ビジネスの成長を見据えたとき、販路拡大は重要な手段のひとつです。特に、事業が軌道に乗り出した後、売上の伸びが少しずつ鈍化していくタイミングでの販路拡大は、事業を次の段階へ進めるための重要な局面となります。
この記事を通して、販路拡大に向けどのような方法があるのかを理解し、取り組むべき対策を考えていきましょう。
販路拡大とは、自社の商品やサービスの販売経路を広げ、売上を伸ばし顧客を増やすための取り組みをさします。既存の販売経路から、より多くの顧客へアプローチする手法をさすのが一般的です。
販路拡大と似た言葉として「販路開拓」がありますが、これは新しい販売経路を築くための取り組みです。例えば、今までの販売経路がテレアポや営業のみであった場合、見込み顧客に対してSNSを使ってアプローチする取り組みが販路開拓です。
販路拡大と販路開拓は、厳密には意味が異なりますが、実際には同じ意味として使われるケースも多々見られます。販路拡大という言葉に販路開拓の意味を含んでいる場合もあるため、内容が理解できていれば無理に区別する必要はありません。
販路を効率良く拡大するためには、以下の流れに沿って進めるのがおすすめです。
市場調査と分析
ターゲットの設定
ターゲットに合った販路の選択
それぞれのステップの具体的内容や注意点を見ていきましょう。
最初に、現状の販売状況を把握するため、市場調査と顧客分析を行います。自社の商品を購入している顧客や市場規模を分析すると、適切な販路が検討しやすいためです。
顧客データの入手方法は、事業内容や業界によって異なります。ECサイトであれば、流入元・年齢層・性別などのユーザー属性は、登録会員情報やアクセス解析データなどから取得できます。実店舗では、会員カード情報やPOSデータに加え、近年では画像分析による来店客データも活用されています。
市場データの入手方法としては、リサーチ機関が公開しているデータを参照するほか、上場企業の決算資料(IR)や政府の統計データも無料で活用できる可能性がありますので、是非チェックしてみてましょう。
市場調査と顧客分析が完了したら、自社のターゲットを設定します。市場には、様々な顧客やサービスプロバイダーが混在しています。ここで多くの顧客をターゲットにしてしまうと、それぞれの細かなニーズは異なっているため、誰にも刺さらない販路拡大施策になってしまいます。そのため、「ターゲットを絞り込む」ことが重要となります。
たとえば弁護士は、業務内容が法令等により定められていることから、他社と差別化しにくい玉石混交の業界です。ここでは中小企業向け弁護士として訴求しても、まだ競合が多く残ります。そこで自分の得意分野、たとえば著作権専門の弁護士として、著作権を守りたい作家、アーティスト、クリエイターなどを顧客として設定します。これがターゲティングです。これでもまだ競合が多い場合は、漫画専門の弁護士などと更に絞り込んで行くことも可能です。
絞り込みすぎると対象顧客が少なくなってしまうのではと心配になるかもしれませんが、最初は絞り込みすぎるくらいがちょうどよく、小さな市場でもナンバーワンになることが認知を獲得するきっかけになります。ターゲットは、現在の市場で十分価値提供ができていると感じてから徐々に広げて行くのがおすすめです。
ターゲットが明確に見えてきたら、ターゲットに効果的にアプローチできる販路とマーケティング戦略を選びます。販路を決めず手当たり次第に実践してしまうと、正確な効果測定ができないばかりか、費用を無駄に浪費してしまう可能性もあります。ここではどの販路を選択すればターゲットに効率よくアプローチできるかを考えます。
たとえば、インターネットで検索するだけでターゲットのリストが簡単に作成できる場合もあれば、誰かに紹介してもらわないと顧客にたどり着けない場合もあります。SNSが流行っているからといって安易に飛び込むのではなく、ターゲットに合わせた販路を選択することが重要です。
次の項から、具体的な販路拡大の方法をご紹介していきます。
インターネットを使った販路拡大方法は、オンラインで取引ができることで幅広い顧客をターゲットにできる点がメリットです。例を見ていきましょう。
インターネット通販は、ECサイト・ネットショップとも呼ばれており、社会情勢の変化に伴い需要が高まっています。ユーザーは、場所や時間を選ばず好きなタイミングで購入が可能であり、販売者側は全国のユーザーにアプローチでき実店舗にかかるコストも削減できます。
若年層は、Facebook・Instagram・X(旧Twitter)・tiktokなどのSNSから情報を収集することが一般的となっています。SNSでの情報発信に合わせて、自社のブログやメルマガ・ホームページなどへの誘導ができると、新たな販路として活用できるでしょう。
経営者はFacebookをよく使う、Instagramはクリエイターが多い、Xは情報収集として活用されやすいなど、SNSによってもタイプが異なります。好き嫌いや得手不得手ではなく、どのSNSを使うべきかも慎重に検討するようにしましょう。
また、SNS特有の手法にインフルエンサーマーケティングがあります。ターゲットに対する影響力が強いインフルエンサーが情報を発信することで、一定の集客力が期待できます。
オウンドメディアとは、企業の公式サイトと別に設けるサイトであり、ファンを定着させるために価値のある情報を発信するためのものです。自社商品やサービスの紹介に加え、見込み顧客が求めている情報の発信により、ニーズが顕在化していない潜在顧客の集客効果もあります。
ただし、オウンドメディアで集客を行うためには、検索上位に表示させるためにSEO等を意識する必要があります。
インターネット広告には、SNS広告・ディスプレイ広告・リスティング広告・ネイティブ広告など、さまざまな種類があります。インターネットを使った他の手段よりも短期間で販路拡大の結果が期待できる一方、媒体に応じた広告費がかかります。
広告費に見合った成果を得るには、目的やターゲットに合った媒体の選定が重要なポイントとなります。販売している商品の粗利の大きさによっても、利用できる媒体が限られるでしょう。
コーポレートサイトとは、企業の公式サイトのことです。コーポレートサイトは名刺代わりにもなりますし、もっとも基礎的な販売チャネルの一つです。見込み顧客は、購入の検討段階でコーポレートサイトの内容を確認し、信頼できる会社がどうか判断することも多く、コーポレートサイトは顧客に信頼してもらえるかどうかの重要な鍵となります。
幅広い顧客に商品を販売しているなら、顧客が安心して商品を購入でき、リピーターになってもらえるよう、コーポレートサイトは必ず作成しておきましょう。
上記で紹介した方法以外にも、販路拡大を目指せる戦略はたくさんあります。ここでは、メールや電話などを使った方法をご紹介します。
DM(ダイレクトメール)は、はがきや封筒などの郵便物で顧客にアプローチする方法です。オンラインでアプローチできない顧客に対して、デザインや文言などを工夫することで、顧客の興味を高める効果が期待できます。特に、手書きのDMは顧客に与えるインパクトが強く、開封してもらえる可能性が高いと言われています。
オンラインでのアプローチが主流となっている現代では、DM送付を逆に新鮮と感じる顧客もいるでしょう。
顧客にとって有益な情報をメールマガジンで発信し、興味を持った顧客に対してアプローチをかけることで集客力や成約率を高められます。メールマガジンの中で見込み顧客に対して商品のポイントなどを知らせると、すべてをゼロから説明する必要がなくなり、全体として営業効率のアップが期待できます。
ただし、メールマガジンの発信は計画的に行う必要があり、そのための準備として時間やお金が必要となる場合もあります。
ウェビナーとは、オンラインで開催するセミナーのことで、時間や場所を選ばず遠方の顧客にも参加してもらえるメリットがあります。人数の制限もないうえ会場費もかからず、開催側にとってメリットが大きい販路拡大方法のひとつです。
ウェビナーの注意点としては、参加者の反応が分かりにくいことや、通信面でのトラブルが起こりやすいことなどがあります。ウェビナーの開催前に、アンケートや開催後の流れなどもしっかりと確認・準備をしておくようにしましょう。
テレアポは、新規顧客へのアプローチの中でも最も基本的な手法の一つです。メールによるアプローチへの反応がない顧客に対して使われるケースも多く、短時間で多くの顧客へアプローチできます。
トークスクリプトの作成など、テレアポによる新規顧客の獲得にはノウハウが必要となるほか、アポが取れない場合の営業担当者に関するメンタルケアも必要となります。
自社で販路拡大に向けて取り組む以外に、外部サービスを利用する方法もあります。具体的にどのような方法があるのか見ていきましょう。
自治体によっては、販路拡大を支援するサービスを提供しているところがあります。例えば、東京都中小企業振興公社では、販路拡大のための展示会出展などにかかる費用の一部に対して助成が受けられます。東京都産業労働局でも、国内外の販路開拓相談や展示会出展費用の助成制度などを設けています。
行政支援サービスは基本的に無料で受けられますので、自治体でどのような支援サービスがあるのか調べたうえで、積極的に活用してみましょう。
展示会や商談会への参加により、商品の認知度を高めたり、見込み顧客と繋がりを持ったりできるようになります。国内外で数多くの展示会や商談会が実施されており、テーマを決めて実施されることが一般的です。
展示会では直接顧客の声を聞くことができるというメリットもあります。直接顧客と会って話したい場合は、テーマに合った展示会を探してみましょう。
ビジネスマッチングは、ビジネスパートナーを探している企業同士を結びつけるサービスであり、販路拡大に効果的につなげられます。販路を拡大するには、商品にあった販路を見つけ出すことが重要ですが、ビジネスマッチングを利用するとニーズが合致する企業に出会えるチャンスが増やせます。
ビジネスマッチングは、誰でも参加できる異業種交流会といったカジュアルなものから、行政や金融機関、サービスプロバイダーなどが主催しているものもあります。自社のニーズに合ったものを探してみましょう。
なお、ビジネスマッチングの詳細やおすすめサービスは以下の記事で紹介されています。
ビジネスマッチングとはなにか? メリットとおすすめのマッチングサービス16選| WizBiz資料ダウンロード
前述の通信手段を使う方法以外にも、人同士のつながりを活かした販路拡大方法も積極的に活用したいものです。ここでは、高い効果が見込める方法をご紹介します。
販路拡大に向けた昔ながらの手法であり、相手の顔を見て取引を判断したいと考える事業者に対して効果的です。新型コロナウイルスの影響やリモートワークの広がりにより、飛び込み営業を行う企業は減少していますが、直接対話することで売りやすい商材もあるため、選択肢のひとつとして検討したいものです。
見込み顧客に対し、商品についてのイベントやセミナーなどを対面で開催すると、訪れた顧客が商品に興味を持つ可能性が高くなります。直接商品の魅力を伝えることで、成約率を上げられるため、高額な商品の販路を拡大したい場合に有効な方法です。
リファラルマーケティングとは、取引先や知り合いから見込み顧客を紹介してもらう販売形式です。共通の知り合いからの紹介により、信頼関係がある状態から商談を始められます。
リファラルマーケティングは信頼のおける人からの紹介ということもあり、商談化率、成約率が最も高いと言われていますが、多くを期待できないのがデメリットです。数を増やすためには、紹介者にもメリットとなるような方法を検討してみるのも良いでしょう。
販路拡大をスムーズに進めるには、以下の2つのコツを押さえておくようにしましょう。
助成金など行政サービスを活用
コンサルティングを受ける
「行政支援サービスの活用」の項でもご紹介したように、行政サービスの中には、企業向けの販路拡大の支援サービスも含まれています。詳しいサービスの内容は自治体ごとで異なり、助成金を受け取れる条件もそれぞれ決められています。販路拡大を効果的に進めるため、こまめにチェックしておくと良いでしょう。
販路拡大の手法の選択や、販路拡大に行き詰まった時の対策法など、販路拡大について相談したいことがある場合、コンサルティングを受けるのも一案です。第三者からの客観的なアドバイスにより、適切な対策法が見つかる場合もあります。
販路拡大において大切なのは、自社に合った手法を見極めることです。販路が多様化している現代で手法を見極めるのは難しくなっていますが、まずは市場調査の上でターゲットを設定するところから始めると、自ずと手法が見えてくるでしょう。
販路拡大には補助金も活用できます。この記事で紹介したような施策を取り入れる場合は、実施する前に専門家に相談してみましょう。