ビジネスモデルの変革には、今やDXの推進が欠かせません。一方で、DX推進の課題のひとつとして、費用がかかる点が挙げられています。これをカバーするために、ものづくり補助金の特別枠として、2022年から「デジタル枠」が創設されました。
本記事では、ものづくり補助金のデジタル枠について、概要や活用事例などを詳しく解説します。DX導入を検討されている中小企業担当者の方・小規模事業者の方は、ぜひ参考にしてみてください。
最初に、ものづくり補助金のデジタル枠とはどのような申請枠なのか、具体的に解説します。
デジタル枠とは、2022年の第10次公募から創設された新しい申請枠です。DXを目的として、革新的な製品やサービスを開発したり、デジタル技術を活用した生産性向上を図ったりするための設備やシステム投資に取り組む事業者を支援する目的があります。製造業に限らず幅広い業種で活用でき、ハードウェア・ソフトウェアの双方に対応しています。
デジタル枠の補助対象経費の一例は、以下の通りです。
新製品を開発するための装置・設備の購入費
AIシステムの構築にかかる費用
クラウドサービス利用費
既存システムのIT化に必要な費用
デジタル枠の具体的な補助額と補助率は、以下の表の通りです。
従業員数 | 補助金額 | 補助率 |
---|---|---|
5人以下 | 100万円から750万円 | 2/3 |
6人から20人 | 100万円から1,000万円 | 2/3 |
21人以上 | 100万円から1,250万円 | 2/3 |
なお、補助上限額を超えた分は支給されません。
デジタル枠と通常枠では、補助金額は同じですが、補助率が異なります。通常枠の補助率は、原則として1/2となっています。(小規模事業者・小規模企業者は2/3)一方、デジタル枠は全般の補助率が2/3であり、デジタル枠の方が補助率が高い点が大きな違いです。
また、デジタル枠は通常枠に比べ補助率が高いことから、ものづくり補助金の申請に必要な基本要件に加え、3つの追加要件が求められています。追加要件の詳細については、次の項で詳しく解説します。
第13回公募までは、デジタル枠で不採択となった際に通常枠で再審査を受けることができました。しかし、第14回公募以降は、再審査に関する記載がなく、要項には「同一法人・事業者の応募は1申請に限る」と記載されています。このルールは、今後変更される場合もあるため、公募回ごとの要項をしっかりとチェックするようにしましょう。
ものづくり補助金は、令和6年度まで切れ目なく公募を実施する予定であると公表されています。これは、審査を受けるチャンスが増えたことを意味しており、一度不採択となっても再審査が受けられなくなるわけではありません。次回公募で無事に採択されるよう、書類などをしっかりと準備しておきたいものです。
「デジタル枠と通常枠の違い」の項でも触れたように、デジタル枠の申請には基本要件とは別に、デジタル枠独自の申請要件が3つ定められています。ここでは、デジタル枠の申請要件について解説します。
1.以下の①もしくは②に該当する事業である(単純な電子化のみの場合は認められない)
①DXに資する革新的な製品・サービスの開発
(AI・IoT・センサー・デジタル技術などを活用した機能を持つ製品・サービス)
②デジタル技術を活用した生産プロセス・サービスの提供方法の改善
(技術の導入によるプロセスの改善・オペレーションセンターの構築など)
2.経済産業省が公開するDX推進指標を活用し、現状や課題に関する自己診断を実施するとともに、自己診断結果を応募締め切り日までにIPA(独立行政法人情報処理推進機構)へ提出している
3.応募申請時点で、IPAが実施する「SECRITY ACTION」の一つ星もしくは二つ星いずれかの宣言を行っている
上記3つの要件は、いずれもデジタル枠の特性を反映したものです。詳しい要件は、必ず応募するタイミングの公募要項で確認しましょう。
ものづくり補助金のデジタル枠における採択者は、一般型とまとめて採択率や採択者が公表されており、デジタル枠独自では公表されていません。デジタル枠での採択事例であることを推察するには、事業内容で判断します。
主な事例は、以下の通りです。
事例 |
---|
属人的な作業の省力化を目的とし、顧客・受注・作業員を一体で管理するシステムの導入 |
高精度な自立移動式無人搬送ロボット(AIの導入)の試作開発 |
店舗に需要予測システムを導入し、食材の廃棄量を削減するために販売機会損失を防ぐ |
工場の製造ラインに、不良品を検知するシステム(AIの活用)を導入し、生産性と付加価値の向上を目指す |
自動操舵システムを導入し、農作業の効率化、雇用拡大を実現する |
ICTトラクター及びICTブロードキャスターを利用した次世代型農業の展開 |
DX化によるエゾシカ交通事故ロードサービスの体制構築施策 |
AI画像診断を活用した空中からの橋梁、鉄道点検業務開発 |
AI・IoTを活用したキッチンカー事業の次世代ポータルサイト |
ものづくりのDX化に対応した精密機械加工分野への進出 |
製版システムのDX化と機能拡張による生産性向上と商品力の拡大 |
中古車販売業者の業務DX化を推進 |
デジタル枠は、上記事例の他にも多数の採択事例があります。公式サイトで発表されている採択事例を参考にして、申請を検討しましょう。
ここからは、デジタル枠を含んだものづくり補助金全般の概要について解説します。
最初に、申請枠ごとの補助額と補助率について、表を使って解説します。
申請枠 | 補助額(上限) | 補助率 |
---|---|---|
通常枠 | 750万円~1,250万円 | 1/2(小規模事業者・小規模事業者、再生事業者:2/3) |
回復型賃上げ・雇用拡大枠 | 同上 | 2/3 |
デジタル枠 | 同上 | 同上 |
グリーン枠 | エントリー類型 750万円~1,250万円 スタンダード類型 1,000万円~2,000万円 アドバンス類型 2,000万円~4,000万円 | 同上 |
グローバル市場開拓枠 | 3,000万円 | 1/2(小規模事業者・小規模事業者:2/3) |
ものづくり補助金における補助対象経費は、以下の表の通りです。なお、いずれの事業も、補助事業実施のためにかかった費用であることが条件であり、上限額は経費の項目ごとで異なります。
項目 | 内容 |
---|---|
機械装置・システム構築費 (単価50万円以上【税抜き】の機械装置等の設備投資が、1つ以上必要) | ・機械・装置、工具・器具の購入、製作、借用にかかる経費 ・専用ソフトウェア・情報システムの購入・構築、借用にかかる経費 ・改良・修繕または据付けにかかる経費 |
運搬費 | 運搬料、宅配・郵送料等にかかる経費 |
技術導入費 | 知的財産権等の導入にかかる経費 |
知的財産権等関連経費 | 特許権等の知的財産権等の取得にかかる、弁理士の手続き代行費用等 |
外注費 | 新製品やサービスの開発に必要な加工・設計・検査等の一部を外注する場合の経費 |
専門家経費 | 事業遂行のために依頼した専門家に支払う経費 |
クラウドサービス利用費 | クラウドサービスの利用にかかる経費 |
原材料費 | 試作品の開発に必要な原材料および副資材の購入にかかる経費 |
海外旅費 (グローバル市場開拓枠のみ) | 海外渡航および宿泊等にかかる経費 |
通訳・翻訳費 (グローバル市場開拓枠のうち、海外市場開拓【JAPANブランド類型】のみ) | 通訳および翻訳を依頼する場合に支払われる経費 |
広告宣伝・販売促進費 (グローバル市場開拓枠のうち、海外市場開拓【JAPANブランド類型】のみ) | 海外展開に必要な広告の作成および媒体掲載、展示会出典等にかかる経費 |
ものづくり補助金の公募申請に必要な書類は、以下の通りです。
必要書類 | 内容 |
---|---|
事業計画書 | 補助事業の具体的な取り組み内容・将来の展望・付加価値額の算出根拠などを作成する(様式は自由だが、A4で10ページ程度になるよう作成) |
補助経費に関する誓約書 | 専ら事業計画書に記載の事業のために使用する旨を誓約する |
賃金引き上げの誓約書 | 直近の最低賃金と給料支給総額を引き上げる誓約書であり、加点措置の元となる |
決算書等 | 直近2年間の貸借対照表・損益計算書等 |
従業員数の確認資料 | 法人…法人事業概況説明書の写し 個人事業主…所得税青色申告書または所得税白色申告収支内訳書の写し) |
労働者名簿 | 応募申請時の従業員情報 |
再生事業者にかかる確認書 | 再生事業者のみ |
課税所得の状況を示す確定申告書類 | 回復型賃上げ・雇用拡大枠のみ |
炭素生産性向上計画および温室効果ガス排出削減の取り組み状況 | グリーン枠のみ |
大幅な賃上げ計画書 | 大幅な賃上げに係る補助上限額引上げの特例のみ |
海外事業の準備状況を示す書類 | グローバル市場開拓枠のみ |
加点に必要な資料 | 成長性加点・政策加点・災害等加点・賃上げ加点などを受け、添付資料が必要な場合のみ |
ものづくり補助金の申請の流れを、簡単に解説します。各段階での詳しい手続き内容は、公募要項でご確認ください。
公募開始
申請受付
採択通知
交付申請・交付決定
補助事業実施(中間検査を含む)
確定検査(交付額の確定)
補助金の請求
補助金の支払い
事業化情報状況報告・知的財産権等報告(毎年4月)
ものづくり補助金では、主に以下の観点から審査が実施されます。
技術面(取り組み内容が革新的か・課題や目標が明確であるか・解決方法に優位性が見込まれるか・技術的能力があるかなど)
事業化面(事業の実施体制・市場ニーズの有無・スケジュールの妥当性・費用対効果など)
政策面(地域経済への波及効果・ニッチトップとなる潜在性・イノベーション性・事業連係性など)
上記以外にも、申請枠ごとで審査項目が挙げられているものもあります。無事に採択されるよう、審査の観点に注目しながら書類の準備を進めることが大切です。
令和5年7月時点で発表されているものづくり補助金は、15次公募までとなっています。現時点で最新である15次公募のスケジュールは、以下の通りです。
公募開始:令和5年4月19日(水)17時~
申請受付:令和5年5月12日(金)17時~
応募締切:令和5年7月28日(金)17時
(補助金交付候補者の採択発表は、令和5年9月下旬頃を予定)
16次公募以降のスケジュールは、決まり次第公式サイトで発表される見込みです。申請を検討されている事業者の方は、定期的に公式サイトをチェックするようにしましょう。
本記事で紹介してきたように、ものづくり補助金のデジタル枠は、生産性向上に必要な設備導入を検討している事業者の方にとって、とても有益な補助金制度です。製造業に限らず、あらゆる業種での活用が想定されており、DXを生かした革新的なサービスの開発や改善が、今後さらに進んでいくでしょう。
デジタル枠の申請を検討されている事業者の方は、申請する回の公募要項をしっかりと確認し、無事に採択に繋げられるよう取り組みを進めていきましょう。