事業拡大や節税対策のために会社設立を検討している個人事業主の方は少なくありません。
開業届の提出のみで完了する個人事業主の手続きと異なり、会社設立には定款や登記などが必要です。
さらに設立後も、税金や社会保障関連の手続きを済ませなければなりません。
そこで今回は会社設立の手続き、費用、設立後にやるべきことをわかりやすく紹介していきます。
会社設立のメリットとデメリットも紹介していますので、会社設立を検討している方はぜひ最後までご覧ください。
設立の手順を6ステップで紹介していきます。
最初にどのような会社を設立するかについて、会社概要を決めておきましょう。
会社名
設立目的
本店所在地
資本金
発起人(出資者)と出資額
株式関連(1株あたりの金額、発行可能株式総数)
事業会計年度
取締役
役員の構成
最低でも上記項目は決めておくことをおすすめします。
会社を登記するだけであればそれほど影響はありませんが、長期に渡って会社を経営して行く上で、後々重要になってくる項目もあります。
たとえば、資本金の額は会社の信用や許認可、将来の資金調達において影響してくる可能性があります。
気になる項目は事前に確認しておきましょう。
資本金とは?会社設立時の必要額、目安、決める時のポイントと注意点
会社の概要が決まれば、法人用の実印を作成しておきましょう。
実印は法務局に会社の設立を登録するために必要です。
他にも銀行とのやりとりで必要になる銀行印、請求書に押す角印も合わせて作っておくと作成の手間を減らせます。
会社の根幹を支えるルールである定款を作成し、公証人役場で認証受けます。
定款は会社概要を設定した際に決めた項目を適用すれば作成できます。
作成後、会社の本店所在地のある公証人役場で認証を受けましょう。
この手続きは適切な定款を設定したことを客観的に認証してもらうために必要です。
後述する数万円程度の認証費用が必要となりますので、注意しておきましょう。
なお、合同会社の場合は定款を公証人に認証してもらう必要はありません。
発起人もしくは出資者全員が、発起人のうちの1人の銀行口座へ出資金を払い込んで、企業の資本金を用意します。
資本金の払い込みは定款の認証前でも可能ですので、ご自身の都合に合わせて同時進行で進めても構いません。
次に、会社設立を法務局に届け出るための書類を作成しましょう。
株式会社の設立には「株式会社設立登記申請書」、合同会社は「合同会社設立登記申請書」を準備します。
この申請書に必要な書類は以下の通りです。
定款
謄本
資本金の払い込み証明書
代表取締役の印鑑証明書
会社代表印の印鑑届出書
記載項目は商業登記法で決まっているので、漏れがあれば却下されてしまいます。
不安な方は司法書士などの専門家へ相談して作成を進めていきましょう。
申請書類が作成できれば、法務局にて会社設立登記を行いましょう。
会社設立日は書類を法務局へ提出した日となります。
申請後1~2週間程度で登記が完了し、登記完了証を受け取れば会社設立手続きは終了です。
株式会社と合同会社で必要な費用は、以下のように異なります。
費用 | 株式会社 | 合同会社 |
---|---|---|
定款認証費用 | 最大5万円+謄本代(2,000円程度) | 不要 |
収入印紙代 | 4万円(電子定款は0円) | 4万円(電子定款は0円) |
登録免許税 | 資本金×7/1000 (15万円未満は一律15万円) | 資本金×7/1000 (6万円未満は一律6万円) |
合計 | 20~25万円 | 6万円~10万円 |
定款の認証費用は令和4年1月1日以降、資本金の額に応じて以下のように設定されています。
100万円未満:3万円
100~300万円未満:4万円
それ以上:5万円
また定款認証方法として紙で行うと収入印紙代がかかりますが、電子定款を選べば収入印紙代を節約できます。
会社設立後には、金融機関、税金、社会保険、労働保険の4つの手続きが必要です。
それぞれ早めに済ませておくようにしましょう。
会社設立後、取引で使う会社名義の銀行口座を開設しておきます。
金融機関へ提出する書類は主に以下が挙げられます。
定款
謄本
会社の実印、代表者の実印
代表者の印鑑証明書
代表者の身分証明書
会社概要を説明できる書類
個人での口座開設よりも長めの審査期間が設けられますので、なるべく早めに申請しておくことをおすすめします。
法人設立届出書をそれぞれ以下に提出しましょう。
税務署(国税)
都道府県税事務所・市区町村役場(地方税)
また税務署へ同時に法人青色申告承認申請書を提出しておくことで、欠損金の繰越控除などの節税対策を適用できるようになります。
健康保険や国民年金などの社会保険関連の手続きも済ませておきましょう。
この手続きは1人社長の経営する法人でも必要となります。
年金事務所へ「健康保険・厚生年金保険新規適用の届け出」を提出します。
もし加入義務があるのにしていないと厚生年金保険法によって、罰則(6か月以下の懲役、または50万円以下の罰金)が課されてしまいます。
従業員を1人でも雇う時、雇用保険や労災保険の手続きも必要です。
雇用保険は週20時間以上働く従業員を雇ったら、労災保険は従業員を1人でも雇ったら加入しなければなりません。
税務署へは「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」、ハローワークへは「雇用保険適用事業所設置届」の提出が必要です。
他にも、社会保険事務所労働基準監督署へも各種書類を提出します。
会社設立をするメリットとして、主に6つが挙げられます。
それぞれ確認していきましょう。
代表取締役名、資本金、本店住所などが登記されますので、個人事業主よりも社会的信用を得やすくなります。
特に大手など取引先の規模が大きくなると、社会的信用の有無も取引成立に大きく関わってきます。
ある程度の資本金がある法人でないと直接契約を行わないという企業もありますので、大きな取引先がある事業者にとっては会社設立のメリットが大きいと考えられます。
法人と個人事業主では金融機関からの信用力も異なります。
そのため銀行からの資金調達がしやすくなり、法人であれば出資も選択肢に入れられます。
株式会社は法人税、個人事業主には所得税がかかります。
法人税は一定で所得税は累進課税ですので、売上が上がるほど法人の方が支払う税金額を抑えることができるのです。
他にも以下のような法人のみ適用できる節税方法が存在しています。
欠損金の繰越
生命保険料を一部経費に
複利厚生費用(社員旅行、レクレーションなど)の計上
法人が決算月を設定できます。
個人事業主は1月から12月と決められているので繁忙期と決算期が重なりこともあります。
しかし、法人はそれらの時期をずらし、仕事の偏りを平均化し、円滑な経営をしやすくなります。
法人を設立することにより、個人資産の差し押さえが回避できます。
事業での債務に関して、個人事業主では個人の資産を使って返済しなければなりません。
一方法人は出資額までしか責任を負わないので、個人資産を差し押さえられるリスクを回避できるのです。
ただし中小企業が銀行融資を受ける際には、代表者の個人保証が求められることもあるので、その限りではありません。
法人を設立することで事業承継がしやすくなります。
個人事業主は個人名義の相続が発生すると、口座が凍結しスムーズに事業承継ができません。
法人であれば凍結はなく、代表取締役の登記変更を行うだけで簡単に事業承継が可能です。
一方、会社設立するデメリットも確認しておきましょう。
会社を設立するためには時間や費用が必要です。
定款を作成し、各種書類を用意しなければなりません。
設立にかかる時間は数週間から1ヵ月程度で、定款認証や登記など合わせて25万円程度必要となります。
個人事業主であれば、税務署へ開業届を提出するだけなので最短1日で完了し、費用もかかりません。
会社を設立する上で、事務負担が増えてしまいます。
法人税を申告する際の会計処理が複雑になり、事務処理にリソースを割かなければなりません。
社会保険や労働保険の手続きも行わなければならず、税理士や司法書士などの利用も視野に入れなければなりません。
また個人資産と法人資産が明確に区別されます。
そのため個人事業主であれば自由にお金を使えていたのが、会社からお金を引き出す際に金銭消費賃借契約書が必要で、利息も支払わなければなりません。
会社設立には定款と登記の手続きが必要で、資金は株式会社で25万円程度、合同会社で10万円程度かかります。
会社設立は社会的な信用力が得やすく節税対策にもなりますが、時間や費用がかかってしまいます。
「税金面で有利か」「社会的信用が必要か」「従業員を抱えて事業拡大を視野に入れているか」などを総合的に判断して、会社設立をするか否かについて検討してみてください。