令和5年度の補正予算案において、中堅・中小企業に対する「大規模成長投資補助金」の新設が決まりました。持続的な賃上げを目的とし、工場等の拠点を新設したり大規模な設備を投資したりする際に補助を行うものであり、人手不足に対応するための補助金となっています。
この記事では、大規模成長投資補助金とはどのような制度なのか、経済産業省から発表されている資料や公募要領をもとに解説します。
最初に、大規模成長投資補助金の制度概要について見ていきましょう。
大規模成長投資補助金は、正式名称を「令和5年度補正『中堅中小企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金』」と言います。令和5年11月29日に、令和5年度補正予算が成立し、補助金事業の実施が正式に決まりました。
地域の雇用を支える中堅・中小企業が、足元の人手不足等の課題に対応し、成長していくことを目指して行う大規模投資を促進することで、地方における持続的な賃上げを実現することを目的としています。
補助対象者は、従業員数2,000人以下の中堅・中小企業(みなし大企業は除く)であり、補助対象となる設備は新設される工場などの拠点や大規模設備とされています。補助上限額は50 億円(補助率 1/3 以内)、最低の投資金額は10億円です。
項目 | 内容 |
---|---|
補助対象者 | 中堅・中小企業(常時使用する従業員数が2,000人以下の会社等) |
補助対象要件 | 【一般枠】 ①投資額10億円以上(専門家経費・外注費を除く補助対象経費分) ②補助事業の終了後3年間の対象事業に関わる従業員1人当たり給与支給総額の伸び率(年平均成長率)が、事業実施場所の都道府県における直近5年間の最低賃金の年平均成長率以上 【特別枠】※上記①②に加えて以下を満たす事業者が対象です ③令和6年度中(令和7年3月末まで)に補助事業が完了見込み |
補助対象経費 | 建物費(拠点新設・増築等) 機械装置費(器具・備品費含む) ソフトウェア費 外注費 専門家経費 |
補助上限 | 50億円(補助率1/3以内) |
事業期間 | 交付決定⽇から3年以内 |
予算額 | 3,000億円 |
中小企業の設備導入に対する補助金として、これまでにものづくり補助金や事業再構築補助金なども使われてきましたが、これらと比較するとかなり大規模な補助金になります。「大規模な投資」とそれに伴う「地方の賃上げ」が重要なテーマとなります。
この補助金事業で重要なのは、地域の雇用を支える中堅・中小企業の持続的な賃上げを目的としている点です。人手不足が大きな課題となっている中堅・中小企業も多く、成長していくには設備への投資が必要です。
補助金により、工場等の拠点の新設および大規模設備の投資を促進して人手不足を解消し、地方の賃上げ実現をするために、制度が設けられました。最終的な成果目標として、「従業員1人当たりの給与支給総額が、地域別最低賃金の伸び率を超える伸び率を実現する」と掲げられています。
経済産業省が想定している大規模成長投資のイメージは、製造業においてCO2削減や生産性向上に寄与する設備投資や、生産性を3倍にする最新設備を導入した物流センターの新設などが挙げられます。
大規模成長投資補助金は、これまでの補助金に比べ金額が大きいと解説しました。ここからは具体的な申請要件について公募要領をもとに見ていきましょう。
補助対象者は中堅・中小企業となっており、小規模事業者は申請不可となります。中堅・中小企業の定義は、会社単体で、常時使用する従業員数が2,000人以下の会社等となっています。一定の要件を満たす場合は、共同申請(コンソーシアム形式)も可能とのことです。
なお、単体では中堅・中小企業であっても、みなし大企業は対象外となります。みなし大企業とは、大企業(従業員数が2,000人超)によって株式の多くを取得されている、すなわち大企業の子会社のことです。
また、企業組合、協業組合、商工組合など、会社・個人以外の法人も対象となることがあります。対象者については、以下の記事で詳しく解説しています。
大規模成長投資補助金の対象者は?申請可能な企業規模、業種、その他要件を解説
補助上限額は50億円、補助率は1/3以内となっています。中小企業にとって10億円以上は相当な投資になるため、社運をかけたプロジェクトになることは間違いないでしょう。
大規模成長投資補助金の要件に「給与支給総額の年平均成長率が直近5年間の最低賃金の年平均成長率以上」というものがあります。賃上げの具体的なイメージは以下の図のとおりです。
引用:公募要領
申請のためには、地域の賃金の成長率以上の賃上げ目標をたて、それを従業員に対して表明しなければいけません。表明されていなかった場合や目標が達成できなかった場合は、補助金の返還を求められますので注意が必要です。目標値は高い方が審査員の印象はよくなるでしょうが、必ず達成しないといけないため、慎重に決定する必要があるでしょう。
なお、最低賃金は都道府県によって異なります。以下の表から、事業場所に該当する都道府県の最低賃金の年平均成長率をチェックしてみてください。
出所:厚生労働省
新設される工場などの大規模施設が主な対象ですが、ソフトウェアなども対象経費となります。詳細は以下の表のとおりです。
項目 | 詳細 |
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建物費 | 専ら補助事業のために使用される生産施設、加工施設、販売施設、検査施設、共同作業場、倉庫その他事業計画の実施に不可欠と認められる建物の建設、増築、改修、中古建物の取得に要する経費 |
機械装置費 | ① 専ら補助事業のために使用される機械装置、工具・器具(測定工具・検査工具等)の購入、製作、借用に要する経費 ② ①と一体で行う、改良・修繕、据付け又は運搬に要する経費 |
ソフトウェア費 | ① 専ら補助事業のために使用される専用ソフトウェア・情報システム等の購入・構築、借用、クラウドサービス利用に要する経費 ② ①と一体で行う、改良・修繕に要する経費 |
外注費 | 補助事業遂行のために必要な加工や設計、検査等の一部を外注(請負・委託)する場合の経費 |
専門家経費 | 補助事業遂行のために依頼した専門家に支払われる経費 |
基本的に相見積もりが必要となりますので注意しましょう。
逆に、以下は対象外経費です。予定している対象に含まれていないかチェックしておきましょう。
補助対象外経費 |
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・建物の単なる購入や賃貸、土地代 ・他の公的制度を活用して取り付ける附属設備(ソーラーパネル等) ・船舶や航空機、車両などの購入費 ・パソコンやスマートフォンなどの本体費用 ・各種保険料 ・印紙代や税金、申告費用等 ・補助事業期間中の販売を目的とした諸経費 ・申請時の事業計画の作成に関する費用 ・同一代表者や役員が含まれていたり資本関係のある事業者 など |
なお、対象となるソフトウェアには以下のようなものが含まれます。ソフトウェア導入を検討中の方はご参照ください。
2024年6月21日、第1次公募の採択者が発表になりました。結果は以下の通りです。
申請数 | 1次通過 | 採択数 | 採択率 |
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736件 | 254件 | 109件 | 14.8% |
採択者の平均投資予定額は約54億円、平均目標賃上げ率の中央値は4.3%と、高い目標水準の事業が採択となりました。採択難易度は、非常に高いです。
ご参考情報として、1次公募における各種指標の中央値は以下の通りです。
参考:公式ページ
大規模成長投資補助金のスケジュールは以下の通りです。執筆現在、第2次公募の受付中です。
イベント | スケジュール |
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公募回 | 第2次 |
公募開始 | 令和6年6月26日 |
公募締切 | 8月9日 17:00 |
審査(プレゼン含む) | 9月上中旬頃(予定) |
採択発表 | 9月中下旬頃(予定) |
交付決定 | 上記以降 |
補助事業期間 | 最長令和8年12月末まで |
賃上げのフォローアップ | 補助事業終了後3年間 |
審査は1次と2次に分かれています。1次審査が事務局による書面審査、2次審査が外部有識者によるプレゼンテーション審査です。期間が短いため、1次審査と2次審査の対策は同時並行に行うことになるでしょう。
申請書類の中心となる成長投資計画書(様式1)は、35ページ以内の指定となっており、他の補助金に比べて大規模な計画書になります。審査項目も「経営力」「先進性・成長性」「地域への波及効果」「大規模投資・費用対効果」「実現可能性」と、幅広い観点を網羅しなくてはなりません。
当然、計画書の内容とプレゼンテーションは一貫性を担保しなければいけませんので、申請までの期間に、プレゼン審査のストーリーを加味した上で計画書のアウトラインを作成する必要があるなど、申請難易度は高めと言えるでしょう。経産省管轄の補助金申請の実績が豊富な専門家に相談することをおすすめします。
従業員の賃上げを推進するため、大規模成長投資補助金には政府の莫大な予算が投下されています。インフレ局面において、この流れは当面続くと見られます。
間接補助事業者の公募要項については、経済産業省などから発表される情報を随時確認し、公募要項に沿って申請しましょう。
金額が大きくなりますので、専門家の活用はほぼ必須となる補助金制度になります。補助金コネクトでも大規模成長投資補助金のご相談を受けております。プレゼン審査向けの対策や指導も行っておりますので、制度について確認したいことがある方は以下よりご連絡いただければ幸いです。