M&Aにおけるデューデリジェンスとは、M&Aの最終契約を締結する前段階で行われる買収対象企業に対する各種調査のことをいいます。
デューデリジェンスには種類が多くあり、実施に当っては一定の期間と費用を必要とします。
一方でデューデリジェンスを徹底すれば、M&Aに伴うリスクを最小限に抑え、取引を円滑に行えます。
この記事では、デューデリジェンスについて、M&Aにおける目的や種類、流れから費用まで徹底解説します。
デューデリジェンスとは、企業の経営状況や財務状況などを外部から調査することをいいます。
英語では、Due Diligenceと表記され、DDと略されたり、日本語では買収監査と訳されたりします。
デューデリジェンスは主にM&Aや組織再編を行う際に実施され、依頼者もM&Aの買い手が主です。
デューデリジェンスが行われるタイミングは、M&Aの一連の手続きのうち、「基本合意契約書」が締結された後です。
基本合意契約書とは、M&Aの最終契約書が巻かれる前段階において、売り手買い手双方の合意内容をまとめた書類になります。
デューデリジェンスの期間は、企業の規模や実施するデューデリジェンスの種類によって異なります。一般的な中小企業なら数日内で完了することもあります。
しかし買収対象の企業が大手だったり、事業部や工場が複数に分かれ点在してたりしている場合には、その分、デューデリジェンスの期間も長くなり1ヶ月~数ヶ月に及ぶこともあります。
デューデリジェンスの種類も多く、依頼者が希望するデューデリジェンスの数が多くなればなるほど、実施期間も長期化します。
デューデリジェンスを実施する目的は主に以下の3つです。
1つ目の目的はリスクの特定と評価です。
デューデリジェンスには、M&A等に係り、相手企業に存在する各種リスクを把握・特定して各々評価を下すという目的があります。
より具体的には、企業が抱える財務リスク(不良債権や不良資産)、法務リスク(訴訟案件や法規制違反)、税務リスク(納税延滞、不納付)等がないか、デューデリジェンスで見極め、個別に適切な評価を加えます。
2つ目の目的は企業価値の評価です。
デューデリジェンスを実施して、対象企業あるいは事業の真の価値を評価します。
また企業の競争力や成長性、財務状況等を詳しく調査して、取引価格が本当に適正かどうか精査するのです。
3つ目の目的は新しいビジネスチャンスを発見することです。
デューデリジェンスは、新たにビジネスチャンスを見つけるきっかけにも使えます。
デューデリジェンスを実施する過程で、対象企業の製品や技術が自社のビジネスとマッチすることが分かった場合、統合後に新しい市場を生み出せたり、大きなシナジー(相乗)効果が得られたりする可能性があります。
デューデリジェンスはまさにその判断ができる格好の場でもあるのです。
デューデリジェンスは調査する対象に応じて色々な種類があります。
M&A等で実施される主なデューデリジェンスを12種類、その概要も含めて紹介します。
事業デューデリジェンスはビジネスデューデリジェンスともいいます。
その名の通り、取引対象の会社・事業に関して、ビジネスモデルや事業の弱み強み、技術、取引状況、市場環境、競合他社等を分析したり、経営者・事業のキーマン等へのインタビューを通じ、事業継続の安定性や成長性について予測したりします。
事業デューデリジェンスを通じて、買収額に見合った企業・事業かの判断を行うのです。
財務デューデリジェンスは、実態純資産、正常収益力、キャッシュフロー状況、簿外債務の有無、内部統制管理、買収後のリスク等を把握することを目的として実施されます。
特に中規模・小規模クラスの企業の決算書はその内容と実態が大きく異なっていることがあり、リスク把握のためにも財務デューデリジェンスの実施は必須事項といえます。
法務デューデリジェンスは、対象企業・事業に対して、法務面から想定されるリスクの把握を目的として実施されます。
法務リスクを抱えたまま買収すると、後にそれが顕在して対象企業の評価が下がって損害を被ったり、買収後の事業計画に大きな影響が出てきたりします。
法務デューデリジェンスで特に調査項目として重要なのが許認可と訴訟で、許認可がある企業・事業を引き継ぐ場合、許認可も一緒に引継ぎできないと事業も継続できず、訴訟を抱えていれば後に買収先が大きな賠償金を支払わねばならないリスクがあります。
法務デューデリジェンスは、それらの可能性をなくす、あるいはリスクを引下げるための大事な作業なのです。
税務デューデリジェンスは、対象企業が買収後の経営に影響を及ぼす重大な税務上のリスクはないかを洗い出し把握するための作業です。
もし調査で重大な税務リスクが発覚した場合、「そのリスクを背負ってでも買収するのか」どうかの判断に迫られます。
もちろん税務リスクを抱えたままでも買収OKとなる魅力的な案件もありますが、ケースによっては買収と引換えにM&Aスキームの変更(株式譲渡→事業譲渡等)を強いられる場合もあります。
ITデューデリジェンスは、対象企業の情報システムについて、買収後、旧来システムを継続して使用できるか、あるいはM&A後に両者のシステムを統合する必要がある場合、費用や新システムの導入の是非等を判断するために実施されます。
今日、情報システムの構築は企業の業務の効率化や簡素化のために避けて通れない課題です。
ITデューデリジェンスは、法務・財務・税務デューデリジェンス同様、最も重要な調査のひとつといえるでしょう。
人事デューデリジェンスは、会社の経営資源のうち、最も重要な資源のひとつである人材に焦点を当てて実施する調査です。
M&Aの方法によっては実施後、複数の会社を1つにすることもあります。
その際、各社の人事制度にあまりに違いがあると、統合後に人事面(待遇やポスト、評価等)で不満が発生して、優秀な社員の退職や労働生産性の低下というリスクが顕在化してしまいます。
買収後の社員の退職防止(リテンション)、モチベーションアップのためにも、人事デューデリジェンスの結果を踏まえて適切な対応が必要です。
技術デューデリジェンスは、対象企業が持つ特殊技術や設備等に関して実施される調査です。
上記の主要デューデリジェンスと異なり、対象企業とその必要性に合わせて行われるデューデリジェンスのひとつになります。
環境デューデリジェンスは、対象企業が保有する不動産(土地・建物・機械等)に関して、土壌や地下水に汚染のリスクがないか、大気汚染を起こしていないか、建物に使用が禁止されている資材を使っていないか等、詳しく実施される調査です。
会社が関係する環境に一般社会が向ける監視の目は日々厳しくなっており、環境リスクを抱えた企業を買収することは相当の覚悟が入ります。
それだけに環境デューデリジェンスは、今日、買収先にとっても無視できない重要なデューデリジェンスのひとつといえるでしょう。
デジタルデューデリジェンスは、対象企業が最新のデジタル技術(AI、IoT、AR、VR、ロボティクス等)をどのようにどの程度活用して、企業価値の向上に役立てているか、その評価を行う作業です。
現在、IT領域における各種技術の進歩はめざましいものがあり、その利活用が会社の価値評価に大きく影響しています。
デジタルデューデリジェンスもまた、これから大いに注目されるデューデリジェンスのひとつといえます。
不動産デューデリジェンスは、対象企業が保有している不動産を様々な角度から調査する作業です。
不動産鑑定士が、不動産の価値(市場価値)や収益性(投資の収益性)、不動産そのものを法律の面(建築基準法との適法性、登記内容や所有者など権利関係)から分析します。
不動産を多面的に分析して、その価値や収益性、リスク等を洗い出します。
知的財産デューデリジェンスは、対象企業が保有する知的財産、それに関連した活動の価値、包含するリスク等を調査する作業です。
知的財産も会社評価を左右する大きな資産のひとつであり、M&Aにおいては重要な調査といえます。
会社におけるガバナンスとは、「健全な会社経営を行うために、必要とされる企業自身による管理体制」のことをいいます。
ガバナンスデューデリジェンスは、売り手企業のガバナンスが、買い手企業のガバナンスの基準と同等か、それ以上かを調査します。
分析の結果、売り手企業のガバナンスレベルが買い手以下だった場合、統合後のリスク要因となるのでテコ入れが必要であり、それをコストと見立てて買収額に反映させます。
デューデリジェンスは、原則、M&Aの基本合意契約が締結された後に実施されます。
本章では、デューデリジェンスの一連の流れを解説します。
デューデリジェンスの開始に当り、実施するデューデリジェンスの種類に合わせて業務の担当者と専門家チーム(弁護士、公認会計士、税理士、各種コンサル等)を結成します。
またデューデリジェンス実施中は、対象企業の機密情報を取扱いするので、関係者の間で秘密保持契約を締結します。
次に調査方針を決定して、調査項目とともに、いつまでに必要な調査を終わらせるか決めます。
実施するデューデリジェンスの種類、主な調査内容、予算、完了までのスケジュール等を決めます。
調査方針が決まれば、専門家を含めたチームで対象企業の情報を共有します。
共有する内容は、実施するM&Aスキーム、対象企業の基本情報、実施予定のデューデリジェンス種類、スケジュール等です。
その間のミーティングは、原則、担当者と各デューデリジェンスに携わる専門家で行いますが、必要に合わせて関連の専門家も交えて会議や調査を行うこともあります。
デューデリジェンス実施に当っては、対象企業に係る様々な資料が必要です。
M&A開始の初期段階で買い手には対象企業の基本情報は提供されていますが、デューデリジェンスはその資料だけで進めることはできません。
デューデリジェンスの種類ごと、さらに掘り下げた詳しい資料が必要です。
そのため調査項目ごとに必要とされる資料をリスト化して対象企業に提出を求めることになります。
またリストになくても、必要に合わせて追加で資料を求めることもあります。
対象企業から必要な資料が提出されたら、他の資料とも照らし合わせつつ、情報の真偽や正確性を判断・分析していく作業が待っています。
また追加資料が必要になっても、対象企業の規模によっては、資料を準備するマンパワーが不足してスケジュール内で用意できないケースもあります。
その場合は、信頼できる外部資料や手持ちの資料等も利活用して、デューデリジェンスを進めることになります。
対象企業から提出された資料だけでは企業の実態把握が難しい場合もあります。
そのような場合、専門家による対象企業のオーナー、事業部門のキーマンへの聞き取り調査が実施されます。
また聞き取り調査は、現地調査も兼ねて、対象企業の社内において実施されることが多いです。
しかしM&Aを進めている事実が途中で社員に知られると、社内不安につながる恐れもあるため、聞き取り調査は、土日祭日等、社員が休んでいる機会に行うなどの配慮も必要でしょう。
当初に計画した調査方針に基づきデューデリジェンスが終わると、各専門家は結果報告書を作成して買い手企業に提出します。
また買い手企業の経営幹部は、提出された報告書にも基づき会議を開きM&Aについて議論します。
会議では、報告書に基づきM&Aが抱えるリスク中心に、M&Aの継続や中止の是非が討議され、さらにリスクが許容範囲なら、M&Aの継続を前提にリスク軽減のためどのように買収価格に反映するか、討議が重ねられます。
またデューデリジェンスの結果、問題点やリスクが判明したら、買い手は売り手に対してその解決策を文書で求めることもあります。
その際、売り手側の対応ではリスクを十分取り除けないことが分かれば、M&Aを中止する、あるいは買収価格を大きく引下げる対応をすることもあるでしょう。
デューデリジェンス実施に当っては、弁護士や公認会計士、社会保険労務士や各種コンサル等、外部専門科の支援を必要とするため多額の費用が発生します。
ただしデューデリジェンスの費用には明確に相場というものが存在しないので、以下で紹介する費用もあくまでひとつの目安と理解した上でご活用下さい。
デューデリジェンスでは、実施する対象企業の規模や事業内容、デューデリジェンス種類、外部委託の範囲や専門家の熟練度等でかかる費用も大きく変化します。
そのため決まった金額でデューデリジェンスが実施できるわけではありません。厳密にいえば相場というものもありません。
そのため大雑把な捉え方として、デューデリジェンスの総額で、中小企業のM&Aの場合で数百万円程度、大企業で数千万円程度かかると見込んでおきましょう。
主要なデューデリジェンスによる費用は以下の通りです。
ただし依頼する専門家の熟練度や専門家を派遣する事務所の規模等によっても金額に相当な幅があります。
デューデリジェンス(DD)の種類 | 費用上限の目安 |
---|---|
事業(ビジネス)DD | 300万円まで |
財務DD | 500万円まで |
法務DD | 200万円まで |
税務DD | 200万円まで |
ITDD | 200万円まで |
人事DD | 100万円まで |
デューデリジェンスの会計処理について説明します。
デューデリジェンスにかかる費用は基本的に買い手側企業が負担します。
デューデリジェンスは、買い手側企業が指定した外部専門家等に、売り手側企業の調査を依頼して発生する費用だからです。
一方M&Aは株式譲渡(有価証券の売買)等により、買い手が対象企業の経営権や資産を譲り受ける行為です。
また税法及び会計のルールでは、購入する有価証券(株式等)を特定して行う調査にかかる費用は、有価証券の取得価額に含めるという考えを採っています。
そしてデューデリジェンスは、M&A成立を目的として行う調査です。
つまりデューデリジェンスは、売り手企業の株式を取得するために買い手が行う事前調査なので、デューデリジェンスにかかる費用は、有価証券の取得価額に含んでもよいということになります。
実務的には、買い手にとって、株式の所得費もデューデリジェンスの実施コストも同じ会社の財布から支払うことになるので、デューデリジェンス費用も買収費総額に含めて交渉することになります。
そういう点から、ある意味、デューデリジェンスにかかる費用も売り手側が負担しているといっても良いでしょう。
実際にデューデリジェンスを行うときの注意点を4つ解説します。
デューデリジェンスを行う場合、対象企業の規模や内容に応じて適正な範囲で実施すべきです。
もしM&Aの規模に対して調査する範囲を限定しすぎると、M&Aに悪影響を与えてしまう重大なリスクを見落とす可能性があります。
また逆に調査範囲を広げすぎても、調査コストが上がり無駄な出費につながります。
特に調査費用を抑えるため、デューデリジェンスの専門家に依頼せず社内スタッフだけで済まそうとすると、重大なリスクを見逃し致命傷を負ってしまうこともあります。
M&A規模と調査費用を天秤にかけて適正範囲でデューデリジェンスを実施しましょう。
デューデリジェンスでは、調査項目について優先順位を付けて実施する必要があります。
デューデリジェンスといえど、時間とコストは有限であり、決めた調査期間内にM&Aに必要十分な情報を得て終わるためにも、調査は優先順位を付けて行う必要があります。
そうすればやみくもに調査範囲を広げることなく時間と費用も節約できます。
これは主に売り手側の注意点ですが、買い手側から必要な資料や情報の提供依頼を受けた場合、積極的に提供する姿勢が大事です。
買い手側から情報提供を求められ、時間が必要以上にかかったり、情報の提供を渋る姿勢を見せたりしたら、その姿勢から不信をもたれ、その後のM&Aがうまく進まなくなる可能性もあります。
また予め自社が抱えている経営リスクがあるなら、隠さず事前に相手に伝えておく姿勢も大事です。
隠しておいて後でリスクの存在が判明したら、それが原因で最終的にM&Aの破談につながる恐れもあります。
M&Aの全てのプロセスにおいて、対象企業側は積極的に情報提供に応じる姿勢を欠かさないようしましょう。
デューデリジェンスにおいて、買い手は対象企業の機密情報に触れることになるので、事前に関係者と秘密保持契約を締結します。
買い手側が入手した機密情報をM&A以外の目的に使用したことが相手側にバレたら、相手から損害賠償を請求されるリスクがあります。
そのため買い手としては、情報の取扱いについて情報管理を徹底し、利用する人数も最小限に絞って、情報漏洩のリスクをなくすよう心がけねばなりません。
最後にデューデリジェンスを成功させるポイントを3つ解説します。
デューデリジェンスを成功させるため、各専門家の助けも借りて、対象企業の正確な情報をまとめることが大事です。
デューデリジェンスを行う目的は、対象企業の実態を正確に把握して最終的に買収価格に反映させることです。
その際、デューデリジェンスで集めた情報が正確でないと、買い手が間違った判断をしてしまいます。
正確に情報をまとめるために、あくまで客観的かつ公正な姿勢に基づきデューデリジェンスを実施しましょう。
デューデリジェンスを実施する際、顧問契約している公認会計士や税理士等に相談すれば成功確率を上げられます。
買収する会社の規模が小さければデューデリジェンスも自社のスタッフだけで行うことも可能です。
しかし社内スタッフだけでデューデリジェンスを行うことは、いくら細心の注意を払ってやったところで、法務デューデリジェンスや税務デューデリジェンスなど、高い専門性を必要とされる調査はまず無理ですし、無理して社内だけで片付けたら後でとんでもないリスクが顕在することもあります。
やはり規模の大小問わず、デューデリジェンスはそれぞれの項目において外部専門家に依頼して行う方が無難でしょう。
その際、まずは顧問税理士等に相談して、税理士の専門家ネットワークを利用させてもらうこともデューデリジェンスをスムーズに行うための方法と考えます。
デューデリジェンスを成功させるため、M&Aの専門家に相談して依頼する方法も適切です。
M&Aの専門家は、現実の取引でM&Aに係る様々な問題点をクリアしつつ最終的に取引を成功に導いた経験を多く持っています。
経験豊富なM&A専門家に相談すれば、デューデリジェンスに係るツボも熟知しているので、きっと適切なアドバイスや支援を行ってくれることでしょう。
本記事では、デューデリジェンスについて、その目的や種類、流れから費用まで詳しく解説しました。
徹底したデューデリジェンスの実施が、最終的に適正な買収価額の把握、M&Aの成功、統合後の企業の成長・発展に資するといっても過言ではありません。
本記事も参考にして、ぜひ適切なデューデリジェンスの実施に努めて下さい。