これまで、繰り返しリカレント教育の必要性が叫ばれてきました。リカレント教育の本質は、学び続けることにあり、会社で働き始めたあとも学び続けることの重要性が重視されて来たのです。
一方で近年では、リカレント教育よりも、企業におけるリスキリングの推進が求められています。リスキリングとは、スキルの再習得をその本質としており、急速に変化する経済社会のなかで、従業員に求められるスキルセットも変化することから、その変化に対応するためにスキルを習得し直すことが求められています。
この記事では、リスキリングとリカレント教育の違いについて解説します。社員の教育やスキルアップを進めたい会社の担当者様には理解いただきたい概念ですので、是非最後までお読みください。
リスキリングとは、既存の職種やスキルが陳腐化したり、求められなくなったりすることに対応して、新しいスキルや知識を身につけること、またはそのための教育やトレーニングのことを指します。
リスキリングは、技術の急速な進歩や経済の変動、業界の変化に伴い、職種やスキルの需要が変わる中で、個人や組織が適応し続けるための取り組みとして非常に重要になってきています。
リスキリングが注目される主な背景としては、第四次産業革命に代表されるような急速なテクノロジーの進化があります。AI、ロボティクス、ブロックチェーン、クラウドコンピューティングなどの新技術が多くの産業で導入され、それに伴い従来のスキルセットでは対応できない新しい問題やチャンスが生まれています。
かつては単純なデータ入力作業に多くの人手が必要でしたが、今日ではこのようなタスクはソフトウェアによって自動で行われることが多いです。その結果、データ分析やプログラミングといった新しいスキルが必要とされるようになっています。
経済産業省もリスキリングの重要性を認識し、多くのプログラムやポリシーを推進しています。例えば、中小企業を対象とした人材育成のための補助金制度、新しいスキル習得を支援するためのオンラインプラットフォームなどがあります。
たとえば、経済産業省は、DX(デジタルトランスフォーメーション)を成功させるためには、現場レベルでのスキルの向上が不可欠であるとして、専門家の派遣やセミナーの開催を積極的に行っています。
DX(Digital Transformation)が進む中で、企業が競争力を維持・拡大するためには、DXに適応できる人材の育成が不可欠です。これには、データ解析、プログラミング、プロジェクトマネジメントといった多岐にわたるスキルが求められます。
たとえば、かつてはExcelで手作業による集計を行っていたマーケティング部門も、今ではデータ解析ツールを用いることでより効率的かつ高度な分析が求められるようになっています。このような変化に対応するため、マーケティング職の人々も新たにデータ分析のスキルを習得する必要があり、リスキリングが進められています。
以上のように、リスキリングの推進は、個人から組織全体、そして国レベルでの競争力を維持・高めるために不可欠なプロセスです。急速に進化するテクノロジーや市場環境、さらには政府からの積極的な支援が、リスキリングの重要性を一層高めています。
特にDXの進展に伴い、新たなスキルセットが必要とされる今日、リスキリングの取り組みはますます加速していると言えるでしょう。
個人のスキルや知識を時代とともにアップデートする必要が高まっている現代の労働市場では、「リスキリング」と「リカレント教育」の二つの用語がしばしば取り上げられますが、それぞれ異なるニュアンスと意味を持っています。
以下では、リスキリングとリカレント教育の違いを解説していきます。
リスキリングは、従業員や個人が既存のスキルセットや職種を離れ、新しいスキルや職種への移行をサポートするプロセスを指します。
これは、技術の進歩、業界の変動、経済状況の変化など、外部の要因によって既存の職種やスキルが時代遅れとなる、あるいは不要となる場合に特に重要です。
例えば、自動化技術の導入により、ある工場の手作業に関連する職種が減少するケースがあります。この場合、工場の従業員には新しい技術を操作・管理するスキルが求められます。従業員がこの新しいスキルを習得するプロセスがリスキリングです。
一方、リカレント教育は、一定の期間ごと、または特定のライフイベント(例: 転職、昇進など)を契機として、個人が教育や研修を受けるシステムや考え方を指します。
これは、一度得た教育やスキルが一生涯有効であるとは限らず、時代や状況の変化に合わせて定期的に学び直す必要があるという認識に基づいています。
例えば、医療の分野で働く医師や看護師を考えてみましょう。新しい治療法や技術、薬が日々開発されるため、彼らは常に最新の知識を身につける必要があります。
このようなプロフェッショナルが定期的に受ける研修や教育のシステムがリカレント教育として機能しています。
要するに、リスキリングは「変化する市場や環境に適応するための新しいスキルの習得」を中心とした概念であり、リカレント教育は「一生涯を通じて定期的に学び続ける」という観点からの教育や研修を指します。
リスキリングとリカレント教育は異なるアプローチや目的を持っていますが、共通して、現代の変化する社会での個人の成長や適応能力を高めるための重要な役割を果たしています。
リカレント教育の他にも、リスキリングに似た概念や用語が多く存在します。そこで、リスキリングと他の関連用語との違いについて、主要なものを具体的に解説します。
「アンラーニング」は、過去の経験や学びを一度忘れる、もしくは意識的に取り除くプロセスを指します。特に、古くなった知識や、現在の状況に合わない考え方・前提を捨て去ることで、新しい情報やスキルの習得をスムーズにするのが狙いです。
一方で「リスキリング」は、新しいスキルや知識を習得するプロセスそのものを指します。もちろん、古い知識やスキルが障害となる場合、アンラーニングのプロセスがリスキリングの前段階として必要になることもあります。
アンラーニングの具体例
あるエンジニアが、古いプログラミング言語から新しい言語への移行を考えたとします。この場合、古い言語の特定の構文や考え方を「アンラーニング」することで、新しい言語の習得がスムーズに進む可能性があります。
「生涯学習」は、一生を通じて学び続けるという概念を指します。これは、特定のスキルや知識の習得に限定されることなく、人生のさまざまなステージや状況での学びを包括的に捉える考え方です。
対照的に「リスキリング」は、特定の時点や状況で必要とされる新しいスキルや知識を習得することを中心に考える概念です。
生涯学習の具体例
ある人が趣味として外国語を学んでいる場合、これは「生涯学習」の一環と言えます。一方、企業のグローバル展開に伴い、特定の外国語のスキルが急に必要になり、それを習得するプロセスは「リスキリング」と呼べるでしょう。
「OJT」は、実際の業務の中で行われる教育・研修のことを指します。これは、職場での実際のタスクや問題を通じて、スキルや知識を習得する方法です。
一方、「リスキリング」は、新しいスキルや知識を習得するための全般的なプロセスやアプローチを指し、OJTはその方法の一つとして取り入れられることがあります。
OJTの具体例
ある製造業の従業員が、新しい製造ラインでの作業を学ぶ場合、実際のライン上での研修が行われるのがOJTです。一方、その企業が新しい技術を導入して、従業員全体のスキルセットをアップデートする必要が出てきたとき、その全体的な習得プロセスを「リスキリング」と呼びます。
このように、リスキリングと他の関連用語とは、似ているようで異なる概念やアプローチを指すものです。正確な理解と適切な用語の使用は、今後の人材開発や教育の現場でのコミュニケーションをスムーズに進める上で重要となります。
では実際に企業がリスキリングを進めることには具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。以下では、その主なメリットを解説します。
リスキリングを行うと、従業員が新しい技術や方法論を習得することで、業務の手間や時間が短縮されることが多いです。
例えば、新しいデータ分析ツールを学ぶことで、従来手作業で行っていたデータの集計や分析が自動化され、その結果、分析にかかる時間が大幅に削減される場合があります。
新しいスキルや知識を身につけることで、従業員の生産性が向上します。
具体的な例として、新しいプログラミング言語やフレームワークを習得することで、システム開発の速度や品質が向上する場面が考えられます。
また、新しい営業手法やマーケティング戦略を習得することで、効率的な売上や顧客満足度の向上が期待できます。
リスキリングを行うと、外部の専門家やコンサルタントに頼ることなく、自社のリソースだけで多くの課題や問題を解決できるようになります。
例えば、従業員がデジタルマーケティングのスキルを習得することで、外部のマーケティングエージェンシーに頼らずとも、高効果のマーケティング活動が可能になる場合があります。
リスキリングは、企業が急激な環境変化や市場の変動に柔軟に対応する能力、いわゆる「レジリエンス」を高める要因となります。
新しいスキルや知識を持つ従業員が増えることで、企業は変化する環境に迅速に適応し、その中での競争優位性を維持・強化することが期待されます。
例えば、新型ウイルスの影響でテレワークが必要となった際、ITスキルを習得している従業員が多ければ、スムーズな遠隔業務の移行や、その中での効果的な業務遂行が可能となるでしょう。
企業は持続的な競争力を保つために従業員のリスキリングを積極的に推進していかなければなりません。以下では、企業が効果的なリスキリングを進めるためのポイントを解説します。
最初のステップとして、企業が保有する従業員のスキルセットを明確に把握することが重要です。
具体的には、自身の強みと弱みの分析を行うことで、どの分野でスキルアップが必要か、どの分野での強化が優先されるべきかを明確にすることができます。
例えば、デジタルマーケティングのスキルが弱いと感じる部署があれば、そこを重点的にリスキリングの対象とするといった具体的な方針が立てやすくなります。
リスキリングの効果を最大限に引き出すためには、短期・中期・長期のスキル目標の明示が必要です。
具体的には、短期的にはどのスキルを習得するか、中期的にはそのスキルをどのように発展させるか、長期的にはどのような専門家に育成するかという目標を明確にすることで、効果的な研修や教育プログラムの選定が可能となります。
効果的なリスキリングのためには、有効な教育リソースの探索と活用が欠かせません。
市場には数多くの教育プログラムや研修コースが存在しており、それらの中から企業のニーズに最も合致するものを選定することが大切です。
例えば、AI技術の導入を考えている企業であれば、AIの基礎を学ぶための研修プログラムを選ぶことが考えられます。
リスキリング研修を実施することで、従業員が学び直しや環境の変化に対して肯定的に捉えてもらうことも有効でしょう。
新しいスキルの習得は、新しいスキルを実務でどのように活用するかという実践を伴わなければ、真のスキルアップとは言えません。
研修や教育プログラムを受講した後、従業員がそのスキルを実際の業務でどのように活用するかを計画・実施することで、スキルの定着を促進します。
研修や教育だけでは、従業員一人一人のニーズや疑問に対応するのは難しいことが多いです。
そこで、経験豊富な他者からの支援を得る方法として、メンタリングやコーチングの導入が有効です。
例えば、新しい技術の導入に関して不安や疑問を持っている従業員に対して、その技術を既に習得している先輩社員がアドバイスやサポートを行うことで、スキルの定着をさらに加速させることができます。
以上の方法を取り入れることで、企業は従業員のスキルセットを効果的に向上させ、持続的な競争力の強化を図ることができるでしょう。
企業や組織がリスキリングを進める際に、成功を収めるためには単なるスキル習得だけでなく、その過程での注意点や課題にも目を向ける必要があります。
リスキリングの取り組みをより効果的に進めるために、以下の注意点を具体的に解説します。
リスキリングの過程では、従業員がどれだけ新しいスキルを習得しているのか、またどのような課題や困難に直面しているのかを把握することが重要です。
具体的には、定期的なセルフレビューと他者からのフィードバックの活用が効果的です。
例えば、月に1回のペースで自身のスキル習得の進捗を振り返るセルフレビューを行い、上司や同僚からのフィードバックを受け取ることで、改善点や弱点を明確にし、効果的なリスキリングの道筋を作ることができます。
新しいスキルの習得は容易なことではありません。
この過程でのモチベーションの低下やストレスの増加は、リスキリングの障壁となり得ます。
従業員が効果的にリスキリングを進めるためには、モチベーションを維持するテクニックとストレス管理が不可欠です。
例えば、小さな成功体験を積み重ねることや、定期的に自分の成果を他者と共有することで、モチベーションを維持することができます。
また、瞑想や趣味の時間を設けるなど、ストレスを適切に管理する方法も取り入れることで、リスキリングの継続が容易になります。
リスキリングは一過性のものではなく、継続的な取り組みが求められます。
この継続的な学習を支援するためには、学習の習慣化と時間管理のテクニックが役立ちます。
例えば、毎日決まった時間を学習のために確保する、学習の記録を取るなどの習慣を形成することで、継続的な学習を助けることができます。
また、タイムマネジメントの手法を取り入れることで、効率的に学習時間を確保し、リスキリングを進めることが可能となります。
以上の注意点を心掛けることで、リスキリングの取り組みはより効果的かつスムーズに進めることができるでしょう。
リスキリングとリカレント教育は、現代の変化する労働環境に適応するために企業が推進しなければならない重要な取組みです。しかし、リスキリングとリカレント教育では、異なる点に重点が置かれています。
リスキリングは、現在のスキルセットが時代遅れになったり、新しい職務要件に対応できなくなったときに、新しいスキルを習得するプロセスを指し、リカレント教育は生涯にわたる学習の継続性を重視し、個人が自身のキャリア全体で競争力を維持するためのものです。
近年では、急速な技術的革新や経済のグローバル化が背景となって、リスキリングとリカレント教育が注目されるようになってきています。
効果的なリスキリングのためには、現状のスキルの評価、明確な目標設定、適切な研修プログラムの選定、そして実践を通じたスキルの強化が必要です。
これにより、個人と組織は未来の不確実性に対応し、持続的にパフォーマンスを向上させることができるでしょう。