近年、医療現場のデジタル化や業務効率化が急速に進むなか、電子カルテやレセプトコンピューター(レセコン)などのITツール導入は、もはや医療法人・クリニック経営の重要課題です。しかし、導入コストが高く、なかなか一歩が踏み出せないといった悩みを持つ医療法人経営者やご担当者も多いのではないでしょうか。
そこで近年注目されているのが「IT導入補助金」。この補助金は、中小規模の医療法人やクリニックでも申請可能で、電子カルテなどのIT化費用を大きく軽減できる心強い制度です。
本記事では、2025年の最新制度概要から、補助対象・申請要件・具体的な申請手順、活用メリットや現場での活用例、申請時の注意点まで、初めての方にも分かりやすく、専門的な観点を交えながら解説します。医療関係者の方は是非最後までお読みください。
IT導入補助金(正式名称:サービス等生産性向上IT導入支援事業費補助金)は、中小企業や小規模事業者の業務効率化や生産性向上を目的として、ITツール(電子カルテ、レセプトコンピューター、会計・労務管理システム等)の導入経費の一部を国が補助する制度です。補助対象・内容は年度毎に変動しますが、2025年度も医療法人やクリニックが対象となっています。
従来、株式会社や合同会社といった営利法人向け制度が多かったなか、医療法人・社会福祉法人・学校法人などの“非営利法人”も対象となっている点が大きな特徴です。厚生労働省だけでなく経済産業省も後押しをしており、医療分野のデジタル化と働き方改革に貢献するための制度となっています。
参考:IT導入補助金とは?補助額や申請方法、スケジュール、注意点などを解説
医療法人が対象となる根拠は「従業員規模(常時使用する従業員数が300人以下)」にあります。資本金の額は問われず、従業員数が300人以下なら医療法人や社会福祉法人、学校法人もこの補助金を受けられます。「中小企業の枠組み」には個人運営クリニックやクリニックチェーンも広く含まれるため、都心から地方の地場クリニックまで幅広く活用されています。
<ポイント>
医療法人の従業員数300人以下なら補助対象
業種としても明確に「医療業」が補助金枠に明記されている
非営利法人だからNGということは一切なし
詳しい対象要件チェックは 公式サイト「申請対象者チェッカー」機能も参考になります。
通常枠は「一般的な業務ソフトウェア・クラウド導入」のための枠で、最も多くの医療法人が利用しています。補助率は1/2または2/3(一定の賃金引き上げ条件を満たした場合)、補助額は最大450万円まで認められています。電子カルテ、レセコン、患者管理・会計管理・勤務シフト・勤怠管理などさまざまな業務ITシステムが対象になります。
<通常枠の主な補助条件>
項目 | 内容 |
---|---|
補助率 | 1/2または2/3(要件あり) |
補助金額(最大) | 450万円 |
補助対象経費 | ソフトウェア、クラウド利用料等 |
申請企業要件 | 従業員300人以下の医療法人等 |
インボイス対応を目的に会計等のシステムを導入する際に有利な「インボイス枠」や、サイバーセキュリティ強化のための「セキュリティ対策推進枠」もあります。これらは小規模医療機関ほど補助率が高くなる傾向で、補助率は最大4/5(小規模事業者)、ソフトウェア費用50万円以下は最大4/5とされています。対象経費の範囲にハードウェア(パソコン・タブレット等)が含まれる場合もある点がポイントです。
<補助枠の主な違い>
通常枠:広く業務効率化。電子カルテや患者管理、診察券連携など広範囲をカバー。
インボイス枠:会計・受発注・決済などインボイス対応必須ICTの導入に強み。
セキュリティ:情報漏えい対策やサイバーリスク対策に活用可。
補助金の利用目的で最も多いのが「電子カルテ」や「レセプトコンピューター(レセコン)」の新規導入・リプレイス(入替)です。これらは医療情報の一元管理やペーパーレス化を実現し、事務作業やミス削減に直結します。補助対象となるITツールは「IT導入支援事業者」経由であらかじめ公式登録された製品のみが対象です。
<補助対象の電子カルテの例>
「リピクル」「セコム・ユビキタス電子カルテ」「REMORA電子カルテ」など(参考:IT導入補助金公式ツール検索)
会計システムや患者CRM(顧客管理)、勤怠・労務管理システム(スタッフの勤怠や給与管理)、さらにはRPAツール(定型業務自動化)なども広く補助対象です。
電子カルテやレセコンと連携した自動精算機導入、在庫管理・購買管理の自動化、オンライン予約システム拡充など、「業務全体のDX化」と連携すればするほど補助率の観点でも有利です。
「医療法人の場合、常時使用する従業員が300人以下」ならば資本金等の制約なしで申請できます。病院、診療所、クリニック、歯科医院等の組織形態も広く対象です。
出資金、資本金で中小企業要件を満たしていればなお良しです。個人クリニックはもちろん医療法人グループにも活用可能です。
申請には「GビズIDプライムアカウント」(政府共通のオンライン認証サービス)の取得が必要です。取得には2週間以上かかるため、導入を検討したら早めの取得を推奨します。加えて以下の書類準備も大切です。
<医療法人の主な提出書類>
履歴事項全部証明書(発行後3ヵ月以内)
法人税納税証明書(その1・その2)
事業計画書(ITベンダー・支援事業者の指導で作成可)
IT導入支援事業者が申請全体をサポートしてくれるため、「書類作成が心配」「デジタル申請がはじめて」という担当者にも安心です。
補助金の募集は年数回に分かれて実施され、1次~3次締切(5月~7月頃)までのスケジュールが組まれるのが通例です。1枠あたり1回の申請となるため、必要なITツールを一括して申請するのがポイントです。
GビズIDプライムアカウント取得(2~3週間)
IT導入支援事業者とツールを選定
申請マイページから実際の手続きへ
通常、交付決定まで1ヵ月前後
交付決定後に契約・発注・納品
導入・実績報告、交付(精算型)
医療法人がIT導入補助金を申請する際は、単独で手続きを行うのではなく、公的に認定されたITベンダーやコンサルティング会社、すなわち「IT導入支援事業者」が申請から導入後まで伴走支援してくれる体制になっています。
支援事業者は、クリニックの課題や予算に合ったツールの選定と最適な組み合わせを提案し、申請書類の文案作成や戦略立案をサポートします。また、公募要領に即した加点ポイントの整理や、採択後の導入支援・効果報告までトータルでサポートしてくれるため、現場の負担を大幅に削減できるのが大きなメリットです。
電子カルテやレセプトコンピューターを導入すると、これまで紙ベースで行っていた診療記録や請求業務をすべてデジタル化できるため、事務作業にかかる時間を大幅に短縮できます。データが一元管理されることで、転記ミスやカルテを探す手間を軽減でき、スタッフは患者対応や院内のサービス向上により多くの時間を割けるようになります。
さらに、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)ツールを組み合わせると、レセプト請求や各種データ入力といった月次・週次のルーティン業務を自動処理へ移行できます。これにより、人的リソースを煩雑なバックオフィス業務から解放し、診療補助やカウンセリングなど患者と向き合う業務へ再配置できるため、人手不足の解消にも直結します。
患者サービスの面でも大きな効果が見込めます。オンライン予約システムをCRMと連携させることで、来院履歴や患者属性をもとにリマインド通知やフォローアップを自動化でき、リピート率の向上につながります。また、売上・原価・在庫といった経営データをリアルタイムで可視化できるため、診療科別の採算状況やコスト構造を迅速に把握し、経営判断のスピードを高められます。ペーパーレスによる院内動線の簡素化は、接触機会の低減にも寄与し、感染症対策の強化にもつながります。
こうしたIT化の取り組みは、2024年度改定で創設された「デジタル活用診療報酬加算」と併用することでコスト負担をさらに圧縮できます。電子カルテやオンライン資格確認の活用状況に応じて診療報酬上の加点が得られるため、補助金と診療報酬の双方のインセンティブを活用しながら、医療DXを推進する好循環を生み出すことができます。
医療機関向けには設備投資や情報連携など、他にも活用できる国・自治体補助金があります。
電子カルテ情報共有サービスの導入補助は、厚労省が実施する最大650万円、補助率1/2の補助金です。他院・地域連携ネットワーク化のための電子カルテAPI等導入が対象となります。
参考:電子カルテ情報共有サービス導入補助金(医療提供体制設備整備交付金)
厚労省が実施する、医療IT化や業務改善・最低賃金引上げを条件とした設備投資補助制度です。最大600万円、補助率3/4~4/5となります。
東京都「病院診療情報デジタル推進事業」など都道府県独自の補助金も多く、電子カルテ導入や地域医療連携システムへの接続支援も一部で実施されています。
「IT導入補助金」は、多忙な医療現場・クリニック運営のデジタル化を強力にサポートする補助金制度です。人手不足・業務効率・経営安定の実現には、国の制度を賢く活用するのがおすすめです。興味のある方は、本記事の内容をもとに具体的な導入ツールを検討してみてください。
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