今話題のデジタルトランスフォーメーション通称DXは、今後大きく経営戦略に関わってきます。
ただしDXと聞いても、そもそも何なのかピンとくる人は少ないのではないでしょうか。
そこで本記事では改めてDXとは何か、定義や導入事例、DX推進していく上で活用できる補助金制度を紹介していきます。
DXはデジタルトランスフォーメーションの略で、簡潔にまとめると「ITなど新しいデジタル技術を使ってビジネスやサービスあり方をどんどん変容させていこう」というものです。
経済産業省は2018年12月「DX推進ガイドライン」内で、以下のように定義しています。
-- IT 専門調査会社のIDC Japan 株式会社は、DX を次のように定義している。
企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること --
引用:001_haifu.pdf (meti.go.jp)、20180907_03.pdf (meti.go.jp)
つまり、事業が生き残るためにはDXを活用した取り組みが重要となることを指しています。
DXに取り組む意義は、DX推進企業は利益や生産性が向上し、新製品や新サービスの売り上げが伸びているという事実があるため、すなわち企業の競争力を高めるためです。
例えば、ある店舗へ洋服を買いに行った時、気に入るものがなければオンラインショッピングなどで洋服を探す人も少なくないでしょう。従来は店舗周辺の洋服屋しか競合ではなかったものが、インターネットを含めた全世界が競合他社となって競争が激化しているのが現代です。
競争が激化しているということは、生産性や優位性を高めていかないと淘汰されてしまうということです。そこで、事務所費用を削減したり国内外問わず優秀な人材を雇用したりできるリモートワーク適用の会議ツールを導入したり、経費削減や事務処理のスピードアップのための電子契約システムを導入して生産性を向上させたり、競争力を高めて行かなくてはならないのです。
経済産業省がDXに取り組む上場企業に対して「DX認定」を行い、評価している例を3つほど紹介していきます。
飲食業界大手「江崎グリコ」は、グリコの製品をキャンペーンに活用してもらう法人ノベルティー事業の顧客情報をマーケティングオートメーションツールで一括管理する取り組みを行っています。
名刺情報を元に営業メールを送るのではなく、顧客がアクセスして商品を見たタイミングに合わせて営業をかけられるようになりました。
その結果、商談の成約金額を上げることに成功しています。
DX推進していくことで売上を伸ばすことができるようになった例といえるでしょう。
イオンなどの大型スーパーを経営する「ダイエー」は、AIを活用した、以下のような様々な取り組みを実践されています。
AIシステムによる自動発注
棚札を薄型電子ペーパーに変え、QRコードでレシピなどの情報提供
買物かごに商品を入れるタイミングで、顧客自身がバーコードスキャンしてレジに並ぶ手間を省ける「レジゴー」
イオンのトータルアプリをリニューアルしクーポン等プロモーションや店頭引き渡し機能等を追加
直接利用者の利便性を向上させる施策だけでなく、自動発注などバックオフィス業務の効率化を進めることで、より多くの時間やお金を顧客サービスなど効果的に使えるようになった例です。
航空業界の「ANAホールディングス」は、以下の取り組みが評価されている企業です。
飛行機の到着時刻に合わせたホテルまでのルート検索ができる「空港アクセスナビ」
車椅子や高齢者が快適に移動できるルートが検索できる、かつそのルートにて必要な介助内容を事業者側に提供するサービス
フライトのサービス改善だけでなく、空港への移動、また空港内での移動など、飛行機を利用する利用者の総合的な体験、利便性、満足度を向上させている例です。
身障者や高齢者など、なかなか飛行機を利用しにくい方向けのサービス向上など、DXによって幅広い顧客を獲得しています。
DXを進める上で大きく3つの課題が存在します。
ITシステムの老朽化・複雑化が1つ目の課題として挙げられるでしょう。
長く事業を行っている企業では、老朽化した既存システムの維持に多くのITコストが振り分けられています。既存システムにかかるコストは、既存事業の根幹となっているため、簡単に削減することができません。そのため新規推進していきたい戦略的事業に予算を割り当てられない、という課題が発生しているのです。
実際に、日本情報システム・ユーザー協会「デジタル化の進展に対する意識調査」(平成29年)では約8割以上の企業がレガシーシステムを抱えていることが明らかになっています。またその中でも、レガシーシステムがDXの足かせになっていると感じている企業は約7割もあるのです。
2つ目の課題として、複雑化・属人化した業務が挙げられます。
ITシステムは業務と密接に関連しています。DXを推進するためには業務をシンプルにするなど、ITシステムを導入しやすくする土壌形成が必要ですが、長年の運用の結果、業務が複雑化し、また対応できる人が限られているなど業務の属人化が進んでいると、大きな改革が難しくなります。
実際に「脱ハンコ」を行うだけでも、なかなか思うように推進できなかったニュースは記憶に新しいのではないでしょうか。DXでシステムを導入するといったことになれば、さらに難易度が上がります。
3つ目の課題は人材不足です。DXを推進するために必要なITスキルや技術を持った人材が不足しているという現状があります。
経済産業省に「DX推進ガイドライン」が定められてまだ4年程しか経っていません。そのためデジタル化自体も“これから発展していく”という状態ですので、DXを経験した人材や、必要なスキルを持ったプロフェッショナルが、まだまだ足りていないのです。
ここではDXを推進する際に利用できる補助金を紹介します。
ものづくり補助金は、新しいサービスや新商品の開発、生産性向上を目的とした設備投資を行う事業者を支援する制度です。
この中に「デジタル枠」が設けられており、DX推進のための製品やサービス開発、デジタル技術活用の生産プロセスやサービス提供方法の改善などの事業が支援対象となっています。
従業員数にもよりますが、最大で1,250万円まで支援され、その補助率は2/3となっています。
参考記事:ものづくり補助金とは?対象者や申請要件、補助額、申請方法をわかりやすく解説
ITツールを導入して生産性向上を進める企業に対して、導入費用などを一部支援してくれる制度です。
顧客管理ツール、レジや発券機、在庫確認ツールや自動化ツールなど、幅広いサービスが対象となります。
通常枠なら最大450万円まで支給され、デジタル化基盤導入類型なら50万円以下のITツールなら3/4の補助率を適用できます。
参考記事:【最大450万円】IT導入補助金とは?2022年度の対象とスケジュール、申請方法
新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けた中小企業、小規模事業者などの企業再構築を支援する制度です。
新分野への進出、事業展開、業種転換など様々な面から支援を受けることができます。
なおDX推進を行う新たな事業の規模拡大を目指す事業者には、最大上限2,000万円から8,000万円の補助が受けられます。
参考記事:事業再構築補助金とは?申請枠から補助額、対象者、対象経費まで詳しく解説
地域企業のDX推進に向け、複数事業者が連携・共同して地域企業の生産性を高めようとする取り組みを支援する制度です。
大学や金融機関、ITベンチャーや経営コンサルなどがコミュニティーを作って申請します。
補助上限は2,000万円から3,000万円と高額で、人件費や消耗品、会場費、備品等の幅広い経費を補助してくれます。
※令和4年の公募は終了しています。
「地域の強み× デジタル技術」で新たなビジネスモデルを構築しようと取り組む事業者を支援する制度です。試作品の制作や評価に係る経費を一部補助してくれます。
例えば市場分析や製品サービスの試着品作成、顧客のヒアリング、広告活動等が該当します。
補助額の上限について、中小企業でない事業者は1,100万円、中小企業は1,500万円となっています。
※令和4年の公募は終了しています。
他にもDXを推進しやすくできるよう、税制面での様々な施策が講じられています。
DX都市推進税制とは、DX認定を取得しており一定以上の生産性向上が見込まれる企業が対象の税制施策です。
ソフトウェアやクラウドシステムへの移行に係る初期費用を税率が3%~5%控除、もしくは特別償却30%の優遇措置が受けられます。
5G投資促進税制は、全国ローカルの5G導入事業者が対象となっています。
特定高度情報通信技術活用システム(5Gやドローン)を取得した際に、令和4年度は9~15%の税率控除、もしくは特別滅却30%を適用できる優遇措置が設けられています。
IoT税制はデータ連携データのサイバーセキュリティー等を対策が講じられたデータの連携や活用で生産性を向上させる取り組みを行う事業者を優遇する税制です。
生産性向上できるシステムやセンサーロボットの導入などの設備投資に対して、税額控除3%または特別償却30%が適用されます。
本制度は令和2年3月31日で終了しているようですので、再開されるかどうか最新情報をチェックするようにしてください。
DXは最先端のデジタル技術などを用いて、事業の生産性を上げて今後より成長していく上で重要になっていきます。
どのような企業でも、市場競争が激化する中で、今後DXを推進する取り組みは必須になってくることでしょう。
現状DXには様々な課題があるため、一気にDXを進めることは難しいかもしれません。
そこで補助金を活用したり、税制で優遇されるよう働きかけたりしながら、少しずつでもDX推進に向けて動き出してみてはいかがでしょうか。