社員研修にかかるコストを抑えながら、効果的な人材育成を実現する手段として、助成金や補助金の活用が注目されています。
助成金制度の種類や要件は複雑なものが多く、「そもそもどんな助成金がある?」「自社の研修も対象になる?」といった疑問をお持ちの方もいるでしょう。
本記事では、社員研修に活用できる主な助成金・補助金制度や、助成金以外で使える支援制度について紹介します。さらに、申請時の注意点も詳しく解説しているので、自社の状況に合った制度を見つけたい方はぜひご参考ください。
▼この記事でわかる内容 |
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・社員研修に使える国の助成金・補助金制度 ・社員研修に使える地方自治体の助成金・補助金制度 ・研修に活用できる助成金以外の支援制度 ・社員研修の助成金を活用する際の注意点 |
社員研修に活用できる助成金・補助金のうち、まずは国が実施している代表的な制度をご紹介します。
社員研修に助成金を活用するなら、まず検討したいのが「人材開発支援助成金」です。
厚生労働省が実施しており、企業が従業員の能力開発やリスキリング(再教育)を目的に行う研修に対して、費用の一部が助成されます。
対象となる研修の種類は複数あり、次のようなものが含まれます。
・Off-JT(職場外での集合研修など) ・OJT(実務を通じた職場内訓練) ・教育訓練休暇制度の導入 |
制度には複数のコースが用意されています。たとえば、新規事業やDX推進を目的とした「事業展開等リスキリング支援コース」など、目的に応じた選択が可能です。
研修の内容や目的が制度の趣旨に合っていれば、実施費用の一部が助成対象となります。特に、デジタルスキルや専門技術の習得を目的とする研修との相性が良く、多くの企業で活用されています。
関連記事:人材開発支援助成金とは?人材開発支援助成金のコース内容や申請から受給の流れなどを解説
正社員登用のタイミングで研修を実施する企業にとって、有効な支援制度のひとつが「キャリアアップ助成金(正社員化コース)」です。
有期契約やパート、派遣社員などの非正規雇用者を正社員に転換する際に、一定額の助成金が支給されます。
助成の対象は「雇用形態の転換」ですが、研修とあわせて実施することで、新しい職務や働き方への不安を減らし、職場への定着を後押しできます。
たとえば、以下のような内容がよく実施されています。
・就業規則や社内制度についてのオリエンテーション ・ビジネスマナーの習得 ・配属先の業務を理解するためのOJT(実地研修) |
研修単体に対する助成制度ではありませんが、正社員登用とあわせて研修を設けたい場面で、活用しやすい制度といえるでしょう。
育児休業を終えて復職する従業員を支援したい企業に向けて、研修などに活用できるのが「両立支援等助成金(育児休業等支援コース)」です。
育児休業後のスムーズな職場復帰を目的としており、企業が復職支援の取り組みを行った場合に、費用の一部が助成されます。
たとえば、復帰前後に次のような支援を行う企業が対象となります。
・復職前後に従業員と面談を実施する ・育休中に変更された業務内容やツールについて研修を行う ・配属部署や働き方について配慮した復職支援計画を策定する |
このように、研修はあくまで「復職支援の一環」として実施される場合に助成対象となる点が特徴です。
とくに育休・産休を取得した従業員の職場復帰や、多様な働き方に取り組む企業では、制度を活用することで離職防止にもつながります。
関連記事:両立支援等助成金とは?各コースの申請要件、受給額と対象者
ITツールの操作研修や、生産性向上に向けた社内研修に助成金を使いたい場合は、「業務改善助成金」を活用するのもおすすめです。
賃金の引き上げを前提に、業務の効率化や労働環境の改善に取り組む企業を支援するものです。
助成対象には以下のような研修が含まれるケースがあります。
・新しいシステムやツールの操作方法に関する研修 ・現場での作業工程を見直すための改善活動研修 ・時間外労働の削減に向けたマネジメント研修 |
なお、研修費用が助成対象になるかどうかは、「研修内容が業務改善に直結するかどうか」が判断基準です。業務の改善によって賃金引き上げが実現できる体制をつくる取り組みが必要になります。
関連記事:業務改善助成金とは?上限額や助成率、申請方法を解説
国の制度に加えて、各自治体でも独自の助成金や補助金が用意されていることがあります。
ここでは、社員研修に活用できる代表的な地方自治体の制度を紹介します。
・事業内/事業外スキルアップ助成金|東京しごと財団 ・大阪府スキルアップ支援金|大阪府 |
それぞれ順に見ていきましょう。
東京都の中小企業が社員研修を実施する際に活用できるのが、「事業内スキルアップ助成金」「事業外スキルアップ助成金」です。
研修の実施方法に応じて「事業内」「事業外」の2種類に分かれており、それぞれ異なる場面で使いやすい特徴があります。
| 事業内スキルアップ助成金 | 事業外スキルアップ助成金 |
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実施場所 | 社内に講師を招いて実施する | 外部の研修機関やスクールに社員を派遣する |
助成対象 | 講師への謝金、教材費、会場費など | 受講料、テキスト代、交通費など |
想定される研修内容 | 社内ルールやビジネスマナー、ITスキルなどの基礎研修 | 資格取得や専門知識、最新技術などを学ぶ外部研修 |
自社でまとめて研修を行いたい場合や、実務に直結する基礎スキルを強化したいときは「事業内スキルアップ助成金」が適しています。
社内では対応が難しい専門分野や、資格取得・外部講師による専門性の高い研修を受けさせたい場合は「事業外スキルアップ助成金」が便利です。
申請条件や対象研修の詳細は年度ごとに変更される可能性があるため、事前に東京しごと財団の公式サイトで最新情報を確認しましょう。
大阪府では、中小企業が従業員のスキルアップや人材育成を行う際に利用できる支援制度として、「大阪府スキルアップ支援金」が用意されています。
府内の中小企業を対象に、外部研修の受講費用や交通費の一部を助成する仕組みです。
対象となる取り組みは以下のようなものがあります。
・業務に関連する外部研修の受講 ・資格取得や専門スキルの習得 ・製造・建設・ITなど技術職向けの実践的な訓練 ・新入社員研修やリスキリングを目的とした研修 |
研修内容が業務と関係していることが助成の条件となっており、自己啓発や趣味的な内容は対象外です。
また、助成額には上限があり、対象者1人あたりの上限金額や助成率が定められています。
申請前には、実施内容や予算とあわせて、制度の条件をしっかり確認しておくと安心です。
大阪府内で人材育成に取り組む企業にとって、実務的で活用しやすい支援制度のひとつといえるでしょう。
社員研修に活用できる支援制度は、助成金だけではありません。研修や人材育成に役立つ制度として活用できるものがいくつか存在します。
企業側の活用に加え、従業員本人が申請・利用するケースもあるため、選択肢として押さえておきましょう。代表的な支援制度は以下のとおりです。
・教育訓練給付金|個人の学び直しを支援する制度 ・中小企業等経営強化法|人材育成を含めた経営計画で支援を受けられる制度 |
それぞれ順に解説します。
教育訓練給付金は、雇用保険に加入している従業員が、国が指定する講座を受講した場合に、費用の一部を給付される制度です。
申請は個人単位で行いますが、企業が制度を紹介することで、従業員のスキル習得を後押しする形で活用されるケースもあります。
活用されている学習内容の例は以下のとおりです。
・業務に関連する国家資格や検定試験の対策講座 ・ビジネス系スクールや通信講座での専門スキルの習得 ・IT・語学・マネジメントなど、職務に役立つ分野の学び直し |
給付率は講座によって異なりますが、対象講座であれば受講費用の最大80%が支給される場合もあります。
企業側が制度について周知することで、研修費用の直接的な負担はなくとも、社員のスキルアップを促すことが可能です。
中小企業等経営強化法は、企業が「経営力向上計画」を作成し、国の認定を受けることで、さまざまな支援を受けられる制度です。
人材育成や研修を対象とした助成金ではありませんが、育成の取り組みを経営計画に盛り込むことで、税制や融資などの支援につなげることができます。
たとえば以下のような内容が、計画の一部として認められることがあります。
・新規事業に向けたスキル習得の研修実施 ・DX対応に必要な教育制度の整備 ・若手社員の育成や技術継承の仕組みづくり |
計画が認定されると、税制優遇(即時償却や税額控除)や日本政策金融公庫の融資支援などを受けることができます。
とくに、研修に加えて設備投資なども含めた中長期的な人材育成を考えている企業にとって、有効な制度といえるでしょう。
関連記事:中小企業経営強化税制とは?概要、要件、メリットを解説
社員研修の助成金を活用する際は、いくつかの注意点があります。
・要件を満たしているか確認する ・制度の目的に合っているかを把握する ・社内研修と外部研修で条件が異なる ・実施記録や出席管理の提出が必要になる ・申請スケジュールと準備期間に注意する |
ここでは、それぞれの注意点について解説します。
助成金を活用するには、研修の内容や実施方法が制度で定められた要件を満たしている必要があります。
実施内容が適切に見えても、形式や準備が不十分だと助成対象から外れてしまうことがあるため、注意が必要です。
見た目には役立ちそうな研修でも、実施方法や事前の手続きが要件に合っていなければ、助成の対象にならないことがあります。
たとえば、以下のような研修は助成の対象外となる可能性があります。
・所定の実施時間に満たない短時間の研修 ・レクリエーションに近い内容を含む研修 ・事前申請や実施報告が必要な制度で手続きを行っていない研修 |
こうしたケースでは、制度の目的に合っていたとしても、形式的な要件を満たしていないだけで不支給になることがあります。
制度を利用する際は、実施時間や実施形式、申請手続きなどが要件に沿っているかを事前に確認しておくことが大切です。
助成金には、制度ごとに「何のために支給されるのか」という明確な目的があります。
たとえば、職場定着や生産性向上、非正規社員の処遇改善など、支援の背景や趣旨は制度によって異なります。
そのため、実施形式や手続きを満たしていても、研修の中身や目的が制度の趣旨と合っていなければ助成の対象外となることがあります。
たとえば、「業務改善助成金」は、生産性向上や業務効率化を目的とした制度です。そのため、一般的なマナー研修や業務と直接関係しないテーマは、制度の目的とずれていると判断され、不支給になる可能性があります。
助成金を活用する際は、研修テーマを決める段階で制度の目的を確認しましょう。
研修を助成対象として認めてもらうには、「研修の目的」や「実施した事実」を証明する記録や書類の提出も欠かせません。
制度の要件を満たしていても、提出すべき書類が揃っていなかったり記録に不備があったりすると、助成金が支給されないケースもあります。
代表的な提出書類は以下のとおりです。
・実施報告書や出席簿、研修中の写真などの記録 ・オンライン研修の場合はアクセスログや受講証明 ・制度で指定されたフォーマットによる報告書 |
これらの書類が揃っていない、または不備があると、助成金が支給されなかったり、申請を差し戻されたりすることもあります。
たとえば、「人材開発支援助成金」では、出席状況や実施の事実を示す証拠を、定められた形式で提出することが義務付けられています。
制度ごとに必要な書類や提出形式は異なるため、研修実施後に慌てることがないよう、事前の段階から準備しておくことが重要です。
助成金制度では、研修の実施方法や講師の立場によって、助成対象となる費用や提出書類に違いが生じることがあります。
とくに、社内研修と社外研修で申請時の条件や手続きが大きく異なるため、注意が必要です。
| 社内研修 | 社外研修 |
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助成対象となる費用 | 社員講師の人件費は対象外になることがある | 講師費や受講料などが対象になりやすい |
提出書類 | 実施報告書や出席簿などが必要になる | 出席記録に加えて、契約書や請求書の提出が必要になることが多い |
一般的に社外研修のほうが、対象費用や必要書類が明確に定められているため、助成対象として認められやすい傾向があります。
社内研修の場合も、出席簿や報告書などの提出は必要です。講師や費用によって対象外となる場合もあるため、制度ごとの支給条件や記録の取り扱いについて、あらかじめ確認しておくことが重要です。
助成金の申請には、研修の前後で複数の手続きがあり、それぞれに期限が設けられています。申請のタイミングを逃したり、準備が間に合わなかったりすると、支給対象から外れてしまうこともあるため注意が必要です。
スムーズに進めるには、事前に全体の流れを把握し、逆算してスケジュールを組むことが重要です。以下は、一般的な手続きの流れと準備期間の目安です。
手続きの段階 | 研修内容の例 | 準備期間の目安 |
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申請前の準備 | 研修計画の作成、申請書類の準備 | 1〜4週間 |
研修の準備・実施 | 日程調整、講師・会場・教材の手配、研修の実施 | 2週間〜1か月以上 |
研修後の報告提出 | 出席簿・実施報告書などの記録作成と提出 | 1〜2週間 |
なお、研修の実施期間は制度によって異なり、数日〜数か月におよぶ場合もあります。
助成対象となるには、研修時間や日数の要件を満たす必要があるため、計画段階で制度ごとの条件を確認しておきましょう。
ここからは、社員研修の助成金・補助金についてのよくある質問について回答します。
定額制のオンライン研修でも、内容や条件を満たしていれば助成金の対象になる場合があります。
多くの企業がeラーニングやサブスクリプション型の研修を取り入れていますが、助成の対象となるかどうかは制度によって異なります。
対象となるために、満たす必要がある条件は以下のとおりです。
・定額制訓練として制度に登録・認可されている研修であること ・スキル習得や実務能力向上など、制度の目的に合致していること ・受講ログや実施記録を適切に残し、証明できること |
たとえば、人材開発支援助成金の「人への投資促進コース」では、定額制で提供されるeラーニングや双方向型のオンライン研修などが認められる場合があります。
対象となるかどうかは研修内容や運営方式によって判断が分かれるため、事前に制度の詳細や対象訓練の要件を確認しておくことが重要です。
近年注目が高まる「リスキリング(学び直し)」に対しても、活用できる助成金制度があります。
たとえば、人材開発支援助成金の「事業展開等リスキリング支援コース」は、新事業への進出やデジタル化に対応するスキル習得を支援する制度です。
このコースでは、以下のようなリスキリングが助成対象となることがあります。
・DX推進に必要なITスキルの習得 ・新商品の開発やサービス設計に向けた専門研修 ・業務転換に伴う新たな職種スキルの獲得 |
ただし、すべての研修が対象になるわけではなく、制度の目的や要件に沿った内容であることが前提です。
リスキリングの対象となる訓練の種類や申請条件は制度ごとに細かく定められているため、活用を検討する際は事前に詳細を確認しましょう。
助成金は、申請すれば必ず受け取れるものではありません。制度の要件を満たしていない、書類に不備があるといった理由で、不支給となるケースもあります。
よくある支給対象外の例としては、以下のようなものがあります。
・申請書類の記載ミスや提出漏れ ・制度の目的に合わない研修内容 ・研修実施前の申請を忘れていた ・受講記録など必要な証明書類が不足していた |
また、制度によっては、会社都合による退職者が一定期間内にいると受給できない場合もあります。
たとえば「人材開発支援助成金」では、指定期間内に会社都合退職者が出ていると、支給の対象外になる可能性があります。
こうしたリスクを防ぐには、事前に制度の内容をよく確認し、書類やスケジュールに不備がないよう慎重に準備することが大切です。
社員研修に助成金を活用するには、制度の目的や要件を正しく理解し、研修内容や実施方法が合致しているかを確認することが大切です。
助成金を確実に受け取るには、申請書類の準備や、研修の記録管理、スケジュールの確認などの対応を丁寧に進めることが欠かせません。
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