会社経営を適切に行い、利益を上げるためには、会社法を理解しておかなくてはいけません。会社法は、会社に関するルールをまとめた法律であり、特に法務担当者は会社法を把握しておく必要があります。
本記事では、会社法および、会社法の中でも特に必須とされている株式会社の知識について詳しく解説します。これから会社の設立を考えている担当者の方は、参考にしてください。
会社法とは、2006年5月1日に施行された法律であり、会社の設立・運営・清算・組織・仕組みなどについて定められています。
現在の会社法が施行されるまでは、会社運営に関する法律が存在していませんでした。商法・有限会社法・株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律など、複数の法律を総称して会社法と呼んでいたのです。2006年に施行されたタイミングで統合・再編成され、現在の法律になりました。
会社法は、施行後2014年と2019年に大きな改正が行なわれており、今後も改正が予想されています。改正内容をふまえた最新の情報を確認することが大切です。
会社法の役割は、主に以下の3つが重要なポイントとされています。
取引相手の保護
利害関係者の利益確保
法律関係の明確化
取引相手の保護のためには、双方が法律関係や事実関係を理解し、取引に必要な情報を開示しなくてはなりません。こうすることで、取引相手が取引における現状やリスクを正確に把握し、的確な判断が下せるようになります。
利害関係者には、顧客・取引先・株主などが該当します。利害関係者が持つ権利や利益を保護すると、企業と利害関係者の双方が利益を得やすい仕組みづくりが可能です。
会社法は、上記の役割を果たすために、法的な関係や義務などを定めています。法律により関係性を明確にし、トラブルの予防や解決につなげているのです。
会社法は、以下の8つの編から構成されています。各編の記載事項と合わせて、簡単に解説します。
編 | 記載事項 |
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第1編 総則(第1条~第24条) | 会社法全般に通じる一般的・包括的な規定 (用語の意味・使用・商号など) |
第2編 株式会社(第25条~第574条) | 株式の設立・解散・株式発行の手順・定款の作成など |
第3編 持株会社(第575条~第675条) | 合名会社・合資会社・合同会社の設立・解散・清算・社員の責任など |
第4編 社債(第676条~第742条) | 公募社債の発行・譲渡・社債権者集会など |
第5編 組織変更、合併、会社分割、株式交換、株式移転及び株式交付(第743条~第816条) | 会社組織の再編・変更・合併・会社分割・株式交換など |
第6編 外国会社(第817条~第823条) | 外国の法令に準拠して設立された「外国会社」が、日本国内で事業活動を行う際に適用される各則 |
第7編 雑則(第824条~第959条) | 会社に対する幅広い分野のルール (解散命令・訴訟手続・非訟手続・登記・公告など) |
第8編 罰則(第960条~第979条) | 会社に関する罪についての規則 (贈収賄罪・特別背任罪・虚偽文書行使など) |
会社法とよく混在されるのが商法です。商法と会社法は対象者の範囲が異なり、商法は個人事業主など商人すべてを対象とする法律であるのに対し、会社法は会社のみを対象とする法律となります。
会社には商法、会社法の両方が適用されますが、会社法が優先的に適用されます。したがって、会社法にある規定は会社法が適用され、会社法にない規定は商法が適用されます。
会社法では、会社の種類を以下の2つに分けています。持分会社はさらに3つに分けられており、株式会社と持分会社は株式の発行の有無で区別されます。会社法が施行された2006年以降、有限会社は新たな設立ができなくなりました。
ここからは、各会社の詳細について解説します。
株式会社は、株式を発行して出資者(株主)に販売した資金を元にして経営する方法であり、国内にある会社と名前がつく団体の中で、9割以上が株式会社です。会社の経営権は取締役や経営者に委任されますが、株主は会社の利益の分配を受け取ったり、会社の経営に間接的に関わったりする権利を持っています。
株式会社では、経営者と株主の役割が分離されていますが、この2つは同一人物でも認められています。株式会社の運営には、株主をはじめ多くの人間が関与するため、会社法では運営に関して細かいルールがあります。
持分会社とは、出資者と社員が同じである会社形態をさします。出資者自身が経営の決定権を持つことで、迅速な意思決定が可能です。
持分会社の社員は、会社の負債に対して限られた範囲で責任を負う「有限責任社員」と、全て責任を負う「無限責任社員」のいずれかとなります。有限・無限の各社員の構成により、以下の3種類に分類できます。
会社形態 | 形式 |
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合名会社 | 無限責任社員のみで構成されている会社であり、会社が負債を抱えると個人資産も弁済に充てなければなりません。近年では設立数が減少しています。 |
合資会社 | 有限責任社員・無限責任社員の双方で構成されている会社であり、有限責任社員は基本的に経営に参加しません。最低でも、無限責任社員が1名必要です。 |
合同会社 | 有限責任社員のみで構成されている会社であり、会社設立の費用や時間が抑えられます。経営の自由度が高く、合同会社を選択するケースが増えています。 |
株式は、株式会社を設立する際に出資を受けるために発行しなくてはならないものです。株式の発行にあたって、株式がどのような仕組みになっているのかを理解しておくことが必要です。
株式とは、会社が事業を行うのに必要な資金を出資した人(株主)に対して発行する証券をさします。株式の発行により得た事業資金は、借入金ではないため返済の義務はありません。その代わり、株主は保有株式の数や割合に応じて経営に参加することで、株式数に相当する会社の権利を保有します。
会社で利益が出た時には、保有株式の数に応じた配当がもらえるほか、会社の成長により価値が上がった株式を売却すると利益が得られるのです。
法律では、株式会社の株主を表す地位は「株式」で表され、持分会社の社員を示す地位は「持分」を意味しています。つまり、株式会社における「株式」は、持分会社の「持分」に該当します。
株式と持分の主な違いは、意志決定権の行使方法と譲渡の2つです。株式会社では、株主総会を通じて株主の意思決定権を行使しますが、持分会社では会社を経営する社員自身が意思決定を行います。また、株式の譲渡は原則自由である一方、持分の譲渡には他の社員の承諾が必要です。
普通株式とは、一般的に「株式」と呼ばれているものであり、株式の権利内容が平等かつ同一に設定されています。一方で、種類株式は普通株主と異なる権利内容が含まれる株式です。権利の内容によって、種類株式は以下の9つに分類されます。
剰余金の配当
残余財産の分配
議決権の制限
譲渡制限
取得請求金
取得条項
全部取得条項
拒否権
役員選任権
普通株式同様、種類株式であっても、同じ種類の株式は平等に扱われます。複数の権利を重複して付与したり制限したりすることも可能です。
株式会社は、多くの出資者から出資を募り、円滑な経営を持続するために、株式について以下の2つの原則が設けられています。それぞれ、どのような原則になっているのかを見てみましょう。
同じ株式を保有する株主は、株式の内容および数に応じて平等に扱う必要があります。この原則によって配当は平等に分配され、投資家が安心して出資できるだけでなく、少数株主の権利保護にもつながります。
株主平等の原則の狙いは、投資家が安心して株式を購入し、出資を促すことです。
株主が保有する株式は、原則として自由に譲渡できるとされています。株主は、譲渡したいタイミングを自分の判断で決めることができ、出資したお金をいつでも回収可能です。
ただし実際に株式譲渡自由の原則が適用されるのは上場会社に限られており、大半の会社では制限が設けられています。これは、経営に好ましくない人物の持ち株比率が高まるのを防ぐためです。
株式会社には、多くの利害関係者(ステークホルダー)が関与しています。会社経営におけるガバナンスを強化するために、株式会社についての規定が会社法で詳しく定められています。株式会社を構成している機関は、以下のとおりです。
株主総会は、株式会社の最高意思決定機関です。会社法では、すべての株式会社に株主総会を設置し、定時株主総会の開催を義務付け、会社のすべてに関する事項を決定できるとなっています。総会には株主が集まり、会社の基本方針・決算報告・定款の変更・役員や監査役の選任および解任などを決議します。
取締役は、会社の業務執行に関する意思決定を行う役職であり、会社法で定められています。取締役会の設置には、取締役が3名以上必要であり、業務執行の決定のほか業務執行の監督・代表取締役の選定や解職などを行います。
監査役は、取締役の職務執行に関する監査を行う立場であり、取締役会を設置している会社では原則として監査役の設置が必要です。監査役会は、監査員が3名以上必要とされ、監査方針の決定・監査報告の作成などを行います。
会計監査は、株式会社の財務諸表が適切に作成されているかを監査します。会計監査人を務められるのは、公認会計士または監査法人のいずれかのみです。
監査委員会は、取締役会の一部として、取締役の職務執行監査や監査報告の作成などを担います。また、会計監査人の選任・解任などの決定権も持っています。
取締役会の中に設ける組織であり、社長をはじめとした経営陣の選任・解任を議論します。人選の理由および意図を、株主総会で説明する義務があります。
会社法では、企業の合併・買収(M&A)による組織再編についての手続きも定めています。会社法では、組織再編に関する以下の手続きが認められています。それぞれの手続きの流れについて見てみましょう。
会社の一部もしくは全部が解散し、権利義務が他の会社へ包括承継される組織再編の方法です。合併には、以下の2つの方法があります。
吸収合併(既存の会社が権利義務を承継する)
新設合併(新設した会社へ権利義務を承継する)
会社の権利義務の一部を切り離し、他の会社へ承継させる組織再編の方法です。会社分割にも、以下の2つの方法があります。
吸収分割(切り離した部分を既存会社に承継させる)
新設分割(切り離した部分を新設会社に承継させる)
株式交換は、一方が他方の全発行済み株式を取得し、完全子会社化する組織再生方法です。M&Aの当事者を100%子会社化する際に多く用いられます。
株式移転は、2つの会社が共同で設立した持株会社が、元会社の全発行済株式を取得し、元会社を完全親会社化する方法です。元会社の株式を持株会社に移転させるため、このように呼ばれています。
株式交付は、2019年の会社法改正により、2021年より新しく施行されたM&Aスキームです。一部の株式の交付を受けることで、株式会社が他の株式会社を新たに子会社化する手続きをさします。全株式の取得が要求されないため、柔軟な対応が可能であるという特徴があります。
株式交換の手続き等の煩雑さから、株式交換の代替手段として株式交付を選択するケースが増えると考えられます。
ここまで解説した手続きは、組織再編行為として認められていますが、それ以外にも会社法ではM&Aの手続きとして、事業譲渡や株式譲渡も選択が可能です。
事業譲渡では、会社の事業の全部もしくは一部を他の会社へ譲渡します。株式譲渡では、株式の取得により他の会社の支配権を取得します。
この記事で紹介してきたように、会社法は、円滑な会社経営のためにしっかりと理解しておく必要がある法律です。
特に株式会社の規定は多いため、これから設立手続きを検討している経営者の方は、会社法に基づいた適切な手続きを取るようにしましょう。