近年、後継者がいない・事業を立て直したいなどの理由で注目を集めているのがM&Aです。
M&Aを成功させるには、目的に沿った適切な戦略を策定した上で実行に移すことがポイントです。
本記事では、売却側・買収側の各企業で求められるM&A戦略を解説します。これからM&Aを検討している企業の方は、是非ご一読ください。
M&A戦略を策定するには、自社の現状を把握した上でM&Aの目的を定め、相手先となる企業の候補を選びます。ここでは、M&A戦略の策定方法の具体的な流れを解説します。
最初に自社の現状を分析します。自社の財務状況や不足部分などから、M&Aにおいて考えられる可能性や課題を洗い出します。
この時に有効な分析手法が、SWOT分析と呼ばれるものです。SWOT分析では、分析対象となる要素を以下のように分類します。
プラス要因 | マイナス要因 | |
---|---|---|
内部環境 | Strength(強み) 顧客満足度の高さ・会社のブランド力など | Weakness(弱み) 生産力不足・リソース不足など |
外部環境 | Opportunity(機会) 市場の流行・社会情勢など | Threat(脅威) 市場の縮小・競合他社の台頭など |
SWOT分析は、自社の内部環境と外部環境を分析し、強みと弱みを正確に知るために用いられます。適切な分析により、自社の弱みをカバーできる相手とM&Aを組むことで、大きな効果が生み出せます。
SWOT分析を行う前に、M&Aによって成し遂げたい目的をいくつか挙げておき、それぞれの目的に関連するSWOTを抽出します。事前に目的を洗い出しておくことで、方向性をぶらさずにSWOT分析ができます。
SWOT分析により自社の現状を把握したら、目的を決定します。売却側の目的で多く見られるのは、後継者不足や経営者の高齢化による事業承継や、ベンチャー企業による投資回収(イグジット)などです。特に近年の日本では、イグジットが増えて来ています。
一方、買収側の目的としては、新規事業への進出・既存事業の規模や販路拡大・経営の多角化・海外市場の開拓などが挙げられます。これらはいずれも、企業の価値を高めるための手段です。特殊なケースとして、企業再生やグループ内再編を目的にM&Aを実施する場合もあります。
目的が定まったら、M&Aの相手を決めるための市場調査に入ります。目的によって市場調査を行う範囲が変わるため、注意が必要です。
同業他社とのM&Aで、既存事業の拡大を目指すのであれば、同じ業種の中で市場調査ができるため情報が比較的入手しやすくなります。しかし、新規事業への進出や異業種とのM&Aを目的とするのであれば、今までと異なる業種の市場調査が必要です。これまでなじみのない分野の市場調査は、より入念に行わなくてはいけません。
市場調査の後には、M&A完了後の経営戦略をまとめます。目的を実現するための戦略を具体化しておきましょう。
これまでの調査や経営戦略などをもとに、相手先候補をリストアップします。まずは数十社程度リストアップしてロングリストを作り、その後精査しながら数社に絞り込んでショートリストを作成しましょう。ロングリストは、売り手企業が作るケースよりも、M&Aの専門家へ依頼するケースが多いです。
ショートリストを作成し、相手先候補を絞り込んだら、実際の交渉に進みます。交渉方法としては、相手企業に直接交渉するか、もしくは仲介会社などの支援会社を利用するか、いずれかを選択します。
相手企業への直接交渉はとても負担が大きく、ハードルは高いでしょう。既に経営陣同士が顔見知りである場合や、スピーディーな交渉を希望する場合などに選択されます。
一方で支援会社を利用すると、交渉時点で自社名を伏せることができます。専門家から交渉の流れや書類の準備などのアドバイスを受けられるため、M&Aに不安を感じている企業にとって支援会社はとても心強い存在です。
正式にM&Aを行う前に、もう一度自社の財務会計やM&Aに関するリスクを確認しましょう。特に「のれん」に注意が必要です。
「のれん」とは、顧客情報やノウハウなどの経営資産に対して支払われる対価です。これは財務諸表には表されません。会計上では、のれんは純資産に分類され、M&A後は最大20年にわたり償却されます。
ただし、M&Aがうまくいかず、想定よりも業績が下がった場合、減損処理が必要です。減損処理はM&Aの失敗を意味し、税務上でも不利になってしまいます。減損処理を避けるために、財務会計の点検は重要です。
M&A戦略をしっかりと立てることで、M&Aの成功につながります。売却側企業の戦略が曖昧になっていると、不利な条件を受け入れる結果になりかねません。
ここでは、売却側企業が心得ておきたい、M&A戦略のポイントを解説します。
利益が見込める部門とそうでない部門がある場合は、後者の清算を検討する場合もあります。前者に経営を集中させて後者を切り離すことで、M&Aの効果が高まります。
事業領域を選択するには、自社の経営状況と外部環境の動向を注視しながら、状況に合った対応を取る姿勢が重要です。
少子高齢化に拍車がかかっている現代では、後継者不足を理由とする事業承継の手段として、M&Aを選択する事業者が増えています。第三者への事業承継により、後継者不足や資金不足などの経営課題が解決できます。
事業承継では、従業員の雇用確保やブランドの継続など重要な条件を明確にし、円滑に経営統合できるよう話し合いが重要です。
ベンチャー企業にとって、M&Aと新規上場(IPO)のどちらを取るかは大きな問題です。とはいえ、実際に新規上場を実現するのは非常に難しく、M&Aの方が短時間で実現できます。
M&Aによりベンチャー事業に一区切りをつけ、新事業を展開することで投資回収が可能です。M&Aのタイミングは難しいため、新規上場へのこだわりをいつまで持ち続けるか、判断も求められます。
売却側企業のM&A戦略を見てきましたが、ここからは買収側企業のM&A戦略も見てみましょう。
既存事業と関連している企業を買収するのであれば、既存事業の規模を拡大したり強化を図ったりする戦略が効果的です。例えば、サプライチェーンの拡大により、流通コストの削減や製品開発力の向上などが見込めます。
ただし、既存事業の規模拡大には独占禁止法に注意しなくてはいけません。特にM&Aの規模が大きいと、市場シェアが一度に大きくなってしまいます。
共通点が多い商品を扱っている企業を買収することで、迅速なラインナップの拡充が見込めます。同系統の事業を展開している企業の買収により、1からラインナップを広げるよりも、時間とコストが削減可能です。
関連事業の拡大により、新規ターゲットの獲得やブランド力向上などが目指せるようになり、販路拡大にもつながります。
M&Aでは、新規事業への参入を目的とするケースも多いです。今まで展開していた分野と異なる分野で事業を始める場合、1から始めると時間がかかってしまいます。ノウハウを持った企業を買収することで、効率良くスタートできます。
その上、経営のノウハウを引き継げる・新規事業にかかる初期費用を抑えられるなど、M&Aによる新規事業参入は多くのメリットがあるのです。
M&A戦略の策定には、いくつか注意点があります。企業にとって、M&A戦略がマイナスの結果にならないよう、注意点を心得ながら進めていきましょう。
M&Aにより赤字会社を買収すると、繰越欠損金を節税に利用できます。具体的には、繰越欠損金と買収先企業の黒字を相殺し、黒字を抑えることで節税につながります。ただし、この節税には条件があるため、該当するかどうかの確認が必要です。
M&Aでは、基本的に税金は売り手のみに発生します。ただ、株式譲渡ではなく事業譲渡によってM&Aを実施する場合、買い手にも不動産取得税・登録免許税・消費税などがかかります。
M&Aを実施する際の節税対策のひとつとして、役員退職慰労金を活用する方法があります。会社を譲渡した後、退職もしくは引退の道を選ぶ社長・オーナーは、譲渡益を退職金として受け取ることが可能です。
節税対策のふたつ目は、売却を最小限に抑えることです。必要なものだけを売却し、売却しない資産を移動する先として、関連会社を新たに設立すると、売却益も抑えられ節税につながります。
M&Aは、内容次第では従業員の雇用に影響を及ぼす可能性があります。特に売り手側では、M&A前と同じ条件で雇用されるケースが一般的です。一方で、事業譲渡によるM&Aで、雇用契約を再度締結するため、雇用条件が変わる事例も多く見られます。
雇用条件が変わると、従業員は職場環境や雇用条件の変化により将来に不安を感じるようになり、退職を検討することもあります。従業員を保護するためにも、できる限りM&Aを実行する前に今後の方向性などを伝えておかなくてはいけません。
M&Aは頻繁に行うものではないうえ専門的な手続きが多く、会社の現状にどのようなM&Aが適しているかは分かりにくいものです。M&Aを成功させ、従業員が安心して仕事を続ける職場環境を整備するには、専門家のサポートを受けるとスムーズに進められます。
専門家への相談により自社の強みや弱み・課題解決にあった交渉先を見つけ、M&Aの効果を最大限に発揮しましょう。
M&Aの実施には費用がかかるため、特に中小企業にとっては費用面での不安も大きいものです。そこで、M&Aに使える補助金を紹介しますので、活用をぜひ検討してみてください。
事業承継・引き継ぎ補助金は、事業承継をきっかけに新しい取り組みを実施したり、事業再編・事業統合に伴う経営資源を引き継いだりする中小企業等を支援する制度です。事業の承継・再編・統合を促進し、経済活性化を目的としており、以下の3つの事業に分かれています。
申請枠 | 補助率 | 補助上限額 |
---|---|---|
経営革新枠 | 2/3以内 | 最大800万円 |
専門家活用枠 | 2/3以内 | 最大750万円以内 |
廃業・再チャレンジ枠 | 2/3以内 | 150万円以内 |
詳細は、以下の記事をご覧ください。
事業承継・引継ぎ補助金とは?制度概要や対象者、補助額、申請方法などを解説
M&Aは、日本でも一般的な経営戦略手段として、多くの企業が選択するようになってきました。
M&Aの目的によって、戦略や手法が異なってくるため、まずは自社の強みや弱みを把握したうえで、M&Aの目的を明確にすることが大切です。
会社の経営方針に沿ってM&Aを進めると良いでしょう。