「事業譲渡で消費税ってかかるの?」「いくらかかるのか計算方法を知りたい」と考える会社経営者も多いのではないでしょうか。
M&Aでかかる費用は高額であり、消費税を含む税金についてもきちんと理解しておく必要があります。
そこで本記事では、事業譲渡で発生する消費税について、課税及び非課税資産、計算方法、注意点など詳しく解説します。
結論として、事業を譲渡すれば、売却資産に対して消費税が発生します。
売却資産には、その事業に係る資産(不動産、機械設備等)のほか、負債や在庫、従業員及び取引先なども含まれます。
また資産のうち、課税対象になる資産が含まれていれば、「課税資産総額×消費税率」が事業譲渡でかかる消費税額になります。
ただし資産にも課税対象にならないものがあり、消費税を計算する場合、非課税資産を除いた上で計算しなければなりません。
なお消費税に関して、誰が申告・納税するかというと、事業譲渡の際、売り手が買い手から消費税を含めた金額を徴収して納めます。
つまり消費税の納税義務者は買い手で、実際に申告して納税するのは売り手という関係になります。
事業譲渡で買い手が売り手から譲り受けた資産は、課税資産と非課税資産に分類できます。
以下、消費税の計算に必要な課税資産と計算から除外する非課税資産について詳しく説明します。
なお本章では、課税資産、非課税資産のうち、代表的な資産項目を紹介します、実務上は相当な数の課税資産、非課税資産が存在します。資産の分類を細かく知りたい方は、以下の国税庁のサイトを参考にするか、M&A仲介会社等の専門家に相談して確認してみて下さい。
参照先:国税庁/消費税目次一覧
課税資産には主に次のような資産があります。
有形固定資産(除く土地)
無形固定資産
棚卸資産
のれん代
有形固定資産とは、会社が保有する建物、機械装置や計器備品、車両運搬具、船舶などをいいます。ただし土地は有形固定資産に含まれないので注意が必要です。
無形固定資産とは、物理的に形のないものですが、特許権、商標権、意匠権などの法的権利やソフトウェア、変わったものだと漁業権などがあります。形としては目に見えないものですが会社にとっては利益獲得に貢献している資産です。
棚卸資産とは、製品や商品、仕掛品、原材料など、会社が販売または加工する目的で保有している資産のことをいいます。別の表現として在庫とも表記します。
のれん代とは、企業が有している「利益を生み出す源泉のこと」をいいます。具体的には「企業が持つ独自のノウハウ」「ブランド」「特定の取引先」「熟練した人材」などで、これらが有機的に機能することで会社に利益をもたらしています。
会計上は「営業権」とも呼ばれており、資産として価値判定するときには、「譲渡企業の純資産と買収価格の差額」か、もしくは「営業キャッシュフローの3~5年分」として算出します。
資産には事業譲渡しても消費税が課税されない資産もあります。これを非課税資産といいます。
非課税資産には主に次のような資産が該当します。
土地
有価証券
債権
土地は有形固定資産のひとつですが、税務上は例外的に消費税の非課税資産として取り扱われています。本来消費税は事業の対価に対して課税されます。しかし土地は消費税の性格になじまないことから非課税扱いされているのです。
有価証券とは、会社が保有する株式、債券、小切手、手形、商品券など、財産的価値のある権利を表象している証券類のことをいいます。事業譲渡で譲渡資産の中にこれらの有価証券が含まれていれば、消費税を計算する際、譲渡金額から除いて計算します。
債権とは、会社が取引先などの第三者に対して「一定の行為を請求する権利」のことをいいます。具体的には会計勘定科目の「売掛金」「未収入金」「貸付金」などが債権に該当します。
債権もまた非課税資産であり、有価証券同様、譲渡金額から除いて計算します。
これまでの解説をベースに具体的な事例で事業譲渡における消費税を計算してみましょう。予め計算しておくことで、事業譲渡をする際の判断材料になります。
たとえば以下のケースを想定します。
項目 | 金額 |
---|---|
譲渡金額 | 1億8,500万円 |
建物 | 4,000万円 |
土地 | 3,000万円 |
機械設備 | 1,500万円 |
車両運搬具 | 1,000万円 |
棚卸資産 | 3,500万円 |
有価証券 | 1,000万円 |
債権 | 2,000万円 |
のれん代 | 2,500万円 |
事業譲渡における各資産を上記の課税資産、非課税資産に分類して、そのうち課税資産だけを合計すると以下の結果になります。
課税資産 = 建物(4,000万円) +機械設備(1,500万円) +車両運搬具(1,000万円) +棚卸資産(3,500万円) +のれん代(2,500万円) = 1億2,500万円 |
そして課税資産総額に対して消費税率を乗じます。
消費税額 = 1億2,500万円 × 10% = 1,250万円 |
上記結果のように、事業譲渡における消費税額は、譲渡対象資産のうち課税資産が多く含まれれば含まれるほど高額となる関係にあります。
そのためいくら苦労して事業譲渡しても、課税資産が多かった場合、売り手が手にできる金額はかなり減ってしまうこともあります。
ではどんなとき、消費税が高くなってしまうのか、次の章で詳しく解説します。
事業譲渡の消費税に関する注意点は以下の3つです。
のれん代とは、その事業に含まれるノウハウや人材、ブランドといった利益を生み出す価値のことをいいます。
のれん代は目に見えない価値であるため計算が難しいのですが、未上場の中小企業が事業譲渡する際には、のれん代として営業利益の3~5年分で計算することが一般的です。
一方営業利益が大きかったり、ノウハウやブランドに力があったりするとのれん代も大きくなってきます。
のれん代は上記で説明したように消費税の課税資産に当ります。
そのためのれん代が上がると、自ずと消費税額も上がってきて、売却額に占める割合も大きくなることから注意が必要です。
のれん代同様、棚卸資産も一定時点での評価額や確実性に変動があり、消費税に影響するので注意が必要です。
棚卸資産は事業譲渡における課税資産のひとつであり消費税に関係しています。
しかし棚卸資産は予め予想した金額で計算するのでなく、事業譲渡の日を基準に決められるルールとなっています。
そのため、いくら途中で棚卸資産の額を予測していても、最終的に事業譲渡の日の価格が予測値より大きくかけ離れてしまう可能性はあります。
棚卸資産の額が大きくなれば、消費税の額もその分膨らんでしまいます。
さらに譲渡対象の事業そのものが大きな棚卸資産を抱える性格のものだと、支払う消費税も大きくなりそのインパクトはかなりなものです。
もし消費税があまりにも大きな額になる場合、譲渡対象の資産を制限したり、事業譲渡そのものを見直したりする必要も出てきます。
消費税率の変動で消費税の課税額が上がるリスクがあるので注意が必要です。
消費税率は1989年に消費税が導入されて以降、何度も引上げがなされ、2023年時点では10%となっています。
事業譲渡においても、消費税率が数パーセント上がるだけで手元に残る金額が大きく変わります。
これからも消費税率は上がる可能性はあっても下がる可能性は極めて低いです。
事業譲渡を検討する際には、消費税率の動きにも注意して判断していく必要があります。
事業譲渡は、事業の一部または全部を売却するM&Aスキームです。
事業譲渡は、消費税の課税対象となる取引として、「資産の譲渡等」に該当することから消費税を避けられません。
一方で事業譲渡は会社の売却でないので、会社を存続できるという大きなメリットもあります。
では事業譲渡と同じような効果を持ち、消費税を避けられるM&Aスキームはないのでしょうか?
実は、会社分割という方法なら消費税を避けられます。
会社分割とは、事業の一部または全部を切り離して別法人化させるM&Aスキームです。
「事業の一部または全部を切り離し」という目的から見れば、会社分割は事業譲渡とそれほど大きな違いはありません。
しかし消費税という点から見れば、事業譲渡すれば課税されますが、会社分割では消費税は課税されません。
その理由は、会社分割が会社法上、「組織再編行為」と見なされ、「資産の譲渡等」には該当しないとされているからです。
もちろん事業譲渡と会社分割は細かい点でいくつもの違いがあります。
しかし事業譲渡のメリットにこだわりがないのであれば、会社分割や合併など、他のM&Aスキームも検討する価値はあるといえます。
本記事では、事業譲渡で発生する消費税について、課税・非課税となる資産、計算方法、注意点など詳しく解説しました。
事業譲渡は、株式譲渡と並び、M&Aにおいて最も多く活用されているスキームの一つです。
しかし、事業譲渡では資産の譲渡行為を伴うため、消費税のほかにも法人税や不動産取得税、登録免許税など様々な税金がかかります。
実際に事業譲渡すれば、トータルでどれくらいの税金がかかるのか、事前に専門家にも相談して、きちんと理解しておくことが重要です。