新たに事業を始めようとする時や、事業拡大をめざしたい時などには、銀行での法人口座開設が必要です。近年では、マネーロンダリング(資金洗浄)対策などの観点から、多くの銀行で法人口座開設の審査に時間がかかります。スムーズに法人口座を開設するには、銀行ごとの特徴や選び方を知っておくことが第一歩です。
この記事では、おすすめの銀行口座や銀行で受けられる融資など、法人口座開設で知っておきたい銀行の知識について解説します。
最初に、おすすめの銀行口座を紹介します。銀行ごとの特徴を比較しながら検討してみてください。
ショッピングモールで知られるイオングループの銀行です。法人向けインターネットバンキング「イオン銀行ビジネスネットサービス」が利用でき、高いセキュリティでスマホでも取引できます。ビジネスネットサービスでは、イオン銀行間の振込であれば、金額にかかわらず振込手数料は無料です。(月額基本手数料は別途必要)口座開設は、原則として東京もしくは大阪にある法人営業部で、対面での手続きとなります。
デジタルサービスの利便性と、店舗を持つ安心感を両立した銀行です。ビジネスマッチングの提案や、経営課題の解決・取引拡大・事業戦略など、さまざまなアドバイスが受けられます。法人向けのインターネットバンキング「スターBB!」では、東京スター銀行同士の振込が無料であるほか、他行宛の振込手数料も振込金額にかかわらず同一です。
情報・金融のテクノロジーを活用し、創業支援や事業承継などの法人向け金融サービスを提供しています。法人口座開設は、公式サイトから申し込んだうえ、後日必要書類の原本を店頭に持参する必要があります。法人口座では、キャッシュカードや通帳は発行されません。ATMは利用できず、取引は窓口もしくはネットバンキングのみとなります。
東京きらぼしフィナンシャルグループが設立した、インターネット専業銀行です。全てスマホで完結できますが、法人口座の取り扱いはありません。他行宛の振込手数料が86円と、ネット銀行ならではの振込手数料の安さが魅力的です。さらに、総預金の1ヶ月平均残高に応じてステージが決まり、ステージごとに手数料が優遇される「UIプラス」もあります。
みんなの銀行も、UI銀行同様スマホで完結できるネット銀行です。口座と財布をひとつにし、お金を使う日常の機能がアプリで簡単に操作できます。貯蓄預金の金利が高水準であり、貯蓄での利用に最適です。法人名義・法人口座・屋号・団体名などが付いた口座は開設できません。
先進的なIT技術を活用したネット銀行です。法人の代表者が取引担当者であれば、法人口座の開設はオンラインで完結でき、必要書類も運転免許証のみで手続きできます。さらに、口座を開設するとデビットカードも発行され、審査不要でカード決済が可能です。振込手数料が安いほか、口座維持手数料やインターネットバンキング利用料も無料です。
日本最大級のインターネット銀行・楽天銀行では、バーチャルオフィスであっても法人口座を開設できる可能性があります。最短5分でWeb申し込みが完了し、複数口座の同時申し込みも可能です。セキュリティの向上により、利用権限の一括管理や複数講座の管理が簡単にできるようになりました。
代表者と取引責任者が同一・自撮り動画で本人確認ができるというふたつの条件を満たすと、最短で即日法人口座が開設できます。創業直後の企業から大企業まで、幅広い規模の企業が活用しています。キャッシュカードにはデビット機能が付帯されており、決算確定月の翌月に、利用金額の最大1%がキャッシュバックされます。
PayPay銀行は、充実したアプリが特徴のネット銀行です。口座の確認や振り込みはビジネスアプリ・ワンタイムパスワードの発行はトークンアプリを利用します。当座預金や手形の扱いはありませんが、法人1事業所につき20口座まで開設可能です。個人事業主は、1個人につき、個人口座とは別に1口座開設できます。
PayPay銀行とは?利用するメリットやビジネスで強い理由を解説
KDDIと三菱UFJ銀行の共同出資により設立されたネット銀行です。パソコンサービスの基本料金や口座維持手数料はかからず、振込手数料のみが必要です。法人口座の開設には、法人ウェブサイトを開設しておくと、必要書類が少なくなります。法人の状況によって必要書類が変わってくるため、必ず確認してから書類の準備を進めましょう。
個人顧客向けに、ライフスタイルや目的に合わせた貯蓄や資産運用などをサポートしている銀行です。法人口座の取り扱いや、法人顧客向けの商品・サービスの提供はありませんが、個人事業主が個人名義で口座を開設するのに便利です。
セブン銀行の口座は、個人顧客を対象としており、屋号など法人名義での口座開設はできません。法人向けサービスとして、売上金入金サービスを取り扱っているのが大きな特徴です。口座開設ができるのは、売上金入金サービスを利用する法人か、もしくはセブン銀行が提供する決済サービス等の提携先企業のみです。
法人が利用銀行を選ぶには、利便性だけでなく銀行のサービス内容や自身の事業との合致性を見極めることが必要です。銀行の種類は、主に以下の5つに分類されます。
都市銀行
地方銀行(第一地方銀行)
ネット銀行
外国銀行支店
第二地方銀行
それぞれの銀行の違いについて、順に解説します。
大都市に本店を構え、全国規模でサービスを展開している銀行です。現在、以下の5行が都市銀行に該当します。
みずほ銀行(みずほフィナンシャルグループ)
三井住友銀行(三井住友フィナンシャルグループ)
三菱UFJ銀行(三菱UFJフィナンシャルグループ)
りそな銀行
埼玉りそな銀行
特に、上の3行はメガバンクと呼ばれ、預金額や貸出額が巨額な銀行です。大手上場企業が主な取引先であり、海外でも業務展開を行っています。
地方都市に本店を置き、地域密着型の経営を行っている銀行です。一般社団法人全国地方銀行協会の会員として、地域経済を支える役割を担っており、取引先は地域の中小企業および個人が中心です。
顧客と対面する実店舗を持たず、インターネットのみでサービスを提供する銀行です。現金の入出金は提携銀行やコンビニなどのATMを利用します。通帳は発行されず、インターネット上で入出金明細の紹介や振込が可能です。
本店は日本国外にあり、支店を日本国内に設置している銀行です。口座開設は可能ですが、預金保険制度(ペイオフ)の保護対象外となっています。
地方銀行同様、地域密着型で運営している銀行です。地方銀行は、開設当初から銀行であるのに対し、第二地方銀行の多くは旧相互銀行から普通銀行に転換している点が異なります。
銀行口座で貯金できる主な預金科目は、以下の5つです。
普通預金
定期預金
積立定期預金
貯蓄預金
当座預金
目的に応じて適切に使い分けるために、預金科目の特徴について見ていきましょう。
最も一般的な預金科目であり、自由に預け入れや払い戻しが可能です。定期預金より金利は低く、変動金利で満期がなく、元本保証があります。給与などの受け取りや公共料金・賃料などの引き落としに利用されます。
預入期間を指定してお金を預けたのち、期間満了となる満期日までは原則として引き出せません。その分金利が高く、変動金利と固定金利から金利を選択できます。積立定期預金や大口定期預金などがあり、目的に合わせて選ぶことが大切です。
定期預金のうち、普通預金から決まった日に定期的・自動的に積み立てる預金方法です。目標額を設定して、事業資金などまとまった資金の確保に活用されています。
基準残高以上の残高があると、普通預金よりも高い金利が適用されます。入出金は自由にできるものの、給与などの受け取りや公共料金の支払いには利用できません。
事業用口座であり、企業や個人事業主が小切手や手形など業務で必要な支払いに使います。普通預金と異なり、法律によって当座預金には利息がつきません。万が一銀行が破綻しても、預金保護制度の対象であるため全額が保護されます。
銀行融資とは、事業に必要なお金を銀行から事業者へ貸し出す融資方法です。銀行融資の種類は、主に以下の6つが挙げられます。
信用保証協会の保証付き融資
プロパー融資
売掛債権担保融資
不動産担保融資
ビジネスローン
カードローン
それぞれどのような特徴があるのか、順に解説します。
第三者の公的機関である全国信用保証協会が連帯保証をすることで、資金力が低い中小企業や小規模事業者が融資を受けやすくなる制度です。融資を受けた事業者が返済困難となったとき、信用保証協会が立て替えて返済します。信用保証料の支払いが必要となるほか、融資金額の上限が設定されています。
第三者を介さず、事業者が銀行から直接融資を受ける手段です。審査基準が厳しく、事業者の高い信用度が必要ですが、その分金利が低く利用限度額もありません。信用度を上げるには、日本政策金融公庫から借り入れを受け実績を積むのもひとつの方法です。
売掛債権とは、まだ回収できていない売掛金を指します。事業者が持つ売掛債権を担保として銀行に提供し、融資を受ける方法です。担保にできる財産(不動産など)を持っていない企業でも利用できる融資方法です。ただし、売掛先の承諾を得ないと利用できません。
所有している土地や建物などの不動産を担保とし、融資を受ける方法です。無担保による融資より低い金利で融資を受けられ、返済期間も長めとなっています。返済が難しくなると、不動産が差し押さえられる可能性もあるほか、不動産価格の変動などのリスクも考慮が必要です。
担保や保証人が不要で利用でき、中小企業や個人事業主でも利用しやすい資金調達方法です。素早く資金調達できるものの、高い金利で融資上限額が低く、融資期間も短いのが特徴です。一時的に資金が必要な場合での利用がおすすめです。
審査に通れば、ATMで簡単に利用できるローン制度です。事業用以外にも自由な用途で利用できますが、商品によっては個人向けのサービスとして展開されており、事業用途での借入ができない場合もあります。申込時には、事業用途での借入が可能か確認しましょう。
事業をスムーズに展開するには、法人口座を開設する銀行を適切に選ぶことが大切です。自社に合った銀行口座を選ぶためには、以下のポイントをチェックしてみましょう。
法人口座を開設する段階では、融資を受ける予定がなくとも、事業拡大を検討した際に融資が必要となる可能性もあります。融資商品の内容や金利水準などを、口座開設前に調べておくと安心です。
法人口座で利用できるATMの設置場所や提携先など、ATMの利便性も必ず確認しておきたいものです。提携ATMが多いと利便性が高くなり、特に出張が多い事業所では重要なポイントとなるでしょう。
法人口座の維持手数料・月額基本料・振込手数料・海外送金手数料など、口座維持や口座を活用する取引にはさまざまな手数料がかかります。経費負担を軽減するために、業務内容に見合う範囲で手数料を比較しましょう。
ネット銀行の中には、口座開設後一定期間振込手数料が無料になるキャンペーンを展開しているところが増えています。また、法人口座を開設すると審査なしで法人デビットカードを作成できるネット銀行も多く、利用金額に応じてポイント還元によるキャッシュバックが受けられます。
法人口座の開設タイミングは、法人の創設準備期間と重なることが多いため、口座開設にできるだけ手間をかけたくないものです。また、口座開設まで時間がかかってしまうと、取引の機会を逃してしまうことになりかねません。なるべく手間がかからず、早く開設できる法人口座を選ぶと安心です。
法人口座を開設すると、法人専用のクレジットカードが作成できます。この時、社員カードを同時に発行すると、キャッシュレス決済が可能となります。キャッシュレス決済により、現場での煩雑な小口現金のやり取りが減らせるため、経理作業の軽減が可能です。
銀行の中には、法人口座の開設により証券口座との連携ができるところもあります。証券口座では、経費を計上し利益を圧縮することで節税できるだけでなく、赤字を10年繰り越すことが可能です。
銀行がペイジーに対応していると、税金や各種保険料などがネットバンキングで支払いできます。ネット銀行では、ペイジーに対応しているところが多くなっていますが、一部銀行では取り扱いがない場合もあります。
銀行の種類や預金方法によって、法人口座の使い勝手は大きく変わってきます。今回紹介した内容を参考にしながら、自社の業務に最も適した法人口座を選んでみてください。