コロナ禍において、多くの事業者の売上が低迷し、大きな打撃を受けました。中でも飲食店は深刻な影響を受けたことから、多くの事業者が事業再構築補助金を活用し、デリバリーやテイクアウトなどの新事業展開を始めました。
飲食店が事業再構築補助金の採択を受けるには、これまでの採択事例を参考にしながら、新たなビジネスモデルを構築することが重要です。そこで本記事では、事業再構築補助金における飲食店の採択事例および採択率について解説します。これから事業再構築補助金の活用を検討している飲食店事業者の方は、参考にしてみてください。
最初に、事業再構築補助金制度について、概要、対象事業者、受給条件などを簡単に解説します。
事業再構築補助金は、日本経済の構造転換を促すため、事業再構築に積極的に取り組む中小企業等の挑戦を支援するための補助金制度です。ウィズコロナ・ポストコロナの時代を迎え、経済社会の変化に対応すべく、新市場進出や事業・業種転換などの取り組みを支援対象としています。
補助対象者は、一定の要件を満たす中小企業者等および中堅企業等となっています。中小企業者に該当するのは、以下の表の数値以下となる会社または個人です。
業種 | 資本金 | 常勤の従業員数 |
---|---|---|
製造業、建設業、運輸業、ソフトウェア業または情報処理サービス業 | 3億円 | 300人 |
卸売業 | 1億円 | 100人 |
サービス業 (ソフトウェア業・情報処理サービス業・旅館業を除く) | 5,000万円 | 100人 |
小売業 | 5,000万円 | 50人 |
ゴム製品製造業 (自動車または航空機用タイヤ・チューブ製造業・工業用ベルト製造業を除く) | 3億円 | 900人 |
旅館業 | 5,000万円 | 200人 |
上記以外の業種 | 3億円 | 300人 |
事業再構築補助金は、8つの事業類型に分かれています。以下では、代表的な「物価高騰対策・回復再生応援枠」の主な要件について、表を使って説明します。
項目 | 内容 |
---|---|
申請枠 | 物価高騰対策・回復再生応援枠 |
概要 | 業況が厳しい事業者や事業再生に取り組む事業者、原油価格・物価高騰等の影響を受ける事業者を支援 |
補助上限 | 3,000万円(従業員数によって異なる) |
補助率 | ・中小企業者等:2/3 ・中堅企業等:1/2 ※詳細は補助額により変動 |
補助対象経費 | 建物費、機械装置・システム構築費(リース料を含む)、技術導入費、専門家経費、運搬費、クラウドサービス利用費、外注費、知的財産権等関連経費、広告宣伝・販売促進費、研修費 |
補助要件 | ・事業再構築の定義に該当する事業である ・2022年1月以降の連続する6ヶ月のうち、任意の3ヶ月の合計売上高が、2019~2021年の同3ヶ月の合計売上高と比較して10%以上減少していること など |
事業再構築補助金について、さらに詳しく理解したい方は、申請を検討している公募回の公募要項を確認してみてください。
事業再構築補助金を利用し、新たな事業を展開した飲食店は数多く存在します。その中から、実際に採択された事例を紹介しますので、ビジネスモデル構築の参考にしてみてください。
東京都内にあるレストランでは、食材に強いこだわりを持っています。自ら訪ねた生産者から、無農薬野菜を直接仕入れているほか、厳選した調味料のみを使っています。
今までのレストラン事業に加え、ECサイトを通じてオーガニック米粉パンと惣菜の販売を始めた際に、事業再構築補助金の採択を受けました。お弁当の販売も行っており、お店こだわりの味が自宅でも食べられるよう新事業を展開したのです。
愛知県にあるつけ麺専門店では、事業再構築補助金を活用して冷凍つけ麺の販売を始めました。コンビニエンスストアやスーパーなどで取り扱うことで、自宅でも店舗と同じ味を楽しめるようになりました。
店舗から近いコンビニ・スーパー限定で販売しており、店舗で食べるつけ麺の味を良く知る顧客から高い評価を得ています。
愛知県で、寿司・和食を取り扱っていた飲食店では、既存店の半分を改装し新しいスタイルのカスタムサンドイッチ店を始めました。中部地方では初めての業種であり、これまでの寿司・和食から大幅な事業転換を図ったのです。新しい店舗は非接触であり、テイクアウトや宅配を取り扱うことで、コロナ禍でも顧客に安心して選ばれる店舗を目指しました。
また、この店舗の特徴的な取り組みは、POSレジの導入です。POSレジは、レジを打つのと同時に、売上額や売上商品などの販売情報が自動的に管理されます。これにより、大きな社会問題となっている食品ロスの改善と生産性向上につながりました。
岩手県にある食堂は、盛岡駅前にある漁師直営のお店です。浜直送の魚介類メニューが楽しめますが、コロナ禍において顧客が激減してしまいました。売り上げを挽回するために、テイクアウト専門の弁当惣菜店を開業し、外食から中食市場へと進出を果たしたのです。
テイクアウトの導入では、飲食店で使用する厨房ではなく、テイクアウト用のキッチンを新設するケースも多く、大掛かりな設備投資を伴います。これにより、事業再構築補助金の事業計画が採択される可能性が高まります。
神奈川県にある中華料理店は、本格的中華料理がリーズナブルに楽しめるお店として、広く親しまれています。このお店が、事業再構築補助金で採択されたのは、起業応援型シェアオフィスを併設開業したことが理由です。
東京都武蔵野市にある企業は、ウィズコロナ時代を見据えて、テイクアウトとデリバリーを主軸にした横丁系居酒屋を新規出店しました。ウィズコロナ時代を迎えても、居酒屋の集客数がすぐにコロナ前に戻るわけではないため、新たな事業展開が必要と判断したのです。
テイクアウト・デリバリーともに、コロナ禍で利用が定着した顧客も多く、ウィズコロナ時代でも高い需要が見込まれています。
茨城県内で創作料理店を営んでいましたが、コロナで売り上げが激減してしまいました。ウィズコロナに対応するため既存事業を縮小し、キッチンカーの導入により「動くレストラン事業」への挑戦を決めたのです。メニューには、茨城県の食材を活用します。
事業再構築補助金では、キッチンカーの車両本体の購入費用は補助対象経費の対象外です。車両の改装費・調理器具などの設備・キッチンカーの宣伝広告費などは、補助対象経費に含まれます。
神奈川県内にあるレストランが、既存の飲食店事業を継続しながらも、富士山の麓にコンテナハウスの一棟貸切タイプのグランピング施設を設置しました。レストラン営業によりノウハウを培った料理を、グランピング事業でも提供できる点から、差別化を図ることができます。
飲食店と、グランピングや宿泊業などは相乗効果が発揮されやすいとされています。さらに、グランピングは経済の構造転換という目的に合致するため、事業再構築補助金で採択されやすい事業形態です。
事業再構築補助金における飲食店の採択率は、どの程度で推移しているのでしょうか。執筆時点での直近回である、第9回公募の結果を見てみましょう。
飲食サービスは宿泊業と合算で発表されているため、飲食店のみの採択率は確認できません。宿泊業・飲食サービス業の応募件数と採択件数で比較すると、採択率はおよそ43%前後であることが分かります。
事業再構築補助金制度が始まった当初の採択事例は、非接触や非対面など感染対策を目的とした再構築が中心でした。その後は、テイクアウトやデリバリーなどに参入する事業者が増え、現在では飲食店の枠を超えた再構築の事例が増えています。
今後は、さらなる事業展開や新分野展開など、これまでとは異なる事業転換が求められるでしょう。
事業再構築補助金は、社会情勢の変化によって少しずつ内容が変わっています。事業の発展や方向転換などを目指す飲食店の事業者にとって、活用しやすい制度へと進化しています。
飲食店で採択を受けるには、飲食店に付加価値をつけた事業計画を立てることが、差別化を図るための重要なポイントとなるでしょう。