中小企業が、経営力強化を目的とした設備を取得する時に受けられる優遇税制のひとつが、「中小企業経営強化税制」です。制度の名前は聞いたことがあっても、概要がよく分からないという企業担当者も多いのではないでしょうか。
本記事では、中小企業経営強化税制について、概要や対象企業、対象設備など、制度の内容を詳しく紹介します。
中小企業経営強化税制とは、中小企業者が生産性向上や企業の経営力強化を目的として設備投資をする際、即時償却もしくは取得価格の最大10%(資本金の額等が3,000万円超の法人は7%) が税額控除となる税制優遇措置が受けられる制度を指します。
製造などの工程に直接関係する設備だけでなく、働き方改革の推進に役立つ減価償却資産(建物付属設備や、器具・備品など)も、一定条件を満たすと税制が適用されます。
本制度の対象となるのは、生産活動・販売活動・役務提供活動など、収益獲得に直接用いられる「生産等設備」が原則です。そのため、社員食堂や休憩室・更衣室など福利厚生施設向けの設備は、通常は対象外と考えられます。
一方で、テレビ会議システムや勤怠管理システムなど、生産性向上に資する業務用システムは、要件を満たす場合には対象となり得ます。
参考:国税庁
中小企業経営強化税制は、一定要件をクリアした中小企業が経営力向上計画に沿って設備投資した際、
即時償却(投資額全額を初年度経費化)
税額控除(投資額の10%または7%を法人税額から控除)
のいずれかを選択適用できる、非常に優遇幅の大きい制度です。
適用方法 | 内容 | メリット |
|---|---|---|
即時償却 | 投資額全額が初年度経費 | 利益圧縮することで法人税減。資金繰り向上する |
税額控除 | 投資額の10%(3,000万円以下法人)、7%(資本金3,000万超~1億円以下法人)を法人税から直接控除 | 毎年安定した利益にマッチしやすい、長期的な節税になる |
各社の利益・資金繰り状況に応じ、最大効果を目指せます。
似て非なる制度として「中小企業投資促進税制」があります。これは特定設備の投資時に特別償却(投資額30%)または税額控除(7%)を選択できる制度ですが、経営強化税制より減税幅は小さめです。
項目 | 中小企業経営強化税制 | 中小企業投資促進税制 |
|---|---|---|
対象企業 | 経営力向上計画に基づく中小企業 | 特定設備を導入する中小企業 |
優遇内容 | 即時償却または税額控除(10%/7%)から選択 | 特別償却(30%)または税額控除(7%)から選択 |
優遇幅 | 大きい(投資額全額を初年度経費化も可能) | 中程度(特別償却30%まで) |
適用条件 | 経営力向上計画の承認が必要 | 特定設備の購入・導入が条件 |
自社の設備・要件に合わせて使い分けることで選択肢が広がります。
中小企業経営強化税制の指定期間は、現行では平成29年4月1日から令和9年3月31日(2027年3月31日)までとされています。これは2025年度(令和7年度)税制改正により、適用期限が2年間延長されたものです。上記の期間内に設備を取得し、かつ事業の用に供した場合が対象となります。
中小企業経営強化税制では、法人税(個人事業主の場合は所得税)について、税額控除もしくは即時償却のいずれかが選択可能です。どちらを選択すると良いのかは、企業ごとの状況で異なります。
以下で、それぞれの概要について解説しますので、税理士などの意見も取り入れながら、選択の参考にしてください。
中小企業経営強化税制における税額控除では、以下の控除が受けられます。
対象 | 税額控除 |
|---|---|
・資本金3,000万円以下の法人 ・個人事業主 | 設備取得価格の10% |
資本金3,000万円以上1億円以下の法人 | 設備取得価格の7% |
税額控除が受けられる額は、その年の法人税(個人事業主は所得税額)の20%が上限と定められています。
中小企業経営強化税制における即時償却とは、条件に該当する設備費用を、その年の経費に全額計上する処理を指します。通常は、設備投資費用は減価償却で計上しますが、即時償却は一括で計上するため、一年の間で大きな節税効果を得られます。
設備投資減税では、即時償却と税額控除のどちらを選ぶかによって節税効果や資金繰りへの影響が大きく変わります。また、申請・認定の過程では書類不備や申請タイミングの誤りなどでつまずくケースも少なくありません。
利益が大きく出そうな年度で圧縮効果が大きい
設備投資資金を早期に回収したい
将来利益が読みにくい場合
即時償却は、設備投資を行った年度の利益を大きく圧縮できるため、特に利益が高くなる見込みのある年度に有効です。また、投資資金を早期に回収したい場合や、将来の利益が予測しにくい場合にも適しています。これにより、初年度に大きな法人税の減税効果を得て、資金繰りを安定させることが可能です。
毎年一定水準の利益が見込まれる
長期間にわたり節税効果を安定享受したい
即時償却による利益圧縮が不要または過去の繰越欠損が大きい場合
即時償却:初年度利益圧縮で最大350万の法人税減
税額控除:最大100万円(10%)の法人税額直接控除
税額控除は、毎年一定水準の利益が見込まれる企業や、長期にわたり安定した節税効果を得たい場合に適しています。
また、即時償却による利益圧縮が不要な場合や、過去の繰越欠損が大きく初年度の圧縮効果が限定的な場合にも有効です。
なお、即時償却では初年度に最大約350万円の法人税を減らせるのに対し、税額控除では最大約100万円(10%)を法人税額から直接控除できます(実際の金額は資本金規模などにより変動します)。
中小企業経営強化税制」の対象企業となるためには、「中小企業等経営強化法」に基づく経営力向上計画の認定を受けた中小企業者であることが条件です。
ここでの中小企業者は、中小企業等経営強化法第2条で定められており、業種ごとによって資本金や従業員の数などの制限が定められています。
区分 | 資本金または出資金の額 | 常時使用する従業員数 |
|---|---|---|
製造業・建設業・運輸業・その他 | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
さらに、本制度を利用するためには、中小企業等経営強化法に基づく「経営力向上計画」の認定を受ける必要があります。また、大企業の支配下にある企業は対象外となるため、出資比率にも注意が必要です。
本制度では、機械装置など設備の価格帯には最低金額の基準が設けられており、一定規模以上の投資が条件となります。 上記に加え、税制の対象となる中小企業者等は青色申告者でなくてはいけないため注意しましょう。
個人事業主が、中小企業経営強化税制の適用を受けるには、中小企業者と同様、青色申告者であることが条件です。ここで個人事業主とは、常時使用する従業員が1,000人以下の個人事業主を指します。
税制の対象業種となるのは、以下のとおりです。
製造業、建設業、農業、林業、漁業、水産養殖業、鉱業、採石業、砂利採取業、卸売業、道路貨物運送業、倉庫業、港湾運送業、ガス業、小売業、料理店業その他の飲食店業(一定の事業を除く)、一般旅客自動車運送業、海洋運輸業及び沿海運輸業、内航船舶貸渡業、旅行業、こん包業、郵便業、損害保険代理業、不動産業、情報通信業、駐車場業、物品賃貸業、学術研究、専門・技術サービス業、宿泊業、洗濯・理容・美容・浴場業、その他の生活関連サービス業、教育、学習支援業、医療、福祉業、協同組合(他に分類されないもの)、サービス業(他に分類されないもの) |
なお、料亭、バー、キャバレー、ナイトクラブその他これらに類する飲食店業は、生活衛生同業組合の組合員が営む店舗のみが対象となります。
中小企業経営強化税制の書類は、設備の使用目的に応じ、4つの類型(A・B・D・E)に分類されます。なお、デジタル化設備を対象とするC類型は、2025年4月1日をもって廃止されています(参考:中小企業庁)。
一定期間内に販売され、生産効率などが旧モデルよりも年平均1%以上向上する設備に対する類型です。工業会などから取得する証明書が必要となり、対象設備は以下のとおりです。
設備の種類 | 用途または細目 | 最低価額 | 販売開始時期 |
|---|---|---|---|
機械装置 | すべて | 160万円以上 | 10年以内 |
工具 | 測定・検査工具 | 30万円以上 | 5年以内 |
器具備品 | すべて | 30万円以上 | 6年以内 |
建物附属設備 | すべて | 60万円以上 | 14年以内 |
ソフトウェア | 設備の稼働状況・情報収集に対する機能を持つもの | 70万円以上 | 5年以内 |
平均の投資利益率が7%以上と見込まれ、投資計画に記載した目的を達成するための設備に対する類型です。経済産業局から取得する確認書が必要となり、対象設備は以下のとおりです。
設備の種類 | 用途または細目 | 最低価額 |
|---|---|---|
機械装置 | すべて | 160万円以上 |
工具 | すべて | 30万円以上 |
器具備品 | すべて | 30万円以上 |
建物附属設備 | すべて | 60万円以上 |
ソフトウェア | すべて | 70万円以上 |
経営資源集約化(M&A)による生産性向上を目的とし、計画に基づいて設備を導入した場合に適用される類型です。経済産業省から取得する確認書が必要となり、対象設備は以下のとおりです。
設備の種類 | 用途または細目 | 最低価額 |
|---|---|---|
機械装置 | すべて | 160万円以上 |
工具 | すべて | 30万円以上 |
器具備品 | すべて | 30万円以上 |
建物附属設備 | すべて | 60万円以上 |
ソフトウェア | すべて | 70万円以上 |
上記の設備条件を満たすとともに、以下の表のとおり、修正ROAと有形固定資産回転率が一定以上上昇することも条件です。
計画期間 | 有形固定資産回転率 | 修正ROA |
|---|---|---|
3年 | +2% | +0.3ポイント |
4年 | +2.5% | +0.4ポイント |
5年 | +3% | +0.5ポイント |
売上高10億円超90億円未満の法人が、売上高100億円超を目指して経営規模の拡大を図る投資計画に基づいて設備を導入する場合に適用される類型です。年平均の投資利益率が7%以上見込まれることなどが要件となり、経済産業大臣(経済産業局)の確認を受けた投資計画に記載された設備が対象となります。
設備の種類 | 用途または細目 | 最低価額 |
|---|---|---|
機械装置 | すべて | 160万円以上 |
工具 | すべて | 30万円以上 |
器具備品 | すべて | 30万円以上 |
建物附属設備 | すべて | 60万円以上 |
ソフトウェア | すべて | 70万円以上 |
また、設備導入により企業の経営効率が向上することを示すため、以下のとおり「有形固定資産回転率」と「修正ROA」が一定以上上昇することが求められます。
計画期間 | 有形固定資産回転率 | 修正ROA |
|---|---|---|
3年 | +2% | +0.3ポイント |
4年 | +2.5% | +0.4ポイント |
5年 | +3% | +0.5ポイント |
経営強化税制減税を最大限に活用するには、申請の流れや選択肢、注意点を理解して計画的に進めることが重要です。
ここでは、標準的なA類型を例に、申請から税務申告までのステップをわかりやすく解説します。また、即時償却と税額控除の選び方や、審査・認定でのよくあるつまずき事例、実務上の対策まで詳しく紹介します。
【標準的な流れ:A類型の場合】
設備メーカーと導入内容・スペックを確認
工業会等から「証明書」を取得(設備の性能確認用。1〜2ヶ月)
経営力向上計画を作成し、事前に所管省庁へ提出
確認/認定通知を取得(約1ヶ月)
設備取得(納品・検収済み/本稼働が必須)
税務申告時に証明書等を添付して控除・償却申告
標準的なA類型の場合、まず設備メーカーと導入する設備の内容やスペックを確認し、その後、工業会などから性能確認用の「証明書」を取得します。
次に、経営力向上計画を作成し、事前に所管省庁へ提出します。認定通知を受け取った後、設備を取得し、納品・検収済みで本稼働させます。最後に、税務申告時に証明書などを添付して控除や償却の申告を行う流れです。
B類型やD類型では、これに加えて投資計画の事前認定や経済産業局への申請手続きが必要になるため、工程数が増えます。なお、申請関連の書類発行には最大で2か月かかる場合もあるため、計画作成や手続きは早めに着手することが節税効果を確実に得るポイントです。
設備投資減税の審査・認定では、いくつかのポイントでつまずくケースがあります。代表的な事例としては、証明書の型番や証明期間の記載不備、申請タイミングを誤りなどが挙げられます。
また設備取得前に申請しなかった場合や計画内容が抽象的すぎて認定が否決される場合、書類到着待ちによって設備納期が遅れる、といったものがあります。
これらを回避するためには、設備メーカーや会計士などの専門家と早めに連携し、申請書類を正確に準備することが重要です。また、設備取得後に特例申請を行う方法もありますが、取得後60日以内など要件が厳格なため、期限を守った対応が求められます。
中小企業経営強化税制は、補助金と組み合わせることで初期負担をさらに抑えることができます。代表的な設備投資向け補助金として、以下のような制度があります。
中小企業・小規模事業者の設備投資や新製品・新サービス開発を支援する代表的な補助金で、最大3,000万円程度までの補助枠が用意されています。
参考:ものづくり補助金とは?対象者や申請要件、補助額、申請方法をわかりやすく解説
人手不足対策や省力化を目的とした設備・システム導入を支援する補助金です。カタログ注文型/一般型があり、現場に合わせた省力化投資を幅広く対象としています。
参考:中小企業省力化投資補助金(一般型)とは?カタログ注文型との違いや活用例・申請手順も解説
高効率機器など省エネ設備への更新や、事業場全体での省エネ投資を支援する補助金です。年度ごとに公募期間や対象設備が定められるため、公募情報の確認が重要です。
参考:省エネ補助金とは?省エネルギー投資促進支援事業費補助金など省エネルギー設備投資に使える補助金を解説
いずれも公募スケジュールや要件は毎年度見直されるため、最新の公募要領を確認しつつ、税制との併用可否やスケジュールを税理士・専門家と相談することをおすすめします。
「中小企業経営強化税制とは」の項で述べた指定期間(平成29年4月1日から令和9年3月31日まで)は、申請のみを行う期間ではありません。この期間内に設備を取得し、かつ事業の用に供した場合が対象となります。
申請要件が欠けてしまうと、税制優遇が受けられなくなりますので、申請時には十分注意しましょう。
中小企業経営強化税制は、中小企業者等が設備投資によって経営力を高めるために、節税効果が高い制度です。類型ごとに、申請の流れが少しずつ異なりますので、それぞれの類型で設定された流れに従って手続きを行いましょう。
対象となる事業者や設備、申請方法、申請期間などは、変更になる場合もあるため、常に中小企業庁が発表する最新情報をチェックするようにしましょう。
設備導入にあたり補助金など資金調達をご検討中の方は申請・入金までワンストップでサポートしておりますので、是非ご連絡ください!