働き方が変わりつつある現代では、「自分の好きな仕事をしたい」「時間にとらわれずに働きたい」という考えから起業する方が増えています。一方でどのようなリスクがあるのか、起業するまでの流れもしっかりと把握しておいた方が良いでしょう。
本記事では起業するメリット・デメリット、起業するまでのステップや方法を紹介します。起業時に誤認されることが多いポイントを解説しますので、起業を検討されている方はぜひ参考にしてみてください。
「新たな事業を立ち上げる」ことを起業と言います。一般的には株式会社や合同会社などの法人を、一人または複数の共同経営者で立ち上げるケースを指しますが、個人事業主やフリーランスなども起業に該当します。
起業家が増えている背景として、中小企業庁によって発表された「令和元年度(2019年度)の中小企業の動向」では、以下のような目的を持っている方が多いとされています。
企業目的 | 回答割合(複数の回答も含む) |
---|---|
自分の裁量で仕事をするため | 57.4% |
好きな仕事をするため | 50.7% |
経験やスキル、知識を生かすため | 40.0% |
生計のため | 32.4% |
趣味や特技を生かした仕事をしたいため | 27.6% |
性別や年齢に関係なく働きたいため | 20.1% |
高い所得を得るため | 19.4% |
新事業にチャレンジしたいため | 18.8% |
家庭との両立のため | 17.2% |
経験の幅や人脈を広げるため | 17.1% |
社会貢献するため | 6.5% |
経営エ社として社会的評価を得たいため | 2.8% |
半数以上の方が、「自分の裁量で働きたい」「好きな仕事をしたい」と答えています。個人で働く方や在宅ワークが主流となりつつある現代において、働き方を見直しする方が増えていることが要因として挙げられるでしょう。
自治体では「地域創業助成金」や「創業促進補助金」などの補助金・助成金が設けられたり、相談窓口があったり、起業しやすい環境が整ってきたことも一因でしょう。
起業にはさまざまなメリットがあります。
好きなジャンルの仕事をできるのが起業のメリットです。起業前に勤めていた会社の業種だけでなく、新しい業界へチャレンジしたい方、社会貢献できる仕事をしたい方など、起業家が行いたい仕事を選ぶことができます。
起業した方の最大のメリットとも言えるのが、「高収入に期待できる」点です。会社員時代は決まった給与を受け取りますが、金額に満足していない方も多いでしょう。しかし起業した方は、給与額を好きに設定できます。もちろん会社の経営が成り立つことが条件ですが、事業が軌道に乗れば高い収入に期待できます。
起業した場合は、税金のコントロールが行いやすく、節税も可能となります。会社員の場合、不動産投資やふるさと納税などで所得税や住民税などの節税はできるものの、大きな節税は期待できません。
一方、法人化した場合は、繰延資産や損益通算などによって、経費の活用の自由度が高いです。さらに経費計上できる項目も多いため、納税額を抑えることも可能です。
企業に勤めている方は、働く時間が限られているケースが多いですが、起業した方は、自分の会社であるため自由に働くことができます。
近年では1か月や1週間の労働時間を労働者が決められるフレックスタイム制を採用している企業が増加していますが、未だ多くの企業は決められた時間を決められた場所で働く方法を採用しているでしょう。
起業した際は、労働時間に制限されることがなくなるメリットがあります。
起業するメリットをお伝えしましたが、デメリットもあります。ここでは3つ紹介します。
会社員であれば、失敗しても上司や会社がサポートしてくれますが、起業した場合は全て自己責任となります。もちろん成功も自分の力ですが、最悪の場合は倒産し、借金だけが残る可能性もあります。
起業しても軌道に乗るまでは収入が安定しない可能性があります。もちろん企業初年度から利益を生む会社もありますが、数年間売上げが安定しない会社も多いです。会社員の場合、企業に在籍していれば毎月安定的な給与がもらえます。しかし起業した場合は、同じ仕事でも多く収入を得られる反面、まったく安定しないデメリットもあります。
起業するには平均しておおよそ300万円から1,000万円ほどの費用がかかります。もちろん起業する事業によって異なるため一概には言えないものの、決して安い費用ではありません。
多くの方は金融機関からの融資を受けて起業しますが、毎月の返済にも追われることになります。起業時の費用だけでなく返済リスクもある点はデメリットの一つです。
起業する方法はさまざまあります。一般的には法人を設立するイメージがありますが、ここでは会社設立を含めて5つの例を紹介します。
個人事業主とは、開業届を提出している個人を指します。法人は法務局に法人登記を行った企業となりますが、個人事業主は個人で事業を行っている方を指します。事業主一人だけでなく、家族や従業員を雇用した場合であっても、法人登記していなければ個人事業主という扱いになります。
個人事業主は国税庁のホームページにある[手続名]個人事業の開業届出・廃業届出等手続|国税庁にて開業届をダウンロードし、税務署に提出すれば開業できます。
起業の中で最も多いのが法人の設立です。法人にする際は法務局にて必要書類と登録免許税を納税して登記します。法人にすることで、所得に課せられる税金は法人税となり、おおよそ700万円〜900万円ほどの所得であれば、個人の所得税より安い納税額となるメリットがあります。さらに経費に計上できる項目も増え、節税効果が見込めます。
代理店業務とは、特定の団体や会社の仲介役を行う会社です。代理店本部と顧客の取引の媒介となり、報酬を得る方法です。一般的には売上高に伴う成果報酬を採用している企業が多いため、実績次第で大きな収入にもつながります。代理店業務として起業したい方は、取り扱いたい商材をインターネットから検索し、企業へ問い合わせる必要があります。
フランチャイズを展開する企業と加盟店が契約を締結し、企業側のブランド名を使って事業展開する方法です。フランチャイズ店に加盟した場合、売上はそのまま利益になりますが、加盟料を本部に支払う仕組みとなります。代理店同様、インターネットで加盟募集している企業を検索し、企業へ問い合わせを行う流れです。
M&Aは企業の買収または合併を指します。企業を大きくすることを目的にするのはもちろん、買収・合併する企業の技術力やノウハウを得るために行うケースが多いです。M&Aには資金力が必要であるため誰でもできる選択肢ではありませんが、貯金のある会社員が副業で行うケースや、事業が軌道に乗った後に事業展開の一つとして行うケース等、様々です。仲介会社を経由して行うことが多いです。
これから起業する方は、具体的な事業内容を決めなければいけません。また起業するまでの資金面や手続きについても検討する必要があります。多くの起業家は以下のステップを踏みますので参考にしてください。
起業を始める際は、「どのような商品を売るか」「どのようなサービスを提供するか」を最初に決めます。もちろん自身が売りたい商品も大切ですが、需要がなければ売上げにも繋がらないため、市場調査を行って決めた方が良いでしょう。市場調査では主に以下のような項目について確認を行います。
売りたい商品・サービスの需要があるのか
どのエリア、チャネルでビジネスを展開するのか
購入しやすい価格はどれくらいなのか
競合他社は誰か
商品を作ってから売れないことがわかってしまうと最初の投資が無駄になってしまいますので、知人などにヒアリングを行い、生の声を聞いてみるのも良いでしょう。
起業するのに必要な資金やスキル、パソコンなどの設備費用を洗い出します。起業する場合は金融機関から融資を受けるケースも多いですが、審査を受けるためには「起業するための初期費用」や「事業に対するスキルや経験値」「設備費用の見積書」などが必要です。起業に関わる費用は事前に見積もりなどを取ってまとめておきましょう。
商品・サービスが決定し、必要な資金などがまとまった後は、起業するのかの最終決断をします。将来的なリスクや見込まれる収益などの計算も行っておくと、うまくいかなかったときの撤退ラインを判断するのにも役立ちます。
最後に開業手続きを行います。最初に開業してしまうという方もいらっしゃいますが、開業はあくまで手続きですので、起業の方針が固まった後で問題ありません。法人名や屋号を決めるためには、商品サービスが明確になっていることが望ましいです。
個人事業主として起業する場合は開業届、法人として起業するのであれば法人登記が必要です。特に法人登記に関しては専門的な知識が求められる必要書類が多いため、司法書士などに一任する方が多いです。司法書士に依頼する費用に関しては数万円程度ですが、依頼先によって異なるため、事前に確認しておきましょう。
起業する熱意のある方は、情報収集などにも敏感に対応されることでしょう。一方で、よく巷で言われていること、インターネット上の情報でも、実際とはかけ離れていることや誤解が含まれていることもありますので、注意してください。
ここでは、起業のよくある誤解をいくつか紹介します。
起業すると「何のためにやってるの?」という質問に答える機会が増えるため、社会貢献や世の中をこう変えたいといったビジョン等、大義を持たなければならないとお考えの方もいらっしゃるかもしれません。
たしかに、ビジョンは持った方が事業の方向性が定まって良いのですが、起業した当初は、利益やワークライフバランスの維持など個人の利益を目的として仕事を展開して良いと考えますし、第一章に記載の通り、起業の目的として社会貢献を挙げている人は全体の6.5%しかいません。
軌道に乗ってきた後は、事業内容や商品サービスを取捨選択するために、ビジョンを持ち合わせた方が決定が早く、そして明確になります。会社が大きくなると、目先の利益だけでなく、ユーザーからの支持も重要となりますし、一度悪い噂が経ってしまうと信用力が低下し、経営に大きな影響を及ぼしてしまうリスクもあります。
大義やビジョンは最初からあまり深刻に考えないで、事業の成長を通して徐々に改善して行きましょう。
商品サービスを考える上で多くの方が気にされるのが、競合に対する明確な優位性です。自社の商品が選ばれるためには、競合よりも優れていたり、独自の技術を持っているに越したことはありません。
しかしながら、最初から市場の他のプレーヤーと同等以上にうまくやれる人は少ないでしょうし、お客様にとっては、他社との違いは意識して初めてわかるのであって、違っていないといけないというわけではありません。
もしかすると、商品サービスは同じだったが、説明が少し丁寧だったとか、価格が少しだけ安かったとか、購買理由は様々です。
明らかに品質が劣後していたり、重要な欠陥がなければ、サービス提供を通して改善するつもりでやっていきましょう。最初から完璧を目指す必要はありません。
起業は大変、起業は難しい、起業してもすぐに倒産してしまう、などと考えてしまう方もいらっしゃると思います。しかし実は日本は海外に比べると企業の存続率は高い傾向にあります。
中小企業庁の「中小企業白書2017」によると、日本企業の生存率は1年後に95.3%、3年後は88.1%、5年後は81.7%となっています。海外の主要国における5年後の生存率は、ドイツが40.2%、イギリスが42.3%、アメリカが48.9%となっており、日本は高い数値であることがわかります。
起業した後はお客様を獲得するまで大変な時期はあると思いますが、かと言って大半が失敗しているわけではありません。いつまでにどうなっていなければ存続できないのか、明確なラインを計画し、目標を立て、管理して進めていくようにしましょう。
起業時に一番課題となる創業資金は、以下の方法で調達できます。ここでは4つの資金調達方法を紹介します。
日本政策金融公庫では起業する方に向けて、以下の創業融資が設けられています。
融資の種類 | 利用できる方 | 融資限度額 |
---|---|---|
新規開業資金 | 新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方 | 7,200万円(うち運転資金4,800万円) |
新創業融資制度 | 新たに事業を始める方または事業開始後税務申告を2期終えていない方 | 3,000万円(うち運転資金1,500万円) |
生活衛生新企業育成資金 | 生活衛生関係の事業を創業する方又は創業後おおむね7年以内の方 | 7,200万円~7億2,000万 |
資本性ローン | 地域経済活性化のための新規事業、経営改善、企業再建を行う方 | 7,200万円 |
企業に対して前向きである日本政策金融公庫ですが、融資審査を行う際は、細かな条件が設定されているため、詳しくは日本政策金融公庫のホームページを確認しましょう。
投資家などが創業する企業の株を購入することで資金を調達する方法です。一般的には出資を受けた企業は返済する必要がない点が魅力です。ただし経営権を握られる可能性もあるため、将来的に経営の自由度が低下する可能性もあります。
クラウドファンディングは、近年注目を浴びている資金調達方法です。不特定多数の支援者や賛同者から資金を出資してもらう方法です。新しいモノづくりをしたいけど資金がないという方が商品の説明を行い、「応援したい」「ぜひ作ってほしい」という方に資金を提供してもらう方法です。クラウドファンディングには以下のような種類があります。
購入型クラウドファンディング・・・支援者が資金を提供し、リターンとして商品やサービスを提供してもらう方法
寄付型クラウドファンディング・・・支援者が寄付として資金提供する方法
融資型クラウドファンディング・・・仲介業者が、投資家から小口の資金を集め、大口化して企業へ融資する方法(ソーシャルレンディングとも呼ばれる)
クラウドファンディングの方法は創業側が選べます。資金を集めるためには、リターンの内容や支援してもらえるような事業内容である必要があります。
自治体が創業に伴う補助金や助成金制度を設けている場合があります。東京都では「東京都創業助成事業」として最大300万円の補助金を設けています。各都道府県によって異なるため、詳しくは起業する場所の自治体のホームページを確認しましょう。
以下のページで主な制度を解説していますので、興味のある方はご覧ください。
参考:創業1年未満もビジネスローンは借りれる?個人事業主が開業時に審査通過するコツ |ファクログマガジン
今回は、起業するメリット・デメリット、起業するまでの流れや方法を紹介しました。
高収入が見込める反面、リスクが大きい点がある起業にはさまざまな方法があり、事前に計画性を練ることで、成功する可能性は高くなります。
起業方法や資金調達方法もたくさんの種類があるため、自分に合った方法を見つけましょう。
最初はあまり深く考えすぎず、周りより少しだけうまくやることを目標に頑張ってみてください。誠実に事業を営んでいれば、お客様はきっとあなたの頑張りに気づいてくれることでしょう。
起業直後は資金繰りが非常に困難になりがちですが、そんな方は創業融資や補助金等を活用し、軌道に乗るまでの間は多めに現金を持っておくつもりで準備されることをおすすめいたします。