株主が自分の保有する株式を他者(受贈者)に贈与したいと考えたとき、気になるのは贈与税の額ではないでしょうか?
また贈与税の計算方法や株式贈与のメリットやデメリットも気になるところです。
しかし贈与税を含む税の領域は種類も多く、税金に関する記事や専門家の助けがないと理解もなかなか進みません。
本記事では株の贈与税を取り上げ、その内容について詳しく解説します。
「株式贈与」とは、自分が保有している株式を他者に譲る際のひとつの手段です。
贈与とは、その株式を「無償」で他者に譲渡することを指し、税負担の軽減を期待しつつ、生前に行われます。
一方自分が保有する株式を他者に譲る際、別の手段として「株式譲渡」がありますが、株式譲渡は株式の売買を以て所有権の移転を行うので、株式贈与と株式譲渡は明確に方法が異なります。
株式贈与する際には、所定の手順に沿って手続きを進める必要があります。
また手続きも、上場株式を贈与する場合と、非上場株式を贈与する場合で異なります。
上場株式を贈与する場合、手続きとして、株主がまず「保有している上場株式を贈与したい」旨、上場株式を保管してもらっている証券会社に伝えます。
そして証券会社が発行してくれる所定の依頼書に内容を記載して、贈与者が用意した贈与契約書とともに証券会社に提出することで手続きが完了します。
一方非上場株式の贈与の場合、手続きはやや複雑になります。
なぜなら非上場株式は証券会社に預けていないため、贈与の手続きを贈与者本人が行わねばならないからです。
通常、以下の手順で贈与手続きを実施します。
贈与の事実を証明するため、株式贈与契約書を作成します。
契約書には贈与者の贈与の意思、受贈者の受贈の意思があることをそれぞれ明確に記載しておきます。
贈与する予定の株式に「譲渡制限」がつけられている場合(未公開株式等)は、事前に会社に対して株式譲渡の承認の請求をする必要があります。
承認手続きは取締役会、または株主総会で決議されます。
そして会社から譲渡承認が得られれば、株主名簿に受贈者の指名や住所、株数等を記載して手続きは完了です。
一般的に株式の贈与では受け取った人(受贈者)に対して贈与税が課されます。
しかし贈与された株式の評価額が贈与税の基礎控除額110万円以下の場合には贈与税がかかりません。
そのため、株の贈与税を計算するためには、贈与の元となった株式の評価額がいくらになるか、先に計算しておく必要があります。
自分が保有する株式を他者に贈与すると、贈与された株式は贈与税の計算対象となります。
そのため株式を贈与で受け取った人には贈与税が発生します。
贈与税の計算式は以下の通りです。
(贈与された株式の相続税評価額-110万円) × 税率 |
贈与税は贈与された財産の価額に応じて納税額が変動するため、株式の評価額がいくらになるかが重要ですが、株式の評価方法は「上場株式」と「非上場株式」で異なります。
そこで以下で上場株式の贈与の場合と、非上場株式贈与の場合の株式の評価方法について解説します。
上場株式とは金融証券取引所に上場されている株式をいいます。
国税庁の定めでは、上場株式は「その株式が上場されている金融商品取引所が公表する課税時期の最終価格によって評価する」となっています。
つまり上場株式では、「終値」をもって評価を行うということになります。
ただし課税時期の最終価格が以下の4つの中で最も低い価額を超える場合は、その最も低い価額で評価するというルールになっています。
株が贈与された日の終値
株が贈与された日を含む月の毎日の終値の平均
株が贈与された日を含む月の前月の毎日の終値の平均
株が贈与された日を含む月の前々月の毎日の終値の平均
参照先:国税庁/上場株式の評価
一方非上場株式の場合、流動性も低く株式が売買されることは極めてまれで、価格も公表されていません。
そのため非上場株式の相続税評価額をいくらにして贈与税の計算を行うのか、実務的に難しい面が多いです。
また非上場株式の場合、経営権を持つ場合と持たない場合でも評価方法が違っています。
以下で「経営権を持つ場合」と「持たない場合」の評価方法を説明します。
贈与を行う株主がその株式の会社の経営権を持っている場合、株主自身の経営意思が会社の業績に反映されるので、株式評価も会社の業績などから求めることになります。
区分 | 評価方法 |
---|---|
大会社 | 類似業種比準方式により評価 |
小会社 | 純資産価額方式により評価 |
中会社 | 大会社と小会社の評価方法を併用して評価 |
参照先:国税庁/取引相場のない株式の評価
なおこれらの計算は複雑な内容となるので、具体的な評価方式については、会計士・税理士等の専門家にご相談下さい。
経営権を持たない場合の非上場株式の評価方法についてです。
「経営権を持たない場合」の株主とは、主に株式の配当を受け取ることを目的として株式を保有している株主のことを指します。
その株主が贈与を行う場合、株式の評価は配当還元方式を使います。
配当還元方式とは、その株式を所有することによって受け取る一年間の配当金額を、一定の利率(10%)で還元して元本である株式の価額を評価する方法です。
株式贈与が行われると、株式を受け取った人(受贈者)はその価額に応じて贈与税を納めねばなりません。
以下、株の贈与税について、計算方法を暦年贈与の場合と相続時精算課税制度の場合に分けて解説します。
暦年贈与とは毎年贈与を行う行為をいいます。
株を毎年贈与すると、毎年贈与税の計算をしなければなりません。
一見、このやり方は面倒に見えますが、じつは暦年贈与には大きなメリットがあります。
それは贈与税の計算を行う際、適用される110万円の基礎控除が毎年利用できるということです。
たとえば評価額が1,000万円の株式があって、その株式を10年にわたり100万円ずつ贈与すれば、毎年の贈与額が基礎控除額以下なので、贈与税の負担額がゼロとなります。
以下、特例贈与財産用税率と一般贈与財産用税率のケースに分けてさらに詳しく説明します。
なお、繰り返しになりますが、贈与税の計算式は「(贈与された株式の相続税評価額-110万円)×税率」です。
特例贈与財産とは、株式等の財産を直系尊属(祖父母や父母)から18歳以上の子や孫に贈与するケースの財産種類をいいます。(令和4年3月31日以前の贈与に関しては20歳)
特例贈与財産用の税率は以下の通りです。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
参照先:国税庁/贈与税の速算表
一般贈与財産とは、株式等の財産贈与において、特例贈与財産に該当しない場合をいいます。
例えば、兄弟間で贈与する、夫婦間で贈与する、親から子に贈与する際に子が未成年の場合等が一般贈与財産の贈与に該当します。
これらの場合、贈与税の計算では、特例贈与財産用税率より厳しめの一般贈与財産用税率が適用され、税率は以下の表の通りです。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
参照先:国税庁/贈与税の速算表
株式の贈与を受けた場合、贈与を受けた年に、暦年贈与の代わりに「相続時精算課税制度」という別の制度を選択することもできます。
相続時精算課税制度は、贈与財産に対して最大で2,500万円まで特別控除が受けられる制度です。
1回当りの控除額が大きいので、暦年課税以上の控除が受けられる一方、手続きが複雑であり、また一度、相続時精算課税制度の適用を受けると、再び暦年贈与に戻せないなどの制限もあります。
そのため制度の選択に当っては、相続時精算課税制度について事前の十分な理解が必要です。相続時精算課税制度については、以下の章の「贈与税の節税のポイント」でも解説します。
なお、贈与税の計算など専門家に相談してみたいという方は、以下のサイトで税理士が検索できます。興味のある方は検索してみてください。
株式贈与のメリットを4つ紹介します。
メリットの1つめは、暦年贈与で年間110万円の基礎控除が受けられる点です。
課税所得から基礎控除額110万円を差し引いた金額に対して所定の税率を乗じた金額が贈与税となるので、株式贈与の評価価額が110万円以下なら贈与は課税されません。
さらに基礎控除は年をまたげば再利用可能なので、複数年にわたり株式贈与を行えば、贈与税を一切納めず多額の株式を贈与可能です。
メリットの2つめは、小分けの贈与で税率を抑えることができる点です。
株式での贈与の場合、贈与した株の金額が基礎控除内で収まらなくても、贈与の回数を増やすと適用税率が低くなります。
一方一度にまとめて贈与すると、贈与税は累進税率かつ他の税率(所得税・相続税等)より高いので、課税価格が大きくなれば税率も高くなって納税額が増えてしまいます。
そのため、株式贈与を行うときには、小分けにして暦年贈与を行うことで、税率を下げて納税が可能です。
メリットの3つめは、株式の評価額を抑えて移転ができる点です。
相続などのケースでは、株式の所有者が亡くなった日を起点にして株式が移転されるため、相続の日を自由に選べません。
しかし株式の贈与の場合、所有者が生きているので、両者で相談して、いつでも好きなだけ、株を移転できます。
株価は日々変動しているので、株価が下がったタイミングを狙って贈与すれば、株式の評価額を抑えて移転が可能です。
メリットの4つめは、世代を飛ばして贈与可能な点です。
相続で株式を移転する場合、遺言書がある場合を除いて、一般的に子供が株式を引継ぎます。
しかし贈与の場合は、所有者の意思次第で誰に対しても株式を移転できます。
株式贈与のケースでは、子供だけでなく、世代を飛ばして孫に、ひ孫にと株式を移転することも可能です。
子が株式を相続すれば、一定期間経過後、今度は孫が株式を相続する時期が来るので、相続税が2回課されることになります。
しかし世代を飛ばして贈与ができれば、少なくても課税されるのは贈与時の1回だけなので、その分税負担を軽減できます。
株式贈与のデメリットを3つ紹介します。
デメリットの1つめは、定期贈与とみなされる可能性があることです。
贈与税の基礎控除を繰り返し利用して贈与を行うことを暦年贈与と呼びますが、あまり定期的に贈与を繰り返すと、「定期贈与」と税務当局に見なされ、贈与の合計金額に対して贈与税が課されてしまうリスクがあります。
このリスクを避けるためには、贈与を行うたび、「贈与契約書」を作成して必ず記録に残しておき、いつでも税務当局に提出できるよう準備しておくことです。
さらに毎年、贈与の時期を変えたり、違う金額で贈与したりしておけば、定期贈与と見なされるリスクを下げることができます。
デメリットの2つめは、一定額を毎年贈与する場合は記録が必要で手間がかかる点です。
暦年贈与は、株式の評価額が基礎控除内にあれば、毎年繰り返していても申告の必要がなく、気軽に利用できます。
しかし基本的知識を欠いたまま株式贈与を繰り返していると、確定申告時にいきなり税務当局から「定期贈与」を指摘されて、多額の贈与税が課されるリスクを抱えています。
そのようなリスクを避けるためにも、株式の受贈者は、たとえ手間でも毎年贈与の記録を残して保管しておかねばなりません。
デメリットの3つめは、贈与契約書作成や記録などに時間や手間がかかる点です。
通常の暦年贈与は一定の条件の下、申告不要なので、定期的な管理を行う必要はありません。
しかし定期的に贈与を受ける場合、税務署からの定期贈与の指摘を受けず、余計な税負担を避ける意味からも、贈与契約書作成や贈与記録の管理ということに手間がかかることを覚悟しておきましょう。
株式贈与における贈与税の節税ポイントは以下の3つです。
株式を贈与するときには、株式の価値(株価)をできるだけ引き下げて贈与すれば、結果として贈与税額を抑えて節税できます。
株式の価値評価には、会社の配当金、利益、純資産等の数値が使われるので、各々の額や資産価値を減少させる工夫をすることで株式の評価を引下げれます。
相続時精算課税制度を利用すれば、贈与した財産の合計額に対して最大で2,500万円の特別控除が受けられます。
2,500万円を越えた財産部分には20%の課税が発生しますが、あくまで2,500万円までの財産は贈与税が課税されず財産を渡せます。
ただし相続時精算課税制度は、あくまで課税の時期を相続時まで先送りしているだけの制度です。
そのため、この制度を利用して贈与した財産に関しては、相続時に他の相続財産と合わせて再計算されて、必要に応じて相続税が課税されます。
贈与する非上場株式等について、贈与税の納税猶予・免除の特例を活用すれば、税の納税猶予や免除が可能です。
事業承継税制では、会社の後継者が、円滑化法の認定を受けている非上場会社の株式を先代より贈与により取得した場合、その贈与税において、一定の要件の下、納税を猶予されたり、後継者の死亡等の際には納税が猶予されている贈与税が免除されたりします。
参照先:国税庁/非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除のあらまし
株の贈与税に関して、贈与税の計算方法や株式贈与のメリット、デメリットを詳しく解説しました。
株の贈与税の計算については、様々なケースがあるので、経営者が独自に計算するには難しい場合が多々あります。
株式を贈与予定で納税額を知りたい場合、本記事も参考にしつつ、知り合いの会計士・税理士等に事前に相談されることをおすすめします。