昨今、年金制度への不安感から「生活のため、定年以降も働き続けたい」と考える方は少なくありません。
その際に中小企業の従業員の生活を支える給付金である「高年齢雇用継続給付金」のニーズは徐々に高まってきています。
そこで今回は高年齢雇用継続給付金の制度概要、給付額、申請方法についてわかりやすく紹介していきます。
申請は基本的に企業が行うため、従業員の再雇用を視野に入れている中小事業者はぜひ最後までご覧ください。
高年齢雇用継続給付金とは、60歳以上65歳未満の従業員に対して支給される給付金で、以下の2種類があります。
高年齢雇用継続基本給付金:定年後に再雇用される従業員向け
高年齢再就職給付金:定年後に転職して入社した従業員向け
60歳までの賃金に比べて再雇用時の賃金が75%未満であれば、0.44%~15%の額が支給されます。
この給付金は、再雇用の賃金低下が従業員の生活に支障をきたさないようにするために整備されました。
企業側としては再雇用時の賃金を従来と同額支払うのは、少々困難になります。
しかしそれでは従業員の生活に支障をきたしてしまうので、その差を埋める役割を果たしているのです。
高年齢雇用継続基本給付金は、定年退職後に同じ会社で再雇用される従業員に適用される給付金です。
60歳以降で、失業保険の基本手当や再就職手当を受け取っていない場合に対象となります。
支給対象者は、60歳以上65歳未満で以下を満たす方です。
雇用保険の被保険者
再就職後の賃金が、60歳の賃金の75%未満
60歳以前で、雇用保険の加入期間5年以上
失業保険の基本手当や再就職手当を受給していない
60歳時点で75%未満になっていなくても、65歳までに75%未満になっていればそのタイミングで対象となります。
支給期間は60歳の誕生日月から65歳の誕生日月までの5年間です。
さらに支給対象月か否かは1ヶ月ごとに判定され、1日から末日まで雇用保険の被保険者であれば支給対象月と判定されます。
そのため、途中退職した月は支給対象とならないことに注意しておきましょう。
高齢再就職給付金は、60歳以降で別会社へ転職した従業員向けの給付金です。
定年で退職し、失業保険の基本手当を受給した後、別の企業に再就職した方が該当します。
支給対象者は、60歳以上65歳未満で以下を満たす方です。
雇用保険の被保険者
失業保険の基本手当を受給
再就職日の前日時点で、基本手当の支給残日数が100日以上
再就職時の賃金が、基本手当の基準となった賃金額の30倍×75%未満
60歳以前で、雇用保険の加入期間が5年以上
失業保険の再就職手当を受給していない
つまり再就職手当を受けておらず、失業保険の支給日数が100日以上残っていれば対象となります。
支給期間は、以下のように失業保険の支給残日数に応じて変化します。
200日以上:再就職日の翌日~2年経過日の属する月
100日以上200日未満:再就職日の翌日~1年経過日の属する月
100日未満:対象外
もし支給期間中に従業員が65歳を迎えてしまうと、その誕生月までしか支給されないので注意しておきましょう。
高年齢雇用継続給付金の計算方法も紹介していきます。
基本的には、60歳時点での賃金と再雇用後の賃金の差である「低下率」から算出していくようになっています。
低下率 = 支給対象月(現在)の賃金額 ÷ 60歳到達時の賃金額 × 100
この低下率に応じて、60歳時点での賃金の最大15%が支給されます。
61%以下:15%
61%以上75%未満:0.44%~15%
75%以上:対象外
低下率が算出できれば、以下の表で確認した支給率を現在の賃金額にかければ、1ヶ月あたりの支給額が計算できます。
参考:Q&A~高年齢雇用継続給付~ (mhlw.go.jp)
例えば、60歳到達時の賃金が月30万円で、支給対象月の賃金が18万円の場合は、低下率60%で支給額は27,000円(18万円 × 15%)となります。
高年齢雇用継続給付金の上限と下限額は、毎年改定されています。
毎月勤労統計の平均定期給与額を参考にしており、2022年8月1日以降の額は以下の通りです。
上限:364,595円
下限:2,125円
もし支給対象月の賃金と算出された支給額が上限を超える場合は、以下のように計算されます。
支給額 = 364,595円 - 支給対象月の賃金額
ここでの賃金は通勤費や残業代を含んだ金額となります。
基本的に企業側が申請します。
必要書類をまとめ、期限内に会社所在地の管轄のハローワークへ提出、もしくはオンライン申請を行いましょう。
申請頻度はおよそ2ヶ月に1度となっています。
それぞれの主な必要書類は以下の通りです。
【初回】
提出書類
払渡希望金融機関指定届
高年齢雇用継続給付支給申請書(高年齢雇用継続給付受給資格確認票・(初回)高年齢雇用継続給付支給申請書 )
添付書類
雇用保険被保険者六十歳到達時等賃金証明書
賃金台帳、出勤簿など雇用の事実、賃金の支払い額が分かる書類
年齢確認書類(運転免許証、住民票の写し、コピー可)
【2回目以降】
高年齢雇用継続給付支給申請書
賃金台帳、出勤簿など雇用の事実、賃金の支払い額が分かる書類
厚生労働省のウェブサイトから簡単にダウンロードできます。
ハローワークインターネットサービス - 帳票一覧 (mhlw.go.jp)
高年齢雇用継続基本給付金は、支給対象月の初日から4ヶ月以内に行わなければなりません。
管轄のハローワークへ初回申請の書類を揃えて提出しましょう。
もし従業員が希望すれば、従業員本人が手続きをすることも可能です。
高年齢再就職給付金の手続きでは、最初に受給資格確認を行ってから申請します。
従業員を雇った際に「雇用保険被保険者資格取得届」を提出しますが、そのタイミングで行うようにしましょう。
確認時は、管轄のハローワークへ以下の書類を提出すればOKです。
高年齢雇用継続給付受給資格確認票・(初回)高年齢雇用継続給付支給申請書
払渡希望金融機関指定届
その後、最初の支給対象月の初日から4ヶ月以内にハローワークへ「高年齢雇用継続給付支給申請書」を提出して申請を行いましょう。
高年齢雇用継続給付を適用すると、年金額が調整されて減額されます。
再雇用によって「在職による支給停止」以外に、年金の支給が一部停止されてしまうのです。
つまり従業員が貰える金額は、以下の合計額となります。
賃金:75%未満に低下した賃金 + 高年齢雇用継続給付金
年金:本来もらえる年金額 - (在職の支給停止額 + 当制度の支給停止分)
また初回以降、申請しなくても年金の一部支給停止が解除されないので注意しておきましょう。
もし以下のように高年齢雇用継続給付の権利がなくなれば、支給申請を行わなかった期間の年金が遡って支払われます。
退職
在職中に65歳となる
不支給となる労働条件を満たした
高年齢雇用継続給付金の注意点をいくつか紹介していきます。
高年齢雇用継続給付金には申請期限があります。
初回は対象月の初日から4ヶ月以内、2回目以降はハローワークから受け取る「高年齢雇用継続給付次回支給申請日指定通知書」に記載されている日付までとなっています。
申請期限を過ぎると受給できないので注意しておきましょう。
雇用継続給付を受給中に退職する場合、その月は受給できなくなります。
前述したように対象月の1日から末日まで1ヵ月間、雇用保険の被保険者でないと支給対象月となりません。
そのため途中で退職した場合には、前月までしか給付金を受け取れないのです。
受給者にボーナスが支払われた場合、賞与は除いて計算します。
ボーナスに関係なく月々の賃金支給額を求めることになるので、念頭に置いておきましょう。
高年齢雇用継続給付金は非課税です。
雇用保険の求職者給付や育児休業給付金と同様の処理を行うので、企業の経理担当者は正しく処理を行うようにしてください。
高年齢雇用継続給付金は賃金が低下する60歳以上65歳未満の再雇用者の生活を守る給付金となります。
60歳以降も再雇用で働く選択を取る方も今後増えてくると考えられます。
制度について理解し、期限もありますのでなるべく早めに正しく申請を行うようにしましょう。