障害者を雇用する企業には、採用時の費用負担を軽減する助成金や、職場環境の整備、介助者の配置、通勤支援などに活用できるさまざまな助成制度があります。
特に2026年7月から民間企業の法定雇用率が2.7%へ引き上げられ、対象となる事業主の範囲も広がりました。障害者雇用への対応が求められる企業にとって、助成制度を上手に活用することは、採用だけでなく職場への定着を進めるうえでも重要です。
ただし、助成金は制度ごとに対象となる労働者や雇入れ方法、申請時期、助成対象となる費用などが異なります。
この記事では、2026年8月時点の情報をもとに、障害者雇用で活用しやすい主な助成金を「採用」「試行雇用」「正社員化」「職場環境整備」などの目的別に紹介します。
障害者雇用とは、障害のある人が能力や適性に応じて働けるよう、企業などが雇用する取り組みです。
障害者の雇用を促進するため、「障害者の雇用の促進等に関する法律」によって、企業には法定雇用率以上の障害者を雇用することが求められています。
2026年7月から、民間企業の法定雇用率は2.5%から2.7%へ引き上げられました。これにより、法定雇用率の対象となる民間企業の範囲も、常用雇用労働者数40人以上から37.5人以上へ広がっています。
2025年6月1日時点では、民間企業に雇用されている障害者数は70万4,610人、実雇用率は2.41%となっており、いずれも過去最高を更新しています。今後も障害者雇用を進める企業が増えることが予想されます。
障害者雇用について理解するうえで、法定雇用率の引き上げは重要なポイントです。民間企業の法定雇用率は、2024年4月に2.3%から2.5%へ引き上げられ、2026年7月からは2.7%になりました。
例えば、常用雇用労働者が120人の企業の場合、
120人 × 2.7% = 3.24人
となるため、法定雇用率制度上は3人以上の障害者を雇用する必要があります。
法定雇用率への対応だけを目的にするのではなく、障害の特性に応じた職場環境や業務内容を整備し、採用した人材が長く働ける環境をつくることも重要です。
そのため、採用時の助成金だけでなく、設備整備や介助、職場適応などに利用できる支援制度も確認しておきましょう。
障害者雇用に関する主な助成制度は、目的によって大きく分けると以下のようになります。
目的 | 主な助成制度 | 主な内容 |
|---|---|---|
障害者を継続雇用する | 特定求職者雇用開発助成金 | 障害者などを雇い入れた事業主を助成 |
試行的に雇用する | トライアル雇用助成金 | 一定期間の試行雇用を支援 |
短時間から雇用する | 障害者短時間トライアルコース | 週20時間以上の勤務を目指す試行雇用を支援 |
正社員化する | キャリアアップ助成金 | 有期・無期雇用の障害者を正社員等へ転換 |
職場を整備する | 障害者作業施設設置等助成金 | トイレ、手すり、拡大読書器などの整備を支援 |
介助者を配置する | 障害者介助等助成金 | 職場介助者、手話通訳者、職場支援員などの配置等を支援 |
職場適応を支援する | 職場適応援助者助成金 | ジョブコーチによる支援を助成 |
通勤を支援する | 重度障害者等通勤対策助成金 | 住宅・駐車場・通勤用自動車などの措置を支援 |
厚生労働省の雇用関係助成金に加えて、JEEDでは障害者雇用納付金制度に基づく助成金を実施しています。
特定求職者雇用開発助成金は、高齢者や障害者など、就職が特に困難な人をハローワーク等の紹介によって継続して雇用する事業主を支援する制度です。障害者雇用では、主に「特定就職困難者コース」や「発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース」が関係します。
特定求職者雇用開発助成金に関しては以下の記事を参考にしてください。
参考:特定求職者雇用開発助成金とは?制度概要や対象、支給額から申請方法まで
特定就職困難者コースでは、対象となる障害者を雇い入れた場合、企業規模や障害の程度、労働時間などに応じて助成されます。
中小企業の場合、主な支給額は以下のとおりです。
対象労働者 | 支給額 |
|---|---|
重度障害者等を除く身体・知的障害者 | 120万円 |
重度障害者等 | 240万円 |
短時間の身体・知的・精神障害者 | 80万円 |
重度障害者等には、重度の身体障害者・知的障害者だけでなく、45歳以上の身体・知的障害者や精神障害者も含まれます。
支給額は企業規模や労働時間などによって異なるため、実際に申請する際は最新の支給要件を確認する必要があります。
また、2026年度からは特定求職者雇用開発助成金について一部の対象者要件が見直され、支給申請時の賃金台帳の提出も必須となっています。
トライアル雇用助成金(障害者トライアルコース)は、障害者を一定期間試行的に雇用し、仕事への適性や職場への適応状況を確認しながら、継続雇用につなげることを目的とした制度です。
原則としてハローワークや民間の職業紹介事業者等の紹介によって雇い入れる必要があります。トライアル雇用助成金に関しては以下の記事を参考にしてください。
参考:トライアル雇用助成金とは?制度の仕組みと助成金の要件、受給額を解説
精神障害者とそれ以外の障害者で支給内容が異なります。
対象 | 支給額 |
|---|---|
精神障害者 | 雇入れ後3か月まで月額最大8万円、4か月目以降は月額最大4万円 |
精神障害者以外 | 月額最大4万円 |
精神障害者の場合、助成期間は最長6か月です。それ以外の場合は最長3か月となっています。
障害者雇用の経験が少なく、いきなり長期雇用することに不安がある企業にとって、活用を検討しやすい制度です。
障害者短時間トライアルコースは、すぐに週20時間以上働くことが難しい精神障害者や発達障害者について、一定期間をかけて勤務時間を増やし、継続雇用につなげる制度です。
雇入れ時の週所定労働時間は10時間以上20時間未満とし、3か月以上12か月以内の期間で、20時間以上の勤務を目指します。
支給額は、対象者1人につき月額最大4万円、最長12か月です。
短時間勤務からスタートし、障害者本人の体調や職場への適応状況に合わせて勤務時間を増やしたい場合に適しています。
キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)は、障害のある有期雇用労働者などを正規雇用労働者等へ転換した事業主を支援する制度です。
対象となる転換には、以下のようなものがあります。
有期雇用から正規雇用への転換
有期雇用から無期雇用への転換
無期雇用から正規雇用への転換
現在の支給額は、対象者の障害の種類や雇用形態などによって異なります。
例えば重度身体障害者、重度知的障害者、精神障害者の場合、中小企業では有期雇用から正規雇用への転換で最大120万円が支給されます。重度以外の身体・知的障害者、発達障害者、難病患者、高次脳機能障害と診断された人の場合は最大90万円です。
なお、キャリアアップ助成金は年度によって制度や支給要件が変更されることがあるため、申請時には最新の案内を確認しましょう。厚生労働省では令和8年度のパンフレットや申請様式を公開しています。
キャリアアップ助成金に関しては以下の記事を参考にしてください。
障害者雇用納付金関係助成金は、JEEDが実施する助成制度です。
障害者の新規雇入れや雇用継続のために、施設・設備の整備や雇用管理上の特別な措置が必要となる場合、その費用の一部を助成します。
採用そのものに対する助成だけでなく、「採用した障害者が働き続けられる環境をつくる」ための支援が含まれている点が特徴です。
障害者の障害特性による就労上の課題を解消し、作業を容易にするために必要な施設・設備の設置や整備を行う場合に利用できます。
例えば、
障害者用トイレ
手すり
拡大読書器
などが対象となる場合があります。
2025年度の案内では、支給対象費用の3分の2を助成する制度が示されていますが、対象となる施設や設備、支給限度額などは措置の内容によって異なります。
障害者介助等助成金は、障害の種類や程度に応じた適切な雇用管理のために必要な介助等の措置を行う場合に利用できます。例えば、
職場介助者の配置・委嘱
手話通訳・要約筆記担当者の配置・委嘱
職場支援員の配置・委嘱
職場復帰支援
などが対象となります。
職場適応援助者、いわゆるジョブコーチによる支援を行う場合に活用できる助成金です。
ジョブコーチは、障害者本人だけでなく、企業や職場の従業員に対しても、仕事の進め方や職場での関わり方などについて支援します。
障害者を採用したものの、仕事への適応や職場でのコミュニケーションなどに課題がある場合に、利用を検討できます。
重度身体障害者、知的障害者、精神障害者などの通勤を容易にするための措置を行う場合に利用できる助成金です。
例えば、
住宅の賃借
住宅手当の支払い
駐車場の賃借
通勤用自動車の購入
通勤援助
などが対象となる場合があります。
ただし、対象となる障害者や措置、助成率、支給限度額などに細かな要件があります。
JEEDでは、このほかにも以下の助成制度を用意しています。
障害者福祉施設設置等助成金
重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金
障害者能力開発助成金
障害者雇用相談援助助成金
障害者雇用に必要な施設整備だけでなく、能力開発や雇用管理に関する相談援助なども対象となっています。
ここでは、障害者雇用で助成金を活用するメリットを紹介します。
助成金を活用することで、障害者の採用や職場環境の整備などにかかる企業の費用負担を軽減できます。
特に障害者雇用では、採用後に業務内容や設備、勤務時間などを調整するケースがあります。
採用時の助成金だけでなく、設備整備や介助などを対象とする助成制度も組み合わせて検討することで、雇用環境を整えやすくなります。
助成金を利用してトイレや手すりなどを整備したり、職場支援員やジョブコーチなどによる支援を受けたりすることで、障害者が働きやすい環境をつくりやすくなります。
こうした取り組みは、障害者本人だけでなく、職場全体の業務改善やコミュニケーションの見直しにつながる場合もあります。
トライアル雇用などを利用すれば、企業側が障害者雇用のノウハウを蓄積する機会にもなります。
障害の特性によって必要な配慮や業務内容は異なるため、実際の職場で経験を積みながら、自社に合った雇用方法を検討することが重要です。
ここでは助成金を申請するときの注意点を紹介します。
障害者を雇用したからといって、すべての助成金を利用できるわけではありません。
例えば、特定求職者雇用開発助成金ではハローワーク等の紹介や継続雇用などの要件があり、トライアル雇用助成金でも対象労働者や紹介方法などの要件があります。
助成金では、雇入れ前に必要な手続きがあるものや、一定の期間内に申請しなければならないものがあります。
「雇用した後に助成金を調べればよい」と考えていると、必要な手続きを行えず、助成金を受給できなくなる可能性があります。
雇用や設備導入を決める前に、対象となる制度の要件と申請時期を確認しておきましょう。
複数の助成制度を利用できる場合でも、同じ費用や同じ対象者について重複して助成を受けられないことがあります。
厚生労働省では雇用関係助成金の支給要領や併給調整に関する情報を公開しているため、複数の制度を利用する場合は確認が必要です。
障害者雇用に関する助成金は、年度によって支給要件や金額などが変更される場合があります。例えば2026年度は、特定求職者雇用開発助成金の一部要件や申請書類の取り扱いが変更されています。
記事の情報だけで判断せず、申請時には厚生労働省やJEEDの最新情報を確認しましょう。
助成金の申請方法は制度によって異なりますが、基本的には以下のような流れで進めます。
まず、どのような目的で助成金を利用したいのかを明確にします。
例えば、
障害者を新しく採用したい
試行雇用から始めたい
有期雇用から正社員に転換したい
職場に設備を導入したい
介助者を配置したい
通勤を支援したい
などです。
目的が決まれば、厚生労働省やJEEDの助成制度から利用できる制度を確認します。
次に、対象労働者、雇用形態、紹介方法、雇用期間、企業規模などの要件を確認します。
助成金は「障害者を雇用する」という条件だけで受給できるものではないため、事前確認が重要です。
助成金によって、雇入れ前の計画や認定申請、雇入れ後の支給申請など、必要な手続きが異なります。
例えばJEEDの障害者雇用納付金関係助成金では、2025年4月から電子申請にも対応しています。
必要な期間が経過した後、各制度で定められた支給申請書や添付書類を提出します。
2026年度の特定求職者雇用開発助成金では、申請時に賃金台帳の提出が必須となっています。
提出された書類について支給要件などの確認が行われ、要件を満たしていると認められれば助成金が支給されます。
制度によって申請先や支給時期が異なるため、利用する助成金の案内を確認しておきましょう。
障害者雇用では、採用時だけでなく、試行雇用、正社員化、職場環境の整備、介助、通勤支援、職場適応など、さまざまな場面で助成制度を活用できます。
主な制度をまとめると、以下のとおりです。
継続雇用 → 特定求職者雇用開発助成金
試行雇用 → トライアル雇用助成金(障害者トライアルコース)
短時間からの雇用 → 障害者短時間トライアルコース
正社員化 → キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)
設備整備 → 障害者作業施設設置等助成金
介助・支援員 → 障害者介助等助成金
ジョブコーチ → 職場適応援助者助成金
通勤支援 → 重度障害者等通勤対策助成金
2026年7月から民間企業の法定雇用率が2.7%へ引き上げられたことで、障害者雇用への対応はこれまで以上に重要になっています。
ただし、助成金は制度ごとに対象者や申請時期、必要書類などが異なります。特に雇入れや設備導入を行った後ではなく、実際に採用・設備整備などを始める前に利用できる制度を確認することが重要です。
障害者雇用を検討している企業は、厚生労働省やハローワーク、JEEDなどの最新情報を確認し、自社の状況に合った助成制度を活用しましょう。
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