大きな予算が確保されている事業再構築補助金ですが、個人事業主でも申請できるのかどうかお悩みの方も多いのではないでしょうか?
実際、個人事業主で大きな投資を行うケースはあまり多くなく、人的なリソースも限られているため、事業再構築補助金の申請をするのは現実的ではないというイメージをお持ちの方もいらっしゃると思います。
この記事では、個人事業主として事業再構築補助金を申請する方法や、注意すべき点について解説します。
概要から法人と個人の違いについても説明しますので、申請を検討されている方は最後までお読みください。
個人事業主が事業再構築補助金の制度内容を理解し、制度を最大限有効活用するために、ここでは概要を解説します。
事業再構築補助金は、正式名称を「中小企業等事業再構築促進事業」と言います。ポストコロナ・ウィズコロナに向けた社会の変化に対応すべく、個人事業主をはじめとして中小企業・中堅企業などを対象とし、思い切った事業再構築を支援する事業です。具体的には、新分野展開、事業・業種・業態の転換、事業再編などの大がかりな事業再構築が対象となっています。
個人事業主が申請するにあたり手続きは法人と大差なく、事業計画の作成などハードルの高さは否めません。特に白色申告の場合は、同じ個人事業主でも青色申告の場合とは添付書類等が異なり、大変な面が多い印象です。
したがって、申請の流れを把握し、必要な書類の準備を整えることが重要です。
執筆時点で申請を受け付けているのは、第10回公募(令和5年6月30日(金)18時まで)です。第9回公募から変更点が多いため、概要をしっかり理解しておくことが必要です。申請枠と補助上限額は、以下の表の通りです。
申請枠 | 補助上限額 |
---|---|
成長枠 | 7,000万円 |
グリーン成長額(エントリー) | 8,000万円(中堅企業等は1億円) |
グリーン成長枠(スタンダード) | 1億円(中堅企業等は1.5億円) |
卒業促進枠 | 成長枠・グリーン成長枠の補助金額上限に準じる |
大規模賃金引上促進枠 | 3,000万円 |
産業構造転換枠 | 7,000万円 |
最低賃金枠 | 1,500万円 |
物価高騰対策・回復再生応援枠 | 3,000万円 |
それぞれの枠の詳細については、以下の記事も参考にしてみてください。
事業再構築補助金とは?申請枠から補助額、対象者、対象経費まで詳しく解説
これまでに事業再構築補助金を申請し、実際に採択を受けた割合は、どのくらいで推移しているのでしょうか。直近の公募回における全体の採択率を見てみましょう。
公募回 | 応募件数 | 採択件数 | 採択率 |
---|---|---|---|
第9回(令和5年3月24日締切) | 9,369件 | 4,259件 | 45.6% |
第8回(令和5年1月13日締切) | 12,591件 | 6,456件 | 51.3% |
第7回(令和4年10月5日締切) | 15,132件 | 7,745件 | 51.2% |
第6回(令和4年6月30日締切) | 15,340件 | 7,669件 | 50.0% |
採択率を高めていくためには、良質な事業計画書を作成する必要がありますが、そのためには審査官の加点ポイントを抑えながら記載していくことになります。
なお、第1回以降の全公募回の採択率やスケジュールは以下の記事で紹介しています。
事業再構築補助金の採択結果はいつ?各公募回の採択者数、採択率、重要日付一覧
事業再構築補助金の申請要件は、公募要項で以下の通り規定されています。
①経済産業省が示す「事業再構築指針」に沿った3〜5年の事業計画書を作成し、認定経営革新等支援機関の確認を受けていること。 ②補助事業終了後3〜5年で付加価値額を年率平均3.0%〜5.0%(事業類型により異なる)以上増加させること。又は従業員一人当たり付加価値額を年率平均3.0%〜5.0%(事業類型により異なる)以上増加させること。 |
他にも申請資格のための要件があったり、公募回ごとに変更される内容もありますので、しっかりと確認しておきましょう。
成長枠では、売上高の減少要件が撤廃された一方で、対象業種は「2009年から2019年の間に市場規模が10%以上拡大する業種・業態」に限定されるようになりました。以下で紹介する業種・業態は、その一部です。
分類コード | 産業分類(小分類) |
---|---|
94 | 調味料製造業 |
97 | パン・菓子製造業 |
104 | 製氷業 |
131 | 家具製造業 |
183 | 工業用プラスチック製品製造業 |
206 | かばん製造業 |
214 | 陶磁器・同関連製品製造業 |
242 | 洋食器・刃物・手道具・金物類製造業 |
243 | 暖房・調理等装置、配管工事用附属品製造業 |
311 | 自動車・同附属品製造業 |
401 | インターネット附随サービス業 |
603 | 医薬品・化粧品小売業 |
743 | 機械設計業 |
746 | 写真業 |
911 | 職業紹介業 |
対象となる業種・業態は、全108業種です。そのうち、製造業が73業種・卸売業が12業種であり、限られた業種のみの補助金となっている点が大きな特徴です。過去の公募で高い人気があった宿泊業・旅行業・小売業・飲食業などは、対象外となっています。
上記以外の対象業種の詳細は、事務局が指定したリストで確認が必要です。また、指定業種・業態以外でも、応募時に要件を満たしていれば対象となる可能性もあります。
事業再構築補助金が採択された事例のうち、個人事業主が対象となった事業をいくつか紹介します。
宮城県では、脱プラスチック養殖いかだ製造を通じて、環境保護と地元の雇用創出を目指す製造業への業種転換を果たした事例が、採択を受けています。茨城県では、廃材を利用してデザイン家具や建材を製作・販売した事例も見受けられます。
埼玉県では、既製品の販売事業から小ロットの商品受注製作事業へ転換を遂げた事例がありました。個人事業主ならではの迅速な対応が、功を奏した結果だと言えるでしょう。
東京都のとある製作所では、半導体製造装置部品を試作・量産する加工方法を確立し、新分野への事業拡大に成功しています。
大阪府では、電気自動車の市場拡大に合わせ、リチウムイオンバッテリー関連事業への進出に関する補助事業が採択を受けています。
先述したように、第10回公募から対象業種・業態が限定されるよう変更となっています。申請を希望する業種が、事業再構築補助金の申請対象となるかどうか、しっかりと確認が必要です。
事業再構築補助金の補助対象経費は、事業拡大につながる資産への投資(有形・無形)をしたものが対象です。具体的な例は、以下の通りです。
費用区分 | 説明 |
---|---|
建物費 | 建物の建築・改修・撤去、賃貸物件等の原状回復など |
機械装置システム構築費 | 設備・専用ソフトの購入およびリース、クラウドサービスなど |
技術導入費 | 知的財産権に関する経費など |
外注費 | 製品開発に必要な加工設計に必要な経費、専門家経費など |
広告宣伝費・販売促進費 | 広告作成・媒体掲載・展示会出展など |
研修費 | 教育訓練費・講座受講など |
事業資産に直接関わらない、もしくは一過性の支出が多い場合は、補助対象外となります。
事業再構築補助金の申請方法について解説します。
事業再構築補助金の申請には、GビズIDプライムアカウントが必要です。アカウント作成には時間がかかりますので、早めに申請しておきましょう。アカウントをもっていると他のメリットもあるので、この機会に作成しておけば今後色々と活用できます。
必要書類は複数ありますが、最も重要なのは事業計画書です。また、事業計画書の作成には認定経営革新等支援機関が関わっていたことを示す確認書が必要となります。また、補助額が3000万円を超える場合には、金融機関から「金融機関の確認書」を発行してもらえるかどうか事前に確認しておきましょう。
補助金事業は、基本的に立替払いとなります。つまり、先に経費を支払ってから、その領収書等をもって補助金として還付を受ける仕組みです。
個人事業主の方であれば、持ち出せる資金が限られている方も多いのではないでしょうか。その場合は、早めに事業内容と財務計画を作成し、金融機関に相談しておきましょう。
書類の準備が完了したら、申請はオンラインで行います。冒頭で取得したGビズIDプライムアカウントを利用します。
無事採択され、交付が決定したら、補助事業期間となります。この期間内で、事前に提出した見積書に沿って経費を払い出し、事業を進めます。補助対象期間が決まっていますので、出費するタイミングは十分確認しておきましょう。
事業が完了したら実績報告を行います。申請から実績報告までは1年以上かかりますので長丁場になります。手続き等を忘れないように注意しましょう。
採択後も、実際に補助金が入金されるまでは色々な手続きを行う必要があります。詳しい情報をご希望の方は、以下のリンクよりお問い合わせください。
ここでは、個人事業主の方が申請するときに注意すべきポイントを解説します。
申請にあたり必要となる添付書類は、法人、青色申告者、白色申告者で異なります。詳細は規約を十分確認しましょう。
また、事業計画書には「財務の安全性」や「金融機関からの資金調達」はしっかりと記載していく必要があります。というのも、国としては補助金を出した事業が頓挫してしまうことは絶対に避けたいと考えています。なぜなら補助金の原資は税金だからです。
個人事業主の場合、事業者の財務状態は特に懸念されるポイントであり、法人に比べると財務的な信頼性は低く評価されがちです。税金の無駄遣いだと言われないよう、補助金を出したからにはその事業を継続し成果を出す必要があります。
過去の事例を見ますと、実際の補助金の金額は法人と個人事業主では大きく異なります。
売上が何億円もあるという法人の申請と比較すると、個人事業主の場合、経費を先に立て替える必要があるという性質からも、金額は小さくならざるを得ないというのが現実です。
例えば年商を超えるような投資額は、過大投資なのでは?という懸念もあります。したがって、実際の申請では1,500万円以下の補助金額になることが大半になっているように見受けられます。
公募要領に記載の提出書類である事業計画書は、通常最大15ページで作成することになっていますが、補助金額1,500万円以下の場合は10ページ以内で作成することになっています。
事業計画書を作成する負荷を考えても、1,500万円を超えない範囲で検討するのがひとつの基準です。
ここでは、個人事業主が事業再構築補助金を申請する際に注意すべき点として、よくある失敗事例から解説していきます。
事業再構築補助金のうち、「物価高騰対策・回復再生応援枠」「最低賃金枠」の申請には、売上高減少の証明が必要です。
新型コロナウィルス感染症が流行する以前と比較し、売上が減少していることが申請の要件になっているため、売上高の減少を示さないと申請できません。
そもそも、月別の売上減少を何で確認しているのか?詳しく見ていきましょう。
よくある失敗例の中で最も多いのは、月別の売上高減少を示す書類に不備があるケースです。
売上が下がった月の3ヶ月分を任意で選び申請しますが、その該当月の決算申告が完了している場合、法人ですと「法人事業概況説明書」という書類で示せばいいことになります。
一方、個人事業主の場合は青色申告と白色申告で必要書類が変わってきます。
青色申告者の場合は、申告決算書の2枚目に月別の売上高が記載されていますので、この書類を提出していくことで売上高減少を示せることになっています。
売上高減少で選択した任意の月すべてが含まれる2022年1月以降と2019年~2021年の決算書が必要です。
また、決算期をまたいで月を選択した場合、例えば11月・12月・1月と期をまたがって月を選択した場合は、3~4期分の決算書が必要になる場合もあります。
電子申請の入力画面でも売上高を入力しますが、当然ながら売上高の数字と一致していることが必要です。
白色申告では、決算書類の中に月別の売上高を記載する欄がありません。白色申告者の場合はそもそも決まった様式がないため、青色申告者のように示せる書類の控えがなく、証明できないという大きな問題があります。
そのため白色申告の場合は、月別の売上高がわかる以下の書類を2つ用意することになります。
売上台帳
確定申告の基礎となる書類
売上台帳は簡単な書式で構いませんが、ない場合は作成する必要があります。
確定申告の基礎となる書類については、日常的に会計ソフトを使用していれば試算表という帳票が出力されるかと思います。月別の損益計算書を出力する総勘定元帳があればすべての金銭取引が記載されていますので、確定申告の基礎となる書類が作成できるでしょう。
また、確定申告の基礎となる書類、試算表等の書式が帳票でない場合は、Excel等で作成する必要があります。確定申告完了後の期の分も作成しなくてはいけません。
月別の損益計算書は会計ソフトによって、残高試算表(年間推移)、月別残高試算表もしくは推移表等、名称が異なるので注意してください。
会計ソフトに入力している場合は、どんな帳票が出るのか確認しておきます。月別の売上高がわかり、また売上以外の仕入れや経費等、月別に表示されていれば問題ありません。
確定申告の基礎となる書類では、売上高減少について任意で選択した3ヶ月分の数字にアンダーラインを引く決まりになっていますので、忘れずに引いてください。
さらに白色申告の場合は申告書の1ページ目に売上高以外にも科目が並んでおり、各項目に数字を入れて申告することになっています。
試算表等の確定申告の基礎となる書類、これをExcel等で作成する場合には、1円以上の記載がある所定の科目がすべて記載されていないとNGです。
また基礎となる書類の12ヶ月の合計と、確定申告した際の数字の合計があっていないとNGになりますので、その点は注意して書類をご用意ください。
事業再構築補助金を電子申告(e-Tax)した際は、「受信通知」が必要になります。
電子申告をしていない場合は左上の「収受日付印」、または税務署が受け取った日付印が押印されている場合はその書類を添付します。
上記がない場合は受信通知を添付することになっています。
申告した際に発行される「送信したデータを受け付けた」という書類をつけて申請してください。
e-Tax等の電子申告をした際に「送信したデータを受け付けました」という書類を「受信通知」と表現していますが、実際のところ受信通知という書類はもらえません。
書類のタイトルも法人および青色申告の場合は「メール詳細」というタイトルになっていますが、白色申告の場合はメールの詳細がありません。
代わりに「令和○年分申告書等送付表」という名称で出ますが、これは受付日が記載されており、どのようなものを電子送信したのかわかるよう、内容に丸がつく形で示されている書類です。
実は過去に「この書類(令和○年分申告書等送付表)でいいですか」と事務局に問い合わせたことがありますが、回答はいただけず「申請する事業者さんが判断してください」とのことでした。
では白色申告の場合、受信通知の代わりにどのような書類をつければいいのでしょうか?
一か八かで「令和○年分申告書等送付表」を添付するのはリスクが高いと判断せざるを得ません。添付書類の不備は避けたいので、納税証明書を添付してください。
納税証明書を添付することの根拠は、公募要領の別添に以下のような記載があるためです。
※1(1)(4)について、確定申告書別表一の控え又は確定申告書第一表には、収受日付印の押印、または電子申告の日時・受付番号が記載されていることをご確認ください。 (個人のみ)収受日付印の押印、又は電子申告の日時・受付番号の記載(e-Taxの場合は受信通知)がない場合は、2該当年度分の「納税証明書(その2所得金額用)」(事業所得金額の記載のあるもの)を追加で提出。 |
出典:事業再構築補助金公募要領
「個人のみ」ということで、必要な書類を示し記載してくれていることがわかります。
納税証明書は、その1とその2がありますが、「その2」になりますのでご注意ください。
この記事で解説してきたように、事業再構築補助金は個人事業主も対象であり、要件さえ満たせば十分補助を受けられます。
個人事業主の場合は財務の健全性をシビアに評価されますので、事業計画書には財務の安全性や金融機関からの資金調達について、しっかりと記載するようにしましょう。
実際の投資金額に関しても、事業運営の負担にならない規模での投資額が望ましいと思います。
よくある失敗としては、売上高の減少を示す書類、受信通知の不備が挙げられますので十分注意して対応しましょう。特に白色申告の方は売上台帳、確定申告の基礎となる書類をご用意ください。
まずは、自分が対象かどうかを見てみることをお勧めします。特に大きな事業投資の予定がなくても、対象であることがわかれば事業の幅が広がる可能性もあります。
なお、事業再構築補助金についてはこちらの記事でも詳しく解説していますので、合わせてお読みください。
時間の限られている個人事業主の方は、申請作業は外注し、自身は事業内容や日々の仕事に集中することで、マインドシェアを奪われることなく手続きが可能です。
是非外部の専門家の力を借りることをお勧めいたします。