、以下の規定を満たす事業者です。
事業者の資本金もしくは従業員数が規定以下である
要件を満たす事業計画書を策定する
上記の規定には、事業者の創業年数は含まれておらず、新規事業であっても規定を満たせば申請が可能です。
ものづくり補助金の詳細は以下の記事で解説していますので、合わせてご覧ください。
ものづくり補助金とは?省力化(オーダーメイド)枠などの申請枠や補助額、対象者、申請方法を公募要領をもとに解説
小規模事業者持続化補助金とは、小規模事業者等が持続的な経営に向けた経営計画を立て、地道な販路開拓等の取り組みや業務効率化の取り組みにかかる経費の一部を補助し、支援する制度です。
この補助金には創業枠という特別枠があり、創業枠の申請要件は以下の2つです。
過去3か年の間に開業していること
公募締切時から起算して過去3か年の間に、認定連携創業支援等事業者が実施した「特定創業支援等事業」による支援を受けていること
創業枠は、通常枠よりも補助金額が高くなっているため、上記の要件を満たす事業者であれば、創業枠での申請がおすすめです。
小規模事業者持続化補助金については、以下の記事も参考にしてください。
小規模事業者持続化補助金の申請方法は?対象者から必要書類、書き方までを解説
小規模事業者持続化補助金の採択事例は?業種別の事例と採択されるためのポイントを解説
事業再構築補助金は、中小企業等が行う新分野展開・事業転換・業種転換・業態転換・事業再編などの事業再構築を支援し、日本経済の構造転換を促す補助金制度です。
事業再構築に該当する新規事業には、新業種への転換・新分野への挑戦などが該当します。これらの取り組みによって経営回復を目指していくのであれば、事業再構築補助金が活用可能です。
採択の条件は、新規事業が事業再構築の定義に該当することです。さらに、申請枠ごとに対象事業が定められているため、指定リストで確認する必要があります。
事業再構築補助金の第11回申請は、令和5年10月に終了しています。今後の予定は、公式サイトを定期的に確認しましょう。
事業再構築補助金については以下の記事も参考にしてみてください。
事業再構築補助金はいつから申請できる?第12回公募の具体的スケジュールと申請方法
事業再構築補助金とものづくり補助金の違いは?申請要件の違いから使い分けのポイントを解説
事業承継・引継ぎ補助金は、事業承継をきっかけにして新しい取り組み等を行う中小企業等や、事業再編・事業統合に伴い経営資源を次世代に引き継ぐ中小企業等を支援する補助金制度です。
中小企業の多くは、後継者不足が大きな課題となっており、廃業を余儀なくされるケースも増えています。これらの課題を解決すべく、事業承継やM&Aを契機として経営革新などの取り組み等にかかる費用を支援します。つまり、事業承継やM&Aに伴う新規事業であれば、この補助金が活用可能です。
事業承継・引継ぎ補助金の事業のうち、新規事業に適しているのは経営革新枠のうちの創業支援型です。新ジャンルのビジネスを始める・新商品を開発したいなどの取り組みにおいて、要件を満たせば申請できます。
事業承継・引継ぎ補助金とは?制度概要や対象者、補助額、申請方法などを解説
創業助成金は、公益財団法人東京都中小企業振興公社が扱っている助成金制度です。東京都内での開業率向上を目標とし、都内で創業を予定している・もしくは創業後5年未満である中小企業者等のうち、一定の要件を満たす対象者に、助成金が支給されます。助成内容は以下のとおりです。
項目 | 内容 |
---|---|
対象者 | TOKYO創業ステーションの事業計画書策定支援修了者 東京都制度融資(創業)利用者 都内の公的創業支援施設入居者 等 |
助成対象期間 | 交付決定日から6か月以上2年以下 |
助成限度額 | 上限額400万円・下限額100万円 |
助成率 | 助成対象経費の2/3以内 |
助成対象経費 | 賃借料、広告費、器具備品購入費、産業財産権出願・導入費、専門家指導費、従業員人件費 |
創業助成金については、以下の記事もご覧ください。
創業助成金とは?対象者、要件から手続き、メリット、デメリットまで解説
新規事業の立ち上げに必要な優秀人材の確保には、職場環境の改善や従業員の待遇改善が欠かせません。キャリアアップ助成金は、厚生労働省が取り扱う助成金制度であり、各種改善や教育訓練などの取り組みに対して活用できます。
キャリアアップ助成金は、以下の7コースに分類されています。
正社員化支援
正社員化コース
障害者正社員化コース
処遇改善支援
賃金規定等改定コース
賃金規定等共通化コース
賞与・退職金制度導入コース
短時間労働者労働時間延長コース
社会保険適用時処遇改善コース
コースにより、受け取ることができる助成金が大きく変わってきます。申請要件に合った助成金を選び、申請を行いましょう。
キャリアアップ助成金については以下の記事もご覧ください。
魅力ある職場づくりによる人材の確保・定着を目的として、労働環境等の向上を図る事業主や事業労働組合等に対する助成金制度です。厚生労働省のホームページで紹介されているコースは以下のとおりです。
雇用管理制度助成コース
介護福祉機器助成コース
中小企業団体助成コース
人事評価改善等助成コース
建設キャリアアップシステム等普及促進コース
若年層及び女性に魅力ある職場づくり事業コース(建設分野)
作業員宿舎等設置助成コース(建設分野)
外国人労働者就労環境整備助成コース
テレワークコース
キャリアアップ助成金と同様、この人材確保等支援助成金についても、コースによって要件や助成金額が異なります。
人材確保等支援助成金については、以下の記事もご覧ください。
人材確保等支援助成金とは?各コースの受給要件や受給額、申請の流れを解説
経済上の理由で、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主に対して、雇用の維持を図るために休業・教育訓練・出向にかかる費用を助成する制度です。令和6年1月から、雇用調整助成金の支給額の算定方法が改定されます。
事業所の設置後1年未満の事業主は、生産指標を前年同期と比較できないため、この助成金の支給対象とはなりません。設置後1年を超え、生産指標が比較できるようになると支給対象になります。
助成金と補助金は、どちらも定められた事業に対して国や自治体などからお金が支給される制度です。それぞれの制度で、内容や対象者が異なるため、給付を受けるには特徴をしっかりと理解しておくことが必要です。
ここからは、助成金・補助金それぞれの特徴や違いを解説します。
なお、新規事業で補助金・助成金を使う際に気をつけるべきポイントについては下記の記事をご参照ください。
参考:新規事業で使える補助金・助成金とは?失敗しないための心構えも解説(pro-d-use.jp)
助成金とは、雇用促進や職場環境など職の安定を目的として支給されるものであり、主に厚生労働省が管轄しています。他にも、経済産業省が公募している研究開発に関する助成金もあります。
雇用関係の助成金は、具体的に以下のような目的で活用されています。
業績悪化により休業を余儀なくされた場合に、従業員に手当を支払う
非正規雇用者のキャリアアップを支援する
働き方改革のためにシステムを導入する
障がい者雇用を促進する
補助金は、事業拡大や設備投資・雇用安定など、企業活動の支援を目的として支給されており、主に経済産業省や地方自治体が管轄しています。具体的に、以下のような目的で活用されています。
人手不足を解消する
販路を拡大する
宣伝効果を高める
業務効率改善のためのITツールを導入する
試作品やサービス開発のための設備投資をする
助成金と補助金は、目的が異なるため、管轄団体や受給できる確率、募集期間なども異なります。
それぞれの特徴でも触れているように、助成金は主に厚生労働省・補助金は主に経済産業省や自治体が管轄しています。また、助成金は要件に当てはまっていれば受給できる確率が高いのに対し、補助金は採択件数や金額が決まっており、申請しても必ず受給できるとは限りません。
募集期間については、助成金は通年で募集されている制度が多く、申請期間も長めのものがほとんどです。これに対し、補助金は予算が組まれる年度初めや補正予算の成立後に発表されることが多く、公募期間は長くても1か月程度となっています。
より詳細は、以下の記事をご覧ください。
補助金と助成金の違いとは?それぞれの特徴、活用方法、代表的な制度を解説
助成金や補助金を受給することで、企業にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、主なメリットを3つ解説します。
助成金・補助金のどちらも、原則として返済の必要がありません。助成金は、企業が納める雇用保険料を財源としており、補助金は税金を財源としているためです。
助成金・補助金以外の資金調達手段として、公的融資や金融機関からの融資・社債の発行・ビジネスローンなどの利用がありますが、これらは全て返済が必要です。
新規事業を始める際に、返済の必要がない助成金・補助金を利用できると、資金繰りの面で安心できるでしょう。
助成金や補助金の受給には、事業計画の見直しや労働環境などの整備が必要です。これらの過程を経て受給できれば、信用性が高まり会社の実績につなげられます。
また、助成金や補助金の受給実績は、銀行から融資を受ける際にプラスの要素となります。新規事業の拡大などを検討する際に、資金繰りも検討しやすくなるでしょう。
補助金は、制度によっては数千万円規模の支給額となるものもあります。助成金は、補助金ほど支給額は多くありませんが、それでも数十万円は受け取ることができます。
新規事業には何かとお金がかかるため、要件に該当するのであれば助成金・補助金制度を積極的に活用したいものです。
メリットが大きい助成金・補助金ですが、デメリットも存在します。メリットとデメリットの双方を理解し、有効な活用につなげていきましょう。
助成金・補助金は、制度やコースなどによって申請要件が細かく規定されており、一目見ただけでは要件が分かりにくい制度がほとんどです。申請する制度の募集要項をしっかりと確認し、分からないことがあれば実施元に問い合わせるようにしましょう。
助成金・補助金のどちらも、申請しただけでは受給されず、審査を経る必要があります。特に、補助金は倍率の高いものも多く、申請しても受けられない可能性もあります。
近年では不正受給防止のために、受給要件も厳しくなる傾向が見られます。要件に該当するかを事前に確認する事が必要です。そのうえで、申請準備と同時に、万が一申請が通らなかった場合の対策も検討しておくと安心です。
助成金・補助金の中には、数か月から数年に渡る事業期間の終了後に事業報告を行い、その後受給するものも少なくありません。制度によっては、受給するまでに数年かかるものもあります。
受給するまでには、自己資金や融資などでまとまった資金を用意しておく必要があり、事業開始よりも前に助成金・補助金を受け取ることはできないと理解しておかなくてはいけません。事業スケジュールを立てる際に、資金調達の件も必ず組み込むようにしましょう。
助成金・補助金は、新規事業にかかる金銭面でのリスクを低減でき、事業の成功や拡大に向けた取り組みを進められる制度です。
制度ごとの申請要件やスケジュールなどをきちんと把握し、事業に合った制度をうまく利用していきましょう。