「最低賃金」は、事業主が労働者へ支払うべき賃金の最低限の基準を示す法律上のルールです。物価上昇や人手不足が深刻化する中で、毎年大きな話題となっています。
しかし、制度の全体像や都道府県ごとの違い、計算方法、違反時のリスク、さらには補助金や助成金の活用まで、正確かつ具体的に理解できている事業者は意外と多くありません。
この記事では、2026年度(令和8年度)の最新全国最低賃金を都道府県ごとに表で整理しつつ、「最低賃金法」「厚生労働省」の解説・根拠・違反事例、支援策の実態、よくある誤解まで解説します。
中小企業の経営者・人事担当者から労働者ご本人まで、知っておいて損はない情報ですので是非最後までお読みください。
最低賃金制度とは、最低賃金法に基づいて国が賃金の最低限度を定め、使用者に対して、その金額以上の賃金を支払うよう義務付ける制度です。最低賃金を下回る賃金で労働者と合意しても、その契約は法律上無効となり、最低賃金額と同額の契約をしたものとみなされます。
最低賃金には、都道府県ごとに定められる「地域別最低賃金」と、特定の産業を対象とする「特定最低賃金」の2種類があります。地域別最低賃金は、パートやアルバイト、正社員など雇用形態を問わず、原則として都道府県内の事業場で働くすべての労働者に適用されます。派遣労働者については、派遣元ではなく派遣先の最低賃金が適用されます。
2026年度は最低賃金の大幅な引き上げが予定されています。9月3日に厚生労働省が公表した答申では、全国加重平均が1,177円となり、前年度から56円引き上げられました。47都道府県すべてで54~65円の引き上げが答申されています。
最低賃金は、使用者が労働者に支払わなければならない賃金の最低額です。労働者本人が同意していたとしても、最低賃金を下回る賃金を設定することはできません。
地域別最低賃金は、産業や職種にかかわらず、都道府県内の事業場で働く原則すべての労働者に適用されます。パート、アルバイト、臨時、嘱託なども対象です。
最低賃金を下回る賃金を定めた場合、その部分の契約は無効となり、最低賃金額と同額の契約をしたものとみなされます。そのため、使用者は不足している賃金との差額を支払わなければなりません。
地域別最低賃金に違反した場合は、50万円以下の罰金が定められています。また、特定最低賃金に違反した場合には、労働基準法による30万円以下の罰金が定められています。
参考:大阪労働局
最低賃金には、「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」の2種類があります。
区分 | 決定・対象 | 適用範囲 |
|---|---|---|
地域別最低賃金 | 都道府県ごとに設定 | その都道府県内の事業場で働く原則すべての労働者 |
特定最低賃金 | 特定の産業について設定 | 指定された産業の基幹的労働者 |
特定最低賃金は、関係する労使からの申出などをもとに最低賃金審議会で審議され、地域別最低賃金より高い水準の最低賃金を定める必要があると認められた産業について設定されます。2026年4月1日時点では、全国で223件が設定されています。
地域別最低賃金と特定最低賃金の両方が適用される場合は、高い方の最低賃金額が適用されます。
例えば、ある都道府県の地域別最低賃金が1,100円で、対象となる特定最低賃金が1,150円の場合、その産業の対象労働者には1,150円以上の賃金を支払う必要があるということです。
2026年度の地域別最低賃金は、9月3日までに47都道府県すべてで改定額が答申されました。
2026年9月18日時点では、各都道府県労働局長による正式な決定・発効前の地域があるため、以下では「答申された改定額」と「発効予定日」を掲載します。正式決定後に発効日などが変更される可能性もあります。
【最新】都道府県別最低賃金額リスト
都道府県 | 答申された改定額 | 引上げ額 | 発効予定日 |
|---|---|---|---|
北海道 | 1,131円 | 56円 | 10月1日 |
青森 | 1,090円 | 61円 | 10月29日 |
岩手 | 1,090円 | 59円 | 12月1日 |
宮城 | 1,098円 | 60円 | 10月1日 |
秋田 | 1,090円 | 59円 | 10月14日 |
山形 | 1,092円 | 60円 | 10月30日 |
福島 | 1,094円 | 61円 | 10月16日 |
茨城 | 1,136円 | 62円 | 10月18日 |
栃木 | 1,125円 | 57円 | 10月1日 |
群馬 | 1,120円 | 57円 | 10月3日 |
埼玉 | 1,196円 | 55円 | 10月1日 |
千葉 | 1,195円 | 55円 | 10月1日 |
東京 | 1,280円 | 54円 | 10月1日 |
神奈川 | 1,279円 | 54円 | 10月1日 |
新潟 | 1,108円 | 58円 | 10月1日 |
富山 | 1,119円 | 57円 | 10月1日 |
石川 | 1,113円 | 59円 | 10月3日 |
福井 | 1,112円 | 59円 | 10月4日 |
山梨 | 1,113円 | 61円 | 11月1日 |
長野 | 1,117円 | 56円 | 10月2日 |
岐阜 | 1,121円 | 56円 | 10月1日 |
静岡 | 1,154円 | 57円 | 10月15日 |
愛知 | 1,195円 | 55円 | 10月1日 |
三重 | 1,143円 | 56円 | 10月1日 |
滋賀 | 1,136円 | 56円 | 10月3日 |
京都 | 1,180円 | 58円 | 11月16日 |
大阪 | 1,231円 | 54円 | 10月1日 |
兵庫 | 1,172円 | 56円 | 10月1日 |
奈良 | 1,107円 | 56円 | 10月4日 |
和歌山 | 1,101円 | 56円 | 10月3日 |
鳥取 | 1,090円 | 60円 | 10月3日 |
島根 | 1,092円 | 59円 | 10月10日 |
岡山 | 1,104円 | 57円 | 10月2日 |
広島 | 1,141円 | 56円 | 10月11日 |
山口 | 1,101円 | 58円 | 10月8日 |
徳島 | 1,103円 | 57円 | 11月1日 |
香川 | 1,092円 | 56円 | 10月1日 |
愛媛 | 1,093円 | 60円 | 11月1日 |
高知 | 1,086円 | 63円 | 10月29日 |
福岡 | 1,114円 | 57円 | 10月4日 |
佐賀 | 1,095円 | 65円 | 11月15日 |
長崎 | 1,087円 | 56円 | 11月2日 |
熊本 | 1,092円 | 58円 | 12月1日 |
大分 | 1,096円 | 61円 | 11月1日 |
宮崎 | 1,085円 | 62円 | 10月24日 |
鹿児島 | 1,090円 | 64円 | 10月25日 |
沖縄 | 1,086円 | 63円 | 12月2日 |
全国加重平均 | 1,177円 | 56円 | ― |
※発効日は予定であり、正式決定の過程で変更される可能性があります。
2026年度は、最高額が東京都の1,280円、最低額が宮崎県の1,085円となる答申です。最高額と最低額の差は195円で、前年の地域間格差より縮小しています。全国加重平均は1,177円となり、前年度の1,121円から56円上昇します。
なお、2026年9月時点では2026年度の新しい最低賃金がまだ発効していない地域があります。現在の賃金が最低賃金を下回っていないか確認する際は、実際に適用されている発効済みの最低賃金を確認してください。
最低賃金の全国加重平均は、近年大きく引き上げられています。
2024年度は1,055円、2025年度は1,121円となり、2026年度は答申ベースで1,177円となりました。2026年度の56円引き上げは、現在の目安制度が始まった1978年度以降で2番目に大きい引き上げ幅です。
2026年度の地域別最低賃金は、47都道府県すべてで引き上げが答申されています。引き上げ額は54~65円で、佐賀県の65円が最大です。
また、政府は最低賃金について、2020年代に全国加重平均1,500円という目標を掲げてきました。2026年の「経済財政運営と改革の基本方針2026」では、全国平均1,500円について「遅くとも2030年代前半できる限り早期」に達成する方針が示されています。
最低賃金は時給制だけでなく、月給制や日給制、出来高払制などにも適用されます。給与の支払い方法に応じて1時間あたりの賃金に換算し、適用される最低賃金と比較します。
基本的な計算方法は以下のとおりです。
給与形態 | 最低賃金との比較方法 |
|---|---|
時給制 | 時給≧最低賃金 |
日給制 | 日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金 |
月給制 | 月給÷1か月平均所定労働時間≧最低賃金 |
出来高払制 | 賃金総額÷総労働時間≧最低賃金 |
複合型 | 各賃金を時間額に換算して合計し、最低賃金と比較 |
例えば、月給制で月給20万円、1か月平均所定労働時間が160時間の場合は、次のように計算します。
200,000円÷160時間=1,250円
この場合、2026年度の東京都の答申額1,280円と比較すると30円下回るため、東京都で新しい最低賃金が発効した後は、この条件のままでは最低賃金を満たしません。一方、茨城県の答申額1,136円と比較すると上回っています。
最低賃金の計算では、単純に「毎月支払われる総額」を労働時間で割ればよいわけではありません。最低賃金の対象から除外される手当などを差し引いて計算する必要があります。
最低賃金と比較する際には、支払われている賃金のすべてを計算に含めるわけではありません。原則として、毎月支払われる基本的な賃金を対象とし、以下の賃金は除外します。
除外される賃金 | 内容 |
|---|---|
臨時に支払われる賃金 | 結婚手当など |
1か月を超える期間ごとに支払われる賃金 | 賞与など |
時間外労働の賃金 | 時間外労働に対する割増部分など |
休日労働の賃金 | 休日労働に対する割増部分など |
深夜労働の賃金 | 午後10時~午前5時の割増部分 |
精皆勤手当 | 精勤手当・皆勤手当 |
通勤手当 | 通勤にかかる手当 |
家族手当 | 扶養家族などに応じて支給する手当 |
例えば、基本給18万円、家族手当1万円、通勤手当1万円が支給されている場合、最低賃金との比較では、家族手当と通勤手当を除いた18万円を基準に計算します。
実際に最低賃金違反となった事例は数多くあります。例として、障害者の方に対して「時給500円」で清掃業務をさせていた団体(杉並区事例)は、正式な特例申請や就労支援手続を行っていなかったため、最低賃金割れが長年続いていたと報道されています。
参考:東京新聞
未払い判明時は「過去に遡って差額支払い」+行政指導+是正勧告+罰則適用も
派遣社員の場合、「派遣先」の最低賃金が適用されます(学校や訓練名目の誤用は要注意)
「契約したからOK」ではなく、現実の労働実態・指揮命令・拘束時間で判断されます
生活保護水準以下の賃金しか得られず、未加入や社会保障の「谷間」に陥る例もあります。弱い立場の人ほど最低賃金遵守の重要性が高くなります。
最低賃金に違反すると、不足している賃金の支払いに加えて、罰則の対象となる可能性があります。
地域別最低賃金については、最低賃金法により50万円以下の罰金が定められています。特定最低賃金については、労働基準法により30万円以下の罰金が定められています。
また、未払いとなっている賃金については、労働者から差額を請求される可能性があります。賃金請求権の消滅時効は、法律上は5年とされていますが、現在は経過措置として当分の間3年とされています。
そのため、企業側は最低賃金の改定時だけでなく、給与体系や各種手当、所定労働時間などを定期的に確認することが重要です。
なお、最低賃金遵守とあわせて「業務改善補助金」「キャリアアップ助成金」等を事前に検討いただくと、資金負担を抑えた生産性向上投資が実現できます。詳細は当メディアの無料相談窓口までお問い合わせください。
最低賃金の引き上げは事業主のコスト増につながりますが、中小企業では「業務改善助成金」など複数の支援制度が活用できます。
業務改善助成金は、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げ、生産性向上につながる設備投資などを行う中小企業・小規模事業者を支援する制度です。
最低賃金の引き上げに合わせて設備投資や業務効率化を検討している事業者は、対象となる取組や申請期限を確認しておきましょう。
キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善などに取り組む事業主を支援する制度です。
2026年度も「正社員化コース」「賃金規定等改定コース」などが設けられています。賃金規定等改定コースでは、有期雇用労働者などの基本給に関する賃金規定を改定し、3%以上増額する取組などが対象となります。
最低賃金への対応だけを目的とした制度ではありませんが、非正規雇用労働者の賃金引き上げや処遇改善を進める際に活用を検討できます。
働き方改革推進支援センターでは、中小企業・小規模事業者を対象に、労務管理や賃金制度、働き方改革などについて相談できます。
最低賃金の引き上げに伴って給与体系や就業規則の見直しが必要になった場合は、都道府県労働局などの公的な相談窓口も活用するとよいでしょう。
最低賃金は原則としてすべての労働者に適用されますが、一定の要件を満たし、都道府県労働局長の許可を受けた場合には、最低賃金の減額特例が認められることがあります。
対象となり得るのは、例えば以下のような労働者です。
精神または身体の障害により著しく労働能力が低い人
試用期間中の人
認定職業訓練を受けている一定の人
軽易な業務に従事する人
断続的労働に従事する人
ただし、これらに該当すれば自動的に最低賃金が減額されるわけではありません。使用者が都道府県労働局長の許可を受ける必要があります。
また、家族従業員や会社役員など、そもそも最低賃金法上の「労働者」に該当しない場合は、最低賃金の適用対象外となることがあります。
政府はこれまで、2020年代に全国加重平均1,500円という最低賃金の目標を掲げてきました。
一方、2026年7月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026」では、全国平均1,500円について「遅くとも2030年代前半できる限り早期」に達成する方針が示されています。2020年代という従来の目標から、達成時期に関する政府方針が変化している点は、2026年時点で押さえておきたいポイントです。
なお、最低賃金は政府が一方的に金額を決定するものではありません。最低賃金法に基づき、労働者の生計費、労働者の賃金、通常の事業の賃金支払能力などを考慮し、最低賃金審議会で審議されたうえで決定されます。
2026年度については、全国加重平均1,177円となる改定額が答申されており、各都道府県では10月1日から12月2日にかけて順次発効する予定です。
最低賃金は、最低賃金法に基づいて定められた、使用者が労働者に支払わなければならない賃金の最低額です。地域別最低賃金は原則として都道府県内のすべての労働者に適用され、特定最低賃金の対象となる場合は、高い方の最低賃金額が適用されます。
事業者は、最低賃金の改定時に単純な時給だけを見るのではなく、月給・日給を時間額に換算したうえで、通勤手当や家族手当、時間外労働の割増賃金などの除外項目を差し引いて確認する必要があります。
最低賃金は年度ごとに改定されるため、労働者は自分が働く地域の最低賃金を、事業者は従業員に支払っている賃金が基準を満たしているかを定期的に確認することが大切です。

