企業が保有する固定資産の価値は、年数が経過するにつれ少しずつ下がっていきます。この考え方を会計処理に反映させる方法が、減価償却です。減価償却は、会計知識の中でも最初に知っておきたい内容ですが、「減価償却の仕組みが良く分からない」「計算方法が複雑だ」などと考えている担当者の方もおられるでしょう。
この記事では、減価償却の仕組みや計算方法などを詳しく解説します。
減価償却とは、高額な固定資産(機械設備・内装設備・建物・車両・商標権・特許権など)を購入した際に、購入費用を1度に計上するのではなく、資産を使用できる期間(耐用年数)にわたり分割して費用計上する会計処理です。これにより、資産価値を少しずつ減少させていきます。
減価償却できる資産を減価償却資産と言い、時間の経過とともに価値が減少する資産を指しています。減価償却資産に該当する条件は以下のとおりです。
業務において使用する
時間の経過とともに劣化する
使用可能期間が1年以上・購入金額が10万円以上
減価償却資産は、基本的に購入費用を一度で経費計上することはできず、資産の耐用年数に応じて分割したうえで計上する必要があります。
減価償却の目的は、会計上の考え方である「費用収益対応の原則」に基づいて費用計上するためです。この原則は、資産の購入にかかった費用を、購入年度だけでなく一定期間にわたって利用計上することで、収入に対する支出を費用として計上し、企業業績を正しく把握するという考え方です。
減価償却資産は、金額が大きく長期間に渡って使用するものです。しかし、減価償却をせずに経費として購入年度に一括計上すると、翌年以降の利益に与えた影響を会計に反映できなくなります。
減価償却資産の購入価格を耐用年数で割り、経費として毎年計上することで、企業の業績を正確に計算できるのです。
減価償却資産の耐用年数は、資産の種類ごとで異なり、主な減価償却資産の耐用年数は国税庁のホームページに掲載されています。ここでは、その中で一部の資産の耐用年数をご紹介します。
減価償却資産 | 耐用年数 |
---|---|
事務所用建物 (鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造り) | 50年 |
自動車 | 6年 |
事務机・事務いす・キャビネット (主として金属製のもの) | 15年 |
パソコン(サーバー用以外) | 4年 |
時計 | 10年 |
減価償却で使われる用語は特殊なものであり、各用語の意味をしっかりと理解しておくことが必要です。特によく聞かれる用語の意味を解説します。
事業年度において、正確な減価償却の方法により計上された費用をさす用語です。資産区分ごとの勘定科目は設けずに、建物や備品などをまとめて計上します。
これまでに発生した減価償却費の累計金額を表す用語です。資産の種類ごとで累計額を区分すると、累計額が把握しやすくなります。
保有する資産を使用でき、経済的な利益をもたらす目安の期間をさす用語です。多くの企業では、税法上で定められた耐用年数を基準としています。
資産を取得するのにかかった金額をさす用語です。購入費に加え、手数料・配送料・試運転費用・据付費などの付随費用も取得価額に含まれます。ただし、所得税や登録免許税などは、取得価額に組めないことが税法上で認められています。
目的を達成するため、実際に資産を使い始めた日をさす用語です。減価償却の起算日は、資産を購入した日ではなく事業供用日からとなっています。
減価償却を一定年数で終わらせるために、法令で定められた割合であり、後述する定率法での減価償却で適用されます。
減価償却の計算を簡単にするため、減価償却資産の耐用年数および償却年数に応じて定められた割合です。後述する定率法と定額法で、償却率の使い方が異なります。
「減価償却とは」の項で触れたように、全ての固定資産が減価償却できるわけではありません。資産によって、減価償却ができるものとできないものがあるため、しっかりと区別して覚えておくことが重要です。
減価償却できる具体的な資産には、以下のものが該当します。
有形固定資産(建物・建物附属設備・構築物・車両運搬具・器具・機械など)
無形固定資産(ソフトウェア・商標権・特許権・工業所有権・意匠権など)
生物(家畜・樹木など)
上記の資産は、全て時間の経過とともに価値が低下するものが該当します。
時間の経過や使用により劣化することがない土地・借用権・骨董品・絵画などは、減価償却資産には含まれません。また、建設中の建物は、建物の完成後使用を開始した段階で、減価償却が可能です。
仕訳とは、ひとつの取引を資産の増加と減少の2つに分ける考え方をさします。取引を分けるために、借方と貸方に勘定科目を分類して仕訳帳に記入していきます。
減価償却費の仕訳は帳簿上で行いますが、方法には以下の2種類があります。各種類で会計上の処理が異なるため、自社に合った方法を選ぶことが大切です。
直接法は、固定資産から減価償却費を直接控除する方法です。例えば、300万円で購入した自動車(耐用年数6年)を直接法で原価償却する際、1年あたりの減価償却費は50万円となります。貸借対照表の借方には「減価償却費50万円」・貸方には「車両費用50万円」と記入して処理するのです。
この方法では、残りの資産額が一目でわかる一方、取得価格は貸借対照表に記載されません。
間接法は、減価償却累計額が把握しやすくなる方法であり、貸借対照表における仕訳上の勘定科目は「減価償却累計額」と記載します。直接法で一例としてあげた自動車では、貸方の「車両費用」が「減価償却累計額」という勘定科目に変わります。
間接法では、貸借対照表により、固定資産の取得額と減価償却累計額がすぐに分かる点が大きなメリットです。
減価償却の計算方法には、定額法と定率法があります。定額法を使わなければならないものと、定額法・定率法を選択できるものとがあります。どちらの計算方法も、法定耐用年数が過ぎても資産が残っているときは、最終年の減価償却費は1円を計上します。
定額法とは、毎年一定金額を償却する方法であり、計算式は以下のとおりです。
減価償却費 = 固定資産の取得金額 × 定額法の償却率 |
上記の式にある「定額法の償却率」は、国税庁が定める「減価償却資産の償却率等表」で確認してください。
定額法はシンプルな計算方法であり、無形固定資産の減価償却費は定額法でのみ求めることができます。
定率法とは、毎年一定の割合で減価償却する方法であり、計算式は以下のとおりです。
減価償却費 = 固定資産の未償却残高(初年度のみ取得価額) × 定率法の償却率 |
この場合の償却率も、定額法と同様「減価償却資産の償却率等表」で確認しましょう。
減価償却費が、償却保証額を下回った場合、以下のように計算式が変わります。
償却保証額 = 取得価額 × 保証率 減価償却費 = 未償却残高 × 改定償却率 |
定額法に比べ、初年度の減価償却費が大きくなるため、早く費用を回収できる点がメリットです。
ここまで解説したように、減価償却は、固定資産の購入にかかった経費を分割して計上する方法です。減価償却を行うことで、どのようなメリットがあるのでしょうか。
減価償却最大のメリットは、節税効果が期待できる点にあります。減価償却をせずに一括で計上すると、購入した年の費用負担が大きくなるだけでなく、翌年以降利益のみが増えるため、法人税の納税額が増えてしまうのです。
減価償却を行うと、複数年にわたり資産の購入費用を償却するため、法定耐用年数の間は利益額を抑えられ、法人税の課税額も少なくできます。
減価償却では、手元に現金を残せる点もメリットとなります。減価償却資産を購入した翌年以降は、耐用年数が終わるまで経費を計上することで経理上の利益は減るものの、実際の支出はありません。つまり、計上した分の現金が社内に残ることを意味するのです。
「減価償却の目的」でも解説したように、減価償却により損益の把握が正確に行えます。減価償却資産を一括計上すると、その年の利益率が大きく下がりますが、翌年以降の利益率は上がる状況が発生し、固定資産の投資と収益の関係性が把握しづらくなります。
減価償却により、収益と費用のバランスが正しく計上され、損益の把握が正しくできるようになります。
減価償却と各種決算書は、大きな関係性があります。決算書ごとの関係性を、ひとつずつ見ていきましょう。
「減価償却の仕訳の方法」の項で、間接法における貸借対照表の勘定科目について少し触れました。間接法では、「減価償却累計額」という勘定科目で記載され、固定資産の取得価額と減価償却累計額が同時に確認可能です。
直接法では、減価償却累計額は貸借対照表に表示されません。固定資産の取得価額から減価償却累計額を引いた数値が、固定資産価額として記載されます。
減価償却をする際に計上した費用は、損益計算書にも「減価償却費」の科目で表示されます。損益計算書では、資産ごとに減価償却費を分けず、減価償却累計額として一括で表示されます。
また、損益計算書における減価償却費は、「販売費および一般管理費」の内訳に含まれます。
キャッシュフロー計算書は、現金の出入りを表すための計算書です。一方で、減価償却は現金の支出を伴わない費用をさします。
損益計算書とキャッシュフロー計算書では、減価償却費の扱いが異なります。両計算書の整合性を図るために、キャッシュフロー計算書を間接法で作成するには、減価償却費を加算する必要があるのです。
減価償却には、ケースごとでさまざまな注意点に目を向けることが重要です。ここからは、注意点やポイントなどを詳しく紹介しますので、覚えておくようにしましょう。
法人税法上における少額償却資産(少額減価償却資産)とは、使用可能期間(法定耐用年数とは異なります)が1年未満であるか、もしくは取得価額が10万円未満の減価償却資産を指します。この資産は、「消耗品費」などの勘定科目を用いることで減価償却を行わずに、取得価格の全額を購入した事業年度の損金に算入できるのです。
一定の要件を満たす中小企業や個人事業主に対しては、「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」が適用できます。これは、取得価額が30万円未満の減価償却資産は、価額合計が300万円までは当該事業年度の損金とできる制度です。
特例の適用には、確定申告への記載と損金経理が必要です。10万円未満の少額減価償却資産の損金算入や、後述する一括償却資産の損金算入とは重複適用できないため、いずれかを選択します。
一括償却資産とは、取得価額が10万円以上20万円未満である減価償却資産を、3年間で均等償却する制度です。この制度では、法定耐用年数は加味しません。中小企業や個人事業主には、先述した「損金算入の特例」があるため、一括償却資産の適用は大企業および300万円を超えた中小企業の資産への適用が考えられます。
中古物件の耐用年数は、法定耐用年数と合わないケースが一般的です。このため、省令に基づき見積もった使用可能時間を耐用年数として対応しています。
使用可能期間の見積もりが難しい場合は、以下の資金によって耐用年数が求められます。
法定耐用年数が完全に経過した中古資産の場合
耐用年数 = 法定耐用年数 × 20%(1年未満切捨て) |
法定耐用年数の一部を経過した中古資産の場合
耐用年数 = (法定耐用年数-経過した年数)+経過した年数×20%(1年未満切捨て) |
上記の計算式により算出された耐用年数が2年未満であれば、耐用年数は2年とします。
固定資産を売却もしくは廃棄した場合は、その時点で減価償却費を計算するため、事業年度末には減価償却をしません。間接法を適用して仕分けしている場合、減価償却費の計上に加え、減価償却累計額を借方に振替え相殺の仕訳が必要です。
一括償却中の資産を、償却途中で売却・廃棄した場合は、3年均等償却が適用されるため全額の損金算入が認められない場合があります。会計処理と税務上の扱いで相違があると、税務調整が求められる場合もあるため、注意しなくてはなりません。
今回は、減価償却の方法や決算書との関係性などを解説してきました。減価償却の仕組みは複雑であり、どの制度を適用したら良いのか判断に迷うこともあるかもしれません。その場合は、最寄りの税務署に問い合わせてみると良いでしょう。