ROEとROAは、どちらも企業の経営状況を判断するのに重要な指標です。言葉が似ており、混同する人も少なくありませんが、双方の計算や分析の方法は明確に異なります。指標を企業経営に活かすには、違いをしっかりと理解しておくことが必要です。
本記事では、ROEとROAそれぞれの概要や、数値を高める方法を解説します。効率良く利益を上げるために、ぜひ最後までご一読ください。
ROE(アールオーイー=Return On Equity)とは、自己資本(株主による投資・利益余剰金などの純資産)に対する利益を示すもので、「自己資本利益率」「株主資本当期純利益率」などと訳される用語です。ROEにより、利益を効率良く出せているかを測ることができます。
自己資本は、総資産から総負債を引くと算出可能です。投資家は、自身が出資した会社が出す利益に注目しており、ROEは利益を知るための重要な指標となっています。
ROEは、純資産のうち当期純利益が占める割合を表すことから、以下の計算式で算出できます。
ROE(%)= 当期純利益 ÷ 純資産(自己資本)× 100 |
なお、当期純利益の数値は、損益計算書に記載された税引き後の最終利益が該当します。
ROEは%で表すため、当期純利益の金額だけでは比較ができません。
ROEの数値から、企業の経営効率が分かり、ROEが高いほど効率良く利益を上げていると判断できます。株主にとって、ROEが高い企業は高い配当が期待でき、より魅力のある企業と言えます。ROEが高い企業は株価も上がりやすく、株主からの注目度が高いと言えるでしょう。
反対に、ROEの数値が低いと経営効率が悪いとみなされます。積極的に資金調達を検討する株主は、ほとんど期待できません。
ROEが8%から10%以上であれば、優良企業とみなされます。ただし、業種によってROEの数値が異なるため、業種ごとの数値を用いた比較が必要です。
経済産業省が発表した「2022年企業活動基本調査」(2021年度実績)によると、業種全体で見たROEは9.7%となっています。ROEの数値が高い業種には、卸売業(13.1%)、鉱業・採石業・砂利採取業(12.8%)、情報通信業(12.6%)などがあります。一方で、ROEの数値が低い業種は、生活関連サービス業・娯楽業(-0.7%)、電気・ガス業(1.9%)、飲食サービス業(5.1%)などです。
ROA(アールオーエー=Return On Assets)とは、会社が保有する全資産(自己資本+他人資本)に対する利益の割合を示した数値であり、「総資産利益率」とも呼ばれています。他人資本は、金融機関からの借入金・社債・買掛金・未払金・支払い手形など、返済や支払いの義務がある資金(負債)が該当します。
ROAは、総資産に対する利益率を求めることから、以下の計算式で算出します。
ROA(%)= 当期純利益 ÷ 総資産(自己資本+他人資本)× 100 |
また、以下の計算式でもROAを求めることができます。
ROA = 売上高当期純利益率 × 総資産回転率 |
総資産回転率の詳細については、後ほど解説します。
ROAも、ROEと同様に数値が高いほど効率良く利益が出ていることを意味します。しかし、ROAは高い方が良いと、一概に言い切ることもできないのです。
高額な投資を行うと、その分ROAは低くなります。ただ、長期的な目線で見ると投資が利益を生み出す可能性もあるでしょう。そのため、単年でROAを判断するのは得策とは言えません。
同じ理由で、ROAが高いと、長期的な成長に向けた投資ができていない事態も考えられます。複数年の数値を見ながら、推移を見守ることが大切です。
ROEとROAの違いは、分母の部分が純資産か総資産かという点です。どちらの指標も、企業経営の効率性を評価する重要な数値ですが、ROEは投資家や株主・ROAは経営者や利害関係者などが主に重視しています。
ROEとROAの数値を活用することで、会社の経営分析が可能です。ROEが高くROAが低いと、負債が大きく倒産リスクを抱えている可能性があります。反対に、ROEが低くROAが高い場合は、他人資本を活用する財務レバレッジをうまく活用できていない可能性が考えられます。
ROEは、異業種間で数値を比較するのもある程度有効です。しかし、企業の保有資産は業種によって大きく異なるため、ROAは異業種間で比較するのは向いていません。例えば、製造業は高額の設備や機械装置が必要である一方、サービス業やIT関連企業では大型の設備や資産は少ない傾向が見られます。
ROAの目安は、5%程度が一般的だと言われています。経済産業省が発表した「2022年企業活動基本調査」(2021年度実績)によると、業種全体のROAは4.1%となっています。ただ、前述したように、業種ごとで必要な資産が異なるため、業種別で算出されたROAで比較することが大切です。
ROEの数値が高い業種には、鉱業・採石業・砂利採取業(8.8%)、情報通信業(6.4%)、卸売業(5.1%)などがあります。一方で、ROEの数値が低い業種は、生活関連サービス業・娯楽業(-0.2%)、電気・ガス業(0.44%)、クレジットカード業・割賦金融業(0.78%)などです。
ROEを高めるには、以下の3つの方法が効果的です。それぞれの方法について見ていきましょう。
ROEの計算式で、分子に当たる当期純利益を上げると、ROEの数値も上がります。このためには、収益性を向上させる施策が重要です。
収益性の向上は、売上を増やす・コストを削減する・もしくはその両方を行うという3つの選択肢があります。まずは業務内容の見直しや人事配置などを行い、コスト削減から取り組んでいくのも良いでしょう。
総資産回転率とは、保有する資産がどれだけの売上をあげているかが分かる指標であり、以下の計算式で算出できます。
総資産回転率 = 売上高 ÷ 総資産 |
資金調達によって総資産が増えても、売上が伸び悩むと総資産回転率の数値は低くなります。必要な資産のみを保有したり、活用していない資産を売却したりして、効率良く資産を管理しながら、売上高をあげることが大切です。
財務レバレッジは、金利が低いタイミングで他人資本を借り入れ、ビジネス拡大や投資へ活用します。これによって、相対的に自己資本の割合が下がり、ROEが高くなります。
ただし、財務レバレッジがあまりにも高くなると、負債が増えることで経営状態の悪化が懸念されます。投資と負債とのバランスに注意しながら管理すると、ROEを高めるカギになるでしょう。
ROAを高めるには、どのような方法を取ると効果的なのでしょうか。特に重視したい方法を3つ紹介します。
総資産を減らすと言うと、良い印象を持たない人もいるかもしれません。しかし、総資産には負債などの他人資本も含まれているため、総資産を減らすことで借入金や社債なども減らせるのです。
他人資本を減らすのに加え、活用していない固定資産を売却したり、在庫を処分したりしながら、総資産を減らしていきましょう。
売上高当期純利益率を上げるには、売上高を増やすか経費を削減するか、いずれかの方法がとられます。短期的な利益の増加を目指す場合は、販売費や管理費などの経費削減が効果的です。
経費削減に当たって、従業員の意欲低下や製品の品質低下は避けなくてはなりません。売上高と当期純利益の両方に着目して、経費削減に取り組む必要があります。業務内容を今一度見直し、デジタル化が可能な業務の導入を検討するのもひとつの方法です。
総資産回転率を向上させるには、資産を増やさずに売上高を増やすか、資産を減らしつつ売上も維持するか、いずれかの戦略が求められます。総資産に着目するだけでなく、総資産と売上高の両方へ着目するため、効率性を重視した対策が必要です。
ROEとROAは、どちらも企業分析に必要な利益率を読み取ることができますが、計算の元となる分母が異なります。それぞれの特徴を上手に活用し、正確な企業分析につなげていきましょう。