製造業の現場では今、DX(デジタルトランスフォーメーション)が生き残りの切り札として注目されています。しかし「何から手をつけたら良いかわからない」「大手製造業のDX事例は参考になりそうだけど、うちは中小企業だし…」と感じている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、リコー・トヨタ・京セラなど国内大手から中小企業の現場事例まで網羅しつつ、現場に効くDX推進の考え方・よくある課題・補助金活用のポイントまで徹底解説します。自社DXのヒントになる成功事例や、今まさに変化の真っただ中にいる経営者・現場担当者さま向けの具体的アクションも紹介します。ぜひ、明日からの現場改革に役立ててください。
DX(デジタルトランスフォーメーション)は「デジタル技術を活用し、事業構造やビジネスモデル・企業文化そのものを変革すること」を意味します。製造業のDXは、IoTやAI、クラウド、ビッグデータの導入によって現場の見える化・自動化を進めるだけでなく、従業員の働き方や組織風土、サービス提供そのものにまで変化をもたらします。
たとえば、温度や部品の微細な変化をセンサーで監視し、AIが生産ラインの不良を瞬時に予測・分析できれば、従来職人の勘やマニュアル検査に頼ってきた現場業務が根本的に変わります。属人化に悩む現場や慢性的な人手不足も、DXによって解消できる可能性が広がります。
日本国内の製造業は「人材不足」「高齢化」「グローバル競争」の三重苦に直面しています。すでに製造業就業者数は20年で157万人減少しています(出典:経済産業省 2022年版ものづくり白書)。加えて、パンデミックや国際情勢変化の影響で、柔軟なサプライチェーン構築がますます求められています。また、日本製造業のデジタル化率は他業種に比べても遅れがちであり、中小企業を中心にDXの遅れが新しい経営リスクとなっています。
DX導入により現場が可視化されることで、生産プロセスの無駄や重複を発見しやすくなります。たとえば、在庫管理システムや工程進捗のIoT化によって、材料の過剰発注や不良品再発防止がリアルタイムで可能となり、生産性が目に見えて向上します。
IoTセンサー活用による設備稼働率UP(事例:村田製作所)
日報や工程管理アプリによる手作業のペーパーレス化(事例:芙陽工業/kintone活用)
ロボットやAIの導入で、今まで熟練工に頼っていた部品検査や組み立て作業が自動化・デジタル標準化されます。人件費・教育コストの削減だけでなく、技術の継承や多品種少量生産の対応力も強化できます。
データを活用した「生産管理」「需要予測」「検査工程の自動化」により、不良率・納期遅延・工程トラブルのリスクが劇的に減少します。実際にIoT/AIの画像検査システム導入で、微小な不良の検出精度が大幅向上し、コスト削減にも直結しています。
DXにより全社・全ラインの工程データや設備稼働情報などをクラウドに一元集約(デジタルツイン活用等)が可能となります。マネジメント層から現場担当者まで、正確な情報に基づくリアルタイム判断が可能となり、意思決定のスピードが飛躍的に上がります。
“自社変革力(ダイナミックケイパビリティ)”とは、環境変化への柔軟な適応力・イノベーション創出力そのものです。DXを推進することで、例えば需要急変時もデータに基づいた機敏な生産調整・サービス融通が可能となり、競争力の維持・向上が期待できます。
製造業の具体的なDX事例をご紹介します。大手企業、中小企業、AI・クラウド活用の3つの観点で事例を収集しました。それぞれの詳細は引用元ページをご覧ください。
トヨタ自動車:全工場横断の情報基盤「工場IoT」構築。CADデータや設備情報を全社一元化し、工程・品質・コスト分析を自動化(参考:中古機械のダイナ日記)
京セラ:kintoneのデータベース連携で、Excel管理から現場主導のDXを推進。1イベントで160時間削減などペーパーレス業務改善を実現(参考:Toyokumo)
三菱電機「e-F@ctory」:FA機器+IT×エッジコンピューティング活用で、生産性や省エネを同時実現(参考:三菱電機)
川崎重工業:自社工場をデジタルツインで再現し、設備トラブルを事前予測・遠隔操作対応(参考:IT Leaders)
芙陽工業:iPad+kintoneだけで部門間情報共有・日報電子化・負荷管理アプリなど250種システムを現場主導で開発・運用(参考:kintone)
協和工業:データコード統一&IoT導入で現場工数を削減。時間当たり売上13.5%増、不良金額86%減といった成果も(参考:DX総研)
村田製作所:センサー・クラウド分析で不良発生を予兆保全、工場稼働率を向上(参考:MENTENA)
JFEスチール:画像認識AIで工場内安全監視・検査の自動化。不良・事故リスクを削減(参考:LIGHTBLUE)
事例共通のポイントは「現場目線の課題解決→小さな成功→全社横展開」という流れです。業務負荷や残業削減、月間コスト削減、品質トラブル減少など、状況や課題の見える化から改善、新たな価値創出という好サイクルが生まれているのがDX現場の特徴です。
<代表的な製造業DX事例と成果>
企業名 | 重点施策 | 主な成果 |
---|---|---|
トヨタ | IoT・データ一元管理 | 品質・生産効率大幅UP |
京セラ | 現場主導kintone導入 | 業務工数大幅削減・承認短縮 |
芙陽工業 | iPad・アプリ現場導入 | 製造トラブルゼロ |
JFEスチール | 画像AI安全監視 | 事故リスク低減 |
協和工業 | データ一元化+IoT | 時間当たり売上13%増 |
製造業の現場だけでなく経営や会社全体に対しても大きなメリットのあるDXですが、変化を進めていくことは決して容易なことではありません。ここでは製造業DXを推進する障壁となりやすい主な課題と解決策を紹介します。
多くの現場で「ITスキルを持ったDXリーダー」の不在や、複雑なデジタルツール選定に苦労しています。これまでのやり方を客観的に評価できる人や仕組みの導入は、そのための技術やノウハウがなかったり、また現状の否定にもつながり、簡単なことではありません。
解決策として、現場からの段階的な教育を進めたり、外部人材・ITコンサルのスポット活用が一案です。仕様の決まった外部パッケージを導入するのではなく、ノーコード・クラウド型サービスで現場が自分で作れる環境を整えて行くのも一つの方法です。
中小製造業では初期コストや現場のIT反発も障壁となりがちです。しかし、経営層が旗振り役となりビジョンの共有を行ったり、現場が主役となる小さなDX事例を積み上げるなど、段階的に現場の納得感を高めて行くことが全社変革につながります。
昨今の補助金(ものづくり補助金・IT導入補助金・新事業進出補助金等)はDXや現場デジタル化導入に手厚い支援を行っています。計画段階から活用することで初期コストの壁を大きく下げることが可能です。
参考:製造業向けおすすめ補助金・助成金7選!補助金採択事例も紹介
ここでは、実際に製造業においてDXを進めていくためのポイントを3点解説します。
製造業に限らず、DXというと「システム部門丸投げ」で失敗する事例が跡を絶ちません。しかしながら、あくまでDXは経営戦略です。「データドリブンで実現したい未来像」を社内全体で共有し、経営陣からDX担当/現場への展開を戦略的に行うことが重要です。
一方で、完全なトップダウンになってしまうことにも注意してください。本記事で事例として紹介したものの中には、現場の小さな改善を全社に波及させたボトムアップ型が少なくありません。しかしながら、現場に丸投げしていては進むものも進まないため、経営がDXや必要な技術を十分に理解し、ビジョンや方向性、目的等を十分に示すことが重要です。
いきなり基幹全体のデジタル化を狙うのではなく、現場の困りごとから着手し、小さな成功を評価することが重要です。そのためには失敗を許容できるカルチャーが必要です。現場主導でスモールスタートを行い、効果検証を繰り返すことで小さな成功(クイックウィン)を繰り返すことが運用の定着につながります。
チャレンジにはリスクがつきものですが、少なくとも金銭的なリスクについては補助金等の公的支援制度を活用することで、限りなくゼロに近づけることができます。
たとえばIT導入補助金や省力化投資補助金は、クラウドアプリやIoT、ロボットなど幅広いツールやシステムの導入に活用ができます。補助金で賄えるツールかどうかは、事前にITベンダーや商工会等へ確認するようにしましょう。
またDXにより新たなサービス開発を行ったり新事業を行うといった場合には、ものづくり補助金や新事業進出補助金がおすすめです。オーダーメイド設備の構築やシステム開発など、幅広い経費に使えますので、活用しない手はありません。
補助金コネクトでサポートした企業様の成功事例をご紹介します。
事例①サービス業
BLUE ONION(ブルーオニオン) | 事業再構築補助金の成功事例
補助金で他業種へ新規店舗を出店し、集客力アップとリピート率の向上を達成。
事例②製造業
生産ラインの自動化に必要な設備導入費用を補助金でカバーし、生産効率が大幅に向上。
事例③人材紹介業
新サービス開発の資金調達に成功し、市場拡大に伴う売上増を実現。
製造業のDXは単なるデジタル化を越え、“現場”と“経営”が一体となる全社変革の取り組みです。成功事例を参考に「小さく始めて大きく育てる」段階的推進と、社外リソースや各種補助金などの活用により、自社オリジナルの未来像をぜひ実現していきましょう。
補助金申請に関しては、補助金コネクトで無料相談を実施しております。使える補助金の診断から申請サポート、実際の入金まで、あらゆる工程をサポートしています。事業の計画段階などなるべく早いタイミングでご相談いただくことで採択率が高まります。是非この機会に経験豊富なコンサルタントにご相談ください。