商工会議所という名前は聞いたことがあるものの、どのような活動をしているのか良く分からないという事業者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。商工会議所は自由加入制ですが、地域社会に貢献する団体として多くの事業者が加入し運営されています。
今回は、商工会議所の仕組みや業務内容などについて解説します。地域に根差した事業を展開したいと考えている事業者の方は、商工会議所について理解を深めておくと良いでしょう。
最初に、商工会議所の定義・役割・歴史などについて解説します。
商工会議所とは、「商工会議所法」という法律に基づき運営されている、日本で最も歴史と実績を持った地域総合経済団体(特別民間法人)です。営利を目的とせず、地域における商工業の総合的な発展を図るために、地域の商工業者が協力し合いながらさまざまな活動を行っています。役所とは異なるものの、国や自治体のバックアップを受けており、役所が行うような仕事も請け負っていることから、公的な機関と位置付けられています。
2023年4月現在で、全国の商工会議所の数は515・会員数は125万に達しており、日本商工会議所が全国の商工会議所を総合調整しています。法律によって設立された組織であり、商工会議所が消滅する可能性はほとんどないとされています。
商工会議所は、以下の4つの特色を持っています。
総合性(個人・法人・業種・規模に関わらず、全ての商工業者が加入できる)
地域性(地域を基盤として商工業の発展を図る)
公共性(公益法人として強い公共性を持っている)
国際性(世界各国と交流を深める)
日本で商工会議所が設立されたのは、1878(明治11)年でした。江戸時代に欧米列強と締結した「貿易に関する不平等条約」を撤廃するために、東京・大阪・神戸に商法会議所として設立したのがはじまりです。
その後、1892(明治25年)に、15の商業会議所からなる連合体として商業会議所連合会を結成しました。1928(昭和3)年に、商工会議所法が施行されたのに伴い、日本商工会議所が成立しました。1954(昭和29)年に特別認可法人となった後、2002(平成14年)には特別民間法人に改変され、現在に至っています。
商工会議所と似た組織として、商工会があります。業務が類似しているうえ、国や自治体がバックアップしていることで、違いが分かりにくいという声もあります。商工会議所と商工会の主な違いを、表を使ってご紹介します。
主な違い | 商工会議所 | 商工会 |
---|---|---|
根拠法 | 商工会議所法 | 商工会法 |
管轄している官庁 | 経済産業省・経済産業政策局 | 経済産業省・中小企業庁 |
設置基準 | 市区単位 | 町村単位 |
会員の事業規模 | 小規模事業者から大企業まで幅広い | ほとんどが小規模事業者 |
事業内容 | 中小企業支援・国際活動支援など | 経営改善普及事業 |
意思決定機関 | 30人から150人の議員総会 | 全会員による総会 |
上記の表から分かるとおり、商工会は商工会議所に比べ規模が小さく、地域に根差した事業を展開しています。商工会の特徴は経営改善普及事業であり、商工会議所でも同様の事業は行っているものの、事業全体に占める割合はさほど大きくありません。
商工会議所法とは、商工会議所を運営するために、運営に必要な事柄や目的などを定めた法律です。商工会議所法の条文には、商工会議所が公的かつ中立的な機関であることを示した内容が記されており、商工会議所について理解を深めるのに重要な法律といえます。
商工会議所への入会資格は、基本的には入会を希望する商工会議所の管轄地域で営業を行っていることとなっています。法人・団体・個人事業主・外国法人などの区分は問われませんが、一部の事業(病院・風俗・消費者金融など)に従事している事業主・経営者は入会できません。
法人や団体以外でも、商工会議所の趣旨に賛同すれば、特別会員として入会可能なケースもあります。特別会員は、議会選挙には関わることができませんが、商工会議所のサービスは利用できます。
詳しい入会資格については、入会を希望する商工会議所へ直接問い合わせてみてください。
商工会議所は役所ではないため、税金を活動資金として使っていません。主に以下の3つの方法で収入を確保し、活動資金に充てています。
会費
事業運営
補助金獲得
事業者が商工会議所の会員になると、定款により会費の納入が定められています。2021年度の一般会計収支法決算書によると、2021年度の会費収入は、正会員会費と特別会員会費を合わせて、およそ7億5,733万円です。
商工会議所では、検定事業・頒布事業・各種研修会や講習会など、さまざまな事業を運営しています。この他にも、手帳や記章の販売・システム手数料・システム登録料・広告収入などもあります。2021年度の事業収入は、総額でおよそ58億9,246万円です。
商工会議所の役割のひとつに、会員や事業者からの相談対応や経営指導などが含まれます。これらの役割に対する補助金収入は、2021年度でおよそ21億8,461万円です。
上記以外にも、雑収入や繰越金などの収入もあり、2021年度の総決算額はおよそ96億6597万円となっています。
商工会議所では、政策提言活動のほかに、以下の2つの業務を遂行しています。
まちづくり・産業振興・観光振興の推進
中小企業支援
それぞれの業務内容を詳しく見ていきましょう。
活力ある地域社会創造への取り組みを支援するために、2004(平成16)年度から全国商工会議所観光振興大会を開催しています。また、関係機関と協力しながら、地域住民が住みよいと感じる街づくりを進めています。
一例として、公共交通としてLRT(ライト・レール・トランジット=次世代型路面電車システム)の導入や、商店街に昭和のまちづくりを再現するなどの取り組みがあります。
ヒト・モノ・カネ・情報などの中小企業の経営基盤強化、経営革新、後継者育成などに向けた支援活動も、商工会議所の重要な活動です。具体的には、経営支援、事業承継、金融支援、創業・経営革新の推進などを通じて、経営支援力の向上を図っています。
商工会議所に入会することで、主に以下のメリットが得られます。
経営のアドバイスがもらえる
確定申告の相談が可能
人脈を作ることが可能
研修やセミナーを受講できる
融資や補助金などを受けられる
福利厚生がある
商工会議所では、企業経営に関する総合的な相談を受け付けており、会員企業にあったアドバイスが受けられます。商工会議所以外に、経営のアドバイスをもらえる専門家には、中小企業診断士・弁護士・税理士・社労士などがありますが、人脈がない状態で専門家にいきなり依頼するのは難しい場合があります。相談できたとしても、紹介状がないと相談料がかかる可能性もあります。
商工会議所では、窓口相談・電話相談・巡回相談などのスタイルから、都合やニーズに合わせた相談方法が選択可能です。
創業したての事業者にとって、確定申告に必要な書類の準備や控除・記入の方法など、青色申告の制度は難しいと感じる場合もあります。事業を営むのにあたって、納税や会計の知識は必要不可欠ですが、スムーズに確定申告を進めるために商工会議所で確定申告の相談も可能です。
決算や申告の時期になると、どの商工会議所でも無料の税務相談を開催しています。正しく申告するために、少しでも確定申告についての不安があれば積極的に相談しましょう。
近年では、インターネットの普及により自分で調べて事業を立ち上げる人も増えています。しかし、この方法では、人脈を作るチャンスがどうしても少なくなってしまいます。
商工会議所では、定期的にイベントや交流会を開催しており、異業種の事業者とつながりを持つチャンスがあります。人脈を作るだけでなく、新事業のヒントを見つけたりビジネスパートナーを探したりする場として活用されています。
商工会議所で開催される研修やセミナーは、基本的なビジネスマナーやパソコンスキルから、情報漏洩への対策、管理職に向けたステップアップ講座など、多岐にわたります。これらの研修やセミナーは、会員限定で開催されており、無料もしくは割引価格で受講できるものもあります。
研修やセミナーの日程や詳細は、管轄の商工会議所へ直接問い合わせてみてください。
商工会議所への加入により、マル経融資(小規模事業者経営改善資金融資制度)や補助金制度(小規模事業者持続化補助金)などが活用可能です。
マル経融資とは、経営改善に必要な資金を、無保証・無担保かつ低金利で借りられる制度であり、日本政策金融公庫が実施しています。商工会議所が実施する経営指導を受けたのち、商工会議所長の推薦を受けた事業者のみが利用可能です。
小規模事業者持続化補助金は、小規模事業者等の販路開拓や業務効率化に要する経費の一部を補助する制度です。補助金制度の詳細は、公募要項で確認しましょう。
融資と補助金のどちらを希望する場合でも、申請書類や経営計画の作成サポートを受けるには、事前に商工会議所へ相談しておく必要があります。
商工会議所では、福利厚生制度も整っており、社会情勢の変化が激しい中で起こり得るリスクに対応できます。福利厚生制度の詳細は商工会議所によって異なりますが、ほとんどの会議所で共済・保険・健康診断・経営セーフティ共済・退職金などの制度を設けています。
中でも重要なのは経営セーフティ共済であり、これは取引先が倒産し売掛金や債権が回収できなくなった場合、貸付が受けられる制度です。万が一のために、加入を検討しましょう。
商工会議所は、入会することで多くのメリットが得られますが、デメリットも存在します。主にデメリットと言われているのは、以下の2つです。
費用が必要になる
活動が負担に感じることもある
商工会議所は、加入のタイミングで入会金がかかるのに加え、年会費もしくは月会費がかかります。さらに、セミナーや研修も割引にはなるものの有料での参加となるものがあります。メリットは理解している一方、経営コストを抑えたいと考えている事業者にとっては、費用面で悩むことがあるかもしれません。
なお、入会費や年会費は、どちらも必要経費として損金算入ができるほか、消費税の対象外です。
商工会議所では、セミナーや交流会などのイベントが頻繁に行われていますが、業務が多忙である場合参加が難しくなります。このことで、商工会議所の活動そのものを負担に感じてしまう可能性があります。
管轄の商工会議所でどのようなイベントが行われているか、入会前にチェックをしておくと良いでしょう。
商工会議所は、地域の中小企業にとってとても心強い存在であり、入会することで経営のサポートを受けられます。
商工会議所は、地域ごとで異なる特徴を持っているため、加入を検討する段階で特徴や事業内容などをしっかりと確認しておきましょう。