ビジネスにおいて成長を遂げるために、企業同士で業務提携や資本提携を結ぶ「アライアンス」の導入が増えています。日本でも、国内外で業務提携が活発化しており、新規事業の立ち上げや既存事業の拡大に活用されています。
この記事では、そんな企業間のアライアンスについて詳しく解説します。企業を成功に導く有効な手段として、ぜひ検討してみてください。
アライアンス(alliance)は、日本語に訳すと「連携」「提携」「同盟」「組合」といった意味があります。ビジネスにおいては異なる企業の長期的な連携や戦略的同盟などをさしており、協働により新規市場拡大・収益の改善や向上を目指します。
アライアンスで重要なのは、連携する企業同士が対等な立場であることです。元請けと下請けのような上下関係があると、アライアンスは成立しません。
M&Aも、アライアンスと同様に企業の成長や拡大を目指すための手法です。アライアンスと異なるのは、M&Aでは統合により経営権が一方の企業に移転する点です。アライアンスは、経営権はそのまま維持したまま協業関係によって提携を結ぶことが多いです。
アライアンスは、M&Aに比べコストが抑えられ、手続きなどもスピーディーに進みます。双方の企業にとって利益があり、企業同士の思惑が外れた場合にも提携解消までの手続きも比較的容易に行うことができます。
アライアンスは、5つの種類に大別できます。種類ごとで提携内容などが少しずつ異なるため、ひとつずつ解説します。
複数の企業が、経営資源を出し合って協力体制を構築することです。経営資源には技術やノウハウ・人材などが該当し、売上拡大や成長を目指して企業同士が補い合いながら、共同開発や共同販売などを手掛けます。
複数の企業が、業務面や資金面で協力体制を構築します。双方の株式を持ち合うか、もしくは一方の会社がもう一方の会社の株式を取得するか、いずれかの方法で提携関係を結びます。経営への影響を最小限に抑えるため、共有する株式の保有比率は1/3未満に抑えるのが一般的です。
業務提携のひとつであり、技術力を重視するための協力体制です。技術や人材の共有により、商品開発に付加価値をつけられるうえ、開発スピードも短縮できます。特許技術やライセンス契約の共有・新しい製品や技術の共同研究開発契約などが含まれます。
教育機関(大学など)・研究機関などと民間企業が連携し、新事業の展開や研究開発を行います。教育・研究機関がもつ技術や知見を活用し、企業が実用化へ結びつけます。産学連携で成功した代表的な例は、青色発光ダイオードの実用化です。
社外(他社・大学・研究機関など)から持ち寄ったアイデアや技術を、製品開発や画期的な技術発展などに活用する取り組みです。特に、開発に充てる資金が限られる大学や研究機関にとって、アライアンスは企業の資金を活用できる大きなチャンスなのです。
アライアンスによって、企業が期待できるメリットは、以下の通りです。
アライアンスにより、異なる企業が技術・人材・資源などの経営資源を共有できます。これによって、企業の効率的な経営が実現可能です。
複数の企業がアライアンスに関わることで、事業におけるリスクが分散できます。プロジェクトや市場で失敗しても、単独企業で行うよりもリスクの低減が可能です。
連携企業が展開している市場であれば、参入へのハードルを下げられます。市場に関する情報などを事前に把握でき、参入後もスムーズに事業が広げられるでしょう。
アライアンスにより、企業同士で弱みをカバーし強みを活かすことで、自社だけでは参入が困難な市場への新規展開や事業創出などが可能になります。企業同士の協力で、市場における競争力の向上が期待でき、新たな市場開拓が目指せます。
アライアンスは、企業同士の合意により締結でき、経営権の移転も発生しないため、M&Aに比べ少ない手続きで実行できます。その分、経営方針の変更などでアライアンスに支障が出た場合、契約解消もしやすく、企業にかかるリスクを最小限に抑えられます。
企業同士の方向性が合致していないと、アライアンスのデメリットも見えてきます。どのようなデメリットがあるのかを解説します。
アライアンスを組む企業同士は別々の企業であるため、アライアンスに対する意識や目的・ビジョンなどが一致しない場合もあります。この場合、アライアンスの効果を十分発揮できなくなる可能性もあります。組織分解や管理体制などが異なることで、コミュニケーションがうまくいかなかったり対立したりするケースも想定されます。
情報漏洩に対するセキュリティ体制は、企業ごとで異なります。パートナー企業のセキュリティ体制によっては、個人情報・技術・ノウハウなどの情報が漏洩するリスクも否定できません。情報漏洩を防ぐには、秘密保持契約の締結や共同出願による特許出願など、アライアンス契約の締結時に取り決めをしておくことが必要です。
アライアンスには、複数の企業や組織が関係するため、単一の組織の取り組みに比べ運営が複雑になります。管理コストが増加するケースもあるため、円滑な運営に向けたシステム作りが重要です。
アライアンス契約を締結するには、以下の流れで進めていきます。それぞれの流れにおける詳細や注意点を解説します。
最初に、アライアンスによって目指したい目的を明確にします。自社の強みと弱みを把握したうえで、補完すべきポイントを探っていきます。これによって、目的だけでなく選択するアライアンスの種類も絞ることができます。
目的が明確になると、アライアンスパートナーを選ぶ基準が明確になります。パートナーを選ぶ方法として、自社で探すだけでなく、第三者から紹介を受ける方法も効果的です。
アライアンスの成果を最大限に引き出すため、パートナーを選ぶ際には、財務諸表などで経営指標をチェックするほか、過去にトラブルがないかなども確認します。他にも、企業理念や情報の取り扱い方法などもチェックが必要です。
パートナーが決まり、パートナーの契約意思が確認できたら、具体的な契約内容の協議に入ります。業界の情報や技術ノウハウなどが思わぬ形で漏洩しないよう、協議の前に秘密保持契約を締結しておきましょう。秘密保持契約では、秘密保持条項の規定や業務提携終了後の情報の取り扱いなどを明記します。
契約協議は複数回実施しますが、協議と並行して事前に調査したパートナーの経営指標などを確認し、対等な契約を結べるようお互いのメリットを話し合っていきましょう。
パートナー候補との綿密な協議により、アライアンスの提携が決定したら、業務提携契約書を作成し契約を締結します。契約書には、情報漏洩・責任の所在はもちろんのこと、契約期間・業務範囲・締結解除の条件なども盛り込みます。締結後も、契約内容の修正要望があれば、その都度協議を行います。
アライアンスは、パートナーがあってこそ成立するものです。パートナーとの関係性を良好に保ち、強固な協力体制を築くために、次の注意点を心がけるようにしましょう。
アライアンスでは、自社の利益ばかりを重んじていては、良好な関係性の構築が難しくなります。安定した利益を長期的に生み出すには、企業同士がお互いの利益を尊重しなくてはいけません。
契約順守は、アライアンスに限らず企業経営において必須です。契約違反は、企業の信用を大きく失墜させる要因であり、決して許される行為ではありません。経営陣はもちろんのこと、関係者全員がアライアンス契約の内容をしっかりと把握しておきましょう。
アライアンス効果を最大限に引き出すには、パートナーと目的を共有し並走する取り組みが必要です。パートナー同士が、効果を最大限できる方法を常に模索し、目的に向かって進んでいきましょう。
ここからは、実際にアライアンスを行った事例について見ていきましょう。
「アソビ」を創造するカルチャープロダクション・ASOBISYSTEMは、らーめんチェーン・幸楽苑を展開する幸楽苑ホールディングスと、2021年6月にアライアンスパートナー契約を締結しました。誰もが楽しめるらーめんカルチャーの創造・普及を目的としています。
SDGsをはじめとした社会貢献への取り組みにも積極的に取り組み、新しい社会的価値の創造を目指しています。
BMWグループとメルセデスベンツは、2021年3月にアライアンス「Catena-X」の設立を発表しました。自動車のバリューチェーン全体で情報とデータを共有し、統一した業界標準を構築することが目的です。このアライアンスは、企業活動の加速に貢献しています。
この記事で紹介してきたように、アライアンスはパートナー同士が利益を受け、双方が経営権を継続できる仕組みです。
契約の締結や解消が容易である反面、情報漏洩などのリスクもあるため、リスクマネジメントをしっかりと行ったうえでアライアンスを検討していきましょう。