特定の就職困難者を雇用する事業主の支援を目的とした特定求職者雇用開発助成金(※以下、特開金)の制度をご存知でしょうか。
ウクライナ避難民への支援を行っていることでも有名で、就職が難しい労働者を雇用する事業者が取り組みやすい制度です。
今回は、そんな特開金について制度の概要や対象者、申請方法など基本的な内容を解説します。
就職困難者に当たる労働者を雇用している事業者の方はぜひ参考にしてください。
特定求職者雇用開発助成金は、就職が困難な求職者をハローワークなどの紹介により継続して雇用した事業主に対して支給される助成金です。高齢者や障害者、生活保護受給者などの雇用機会を拡大し、安定した就労につなげることを目的としています。
特定求職者雇用開発助成金には、2026年現在、以下の4つのコースが設定されています。本記事では主に特定就職困難者コースを解説します。
特定就職困難者コース
発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース
中高年層安定雇用支援コース
生活保護受給者等雇用開発コース
高齢者や障害者、ひとり親家庭の親など、就職が特に困難な方を雇用した事業主を支援するコースです。
対象となる求職者には、60歳以上の高齢者、身体障害者・知的障害者・精神障害者、母子家庭の母や父子家庭の父などが含まれます。企業がこれらの方を継続して雇用することで助成金を受給できます。
特定求職者雇用開発助成金の中でも最も利用件数が多く、幅広い求職者が対象となる代表的なコースです。
発達障害者や難病患者の雇用を促進するためのコースです。
発達障害や難病を抱える方の中には、働く意欲や能力があっても就職が難しいケースがあります。このコースでは、こうした方を新たに雇用した事業主に対して助成金が支給されます。
障害者雇用制度では対象外となる場合でも利用できることがあり、発達障害や難病の特性に配慮した職場環境づくりを後押しする制度として位置付けられています。
35歳以上60歳未満の中高年求職者の正規雇用を支援するコースです。
就職氷河期世代を含む中高年層の中には、正社員経験が少ない人や長期間非正規雇用で働いてきた人もいます。このコースは、そのような方を正社員として雇用する企業を支援することを目的としています。
人手不足が深刻化する中で、経験や技能を持つ中高年層の活躍を促進するために創設された制度です。
生活保護受給者や生活困窮者の就労・自立を支援するためのコースです。
対象となるのは、生活保護を受給している方や生活困窮者自立支援制度による支援を受けている方などです。これらの方をハローワークなどの紹介により継続雇用した事業主に対して助成金が支給されます。
就労による経済的自立を後押しし、生活保護からの脱却や生活基盤の安定化を図ることを目的としています。
4つのコースはすべて就職が困難な方の雇用促進を目的としていますが、対象となる求職者が異なります。
特定就職困難者コース:高齢者・障害者・ひとり親など
発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース:発達障害者・難病患者
中高年層安定雇用支援コース:就職氷河期世代を含む中高年層
生活保護受給者等雇用開発コース:生活保護受給者・生活困窮者
そのため、採用する人材の属性によって利用できるコースが異なります。まずは対象者がどのコースに該当するかを確認することが重要です。
特開金の対象者は、事業主側も労働者側でそれぞれ要件があります。ここでは、対象となる事業者、労働者に分けて必要となる要件を紹介します。要件から外れると原則として助成金を受給できないため、事前によくチェックしておきましょう。
まず、事業者が満たすべき要件について紹介します。すべての事業者がクリアすべき要件は以下の7つです。
雇用保険適用事業所の事業主であること(助成金申請と雇用保険加入が同時でもOK)
労働者の紹介時点で「特定困難者コースに該当する」と通知されていること
雇用保険の一般被保険者として雇い入れ、継続して雇用することが確実であること(原則として65歳以上まで雇用できる、または2年以上〔重度障害者等は3年以上〕継続雇用できること)
基準期間(雇入れ日の前日から遡って6か月前から1年を経過する日まで)の間に事業主都合で労働者を離職させていない
過去3年間に特定就職困難者コースを利用して雇用した労働者を、事業主都合で離職させていない
基準期間に倒産、事業縮小などの事業主都合で労働者を離職させた割合が一定以下(計算式があり)
対象労働者の出勤簿、賃金台帳など必要書類を保管していること
また一部の事業者は以下の要件も満たす必要があります。
障害者の生活面を含めて支援する事業主で既に特定困難者コースを利用した労働者が5人以上いる場合、離職率が一定以下であること
障害者の就業支援を行う事業主で既に特定困難者コースを利用した労働者が5人以上いる場合、離職率が一定以下であること
※それぞれ細かい計算方法や例外などもあるため、分からない点は都道府県ごとに問い合わせてみましょう。
次に、対象となる労働者の要件についてまとめます。助成の対象となる労働者の条件をよくチェックしましょう。
該当労働者 | 要件 |
|---|---|
高年齢者 | 高年齢者(60〜65歳未満):2026年5月以降は、単に年齢要件を満たすだけでなく、ハローワーク等による個別支援を受けていることが必要。 また、「特定求職者雇用開発助成金の対象労働者であること」を明示した職業紹介による雇入れの場合のみ支給申請が可能。 |
母子家庭の母・父子家庭の父 | 65歳未満 |
重度身体障害者、重度知的障害者 | 65歳未満 |
精神障害者 | 65歳未満 |
身体障害者・知的障害者 | 45〜65歳未満 |
駐留軍撤退関連の離職者 | 45〜65歳未満 |
漁業関連の離職者 | 45〜65歳未満 |
本州四国連絡橋建設関連の離職者 | 45〜65歳未満 |
港湾運送事業関連の離職者 | 45〜65歳未満 |
アイヌ民族の人 | 45〜65歳未満(※北海道居住) |
中国残留邦人等永住帰国者 | 65歳未満(※帰国から10年を経過していない) |
北朝朝鮮帰国被害者等 | 65歳未満(※帰国意思決定から10年を経過していない等) |
その他(※安定所長と運輸局長が「就職が難しい」と認めた人) | 65歳未満 |
また、特開金の対象は、原則として失業中であることが条件ですが、以下の労働者は例外的に離職前でも対象となります。
重度身体障害者・重度知的障害者
精神障害者
45歳以上の身体障害者、知的障害者
ここでは、特開金の支給額について紹介します。
会社規模による支給額の違いや支給期間が異なるケースもあるので、事前にチェックしておきましょう。
支給期間は半年ごとに1期、2期、3期(最大6期)として分割で支給されます。なお、助成金の支給額が賃金の総額を上回る場合は、賃金の総額が支給額となるので注意しましょう。さらに支給期間中に対象労働者が離職した場合は、その後の支給対象期間分の助成金は支給されません。
表にある中小企業の基準は以下の通りです。
業種 | 資本金、出資総額 |
|---|---|
小売業(飲食店含む) | 資本金5,000万円以下又は従業員数50人以下 |
サービス業 | 資本金5,000万円以下又は従業員数100人以下 |
卸売業 | 資本金1億円以下又は従業員数100人以下 |
その他 | 資本金3億円以下又は従業員数300人以下 |
助成金を利用する際には、スムーズに手続きできるよう申請方法をよく確認しておきましょう。
ここでは、特開金を申請する流れと必要書類について紹介します。
まずは、申請の流れです。支給期間が半年ごとに最長6期まである特開金は1期ごとに申請書を提出する必要があります。
支給までの基本的な申請の流れは以下の通りです。
ハローワーク等から労働者の紹介をうける
対象労働者を雇用し、雇用保険の加入手続きを行う
ハローワークから対象労働者であることの通知や申請関係書類が送付される
1期分の申請書を提出(※提出期限:雇入れ日から6ヶ月を経過した翌日〜2ヶ月以内)
審査
支給もしくは、不支給が決定し通知書が郵送で届く
1期分の助成金が支給される
※2期目以降は、「1. ハローワーク等からの紹介」を除き、申請の流れは同じです。
やむを得ない事情がある場合には後続の支給対象期の申請が認められるケースもありますが、取扱いは個別判断となるため、管轄の労働局またはハローワークへ事前に確認しましょう。
次に、申請に必要な書類について紹介します。それぞれ5年間の保存が必要になるので注意しましょう。主な必要書類は以下の通りです。
必要書類 | エビデンス具体例 |
|---|---|
賃金が記載された書類 | 賃金台帳など(手当などの内訳もあり) |
出勤内容が記載された書類 | 出勤簿など |
特定就職困難者コースに該当することの証明書類 | ・障害者なら障害者手帳など ・障害者手帳に無い疾患は医師の診断書・意見書 ・母子家庭の場合は住民票など |
週単位の労働時間と雇用契約期間が記載された書類 | 雇用契約書など |
対象労働者雇用状況申立書(特定就職困難者コース)(様式第5号困) | 指定様式 |
支給要件確認申立書(共通要領様式第1号) | 指定様式 |
職業紹介証明書(民間事業者から紹介され雇用した場合) | 民間事業者が発行する書式 |
※令和8年4月1日以降の申請分から、賃金台帳の提出が必須となりました。法定帳簿として適切に作成されていることが求められます。賃金台帳には氏名・賃金計算期間・労働日数・労働時間数・基本給・手当の種類と金額などの記載が必要です。
その他、場合によって就業規則や総勘定元帳など他の書類についても提出が求められる可能性があります。特開金をはじめ助成金を利用するためには、審査の必要書類を整理・保管し、いつでも提出できる状態にしておきましょう。
最後に、特開金を利用する際の注意点について紹介します。
はじめて申請する際に間違いやすいものをまとめていますので、ぜひ参考にしてください。
まず、期日を正確に確認します。特開金の場合、「申請書提出期限の起算日」と「支給期間の起算日」が違う点に注意しましょう。
申請書提出期限の起算日は雇入れ日であり、雇入れ日から6ヶ月が経った翌日〜2ヶ月以内に申請書を提出します。特定就職困難者コースでは、「申請期限を計算する基準日」と「助成金の支給対象期間を計算する基準日」が異なります。
申請期限は雇入れ日を基準に計算し、支給対象期間は賃金締切日を基準に計算するため、両者を混同しないよう注意が必要です。
特に、雇入れ日と賃金締切日が違うケースでは、申請書提出期限の間違いに注意が必要です。
例えば、1月1日に雇入れて賃金締切日が15日、賃金支給日が末日の場合、1月末の賃金は半月分であるため、支給対象期間に該当しません。
この場合、翌月15日の翌日から支給期間(1期)がスタートします。
不支給要件の確認も大切なポイントです。
例えば、過去に他の雇用関係助成金で以下のような不正などがあった事業者には助成金が支払われません。
平成31年4月1日以降で不支給要件に該当し、不支給もしくは、支給取り消しとなってから5年を経過していない
他の事業所で不正受給に関与した役員がいる
過去の労働保険料を納付していない
申請前1年間に、労働関係法令の違反をした
性風俗関連営業を行っている
暴力団等の反社会的勢力と関係がある
詳しくは、以下の不支給要件を確認してください。
申請する内容を漏れなく確認し、不正受給に気を付けることも大切です。虚偽申請などで不正受給になった場合は、助成金の返還に加え、延滞金や違約金の徴収、事業者名の公表、刑事告発などの対象となる場合があります。
今回は、特開金の制度概要や対象者、申請方法など基本的な内容について紹介しました。特開金は、就職困難者の就労支援だけでなく事業者においては、労働力不足の解消につながる制度です。
解説した注意点なども参考に興味がある方は、ぜひ一度利用を検討してみてください。
