世界経済の不安定化やサプライチェーンの混乱、エネルギーコストの上昇、こうした要因が複合的に絡み合い、今や原材料価格の高騰は日本の製造業、とりわけ中小企業経営者にとって避けては通れない大きな課題となっています。さらに円安や人件費上昇も重なり、「これまで通りでは利益が守れない」「値上げ交渉も簡単ではない」という現場の声が益々増えています。
本記事では、国内最新状況やアンケートデータ、政府・専門機関の情報をもとに、今すぐ現場で実践できる対策を徹底解説します。「まず何から始めるべきか?」と迷う経営者の方が次のアクションにつなげられるよう、制度や事例も具体的に紹介します。
簡単な項目の入力だけで、AIが売上成長率・収益性・キャッシュ状況を自動分析。A~Cランクと具体的な打ち手も即提示します。 忙しい経営者やスタートアップ必見です!無料なのでまずはお試しください!
2020年代に入り、国際的なエネルギー価格や穀物・鉱物資源等の原材料が大きく高騰しています。背景には、新型コロナウイルス禍を経たサプライチェーン混乱やウクライナ情勢の長期化、さらには地政学リスク(例:経済制裁・天候不良・一部資源の輸出規制)などが複雑に絡み合い、日本国内にも波及しています。特に小麦・食用油・金属・樹脂・化学原料といった重要仕入れ品目で10〜30%以上の値上げ例も珍しくありません。
また、エネルギーコスト(電気やガス、物流コスト)も、原油高騰や為替(円安)により上昇。移送費や梱包資材など副次的コストも押し上がっています。
年度 | 小麦 | 原油 | 銅 | 電力 | 円/ドル |
---|---|---|---|---|---|
2020 | 100 | 100 | 100 | 100 | 105 |
2022 | 140 | 170 | 150 | 130 | 120 |
2024 | 160 | 160 | 160 | 140 | 155 |
※2020年を100とした指数・中央値。参考:農林水産省、世界経済のネタ帳、しろくま電力
これら原材料コストの高騰は、大手より仕入れ交渉力や資金体力に劣る中小企業へ一層深刻なダメージを与えています。F&M Club(2022年・1,020社アンケート)によると、約8割の中小製造業が「大きな影響を実感」、うち46%が「深刻な影響」と回答しています。加えて、エネルギーや人件費も増大。資材在庫負担や価格据置要請により「利益圧迫→設備投資停滞→成長戦略断念」という負のスパイラルが発生しやすい状況です。
原材料価格高騰に関して中小製造業が抱える具体的な課題には、以下のようなものが挙げられます。
高騰分を販売価格に転嫁できなければ実質利益率の低下は避けられません。加えて、原料や部品仕入れサイトの短縮、すなわち支払い早期化や売上回収遅延がキャッシュフロー悪化を招きます。原価高騰の影響は全社レベルの経営判断に直結しています。
一方で、実際の取引先に値上げ交渉を行う企業は全体の53%に留まります(出典:中小総研)。電機・食品等B2Cに近いセクターでは価格転嫁率が高い反面、繊維や材料系等は20〜30%程度と業種差・顧客層差が顕著です。下請け構造やバイヤー主導型商習慣もあり、根拠なき一方的な値上げは断られるリスクも高い状況が続きます。
中小製造業が価格高騰に対応するためには、どのようなアクションが考えられるでしょうか。まず重要になってくるのが「コスト構造の見直し」です。
まず「何がどれだけコスト増要因なのか」を明確化することが危機回避の出発点です。多くの中小製造業ではまだ「勘と経験」に頼りがちですが、製品別・工程別原価計算や仕入れ品コスト分析を進め、原料やエネルギー、外注・人件費の内訳を見える化することで無駄を洗い出せます。
【原価構成要素の棚卸しシート例】
製品名 | 材料費 | 労務費 | 工賃 | エネルギーコスト | 外注費 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|---|
○○ | 20% | 18% | 20% | 12% | 30% | 100% |
IT/生産管理システムやクラウド型原価管理ソフトの導入で、小規模でもデータ化・共有を行うのがおすすめです。
過剰在庫はロス増・キャッシュ逼迫に、逆に在庫枯渇は急騰リスクに直結します。ABC分析により「重要在庫・消耗在庫」を分類し、賞味期限や発注サイクルを最適化することがポイントです。不良率を改善したり歩留まりを上げることも、現場の原価を下げることに直結します。
生産ラインの効率化やボトルネック解消、工程ごとの作業時間短縮も避けられません。外注工程の見直しや共同調達、機械設備の最新化による省エネ化も原価抑制策の王道です。
固定仕入先だけでは価格改定リスクをもろに受ける構図となりがちです。以下のアプローチが有効です:
取引先の多様化・相見積もり取得
共同仕入れ・ボリュームディスカウント
米ドル建ての為替変動対策・ヘッジ取引の活用
顧客側から材料支給に切り替えてリスク移転
ただし大量仕入れは在庫過多・資金難になる恐れもあるため、仕入コストを減らすだけでなくキャッシュ管理の面でも判断しましょう。
補助金コネクトでサポートした企業様の成功事例をご紹介します。
事例①サービス業
BLUE ONION(ブルーオニオン) | 事業再構築補助金の成功事例
補助金で他業種へ新規店舗を出店し、集客力アップとリピート率の向上を達成。
事例②製造業
生産ラインの自動化に必要な設備導入費用を補助金でカバーし、生産効率が大幅に向上。
事例③人材紹介業
新サービス開発の資金調達に成功し、市場拡大に伴う売上増を実現。
多くの下請企業にとって価格転嫁は簡単な問題ではありません。しかしながら、価格転嫁がうまく交渉できれば貴社の財務を根本的に改善することが可能となります。以下に価格転嫁に向けた具体的なアクションを整理しました。
近年、独占禁止法(優越的地位の濫用)や下請けGメン等、政府も価格交渉環境の是正を推進しています。とはいえ、いきなり値上げ交渉に臨むより、下記のプロセスで根拠を固めるのが重要です。
原材料コストや労務・動力費等の内訳推移(変動表・グラフ作成等)
過去数年間のコスト増加対策や企業努力の実績
競合他社とのスペック比較や安定供給、技術力など自社ならではの強み
価格転嫁による相手側のメリット例(品質安定、納期短縮、SDGs対応等)
価格・取引条件(提示価格、目標価格、最低価格)とその根拠
上記を資料として見積書や説明資料にまとめておき、早めの情報共有を行ったうえで、交渉タイミングを適切に行うのが円滑な価格合意のコツです。
食品製造…米や小麦・油の高騰分を、プライベートブランド商品から順次価格改定。ロット変更や内容量リニューアルと併用。
金属加工…鋼材・非鉄金属で相見積もり増。特殊材料のみ顧客支給に切替、納入価格協議で補償金方式導入。
化学・樹脂…定期的な見直し契約へ変更し発注タイミングに応じて調整。
価格交渉できない場合でも、工程効率化提案や納期短縮、サービス追加等「付加価値+α」の提示で取引維持につなげる工夫が見られます。
業務のデジタルシフトを進めることで生産性が改善すれば、価格高騰の影響を抑えることも可能です。ここではDXの効果や進め方について概要をご紹介します。
中小製造業でも、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)、デジタルデータ管理を現場に応用した効率化事例が急増しています。具体的な事例は以下のとおりです。
センサー+BI分析で設備の異常検知や稼働率向上
クラウド型生産・在庫管理システムで材料ロス低減
製品別利益ランキング・工程作業分析の仕組み
これらは「勘と経験依存の経営」から「データに基づいた可視化・意思決定」への転換を促進し、不良率や省エネ効果だけでなく、生産計画・設備投資タイミングの精度もアップします。
具体的には以下のプロセスで進めるのが良いでしょう。
センサーを設置し、稼働・温度・異常値データ収集
BI解析によりボトルネック工程・工数増加箇所の特定
重点工程の自動化(自動搬送、検査、溶接ロボット等)
改善PDCAのループを継続
まずは必要なデータの収集から始めます。熟練工が対応している部分や劣悪な環境等によりセンサーの設置が難しい箇所については、無理にデータ収集を行う必要もありません。データによる定量的な判断と、人による定性的な判断を組み合わせ、何をどう改善するのが効果的かを確認しながら進めるのがおすすめです。
こうしたIT投資・DX化にあたっては、省力化投資補助金(最大1億円)やものづくり補助金(最大4,000万円)、新事業進出補助金(最大9,000万円)など、活用できる補助金のラインナップが豊富にあります。
国の制度の他、地方自治体においてもDX推進、デジタルシフトによる生産性向上は重要ミッションとなっていますので、使える制度がないか調べてみるのも良いでしょう。
参考:中小企業省力化投資補助金(一般型)とは?カタログ注文型との違いや活用例・申請手順も解説
参考:ものづくり補助金とは?対象者や申請要件、補助額、申請方法をわかりやすく解説
参考:中小企業新事業進出補助金とは?対象者や補助額、対象経費、申請スケジュールを解説
製造業は補助金の長い歴史の中でも活用事例が多い業種になります。機械設備の導入からシステム構築まで、幅広い経費に対応しています。
具体的には以下の記事で詳しく解説していますので、合わせてご覧ください。
参考:製造業向けおすすめ補助金・助成金7選!補助金採択事例も紹介
補助金を活用するためには、公募要領で定められた書類を提出し、事務局による審査を受ける必要があります。以下に一般的なステップを整理しました。
スケジュール確認、募集要項の精読、要件の確認
事業計画の策定、補助対象経費のリストアップ
「賃上げ要件」等の加点要件を満たすか確認
認定支援機関など補助金コンサルタントとの協力で申請書作成
製造業では、例えば以下のような採択事例が報告されています。
省エネ型エアコン・LEDへの切り替え(年間ランニングコスト15%削減)
IoTシステム導入による原価管理の標準化(属人化解消、現場改善回転率UP)
「原価シミュレーション機能」付導入で主力製品の価格転嫁が成功
補助金は申請すれば誰でも活用できるわけではなく、事務局による審査があります。競争率は補助金制度によって異なりますが、近年は難易度が上昇傾向です。しっかりと活用していくためには、以下のような点に注意すると良いでしょう。
事業計画において実績データを明示
経営層だけでなく現場ヒアリングを行い事業の具体性を向上
補助期間と設備納入タイミングの整合性を確認
事後報告など手続き漏れに注意
まとまった投資を予定している方は、是非補助金にチャレンジしてみてください。
原材料価格高騰は一時的ではなく、事業運営の新常態となっています。決して状況を嘆くだけでなく、できることから一歩を踏み出し、現状の見直しと成長に資する投資へと切り替えて行きましょう。
補助金コネクトでは補助金や融資など資金調達に関する支援を行っています。自社でも使えるかどうか確認したい方は、是非ご連絡ください。今すぐ自社の課題を見える化し、1つでも実践アクションを進めてみてください。