日本で発表されている公的支援制度の中には、制度内容や受給要件が似たものが存在します。事業再構築補助金とものづくり補助金は、明確な違いが分かりづらく、どちらに出すべきか迷いやすいパターンのひとつです。
補助金制度を最大限活用するには、それぞれの制度内容をしっかりと理解しておくことが求められます。本記事では、事業再構築補助金とものづくり補助金の違いや使い分けのポイントなどについて、双方の制度内容を比較しながら解説します。
事業再構築補助金とものづくり補助金の制度の違いについて、項目ごとに比較しながら解説します。
各補助金の事業目的は、公募要項に以下のように記載されています。
事業再構築補助金 | ものづくり補助金 |
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ウィズコロナ・ポストコロナの時代の経済社会の変化に対応するため、思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援することで、日本経済の構造転換を促す | 働き方改革やインボイス導入などの制度変更に対応するため、中小企業・小規模事業者等が取り組む革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行い、生産性を向上させるための設備投資等を支援する |
事業再構築補助金は、新たな事業の構築・再編を支援するための補助金です。
一方ものづくり補助金は、既存事業の生産性を上げるための補助金である点が、大きく異なります。
補助額と補助率も、各補助金制度で以下のように異なります。
項目 | 事業再構築補助金 (中小企業・成長枠の場合) | ものづくり補助金 (通常枠の場合) |
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補助額 | 100万円~7,000万円 | 100万円~1,250万円 |
補助率 | 1/2(大規模な賃上げを行う場合は2/3) | 1/2(小規模企業者・小規模事業者、再生事業者は2/3) |
事業再構築補助金の方が補助額が大きいのは、補助金の性質から予算規模が異なるためです。新たな事業の構築・再編により事業そのものを大きく変えるためには大きな投資が伴いますので、補助額も大きくなっているようです。
各補助金制度において主に補助対象経費となるのは、以下の区分です。
事業再構築補助金 | ものづくり補助金 |
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・建物費 ・機械装置・システム構築費 ・技術導入費 ・専門家経費 ・運搬費 ・クラウドサービス利用費 ・外注費 ・知的財産権等関連経費 ・広告宣伝・販売促進費 ・研修費 | ・機械装置・システム構築費 ・技術導入費 ・専門家経費 ・運搬費 ・クラウドサービス利用費 ・原材料費 ・外注費 ・知的財産権等関連経費 |
※申請枠によって、別途対象経費となるものもあります
上記の表より、事業再構築補助金の方が対象範囲が広くなっています。「補助額と補助率」でも述べたように、事業再構築補助金は事業そのものの改革が必要であるためです。
各補助金における申請要件は、以下のように異なります。
事業再構築補助金 | ものづくり補助金(基本要件) |
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・経済産業省が示す「事業再構築指針」に沿った3~5年の事業計画を作成し、認定経営革新等支援機関の確認を受けている ・補助事業終了後3~5年で、付加価値額を3~5%以上増加させる(または従業員一人当たりの付加価値額を同率以上を増加させる) | ・事業計画期間において、以下の要件を全て満たす3~5年の事業計画を策定 ・給与支払総額を年率平均1.5%以上増やす ・事業場内最低賃金を、毎年地域別最低賃金+30円以上とする ・事業者全体の付加価値額を年率平均3%以上増やす |
ものづくり補助金は社内で事業計画を策定できますが、事業再構築補助金は認定支援機関の協力が必要です。
事業再構築補助金とものづくり補助金は制度内容や対象経費が似ているものの、目的や申請要件が明確に異なります。どちらに出すべきか迷ったら、以下のポイントを参考にしてみてください。
事業再構築補助金とものづくり補助金は、補助金額の上限が異なります。事業再構築補助金の基本事業類型である成長枠の補助金額は、最大で7,000万円であり、中小企業の場合補助率は1/2となっています。一方、ものづくり補助金の補助金額は、通常枠で最大1,250万円であり、補助率は同じく1/2です。
この金額を見てお分かりのように、補助上限額は事業再構築補助金の方が大きくなっています。数千万以上~億単位の投資を予定している場合は、事業再構築補助金を優先的に検討しましょう。
事業再構築補助金の成長枠では、令和5年6月の第10回公募から売上高減少要件が撤廃されています。しかし、全ての枠で撤廃されたわけではなく、売上高等減少要件を満たすことで補助率がより高い「最低賃金枠」および「物価高騰対策・回復再生応援枠」が選択可能となります。
売上高等減少要件には、以下の2つのパターンがあります。
2021年12月以前と比較して売り上げが10%以上減少した
2021年12月以前と比較して合計付加価値額が15%以上減少した
売上高の減少が要件に含まれる2つの申請枠について、売上が上記の数値以上を減少していなければ、事業再構築補助金は申請できません。コロナ禍前よりも売上が上がっていれば、他の申請枠か、ものづくり補助金を選択することになります。
事業再構築補助金には、事前着手申請という制度があります。これは、採択・交付決定前に発注及び支払いを行った経費を、事業再構築補助金の補助対象経費として計上できる制度です。 通常は、交付決定後に発注を行った経費のみが補助対象経費となりますが、事業再構築補助金では事前着手申請制度を利用することで、過去の支払済の経費を対象にすることができます。一方ものづくり補助金には事前着手申請制度がないため、すでに支払った経費を補助対象経費として申請したい場合は、事業再構築補助金で申請を行う必要があります。
広告費を補助対象経費としているのは、一部例外を除き、事業再構築補助金(広告宣伝・販売促進費)のみです。対象経費に広告費が含まれていれば、申請できるのは事業再構築補助金となります。
ものづくり補助金の通常枠は広告費に対応していないため、経費の内訳を確認するようにしましょう。
ものづくり補助金では、基本要件として賃上げ要件が規定されていますが、業種や事業者によっては賃上げが厳しい場合があります。特に、元々賃金水準が低い業界や、非正規労働者が多い業界・事業者では、地域別に設定された最低賃金に30円以上プラスすると、補助金額以上に負担となってしまいます。賃上げが厳しい場合、事業再構築補助金の検討が必要です。
「事業目的」の項でも解説したように、事業再構築補助金は新規事業への取り組み・ものづくり補助金は生産性向上を目的とした補助金です。事業内容によって、どちらの補助金制度が該当できるか決まってくるため、各補助金の公募要項と事業内容を照らし合わせて今一度確認しましょう。
事業内容によっては、どちらの条件にも該当する場合があります。このケースでは、補助金額が高い事業再構築補助金への申請をおすすめします。ただし、事業内容が複数の分野に渡っている場合は、十分な検討が必要です。ここは明確な判断が難しいポイントでもあるので、外部のコンサルタントの助言を受けても良いでしょう。
事業再構築補助金公式サイトの「よくあるご質問」の中に、ものづくり補助金との併用が可能であると明記されています。ただし、同一事業では併用できない点に注意が必要です。
例えば、コロナで売り上げが減少した焼肉店が、新商品開発とテイクアウト事業に取り組むのに、新商品開発にはものづくり補助金を、テイクアウト事業には事業再構築補助金を使うケースでは、事業内容が異なるため併用が認められる可能性はあります。ただし、テイクアウト事業にものづくり補助金と事業再構築補助金の両方を申請することは不可能です。
また、同じ事業を海外で展開し、海外で既に補助金を受け取っている場合は、日本国内で補助金を受け取ることはできません。海外で事業を展開している事業者の方は、注意が必要です。
この記事では、事業再構築補助金とものづくり補助金の違いについて解説しました。
双方の補助金制度には明確な違いがありますが、申請時点でどちらを選んだら良いか迷ってしまう事業者の方も多いと思います。
選択すべき補助金や申請枠を知りたい場合は、補助金に詳しい専門家やコンサルタントなどに相談してみましょう。