M&Aを行う時には、専門知識を持つ専門家や、仲介業務を行うM&A仲介会社などへ依頼して手続きを進めるのが一般的です。このとき、M&Aにかかる費用に加え、専門家や仲介会社などへも手数料などを支払う必要があります。手数料がどのぐらいかかるかを知っておくことで、M&A全体にかかるおおよその費用を把握できます。
この記事では、M&Aにかかる手数料の種類や相場・成功報酬の計算方法などを解説します。M&Aを検討している企業担当者の方は、ぜひ役立ててください。
M&Aの実施にあたって、専門家や仲介会社などに支払う手数料の項目には、以下の種類があります。
相談料
着手金
月額報酬(リテイナーフィー)
中間報酬
成功報酬デューデリジェンス費用
報酬以外の費用
それぞれの項目について、内容や支払うタイミングなどを見ていきましょう。
M&Aの仲介を正式に依頼する前に、専門家や仲介会社(以下:仲介会社等)へ相談するときにかかる費用です。具体的な相談だけでなく、M&Aの仕組みや流れなどの基本的な相談も、最初の相談に含まれます。
実際にM&Aを実施するにあたって、仲介会社等と業務委託契約を締結するタイミングで支払う費用です。M&Aが成約しなかった場合でも、着手金は返金されませんので注意しましょう。
仲介会社等との契約期間中、仲介会社等に支払う顧問料のようなものです。M&Aが成約するまで毎月発生しますが、成約に至らなかった場合でも返金されません。成約までの期間が長くなるほど、月額報酬の負担も大きくなります。
M&Aが一定の段階まで足した時に、仲介会社等へ支払う費用です。M&Aの手続きにおいて、基本合意締結が中間地点と呼ばれているため、中間報酬を支払うタイミングは基本合意の締結後が一般的です。中間報酬も、着手金や月額報酬と同じく、最終的な成約に至らなくとも返金はありません。
M&Aが最終契約の締結まで至った場合に支払う費用です。M&Aが成立した場合のみ支払うものであり、M&Aにかかる手数料のうち、最も大きな割合を占めています。
仲介会社等ではなく、買い手が弁護士・税理士・公認会計士などの士業に対して、買収前に売り手の経営状態の調査を依頼するための費用です。デューデリジェンスをおろそかにすると、売り手の情報が正確に把握できず、M&Aの成立後に大きな損失を被るリスクがあります。
仲介会社等の中には、手数料とは別に、委託業務中に生じた交通費や宿泊費などの実費を請求するところもあります。実費の請求を成功報酬に含めて行っている仲介会社等も多いため、事前に確認しておくことが必要です。
上記で紹介した手数料の相場は、どの程度を見ておけば良いのでしょうか。ここでは、M&Aにかかる手数料の相場をご紹介します。なお、手数料はM&A案件の規模や仲介会社等によって変わってくるため、ここでご紹介する相場はあくまで目安としてお考えください。
多くの仲介会社等では、相談料を無料にしていますが、中には1万円程度の相談料がかかることもあります。また、初回相談料は無料・2回目以降は有料となっていたり、時間制料金を採用していたりする場合もあります。相談料がどのくらいかかるのか、事前に確認しておきましょう。
相談料と同じく、着手金も無料とする仲介業者等が増えています。有料の場合の費用相場は、50万円から300万円程度と大きな幅があります。着手金を有料とするのには、M&Aに対する熱意の高い買い手や売り手に力を入れたいという意図があると言われています。
月額報酬の相場は、安い会社では月に20万円から30万円程度、高い場合は月に100万円から200万円ほどです。一方で、月額報酬を成功報酬の前払い分として扱ったり、交渉期間が一定以上になると月額報酬を請求しなくなったりする仲介会社等も見られます。
中間報酬は、成功報酬額の5%から20%程度が目安であり、成功報酬の前払いとして扱います。M&Aが正式に成立した段階で、成功報酬額から中間報酬を差し引いた金額を支払います。また、固定金額の場合は、30万円から200万円程度が目安です。
成功報酬の相場は、取引金額に対する手数料率を用いて、「レーマン方式」で算出するのが一般的です。レーマン方式による成功報酬の算出方法は、後ほど詳しく解説します。
デューデリジェンスを実施する場合、財務労務税務法務などあらゆる側面から調査が必要となり、専門家である士業に報酬を支払うことになります。専門家の人数や案件の規模・稼働時間によって異なるものの、200万円から300万円程度が相場です。
M&Aの成功報酬は、レーマン方式による計算が一般的です。ここでは、レーマン方式とはどのような計算式なのか、またレーマン方式を用いた算出方法の一例などを解説します。
レーマン方式とは、取引金額によって手数料が変動する計算方式です。ここで言う取引金額とは、M&Aの取引金額の他、株式価額と負債総額を足した移動総資産や、株式価額と有利子負債を出した企業価値をさす場合もあります。計算にどの金額を用いるのか、契約時に確認が必要です。
取引金額が大きくなるにつれ、手数料の割合が下がる仕組みであり、取引金額と手数料の一例は以下の表のとおりです。
取引金額 | 手数料率 |
---|---|
5億円以下の部分 | 5% |
5億円を超え10億円以下の部分 | 4% |
10億円を超え50億円以下の部分 | 3% |
50億円を超え100億円以下の部分 | 2% |
100億円超えの部分 | 1% |
上記の手数料率は、仲介会社等によって異なります。
レーマン方式で、実際に成功報酬を計算するときの算出方法をご紹介します。例として、取引金額が9億円だった場合の手数料は、表の手数料率を当てはめて以下のように計算します。
5億円 × 5%(5億円以下の部分) = 2,500万円 4億円 × 4%(5億円を超え10億円以下の部分) = 1,600万円 計 4,100万円 |
M&Aにおける仲介会社は、主に以下の役割を果たしています。
全体的なスケジュールを決定する
相手先を選定する
条件交渉時のサポートをする
専門家の紹介をする
それぞれの役割について、詳しく見ていきましょう。
M&Aには、売り手や買い手に加え、取引先・デューデリジェンスを依頼する専門家・従業員など多くの利害関係者が関わっています。利害関係者のスケジュール管理は、M&Aが成功できるか失敗するかを大きく左右する重要な業務です。全体的なスケジュールを決めずにプロジェクトを進めてしまうと、最悪の場合途中で交渉が止まる事態になりかねません。
仲介会社は、M&Aの成功というゴールから逆算し、スケジュールや担当などを明確に決める大きな役割を担っているのです。
M&Aは、売り手と買い手がいて初めて成立するものです。さらに、売り手と買い手それぞれの条件が合致することが、M&A成立の絶対条件となります。
仲介会社を通すと、自社から直接声をかけるよりもスムーズにM&Aが進む場合があります。また、初期の段階で自社の情報を開示せずに相手先の関心の有無を確認できるため、効率良く相手を絞り込むこともできます。
相手先の選定後は、M&Aの金額や条件などの交渉に入ります。この時、仲介会社が間に入ると、直接交渉では伝えづらい条件や要望が相手先に伝えやすくなります。
また、交渉が難航した場合も、仲介会社が論点を明確にし、譲れる条件と譲れない条件を照らし合わせながら交渉することで、M&Aが成立できる場合があります。
M&Aの過程には、弁護士税理士公認会計士など専門家のサポートが必須です。特に、初めてM&Aに取り組む企業にとって、どの専門家に依頼したら良いのか判断に困るでしょう。
仲介会社は、専門家のネットワークを持っており、企業ごとのM&Aに合わせて専門家の紹介が受けられます。
M&A仲介会社を利用すると、以下のメリットが得られます。
経営者の負担を減らす
適正条件や取引金額を確保する
トラブルを回避する
それぞれのメリットについて、詳しくご紹介します。
M&Aには多くの工程があり、成立までに短くとも1年弱・長いと数年かかるケースも珍しくありません。通常の業務に並行して、書類の作成や準備・交渉などM&Aの手続きを進めるのは、経営者にとって大きな負担となってしまいます。
仲介会社に依頼すると、M&Aの業務の大半を委託でき、仲介会社が持つノウハウや知見により効率良い手続きが可能です。経営者にかかる負担や業務への支障も、最小限に抑えられます。
M&Aでは、買い手は少しでも安く買いたい・売り手は少しでも高く売りたいと思うものです。しかし、適正な条件や取引金額を理解せず、当事者のみで交渉を進めると、条件や金額が妥当であるか判断が難しくなってしまいます。結果として、安く売って損をしたり、高過ぎる金額で買収したりする可能性もあります。
仲介会社のアドバイスを受けると、過去の取引事例から妥当な金額を知ることができ、買い手と売り手の双方が納得できる内容で、取引ができるのです。
M&Aの交渉中に万が一トラブルが発生した場合、当事者同士では解決できない場合も多いです。話し合いがこじれると、裁判に発展するケースもあり、お金と労力を無駄に使ってしまうことになりかねません。
第三者である仲介業者が間に入ると、トラブル発生のリスクを下げることができ、トラブルになっても仲裁に入ってもらえます。
仲介会社を利用する時には、メリットだけでなく以下のようなデメリットも存在します。
利益相反が生じる可能性がある
着手金や中間金が返金されない
手数料が高い
それぞれのデメリットについて、詳しく見ていきましょう。
利益相反とは、片方には利益・もう片方には不利益になる行為を指します。M&Aにおける仲介形態は、買い手はできるだけ安く買いたい・売り手はできるだけ高く売りたいという、利益が相反しているため、利益相反に当たると言われています。中小企業庁が発行する「中小M&Aガイドライン」の中でも、利益相反について記載されているのです。
仲介会社が、一方の当事者に偏ったアドバイスをしないよう、中小企業庁が注意を促しています。また、仲介会社から売り手や買い手に対して、事前に以下の内容を説明するよう求められています。
仲介であることを伝える
利益相反となりうる項目を明示する
当事者の双方から手数料を得ることを伝える
利益相反にならないようにするには、当事者のどちらかにのみアドバイスをするFA型契約が望ましいとされています。
「M&A手数料の種類」の項でも触れたように、仲介会社と契約後に支払った着手金や中間報酬は、最終的にM&Aが成立しなかった場合でも返金されません。M&Aは必ず成立するとは限らないほか、途中でM&Aをストップしてしまうと、支払った費用が無駄になってしまうのです。
着手金や中間報酬の有無は、仲介会社によって異なります。これらが必要な仲介会社へ依頼する場合は、M&Aを中断する可能性がないか、事前に十分な検討が必要です。
M&A仲介会社の手数料のうち、最も高額なのは成功報酬です。成功報酬以外に、着手金・中間報酬・月額報酬・デューデリジェンスなどを合わせると、M&Aには高額な手数料がかかります。
仲介会社に依頼する前に、手数料の体系や具体的な金額をしっかりと確認しておくことが必要です。
M&Aの仲介会社を選ぶ時には、以下の3つのポイントが重要です。
M&A仲介会社の実績確認
事業セグメントへの理解度
手数料の仕組みを確認
それぞれのポイントについて解説しますので、理解を深めていきましょう。
M&Aの成功には、仲介会社が経験で積み重ねた知識が必要不可欠です。仲介会社のホームページには、これまでの実績が紹介されているケースがほとんどであるため、仲介会社を選定する前に必ずホームページをチェックしましょう。特に、成功事例を実名で開示しているか・実績を数字で公表しているかなどは重要なポイントです。
仲介会社によって、得意とするM&A案件も異なるため、成功事例で案件の規模も確認し、自社のM&Aの買収金額に近いと考えられる規模に対応できる仲介会社を探しましょう。
M&A仲介会社には、飲食店・薬局・クリニック・介護・WEBサイトなど、特定の事業に精通したところもあります。事業内容に合わせて、事業特化型の仲介会社に依頼すると、事業に対する理解が深く、より希望に沿ったサービスが受けられるでしょう。
「M&A手数料の相場」の項でも触れたように、M&Aの仲介にかかる手数料の額や仕組みは、仲介会社によって大きく異なります。相談料は必要なのか・成功報酬費用のベースはどうなっているのかなど、各手数料について細かい点に目を向けることが大切です。
手数料について、詳しく説明していない仲介会社もあるため、分からない点は積極的に質問し、必ず事前に解決しておきましょう。
M&A仲介会社の手数料や報酬を抑えるには、以下のコツを覚えておきましょう。
複数社に見積もりを依頼する
手数料以外の要素も確認する
比較検討して決定する
それぞれのコツについて詳しく解説します。
仲介会社を決めるのに、1社のみに相談してそのまま決めてしまうと、他の会社と手数料が比較できなくなってしまいます。ホームページを見ただけでは、M&Aの報酬は分かりにくいことも多いため、複数社に見積もりを依頼し手数料を明確にしておきましょう。
手数料を見ただけでは、自社のM&Aに適した仲介会社かどうかは分かりません。手数料以外の、対応可能エリア・得意とする業種・実績数などから、候補となる仲介会社を絞り込んでいきましょう。
見積もりや仲介会社の情報が揃ったら、無料相談に出向いてみましょう。無料相談での対応や実績などを踏まえて、総合的に比較しながら検討して仲介会社を決定します。
自社に合っていると思われる仲介会社の手数料が安くなくとも、手数料以外の要素で納得できるのであれば、その仲介会社を選ぶのがおすすめです。
M&Aの仲介会社に支払う手数料は、決して安い金額ではありません。会社の将来を見据えて適切なM&Aを実行するには、手数料を抑えて質の高いサービスを受けられる会社を探すことが重要です。
見積もりや無料相談などを活用し、自社に合った仲介会社を探していきましょう。