よくシナジーを発揮する等と言われますが、シナジーを明確に説明できる人は少ないのではないでしょうか。
「シナジー」「シナジー効果」などの言葉は、元々生物学分野の専門用語でした。現在では、ビジネスシーンにおいて多く使われています。
この記事では、ビジネスシーンにおける「シナジー」「シナジー効果」の意味や効果を生み出す方法など、シナジーについて詳しく解説します。
シナジー(Synergy)とは、薬学・生理学・生物学分野における専門用語として使われていました。Synergyの語源は、ギリシャ語のsunergosと言われ、「sun(一緒に)」と「ergos(機能する)」の2語が合わさった単語です。
シナジーは、複数の人・事柄・ものなどがお互いに作用し、効果や機能を高めることを意味しています。この意味から、ビジネスシーンで「相乗効果」「共同作用」などの意味合いで使われるケースが増えています。
相乗効果では、単純な足し算によって1+1が2になるだけでなく、プラスアルファとして新しい価値を生み出すことが目的です。
シナジーの反対語として使われるアナジーとは、マイナスの相乗効果が生まれてしまう現象を指します。具体的には、以下のマイナス効果がアナジー効果に該当します。
想定外のコスト増加
多角化経営の失敗
コミュニケーション不足
顧客離れ
経営状況の悪化
M&Aによる統合効果が十分でなかった
シナジー効果がマイナスに働くことでアナジー効果となるため、この2つは相反する意味を持っているのです。
シナジー効果の代表的な例は、双方が有益となる「Win-Winの関係」です。今までそれぞれ単独で行っていた事業を共同で実践したことで、単独では成し得なかった高い効果を得られるのが、シナジー効果が意味する相乗効果です。
異なる部署同士や異なる企業が、ひとつの目的や事業に向かって協力し合い、単独で行う以上の結果が出せれば、シナジー効果が得られたと言えます。
例えば、A部署とB部署の事業価値がそれぞれ10であるとして、協力して目標を達成した結果事業価値が20を超えたら、シナジー効果が得られた状態です。反対に、収益が落ちて事業価値が20よりも減ってしまった場合は、アナジー効果があったことを意味します。
ビジネスシーンでは、さまざまなシナジー効果の種類があります。経営戦略を立てるうえでは、以下の4つのシナジー効果を想定するとスムーズに進みます。
研究開発・生産設備・流通経路・販売経路・倉庫などの共有により、販売行動を効率化し相乗効果を得るものです。販売シナジーには、以下の行為が該当します。
クロスセリング(商品やサービスと付加的な商品を合わせて販売する)
アップセリング(単価が高い商品やサービスを勧める)
販売チャネル拡大(複数の会社の販路が活用でき、売上増加が見込める)
ブランド効果の活用(相手企業のブランドが活用できることがある)
生産に必要な設備や情報の共同利用により生まれる効果です。物流業務の統合により、仕入量が増加すると、価格交渉が積極的に行えます。また、在庫管理の効率化や工場の稼働率向上は、物流コストの削減という生産シナジーも期待できます。
新製品を開発するための情報や技術力・ノウハウなどを共同で利用すると、大きな開発効果が期待できます。これを投資シナジーと言い、開発費用の削減や技術力・ノウハウなどの向上にも寄与します。
経営者や管理者が、経営に必要なノウハウの共有により見られる相乗効果です。双方の経営戦略の強みを融合でき、精度が高い経営戦略を策定・実施できるようになります。
また、新規事業への参入にも、経営シナジーは大きな役割を果たします。新規事業に関するノウハウを前もって得られるため、0から始めるのに比べてスムーズに進められるでしょう。
ビジネスにおいてシナジー効果が重視されている理由は、企業の業績を大きく左右しているためです。具体的に、どのような効果により業績を左右するのか見ていきましょう。
同じ企業であっても、保有している知識やリソースなどは部門やチームごとで異なります。異なる部門やチームの協力により、知識やリソースなどの資源を共有でき、企業内で効率的に活用できます。
共有できる資源は、製造ノウハウ・技術・物流・販売チャネルなど多岐に渡ります。異なる部門が連携すると、市場のニーズにマッチした製品の迅速な提供が可能です。
資源の効率的な活用は、コスト削減にもつながります。作業工程が重複していたり、シナジー効果により大量生産が可能になったりするのであれば、コスト削減により大きなメリットが得られるでしょう。
イノベーションとは、組織やサービスなどに新しい発想や技術などを取り入れ、新たな価値を生み出すことをさします。異なる分野で活躍している人が協力すると、新しいアイディアが生み出され、企業の成長につながるケースが多いです。
複数の部門が、顧客に満足してもらえるサービスの案を出し合うことで、顧客に寄り添ったサービスが提供できるようになります。これにより顧客満足度が向上するだけでなく、新規顧客を獲得できるチャンスも広がります。
シナジー効果を生み出す主な方法は、以下の4つです。企業間もしくは部門・部署間で、これらの方法から適切なものを選択することが必要です。それぞれの方法について、詳しく見ていきましょう。
M&Aは、組織再編によるシナジー効果を生み出すのに適した方法です。組織再編の場面では、企業が持つ強みや特徴などを現状と異なる形式で組み合わせることで、組織の変革や拡大につなげる必要があります。
M&Aにより、売り手企業・買い手企業の双方に大きなメリットが生まれます。この結果、売上向上・リスク分散・コスト削減による財務力向上など、様々なシナジー効果が期待できるのです。
業務提携では、異なる商品や技術を持つ企業同士の提携により、お互いの強みを伸ばし弱みを補うことが可能です。アライアンスとも呼ばれています。
業務提携のうちシナジー効果が生まれやすいのは、技術提携と販売提携です。技術提携は、ライセンス契約や共同開発契約などを締結したうえで、会社が持っている技術や特許を他社へ共有し、商品の製造・販売に活かします。実例として、自動車メーカーが業務提携を行うことで、軽自動車の販路が広がっています。
販売提携では、商品の販売やサービスの提供を提携先に委託します。中小企業やベンチャー企業などの販売網を広げたい企業にとって、販売提携はとても有効な手段です。
多角化戦略とは、主力事業とは異なる新たな分野への進出に、自社の経営資源を活かすための取り組みです。既存の事業のみの展開では、世間情勢の変化によるリスクヘッジにすることはできません。多角化戦略は失敗するリスクも高いですが、大きなリターンも期待できます。
多角化戦略のうち、シナジー効果を得やすい戦略は以下の4つです。
水平型(既存技術や流通経路を応用し、同じ分野で事業を広げていく)
垂直型(既存市場と同じところで新製品を展開する)
集中型(既存技術を活かし、別の市場へ進出する)
集成型(新商品を新しい市場へ進出する)
グループ企業の中で、業務の一部を共通化することにより、顧客の利便性向上やシステムのコスト削減などのシナジー効果を狙う取り組みです。グループ企業としても、安定した売り上げが長期間見込めるようになります。
実際の市場においてシナジー効果を活用している事例には、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは、大きな事例を4つ紹介します。
トヨタ自動車とスズキが資本提携を発表したのは、2019年8月でした。資本提携以前にも、技術の供給や共同開発会社への参加など、企業同士の協力関係は明確になっていました。
資本提携により、トヨタ自動車が持つ電動化技術とスズキが持つ小型車技術の融合が実現したのです。また、部分仕入れの共有化によるコスト削減や市場シェアの共有・開発費の確保など、幅広い点でシナジー効果を生み出しています。
大正製薬は、2016年にドクタープログラム株式会社を100%子会社化し、事業資産や従業員も全て継承しました。ドクタープログラムは、通信販売を主な販売経路とし、スキンケア商品を主軸に事業展開をしていました。子会社化により、大正製薬は通信事業を強化し、ブランドのノウハウを活かしてスキンケア領域の拡充などに成功したのです。
コンビニ大手のファミリーマートでは、2018年2月に24時間フィットネスジム「Fit&GO」(2021年3月からは「FIT-EASY」)の店舗併設を始めました。同じ年に、ファミリーマートの敷地にコインランドリーを併設した店舗も開店しました。
雨の日に来店客数が減るコンビニと、雨の日に利用者が増えるコインランドリーの併設により、雨の日でも売り上げを維持するシナジー効果が生まれたのです。
LIXILグループは、INAXやトステムを統合して生まれたグループ会社です。2012年に、子会社105社の会計システムが統合されました。経営スピードの向上だけでなく、リアルタイムで業績の把握が可能となり、素早い経営判断が実現できたのです。
シナジー効果による新しい価値を生み出すには、シナジー効果の種類や方法などをしっかり理解しておくと、より大きなメリットが得られます。
M&Aや業務提携などを検討し、シナジー効果を得られるよう戦略を立てていきましょう。