日本の農業は、高齢化や後継者不足など、さまざまな問題を抱えています。国と市町村をあげて問題を解決し、後継者を支援するために、令和3年度予算から新しく始まったのが「経営継承・発展等支援事業」です。事業が始まってから日が浅く、詳細を知りたいと思っている農業関係者の方もいるでしょう。
今回は、経営継承・発展等支援事業がどのような事業なのか、概要を詳しく説明します。農業従業者の方、日本の農業をより良くしていきたいと考えている方は、ぜひご一読ください。
経営継承・発展等支援事業とは、これまで地域農業を担ってきた農業従事者から、農業経営を継承した後継者に対して、国と市町村が一体となり、必要経費を補助する制度です。
農業では、後継者へ事業を継承する場合、事業承継ではなく経営継承と呼びます。これは、農業における引継ぎが、一般企業の引き継ぎ方と異なる方法で行なわれるためです。農地や農業用機械とともに、農業に関する技術を後継者へ引き継ぐことが、事業を続けるうえでの必須条件となります。
以下の2つの条件を満たして農業を引き継ぐと、経営継承に該当します。
経営者が入れ替わっても、農業としての生産活動が続いている
後継者が農業経営の資源を引き継ぎ、農産物の生産を行う
国内の農業人口のうち、およそ6割が65歳以上であり、農業の将来を担う35歳未満はわずか5%となっているのが現実です。農業従事者の平均年齢は68.5歳であり、後継者がいないことで高齢者が中心となって農業を切り盛りしている実状が浮き彫りになっています。
この状況を改善し、将来の農業を担う後継者や経営体を確保するために、経営発展計画に基づく取り組みを実施した後継者に対して、最大100万円が補助されます。
農業の後継者がなかなか見つからず、高齢化や人手不足が深刻な問題となっている原因のひとつに、新規参入時のハードルが高いことが挙げられます。農業用機械の購入費用が高額であるだけでなく、農地確保や水利権獲得までの工程も複雑かつ困難です。農業を始めてからも、農薬・肥料代・水道光熱費などの維持費が必要です。
作物が収穫できるようになり、ある程度の収入が得られるまでには、かなりの期間がかかります。さらに、他の産業と比べて収益率が低いことで、農業は敷居が高いとのイメージがついてしまい、問題をさらに深刻化させています。
経営継承・発展等支援事業により、後継者に農業を存続させるきっかけとしたい事業者が、今後増えて行くことが期待されています。
支援事業の補助を受けようとする場合、個人事業主・法人それぞれで、以下の要件を満たすことが必要です。なお、先代事業者との関係性(親子・第三者・従業員など)は問われず、先代の年齢や所得に制限はありません。
個人事業主では、以下の補助要件を満たしているか、申請前に必ず確認しておいてください。
令和3年1月1日から、経営発展計画を提出する時点までに、農業経営の主宰権を先代の事業者から対象者へ移している
先代が、これまで地域農業において中心的な役割を担っていると、市町村から認められている
経営継承をする時点で、先代の経営規模や生産基盤が大きく縮小していない
青色申告者である
経営発展計画の達成が可能であると見込まれる
地域農業の維持・発展に向けた強い意欲を持っていると、補助事業者から認められている
主宰権が移る前に、農業経営を主宰していない
農業の人材投資に関する資金の交付を受けておらず、過去にも受けていない
新規就農者育成総合対策のうち、経営発展支援事業を、現在・過去とも実施していない
家族経営協定を、書面で締結していない(家族経営の場合)
法人の場合も、個人事業主の場合とほぼ変わりません。異なるのは、補助対象者が法人化をするタイミングによって、以下のように要件が若干変わってくる点です。
タイミング | 条件 |
---|---|
先代経営者から、法人経営の主宰権を譲り受ける場合 | 法人が、農業経営の中心的な役割を果たし、令和3年1月1日から計画提出時点までに後継者が主宰権を譲り受けている (法人登記・定款・規約のいずれかで確認できる場合に限る) |
先代事業者から、主宰権を譲り受けるのと同時に法人化する場合 | 法人が、農業経営の中心的な役割を果たし、令和3年1月1日から計画提出時点までに主宰権を譲り受けている |
個人事業主・法人のいずれであっても、補助金を受けた対象者が将来的に中心経営体の役割を担い、農業の発展に大きく貢献することが望ましいとされています。
経営継承・発展等支援事業の補助額は、上限100万円と定められています。この額を、国と市町村が半額(それぞれ上限50万円)ずつ負担します。
ただし、国が負担するのは、市町村が事業費の半額(上限50万円)を負担する場合に限り、国庫補助金から同額が交付されることになっています。つまり、市町村から交付がないと、国からも交付ができないのです。
事業の補助対象となるのは、以下の項目です。
対象経費 | 内容 |
---|---|
専門家謝金 | 専門家等から、事業遂行に必要な指導や助言を受けた際に、謝礼として支払う経費 |
専門家旅費 | 上記の専門家に対して支払う旅費 |
研修費 | 事業遂行に必要な研修の受講料 |
旅費 | 事業遂行に必要な情報収集や調査実施・研修受講などに必要な旅費 (食事代・入浴料・グリーン車などの特別料金は対象外) |
機械装置等費 | 事業遂行に必要な機械装置等の購入経費 (汎用機器・自転車等の購入・取替更新の機械装置購入・消耗品・一般事務用ソフトウエア購入などの費用は対象外。中古品の機械装置は、一定条件を満たしていれば補助対象になります) |
広報費 | 事業遂行に必要なホームページ・パンフレット・ポスタ・チラシなどの作成・活用にかかる経費 (事業と関連のないものは対象外) |
展示会等出展費 | 事業遂行に必要な農畜産物の販売促進を目的としたPR活動・ネット販売において、手数料や利用等にかかる経費 |
開発・取得費 | 事業遂行に必要な試作開発に必要な原材料・設計・デザイン・製造・改良・加工および認証取得にかかる経費 |
雑役務費 | 事業遂行に必要な臨時の人材募集費用・アルバイト代・宿泊料・保険料・派遣料・作業委託料・交通費などの経費 (作業日報や労働契約書などによる実績報告が必要) |
借料 | 事業遂行に必要な機械装置等のリース・レンタル料としてかかる経費 (PRイベントなどを開催するのに会場を借りる経費は対象外) |
設備処分費 | 事業遂行に必要な作業スペースを確保するために、既存の機械装置を廃棄・処分する、または借りていた機械装置をするのに修理・原状回復するための経費 (設備処分のみは対象外) |
委託費 | 上記11の費用に該当せず、事業遂行に必要な業務の一部を第三者に委託するため支払う経費。自らが実行困難な業務に限る |
外注費 | 上記12の費用に該当せず、事業遂行に必要な業務の一部を第三者に外注(請負)するため支払う経費。自らが実行困難な業務に限る |
各項目において細かい規定がある他、項目に該当していても補助対象外となるものもあります。申請したい経費が補助対象に含まれるかを、直近の公募要項で確かめるようにしましょう。
経営継承・発展等支援事業の書類申請は、提案書等を電子データ作成し、電磁的記録媒体(USBメモリ・CD-ROMなど)に保存したうえで、事務局へ郵送します。このとき、紙媒体の郵送は不要であり、簡易書留もしくは特定記録など追跡できる方法で郵送するように、公募要項に記載されています。郵送したら、その旨を補助金事務局へメールにて送信します。添付ファイルとして、「予算確保状況」が必要です。
申請者が個人事業主もしくは法人のどちらに該当するかによって、提出書類が異なりますので、要項をしっかり確認し、漏れのないよう注意しましょう。
令和4年度は、1次募集と2次募集が行なわれ、いずれも受付は終了しています。参考として、2次募集の主なスケジュールを紹介します。
イベント | スケジュール |
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募集期間 | 令和4年10月5日(水)~11月25日(金)【締切日当日消印有効】 |
審査結果の通知 | 令和4年12月以降(予定) |
事業実施期間 | 交付決定日~令和5年3月10日(金) |
上記のスケジュールは、別途市町村ごとで期間が定められている場合があるため、必ず確認しましょう。なお、第3次募集以降の実施の有無や詳細については、執筆日時点では公開されていません。
経営継承・発展等支援事業は、日本の農業が抱える問題を解決すべく、経営継承を後押しするために設立された制度です。
この制度により、後継者が農業を継承しやすくなり、新しい農業のスタイルを確立するきっかけになるといいですね。