従業員のキャリアを形成し、労働生産性を高めるために、従業員に対して職業訓練などを実施する企業や事業主に対して、国から費用の一部が助成される制度があります。これを「人材開発支援助成金」といい、人材不足の課題解決に期待が寄せられています。
本記事では、人材開発支援助成金について、概要やコース内容、メリット・デメリット、申請方法や注意点などを徹底解説します。これから助成金の活用を検討している担当者の方は、ぜひご一読ください。
人材開発支援助成金とは、正規雇用の従業員が仕事に関係する専門知識や技能を身につけるための職業訓練を実施した事業者等に対して、訓練にかかった経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成する制度です。つまり、国を挙げて従業員のキャリア形成を支援する制度といえます。
人材開発支援助成金の目的は、企業の人材育成を支援し、人手不足の解消につなげることです。少子高齢化が進む日本では、労働人口の減少も大きな社会問題となっており、人材の採用や確保も難しくなっています。従業員を確保し、労働生産性を高めるために人材開発を進めることが急務の課題となっています。
専門的な技術や知識が必要な介護職や建設業などは、深刻な人材不足に陥っています。これらの職種や中小企業などでは、人材育成に当てられる費用の確保が難しいケースも多々あります。助成金の活用によって人材育成を進め、従業員の育成に加え経営の安定にもつなげられます。
事業主が、人材開発支援助成金を受給するためには、雇用関係助成金に共通となる以下の要件を満たす必要があります。
雇用保険が適用される事業所の事業主である
支給のための審査に協力する
申請期間内に申請を行う
上記の要件に加え、後述するコースごとで要件が設定されています。詳しい受給要件は、各コースのパンフレットで確認が必要です。
人材開発支援助成金制度は、情勢に合わせて随時改正されています。
令和5年から、特定訓練コース・一般訓練コース・特別育成訓練コースの3つが「人材育成支援コース」に統合されました。「人への投資促進コース」の対象者・対象訓練も拡充されています。
また、「賃金要件」と「資格等手当要件」のいずれかを満たすと、別途申請を行うことで、訓練経費についてはプラス15%等の加算分を追加で受給できるようになりました。
令和5年6月からは、雇用関係助成金ポータルを活用した電子申請ができるようになり、事業者の負担軽減につながっています。
上記以外にも、人材開発支援助成金制度は適宜内容が改正されています。必ず最新情報を確認したうえで、手続きを取るようにしましょう。
キャリアアップ助成金とは、非正規雇用労働者のキャリアアップを促進し、正社員化や処遇改善の支援に取り組んだ事業者に対して支給される助成金です。人材開発支援助成金制度と同じく、国が費用を助成する制度ですが、対象者が異なります。
人材開発支援助成金は、雇用保険の被保険者を対象としており、正社員だけでなく雇用保険に加入している派遣社員や契約社員なども含まれます。これに対し、キャリアアップ助成金は、非正規雇用者を対象とし、非正規雇用から正規雇用に引き上げるための費用を助成する制度なのです。
人材開発支援助成金は、7つのコースに分かれています。各コースの内容を簡単に解説しますが、コースの詳細についてはパンフレットを確認してください。
雇用している被保険者に対する訓練にかかった経費や賃金の一部を支援するコースです。
人材育成訓練(職務に関連した知識や技術を身につけるための10時間以上の訓練)では、OFF-JTで行う必要があります。職業訓練と、非正規雇用者が正社員化を目指すための訓練では、OJTとOFF-JTを組み合わせて実施します。
年次有給休暇とは別に、事業主以外が実施する教育訓練等を受けるための有給教育訓練等制度を使って労働者が休暇を取得し、訓練を受けた場合に助成金が支給されるコースです。以下の3つの制度があり、制度ごとで助成額も異なります。
教育訓練休暇制度
長期教育訓練給付制度
教育訓練短時間勤務等制度
令和4年度から令和8年度までの期間限定助成制度であり、人への投資を加速化するため国民からの提案を形にしたコースです。以下の5つの訓練が用意されています。
カテゴリ | 訓練 |
デジタル人材・高度人材の育成 | ・高度デジタル人材訓練/成長分野等人材訓練 ・情報技術分野認定実習併用職業訓練 |
労働者の自発的な能力開発の促進 | ・長期教育訓練休暇等制度 ・自発的職業能力開発訓練 |
柔軟な訓練形態の助成対象化 | ・定額制訓練 |
新規事業の立ち上げなどで、新たに知識や技能の習得が必要となった場合に、訓練にかかる費用や訓練期間中の賃金の一部を助成するコースです。人への投資コースと同様、令和4年度から8年度までの期間限定となっています。
建設関連の訓練を実施した場合の経費の一部や、建設労働者に有給で認定訓練を受講させた場合の賃金の一部を助成するコースです。
雇用している若年層建設労働者に対し、有給を使ってキャリアに応じた技能実習を受講させた場合に、訓練経費や期間中の賃金の一部を助成するコースです。
障害者が働くのに必要な能力の開発・向上を目的として、継続的に教育訓練を実施する施設の設置・運営にかかる費用を一部助成するコースです。
ここまで、人材開発支援助成金の概要について解説してきました。人材開発支援助成金を利用することで、どのようなメリットがあるのでしょうか。
人材育成のための訓練や講習には、まとまった経費がかかります。受講希望者数が増えるほど、金銭面における企業負担も大きくなり、訓練や講習の実施に後ろ向きな考えも出てくるでしょう。
人材開発支援助成金の活用により、助成対象の研修や訓練を実施する場合の経費負担が軽減でき、人材育成コストが削減可能です。条件によっては全額助成が受けられるコースもあるため、前向きな実施検討のきっかけにできます。
人材開発支援助成金の目的は、企業が従業員のキャリア形成に力を入れやすくするため、訓練や講習にかかる費用を助成することです。訓練や講習の受講を通じて、従業員がキャリアを形成できるようになります。
中小企業では、社員一人ひとりのキャリア形成が、売上に直結しやすいと言われています。効率良くキャリア形成を促進するには、助成金の利用が近道なのです。
人材開発支援助成金の活用により、企業内で人材育成に力を入れられるようになります。従業員の能力や技術が向上すると、さらにスキルを高めようという意識が見栄え、従業員のモチベーションアップのきっかけにできます。
企業を挙げて人材育成を行うことで、従業員の労働意欲向上にもつながり、企業と従業員がともに成長を目指して取り組んでいけるでしょう。
人材開発支援助成金の活用にはメリットもたくさんありますが、デメリットも存在します。メリットとデメリットの双方を理解し、十分検討するようにしましょう。
人材開発支援助成金だけでなく、助成金制度全般に言えることですが、申請書類を揃えるのに時間がかかるだけでなく、申請から支給決定(もしくは不支給決定)までにも時間を要します。
訓練や講習などにかかる費用は、支給申請までに支払い終えていなくてはなりませんが、実際にお金がおりるのは申請後に支給決定が出された後となります。このため、費用は一時的に企業が建て替える必要があります。建て替えられる分の資金を確保しておかないと、訓練が実施できません。
訓練や講習などでは、社内の技術や業務に精通した人物が講師を行うことがあります。訓練や講習のために、講師が現場を離れなくてはならず、人手が減ってしまうため通常業務に支障をきたすおそれがあります。講習を受ける側の従業員も人手に含まれているため、一度に多くの人出が減ってしまわないよう、計画的にスケジュールを立てることが重要です。
人材開発支援助成金を受け取るには、申請から支給までどのような流れで進めていけば良いのでしょうか。ここでは、人材育成支援コースの申請の流れについて解説します。
最初に、社内で職業能力開発推進者を選任し、「事業内職業能力開発計画」を策定します。訓練の型に合わせ、従業員に身につけてほしい能力や、必要な手続き・学習・訓練などを整理します。方向性がまとまったら、「職業訓練実施計画届」を作成します。
訓練開始日から起算して1か月前までに、作成した計画届を必要書類とともに各都道府県労働局へ提出します。必要書類は、厚生労働省のホームページからダウンロードが可能です。
なお、事前に届け出が必要な変更事由が生じた場合は、指定日までに変更届の提出が必要です。
計画届に記載した内容に沿って、訓練を実施します。訓練にかかる費用は、支給申請までに支払いを終えておかなくてはなりません。
訓練が終了したら、翌日から起算して2か月以内に、「支給申請書」と必要書類を併せて労働局へ提出します。こちらの必要書類も、厚生労働省のホームページからダウンロードが可能です。
審査の結果、助成金の支給が決定したら、支給決定通知書が届きます。その後、登録した振込先に助成金が振り込まれます。
人材開発支援助成金の利用には、注意すべきポイントがいくつかあります。その中でも、特に重要なポイントを解説しますので、必ず覚えておきましょう。
人材開発支援助成金は、訓練の追加や助成対象の変更など、世間のニーズに沿う形で何度も制度内容が変更されています。助成金の申請前には、厚生労働省のホームページで最新情報の確認が必要です。不明な点があれば、必ず事前に問い合わせましょう。
書類の提出方法は、電子申請・郵送・窓口への持参から選択可能です。申請書類は、提出期限に1日でも遅れてしまうと受理されなくなってしまいます。特に、郵送での提出では投函した日ではなく労働局への到達日が受理日となるため、日にちに余裕を持った手続きが必要です。
人材開発支援助成金は、研修終了後に研修費用を支払ってから交付申請を行いますが、申請が100%承認されるとは限りません。書類や審査内容によっては、申請が却下される可能性もあります。お金をかけて研修を行っても、不支給になるリスクもあるのです。
支給要件が細かく定められているため、研修の実施前にチェックしておくことが必要です。
人材開発支援助成金の活用により、企業における人材育成を推進し、生産性向上や人材にかかるコスト削減などが見込めます。
制度内容が少しずつ改正されているため、申請時点での最新情報をしっかりと確認してから申請手続きを行いましょう。
助成金を上手に活用することで、企業や従業員の成長につなげていきましょう。