後継者不足による事業承継やM&Aを検討している事業者に向けて、「事業承継引継ぎ補助金制度」が制定されています。しかしこの制度について、詳しく知らない事業者も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、事業承継引継ぎ補助金制度について、概要や申請類型、申請方法やスケジュールについて解説します。ぜひ参考にしてください。
最初に、事業承継・引継ぎ等補助金とはどのような制度なのか、概要や対象者を解説します。
事業承継・引継ぎ等補助金とは、「事業承継補助金」と「経営資源引継ぎ補助金」を統合した制度であり、2020年から始まりました。後継者が見つからず、事業の廃業を検討している事業者が、事業承継やM&Aを行うことでかかる経費の一部を補助する制度です。
昨今、黒字経営であるにもかかわらず、後継者不足を理由に廃業する中小企業が増えています。廃業により、該当企業が積み上げてきたノウハウや技術が消滅するほか、従業員の雇用先もなくなってしまいます。これらを防ぎ、国をあげて事業承継を支援する目的で、制度が制定されました。
補助金の交付を受けられる対象者は、以下に該当する中小企業者・個人事業主(以下:中小企業等)です。
事業承継をきっかけに、新しい取り組みを始める
事業の再編や統合により、経営資源を引き継ぐ
なお、社会福祉法人などの法人や農業協同組合などの組合は、中小企業者に含まれません。それ以外にも、対象外となる企業者があるため、該当年度の公募要項を確認するようにしましょう。
事業承継・引継ぎ補助金には、以下の3つの申請枠があります。
経営革新枠
専門家活用枠
廃業・再チャレンジ枠
それぞれの詳細について、次の項から要件などを詳しく解説します。
経営革新枠は、事業承継およびM&Aをきっかけとして、新商品の開発や新たな顧客層の開拓などの経営革新等にチャレンジする中小企業等を支援する制度です。以下の3類型に分けられます。
類型 | 概要 |
---|---|
創業支援型(Ⅰ型) | 廃業を予定している事業者から経営資源などを引き継ぎ、創業時にそれを活用して経営革新に取り組む |
経営者交代型(Ⅱ型) | 親から子への承継・第三者への事業譲渡などにより、経営者が交代する。経営に関する実績や知識が求められる |
M&A型(Ⅲ型) | M&Aにより事業承継を実施し、事業の再編および統合を支援する。Ⅱ型同様、経営に関する実績や知識が必要 |
経営革新枠の対象者は以下のとおりです。
申請型 | 対象者 |
---|---|
創業支援型 | 事業継承を契機に操業を行い経営革新に取り組む方が対象です。 廃業予定のある方から有機的一体として機能する経営資源を引きついて間もない中小企業・小規模事業者で、以下の要件を満たしている方が利用できる補助金です。 事業承継対象期間内の法人 設立、又は個人事業主としての開業 創業にあたって、廃業を予定している者等から、株式譲渡、事業譲渡等により、有機的一体としての 経営資源(設備、従業員、顧客等)の引き継ぎ。※設備のみを引き継ぐ等、個別の経営資源のみを引き継ぐ場は該当しない |
経営者交代型 | 親族や従業員へ事業を承継し、経営を引き継いだ側が経営革新等に取り組む方が対象です。 将来経営者となることが十分見込まれる後継者の早期成長と事業承継の早期化、円滑化につながる「未来の承継」が認められる条件としては、以下の項目に該当する必要があります。 同⼀法⼈内の代表者交代による事業承継であること 将来経営者となることが⼗分⾒込まれる後継者が選定できていること 後継者候補が該当法⼈に在籍していること 補助事業期間が終了する事業年度から5年後の事業年度までに事業承継を完了する予定であること |
M&A型 | 事業再編・事業統合等のM&Aを契機として、経営革新等に取り組む方が対象です。株式譲渡後に承継者が保有する被承継者の議決権が過半数超になることを要件とします。 |
ただし、3型とも物品や不動産などのみを保有する事業承継は対象外となるため注意してください。
経営革新枠の補助率、補助額は以下のとおりです。
条件 | 賃上げ | 補助上限額 | 補助率 |
---|---|---|---|
①小規模企業者 ②営業利益率低下 ③赤字 ④再生事業者等 のいずれかに該当 | 実施 | 800万円 | ~600万円相当部分:2/3以内 600万円超~800万円相当部分:1/2以内 |
〃 | 実施せず | 600万円 | 〃 |
上記以外 | 実施 | 800万円 | 1/2以内 |
〃 | 実施せず | 600万円 | 〃 |
経営革新枠の対象経費は以下のとおりです。
人件費
店舗等借入費
設備費
原材料費
産業財産権等関連経費
謝金
旅費
マーケティング調査費
広報費
会場借料費
外注費
委託費
廃業費(併用申請時)
対象経費の詳細は、以下の記事も参考にしてみてください。
事業承継・引継ぎ補助金の対象経費とは?申請枠ごとの補助対象経費、対象外経費を徹底解説
M&Aを活用し、経営資源を他社からもしくは他社へ引き継ぐ中小企業等に対して交付されます。以下の2型に分けられます。
類型 | 対象 |
---|---|
買い手支援型(Ⅰ型) | M&Aにより、経営資源を他社から譲り受ける買い手を支援する |
売り手支援型(Ⅱ型) | M&Aにより、自社の経営資源を他社に譲渡する売り手を支援する |
なお、専門家活用枠の対象者の要件は細かく定められています。詳しくは公募要領で確認してみてください。
専門家活用枠の補助率・補助上限額は以下のとおりです。
類型 | 補助率 | 補助下限額 | 補助上限額 | 上乗せ額(廃業費) |
---|---|---|---|---|
買い手支援型 | 2/3以内 | 50万円 | 600万円 | 150万円 |
売り手支援類型 | 1/2又は2/3以内 | 〃 | 〃 | 〃 |
専門家活用枠の対象経費には、主に以下の費目が該当します。
M&A支援業者に支払う手数料
セカンドオピニオン費用
謝金
旅費
外注費
システム利用料
保険料
廃業費(併用申請時)
対象経費の詳細は、以下の記事も参考にしてみてください。
事業承継・引継ぎ補助金の対象経費とは?申請枠ごとの補助対象経費、対象外経費を徹底解説
事業承継およびM&Aにより廃業し、新たな事業を開始しようとしている中小企業等に対して交付されます。経営革新・専家活用の両事業と併用できる「併用申請」と、単独で申請する「再チャレンジ申請」があります。
廃業・再チャレンジ枠の補助率や上限額は以下のとおりです。
申請の種類 | 補助率 | 補助下限額 | 補助上限額 |
---|---|---|---|
再チャレンジ申請 | 2/3以内 | 50万円 | 150万円以内 |
併用申請 | 1/2又は2/3以内 | 〃 | 〃 |
廃業・再チャレンジ枠の対象経費には、主に以下の費目が該当します。
廃業支援費
在庫廃棄費
解体費
原状回復費
リースの解約費
移転・移設費用
なお、廃業・再チャレンジ枠については以下の記事で詳しく解説しています。
事業承継・引継ぎ補助金の廃業・再チャレンジ事業とは?要件から対象経費、申請手続きまで解説
事業承継・引継ぎ補助金の交付を受けるには、申請方法とスケジュールをしっかり把握しておかなくてはいけません。それぞれについて説明しますので、覚えておきましょう。
gBizIDプライムとは、法人と個人事業主の共通認証システムであり、取得によって補助金や申請サービスなど各種行政サービスが利用できます。事業承継・引継ぎ補助金の申請には、IDの取得が必須です。
取得するには、gBizIDのホームページにある「gBizIDを取得する」の項目から、「gBizIDエントリー作成」ボタンをクリックします。その後、アカウントIDとなるメールアドレスを入力し、URLが届いたら必要事項を入力し、登録ボタンを押します。入力した内容が表示されますので、確認しOKボタンを押したら、エントリーアカウントの作成は完了です。
gBizIDプライムの発行申請には、印鑑証明書もしくは印鑑登録証明書が必要です。また、補助金申請に必要な書類は、以下のように申請枠ごとで異なります。
申請枠 | 必須書類 | 交付申請類型番号によって必要な書類 |
---|---|---|
経営革新枠 | ・補助金交付申請書 ・交付申請 ・認定経営革新等支援機関による確認書 | ・住民票 ・履歴事項全部証明書 ・貸借対照表・損益計算書 ・確定申告書B(第一表・第二表)と所得税青色申告決算書 ・後継者の書類 |
専門家活用枠 | ・補助金交付申請書 | ・確定申告書 ・貸借対照表・損益計算書 ・住民票 ・株主名簿 ・株主代表としての確認書 |
廃業・再チャレンジ枠 | ・補助金交付申請書 ・廃棄・再チャレンジの内容を記した計画書 ・認定経営革新等支援機関による確認書 ・M&Aに着手したことの証憑 | ・履歴事項全部証明書 ・貸借対照表・損益計算書 ・住民票 ・株主名簿 ・株主代表としての確認書 |
書類の不備や不足があると、申請受付ができませんので、漏れのないよう注意しましょう。
jGrantsから申請するには、ログイン後に申請フォーム画面から必要事項を入力します。入力項目が多いため、「一時保存する」のボタンを随時活用しながらの入力がスムーズに進められます。一時保存後のデータを再編集する際は、「マイページ」から事業名を選択してください。
全て入力したら、「申請する」ボタンを押下します。そうすると確認画面が表示されますので、入力誤りがないことを確認し、もう一度「申請する」ボタンを押すと、申請が完了します。
申請内容は、マイページから確認できます。「作成済みの申請」の項目で、申請状況が「申請済み」となっており、申請完了日時が表示されていれば、申請が完了しています。この場合、申請内容の修正はできません。事務所からの要求・命令などがあるときも、一覧に表示されますので、必要に応じて確認しましょう。
第8次公募における申請スケジュールは、以下のとおりです。
日付 | 内容 |
---|---|
2024年1月9日 | 公募要項公開 |
2024年2月16日17時 | 申請締切 |
2024年4月上旬(予定) | 交付決定 |
2024年9月16日 | 補助事業完了日 |
2024年9月26日 | 実績報告 |
2024年9月中旬以降 | 確定検査 補助金交付請求 補助金交付 |
上記のスケジュールは、変更となる可能性があるため、随時最新情報を確認しておきましょう。今後のスケジュールが決まり次第、公式サイトなどで公表されますので、併せて確認していきましょう。
今回は、事業承継・引継ぎ補助金について、詳しく解説しました。この補助金は、事業承継により新たな取り組みを始めようとしている中小企業等に、ぜひ活用していただきたい制度です。
交付を受けるには審査を通過する必要があり、申請しても必ず受け取れるものではありません。また、交付までの期間も長く、不安に思うこともあるでしょう。しかし、審査を通過すれば、最大で800万円の補助金を受け取ることができ、経営や既存事業の見直しに役立てられます。
本記事で解説した内容を参考にしていただき、スムーズな申請ができるよう準備を進めていきましょう。