少子高齢化の進行により、生産年齢人口（15～64歳）が年々減少しており、そもそもの労働力の供給が細ってきています。都市部への就職志向や、依然として根強い「きつい・汚い・危険」という3Kイメージが、若者から支持されない要因でもあるのです。さらには安定した正社員志望などの要因が重なり、製造業への応募者は減少傾向にあります。

加えて、技術継承の問題も深刻です。熟練したベテラン技能者の退職が相次ぐ一方、新人を育成する教育体制が十分に整っていないため、現場のノウハウが次世代に引き継がれにくい構造的課題が残されていることが、製造業の人手不足につながっているのです。

製造業が抱える人手不足の原因

人手不足の本質的な要因は、人材供給面だけではありません。現場に根付いた教育・労働管理にも、抜本的な課題が潜んでいます。

技能継承と教育

技能継承における問題は人材不足の大きな要因です。製造業の多くの現場では、依然として「見て覚える」OJT（オン・ザ・ジョブ・トレーニング）が中心で、熟練者のノウハウが個人に属人化しています。

しかし、指導役となるベテランも不足しており、体系的な教育やOJT・Off-JT（職場外研修）の実施率は年々低下傾向です。その結果、技能が十分に伝承されず、離職や定着率低下を招いています。

実際、経済産業省「ものづくり白書」では、技能の属人化やOJT・Off-JT両面の実施低下等が指摘されています。

賃金と労働環境

製造業の人材不足は、賃金や労働環境など待遇面の難しさも原因の一つとなっています。賃金水準やキャリアアップの伸び悩み、依然として根強い年功序列型の評価制度は、優秀な人材の流出を招きます。

加えて、長時間残業や休暇の取りづらさ、シフト負担などにより、ワークライフバランスが取りにくい状況も続いています。終身雇用の崩壊や多様な働き方の拡大といった社会的変化も、製造業の人材確保に影響を及ぼしています。

人手不足が引き起こす企業への影響

では実際に人手不足が深刻化した場合、どのような企業リスクが生じるのでしょうか。ここでは企業への影響を2点紹介します。

生産性や品質への影響

人手不足により、生産性や品質、さらには企業の競争力の低下が避けられず、製造業の現場だけでなく企業全体の存続にも影響を及ぼすことがあります。

人員が不足すれば生産ラインの維持が難しくなり、納期の遅延や不良品の発生リスクが高まります。経験の浅い人材が増えることで、作業効率や品質が安定せず、技術力や国際競争力の面でも遅れを取る可能性があるのです。その結果、安定した受注の確保や顧客満足度の維持が困難になっていきます。

従業員離職の増加

人員不足により過剰な負担が現場にのしかかれば、従業員のモチベーションは低下し、離職が加速します。これにより、さらなる人手不足を生み、いわゆる「負のスパイラル」に陥ることは、倒産前の典型的なパターンともいえるでしょう。

実際に東京商工リサーチの調査でも、人手不足が原因とされる製造業の倒産は増加傾向にあると指摘されています。

企業にとっては、こうしたリスクに早急に手を打つことが不可欠です。

製造業における人手不足対策

課題が多層的なだけに、単なる採用強化だけでは解決できません。では、どのような対策が有効なのでしょうか。ここでは4つの対策案を紹介します。

DX推進による省人化

IoTやAIを活用した自動化やスマートファクトリー化は、人手不足解消に直結する有効策です。作業マニュアルを動画やクラウドで共有することでノウハウを可視化し、危険・単調作業をロボットに置き換えることで省人化を実現できます。これにより、若年層にとっても魅力ある職場環境をつくり出せます。

例えば京都府の部品加工会社では、IoTとFA機器導入により「24時間無人運転」工場を実現しました。人はシフト管理やメンテナンス、データ活用中心の業務にシフトし、若手人材定着と生産性向上を達成しました。

参考：バブル期京都でDX実現！ 24時間稼働の無人工場 NTTドコモビジネス

教育体制の強化

多能工（マルチスキル人材）の育成は、限られた人数でも柔軟に現場を回せる仕組みをつくります。熟練者のノウハウや暗黙知をデータベース化して標準化し、OJTに加えてeラーニングや外部研修を取り入れることで効率的に教育を進められます。

育成にはコストがかかりますが、スキルアップによるモチベーション向上や定着率改善が期待できます。

イメージアップ戦略

人材を呼び込むには、企業のイメージアップが不可欠です。WebサイトやSNSで職場の雰囲気や「残業が少ない」などの実態を積極的に発信することが有効です。

また、SDGsやダイバーシティ施策を打ち出すことで女性やZ世代を含む幅広い層への訴求力が高まります。加えて、工場見学イベントや地域メディアでの紹介も認知度向上につながります。

従業員の健康や労務環境の向上に積極的に取り組む場合は、ホワイトマーク認定などの公的制度を利用するのも一案です。

参考：ホワイトマークとは？認定されるメリットと方法を解説

多様な人材活用

外国人や女性、シニアなど多様な人材に働いてもらうことも労働力確保や職場環境の向上に効果的です。

外国人技能実習制度や特定技能資格を活用するには、多言語対応のマニュアルや生活支援体制を整えることが重要です。さらに、シニア経験者を再雇用して後進育成役を担ってもらうことや、育児・介護と両立できる柔軟な勤務制度を導入することも効果的です。多様な働き方に対応できる企業ほど、人材確保の間口を広げられます。

人手不足解消のために利用できる支援制度

前章でご紹介した人手不足解消のための施策を実施するには、大きな投資を伴うこともあります。ここでは、そのようなコストを抑えるために利用できる補助金や助成金をご紹介します。

DX推進・設備投資に利用できる補助金

DX推進や設備投資による省人化は、人材不足対策の重要な施策となります。こうした取り組みを後押しするために、国が用意している代表的な補助金として「ものづくり補助金」と「省力化投資補助金」があります。いずれも機械導入やシステム開発などを支援する制度であり、生産性向上に直結します。

ものづくり補助金

ものづくり補助金は、新商品・新サービスの開発や生産プロセス改善に必要な設備投資を支援する制度です。数千万円以上の大規模投資まで幅広く対応しており、機械装置の購入やシステム開発などに活用できます。特に、中長期的な事業計画と合わせて導入することで、新市場開拓や付加価値の高い製品づくりに直結する点が特徴です。

生産性向上はもちろんのこと、革新的な取り組みに挑戦する際に検討したい代表的な補助金制度といえます。

参考：ものづくり補助金とは？対象者や申請要件、補助額、申請方法をわかりやすく解説

省力化投資補助金

省力化投資補助金は、人手不足や高齢化といった社会課題を背景に新設された制度で、生産プロセスの省力化や省人化を目的としています。具体的には、AI・IoT機器や自動化ロボット、各種生産管理システムの導入といった取組が対象です。

比較的新しい制度ですが、2025年9月時点では第2回公募までの採択結果が公表されており、採択率が比較的高く、初めて補助金申請に取り組む企業にも活用しやすい制度として注目されています。

参考：中小企業省力化投資補助金（一般型）とは？カタログ注文型との違いや活用例・申請手順も解説

人材採用・育成に利用できる助成金

人材の採用や育成も、人手不足の解消に欠かせない投資領域です。国の助成制度を活用すれば、採用時の負担軽減や社員のスキルアップに伴う教育コストを抑えつつ、人材基盤を強化することができます。

キャリアアップ助成金

キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者（有期雇用やパート、派遣労働者など）の処遇改善を目的とした制度です。たとえば有期雇用から正社員への転換、基本給や賞与・諸手当の増額、または健康診断や福利厚生の拡充といった取り組みを行った場合に助成を受けられます。中小企業が人材の定着率を高めるために活用しやすく、採用コスト削減や人材流出防止にもつながります。

参考：キャリアアップ助成金とは？要件と申請方法を解説

人材開発支援助成金

人材開発支援助成金は、従業員のスキルアップや職務能力の向上を目的とした教育訓練を行う際に活用できる制度です。OJTやOff-JTの実施に対し、研修経費や受講中の賃金の一部が助成されます。デジタル技術の習得や管理職研修、製造現場での多能工化トレーニングなど、幅広い用途で利用できるため、DX推進や新規事業展開を支える人材育成の強力な後押しになります。

参考：人材開発支援助成金とは？人材開発支援助成金のコース内容や申請から受給の流れなどを解説