日本では年金制度の破綻が叫ばれている昨今、老後資金の備えとなる退職金を充てにする方も多いです。
共済制度にはさまざまな種類があり、経営者は従業員の退職後の生活を守る意味でも事前に理解しておく必要があります。またフリーランスや個人事業主の方でも利用できる制度があります。
実際に中小企業や個人事業主には共済制度をうまく利用し、経営している方も多いです。この記事では、共済制度の概要と種類について紹介します。
共済制度とは、協同組合などの非営利団体が組合員の助け合いを目的に運営している保障事業のことです。
加入者は毎月共済掛金を支払い続け、死亡や入院、火災・自然災害・事故などのリスクが発生した際は、共済金が給付される仕組みとなっています。
一見「保険」と同じなのではと考える人もいらっしゃることでしょう。それぞれ経済的保障(補償)を行うものという意味では全く同じです。しかし「共済」と「保険」には異なる点があるため、以下の表にまとめました。
項目 | 共済 | 保険 |
---|---|---|
監督省庁 | 厚生労働省・農林水産省 | 金融庁 |
法令 | 共済毎によって異なる JA共済は「農業協同組合法」 生協「消費生活協同組合法」など | 保険業法 |
掛金(保険料) | 比較的安い | 安い保険商品もあれば高い保険商品もある |
保障の豊富さ | 少ない | 多い |
共済と保険にはそれぞれ良さがあります。共済は保険に比べ保証の豊富さは少ないですが、ニーズに合わせさまざまな種類があります。次の項では経営者や個人事業主におすすめな共済制度を紹介します。
中小企業退職金共済制度とは中小企業の従業員の退職金を支給するための制度です。企業が月々の掛金を支払い、国が一部助成する形となっています。
掛金は、法人企業の場合は損金として、個人企業の場合は必要経費として扱われるため、利益の圧縮効果もあります。さらに従業員ごとに月額の掛金を選択することができ、増額することも可能です。
加入するためには、以下の表の常用従業員数か資本金・出資金のいずれかの条件を満たした企業である必要があります。
業種 | 資本金・出資金 | 常用従業員数 |
---|---|---|
一般業種(製造業・建設業等) | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
ここでの常用従業員は正社員と概ね労働時間が同じであって、2か月を超える雇用を行った従業員を指します。
中小企業退職金の掛金は全部で16種類です。この中から従業員ごとに選択できます。
5,000円 | 6,000円 | 7,000円 | 8,000円 |
9,000円 | 10,000円 | 12,000円 | 14,000円 |
16,000円 | 18,000円 | 20,000円 | 22,000円 |
24,000円 | 26,000円 | 28,000円 | 30,000円 |
掛金は会社で任意に選択することができます。ただし、正社員よりも労働時間が短い短時間労働者(パートなど)は以下の表の掛金でも加入することが可能です。
2,000円 | 3,000円 | 4,000円 |
中小企業退職金は原則として従業員全員に加入してもらうことになりますが、以下に該当する従業員は加入できないため注意してください。
中退共制度に加入している者
特定業種退職金共済制度に加入している者
加入することに反対している従業員
小規模共済制度に加入している者
特定業種退職金共済制度とは、特定業種(建設業、清酒製造業、林業)で働く個人事業主、中小企業のための退職金制度です。その業界で働くことをやめたときに退職金が支払われます。特定業種退職金共済制度には以下の3つの制度があります。
建設業退職金共済制度
清酒製造業退職金共済制度
林業退職金共済制度
それぞれ紹介していきます。
建設業を行っている個人事業主や中小企業などが加入することができる制度です。国籍や職種(大工・左官・とび・土工・電工・配管工・塗装工・運転工など)にかかわりなく加入することが可能です。もちろん1人親方なども該当します。
また、掛け金の助成制度もあります。
参考:1人親方とは?(株式会社NITACO運営:建築建設業界特化のメディア「ツクノビマガジン」)
日本国内で清酒製造業を行っている個人事業主や中小企業などが加入することができます。清酒製造業で働く方であれば、職種(杜氏・蔵人など)に問わず対象です。
こちらも、掛け金の助成制度があります。
林業を営む個人事業主や中小企業などが加入することができます。林業の現場で働く方であれば、作業種別を問いません。
こちらも、掛け金の助成制度があります。
令和3年10月より、建設業退職金共済制度の運用利回りは3.0%から1.3%に変更されました。また林業退職金共済制度の予定運用利回りが0.5%から0.1%に変更されたため、得られる退職金は低くなっているため注意してください。
特定退職金共済制度とは、個人事業主や法人が特定退職金共済団体と契約し、従業員に退職金等の給付を行う制度です。毎月の掛金を商工会議所に納付し、会社に代わって商工会議所が従業員に退職金を支払う仕組みとなっています。
特定退職金共済制度があれば、従業員の雇用環境を守ることができるため、長期的な人材確保に役立たせることができます。一方で役員などは加入することができないため、従業員のための共済制度であると認識しておきましょう。
とはいえ、掛金は全額損金算入が認められます。そのため、費用計上額を高めることにつながり、節税効果にも期待できます。
特定退職金共済制度は、商工会議所が地区内にある企業であれば加入することが可能です。従業員等の制限もないため、どの企業でも基本的に加入することができます。ただし、従業員は満15歳以上、満70歳未満までと制限されており、個人事業主などは加入できません。
掛金は1口1,000円となります。最大で1人30口まで加入できるため、30,000円まで選択することが可能です。
特定退職金共済制度は中小企業退職金と似ていると思われがちです。しかし双方に違いがあり、主に3点挙げられます。
企業規模要件がない・・・中小企業退職金共済制度と異なり、特定退職金共済制度には加入条件に企業規模がありません。
事業主体が多い・・・特定退職金共済制度の事業主体である特定退職金共済団体は全国に多数存在するため、事業を行っている地域から相談しやすい特徴があります。一方、中小企業退職金共済制度の事業主体は勤労者退職金共済機構中小企業退職金共済事業本部(東京都豊島区)に唯一だけです。
掛金が異なる・・・特定退職金共済制度の掛金は1,000円からです。中小企業退職金共済制度は5,000円からとなります。
特定退職金共済制度に加入する場合は、基本的に従業員の同意を得る必要があります。また途中解約する際や掛金の増減も同様に同意が必要である点は注意しましょう。
小規模企業共済制度とは、個人事業主や会社の役員などが廃業・退職した際、その後の生活の安定や再建を図るための積み立てによる退職金制度です。
毎年の掛金は所得控除できるため、受取時の税負担も軽減されるなどメリットもあります。
会社員の場合、企業から退職金を受け取ることができますが、個人事業主は受け取ることができません。そのため小規模企業共済制度を活用し、事業廃止後などの生活資金を用意しておく場合に用いられる方が多いです。
小規模企業共済制度は企業に所属する従業員には加入資格はありません。また従業員に問わず、加入できる企業は、業種と従業員数によって異なり、以下の表の通りと定められています。
業種 | 常用従業員数 |
---|---|
建設業・製造業・運輸業・サービス業(宿泊・娯楽業のみ)・不動産業・農業など | 20人以下 |
商業(卸売・小売業)・サービス業(宿泊業・娯楽業を除く) | 5人以下 |
企業組合の役員・協業組合の役員 | 20人以下 |
農業の経営を主としている農事組合法人の役員 | 20人以下 |
弁護士法人・税理士法人などの士業法人・その社員 | 5人以下 |
本制度の名前にある通り、小規模企業共済制度に加入するためには、小規模の企業でなければいけません。契約した後に従業員の数が増えてしまった場合は、契約が取り消しとなるため注意が必要です。
また小規模企業共済制度の加入には年齢の上限が定められておりません。条件を満たしていれば何歳でも加入することが可能です。
掛金は月額1,000円〜70,000円の間で500円単位で調整することができます。増額や減額もいつでもできるため、売上が少ない時などに調節することも可能です。
20年未満で解約した場合は元本割れのリスクが伴うため、本制度を利用し続けるには、長期間小規模企業であり続ける必要があります。
20年未満で解約すると、任意解約という扱いになり、「共済金」ではなく「解約手当金」となります。任意解約の場合、納付期間が7年未満なら「解約手当金=掛け金合計の80%」となるため、元本割れにつながります。100%にするためには20年間掛金を支払い続けなければいけないため、注意しましょう。
経営セーフティ共済とは、取引先が倒産してしまったことで巻き込まれて経営難や連鎖倒産になるのを防ぐことを目的とした共済制度です。
経営セーフティ共済に加入しておけば、無担保・無保証人で掛金の最高10倍(上限8,000万円)まで借入れできるため、売上が得られなくなった時などに役立たせることができます。さらに掛金は損金または必要経費に算入できる税制優遇も受けられます。
貸付には「共済貸付金」と「一時貸付金」の2種類あります。共済貸付金は、先程紹介した通り、取引先の倒産などによって利用することができる制度です。
一方、一時貸付金は、取引先などに関係なく資金が必要となった時に申込することができます。一時金貸付金の限度額は解約手当金の95%となりますが、実際は機構解約で計算されるうえ、利息の支払いが必要となります。
詳しく知りたい方は中小機構の「一時貸付金について」を確認してみてください。
経営セーフティ共済は継続して1年以上事業を行っている中小企業者が対象で、なおかつ以下の表の通り、加入するためには「業種」、「資本金・出資金」と「常用従業員」の条件があります。
業種 | 資本金・出資金 | 常用従業員数 |
---|---|---|
製造業、建設業、運輸業その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
ゴム製品製造業(自動車または航空機用タイヤおよびチューブ製造業ならびに工業用ベルト製造業を除く。) | 3億円以下 | 900人以下 |
ソフトウェア業または情報処理サービス業 | 3億円以下 | 300人以下 |
旅館業 | 5,000万円以下 | 200人以下 |
組合の場合は以下に該当する必要があります。
企業組合
協業組合
共同生産
共同販売等の共同事業を行っている事業協同組合
事業協同小組合
商工組合
経営セーフティ共済の掛金は毎月5,000円〜20万円の範囲で5,000円刻みで設定することができます。ただし、掛金総額が800万円までと上限が定められているため、20年間で800万円の掛金を支払うとなると、毎月33,333円が最大です。
共済金貸付を利用すると10%の掛金総額を失うことになるため、利用タイミングには注意が必要です。また加入してから6か月以内の倒産は対象外であるうえ、12k月未満の解約の場合は解約手当金を受け取ることができません。
中小企業や個人事業主は共済制度をうまく利用することで、経費が増大することになり、納税額の圧縮につながるうえ、従業員や自身を守るためにも役立ちます。
まだ加入していない方は自分に合った共済制度を見つけてから検討してみてもよいでしょう。