事業承継士は、事業承継センターが主催する、事業承継の専門家を認定する資格です。
この記事では、事業承継士とは何か、取得方法や費用、難易度やメリットなど、事業承継士に興味がある方が知っておきたい点を解説します。
事業承継士とは、事業承継センター株式会社が認定する民間資格です。
近年は、団塊世代の中小企業経営者の引退、親族内承継に代わり親族外承継やM&Aによる事業承継の増加など、事業承継を取り巻く環境が変化するとともに、事業承継の専門家の需要が高まっています。
しかし、現状は事業承継に特化した資格はなく、公認会計士・税理士などが仲介やコンサルティングを行い、実務を通して事業承継の経験や知見を得て活動しています。
このような現状において、事業承継士は事業承継のスペシャリストであることを認定する資格として、事業承継に関する事業を行いたい方に注目されています。
事業承継士の特徴は、相続対策や節税対策など個々の分野に特化するのではなく、さまざまな要素が絡む事業承継の全体像をとらえ、「全体最適」を提示する専門家であることです。公認会計士・税理士など各分野の専門家をとりまとめ、事業承継を成功に導くかじ取り役を果たします。
事業承継では、社風やノウハウ、先代経営者の経営理念など、目に見えない財産を承継することが重要です。また、引退する先代経営者の心の整理、親族・従業員間のトラブル調整など、人間関係の取りまとめも成功を左右します。
事業承継士は、相続・節税といったテクニカルな面だけでなく、経営者・後継者の信頼を得る人間関係の構築、経営理念や知的財産の伝承など、事業承継を成功させるための生きた知識・ノウハウを体型的に習得した専門家となっています。
事業承継士は、事業承継に関連する以下の国家資格のいずれかを、すでに保有している人だけが受験できます。
中小企業診断士
税理士
公認会計士
弁護士
司法書士
社会保険労務士
行政書士
土地家屋調査士
一級建築士
不動産鑑定士
ファイナンシャル・プランニング技能士
ただし、これらの資格を保有していなくても、同等の知識や能力があるとみなされる場合は受験が認められます。
事業承継士取得の流れは以下の3つのプロセスとなります。
事業承継士資格取得講座の受講
事業承継士認定試験に合格する
事業承継協会へ入会する
また、資格取得についての無料説明会が定期的に開催されているので、講座を受講する前に出席するのもおすすめです。
事業承継士の費用は以下のとおりで、取得のための費用は、受講料330,000円・受験料9,900円・入会金11,000円の合計350,900円となります。
取得費用以外にも、年会費が11,000円、資格の更新料が3年毎に5,500円かかります。他にも、セミナーに出席したり書籍を購入した場合は別途費用が必要です。
内容 | 費用 |
---|---|
講座受講料 | 税込330,000円 |
試験受験料 | 税込9,900円 |
事業承継協会への入会金 | 税込11,000円 |
年会費 | 税込11,000円 |
更新料(3年毎) | 税込5,500円 |
事業承継士の資格は、資格取得講座に75%以上出席して、試験で60点以上とれば合格です。講座は合計30時間あり事業承継の幅広いトピックを扱うので、取得の難易度は決して低くはありません。
しかし、事業承継士を受験できるのは、取得に数千時間かかると言われる国家資格を持っている人だけなので、それらに比べると難易度は高くないといえます。
事業承継士と似た名前の資格に「事業承継アドバイザー」というものがあるので、混同しないように注意しましょう。
事業承継アドバイザーは金融検定協会が認定する資格で、事業承継センターが認定する事業承継士とは別物です。
事業承継アドバイザーは、金融機関で事業承継を担当している支店長などが、事業承継の基礎知識を持つことを認定する資格です。士業を営む者が事業承継コンサルティングの総合的なスキルを得る事業承継士とは、対象とする者や目的が違います。
事業承継士を取得すると、以下の節で解説するようなさまざまなメリットが得られます。メリットと取得コストを比較して、資格を取得するべきか判断しましょう。
事業承継の専門家の資格を持っていることは、顧客や社内、関係者への信用・評価につながります。例えば、中小企業経営者が事業承継を検討する時、事業承継士の保有者なら安心して相談できるでしょう。
また、資格を取得すると名刺やHPなどに事業承継士のロゴを使用できるので、事業承継の専門家であることを広くアピールできます。
事業承継の専門家であることを示す事業承継士資格を持っていると、事業承継に関する仕事の幅を広げることができます。
中小企業経営者から事業承継の相談・オファーをもらいやすくなるでしょうし、中小機構が募集している「中小企業アドバイザー」の応募などでもアピールポイントとなるでしょう。
M&A仲介会社や金融機関の事業承継部門、M&Aを積極的に行っている一般企業への就職でも、資格がプラスになると期待できます。
事業承継士を受験するのは事業承継に対して高い意識を持っている人ですから、セミナー受講などを通して優秀な人とのネットワークが広がります。
人脈の拡大は事業承継士のメリットとして事業承継センターが重視している点の一つで、単にセミナーなどを通して知り合うだけでなく、交流会や勉強会を定期的に開催しています。
事業承継センターが提供する資料やデータは、長年にわたる事業承継の実務経験に裏打ちされたものです。資格を得て協会員となると、これらの資料・データを利用できます。
資料やデータは豊富な実績のあるコンサルタントが実際に実務で使用しているもので、これらの資料をダウンロードし自由にカスタマイズして使用できます。
事業承継センターは単に資格を認定するだけでなく、常に最新の事業承継の動向や知見を収集・研究し、機関紙やセミナー、ウェブメディアなどで発信しています。
事業承継士を取得するとこれらの最新情報を入手でき、事業承継の動向・知識を常にアップデートできます。
事業承継士を取得すると、取得後も協会からさまざまなサポートが受けられます。
事業承継センターでは随時セミナーや勉強会が開かれており、最新情報の入手が可能です。資格取得者は講師としてセミナーを開催することもでき、教える立場を経験することもスキル向上につながります。
また、事業承継協会は「ツナグ」という機関誌を発行しており、最新の事業承継事例や業界動向をチェックできます。他には、メルマガなどによる最新情報の提供、SNSなどによる会員同士の交流など、事業承継の専門家として大変有利な環境を整えることができます。
事業承継センターのHPによると、資格取得講座の内容は以下のようになっており、トータル30時間となっています。
相続・株式・不動産などのテクニカルな面だけでなく、「関係者に信頼される方法」「社長交代の演出方法」など、実務で必要になる具体的なポイントも多く盛り込まれているのが特徴です。
講座の内容は以下のとおりです。
タイトル | 内容 |
---|---|
事業承継士とは何か? | 事業承継士としての品格の備え方、実務経験の磨き方、先代・後継者・関係者に信頼される方法 |
事業承継概論 | 環境とデータの分析能力、数値による説得力、面談時の対応力、手法を取捨 選択する決断力、周辺知識/幅広い知識の獲得方法 |
ヒアリング・状況分析・課題発見・解決策の提示 | 問診票・事前情報カルテの作成、問題点の読解力、診断/報告書の書き方、 事業承継計画書の作成方法、解決策提示における優先順位と諸注意 |
株式と経営権/財産権 | 従業員持株会と投資育成会社、定款作成テクニック、会社法の使い方、ストックオプションの裏技 |
社長個人としての相続&争族防止 | 相続と民法、法定相続人、養子、遺留分、特別受益、寄与分、遺産分割協議など |
後継者にまつわるあれこれ | 後継者の見つけ方、後継者育成方法、後継者の選択(兄弟間、従業員間など)、 理念を伝える、社長交代の演出方法 |
会社を強くする技術伝承 | 現場ノウハウ・知財・技術の見える化、技術伝承、個人から会社への知的所有権の移転 |
後継者のための 労務管理 | 暗黙知から形式知への転換、後継者が経営者に変革するための従業員の募集 /採用/教育、規程類の策定と説明の仕方 |
保険/O.Lを駆使した事業承継 | 株式買取り資金用/節税対策用/借入金返済用/遺留分減殺請求用に使え る保険の使い方、O.L(オペレーティングリース)の使い方 |
実践に基づくケーススタディ①~③ | 親族内承継のポイントと注意点(製造業A)、親族外承継のポイントと注意点 (サービス業D) |
中小企業経営承継円滑化法の解説 | 相続税/贈与税、遺産分割協議と遺留分の扱い、金融と保証人(サービス業B) |
事業用資産としての土地/建物対策 | 不動産評価方法、地代と借地権、事例から見る個人と法人間における事業用資産の移転の様々なケース(小売業C) |
信託の最新事情 | 信託法/信託業法、信託を活かした実例(不動産業E) |
資格取得講座の受講方法は、「教室講座」「ビデオ講座」「Zoomを使った講座」の3種類があり、自分の都合に合わせて選択できます。
教室講座は、講座が開かれる会場に通学して受講する形式です。2023年は、東京の「機械振興会館」と大阪の「LEC東京リーガルマインド 梅田駅前本校」で開催されています。
開催時期は2023年度は東京が8月、大阪が10月で、現状年1回程度の開催だと思われます。日程は計5日間で、時間は9:30から16:30です。土日祝日を利用したスケジュールとなっているので、仕事を休むことなく受講できます。
欠席した方のための「アフターフォロー制度」があるので、もし用事や仕事で出席できない日がある場合でも、事業承継センターに相談してみるとよいでしょう。
【2023年度の教室講座】
コース名 | 8月東京教室コース | 大阪コース |
---|---|---|
開催地 | 機械振興会館内 | LEC東京リーガルマインド 梅田駅前本校 |
日程 | 8月11(金・祝)・12(土)・13(日)・19(土)・20(日) | 10月7(土)・8(日)・9(月・祝)・14(土)・15(日) |
ビデオ講座(WEB通信講座)は、録画した講義のビデオを視聴する形式です。自宅で好きな時間に受講でき、申込みもいつでもできるので、手早く資格を取得したい方におすすめです。
希望者はZoomで講師に質問できるので、ビデオ視聴だけでは不安という方でも安心です。
Zoomを使った講座は、講義自体はビデオ視聴ですが、その前後にZoomで講師の解説や質疑応答がある形式です。自宅で手軽に受講しつつ、講師からのフィードバックも受けられます。
開催時期は、2023年度は11月23(木・祝)・25(土)・26(日)・12月2(土)・3(日)で、教室講座と同様土日祝を利用したスケジュールになっています。時間も9:30から16:30で教室講座と同じです。
事業承継士は3年ごとの更新制で、更新までの3年間の間に、下の表の単位を30単位取得しなければなりません。単位を取得しないと更新できないのは面倒ではありますが、常に変化する事業承継の動向をアップデートでき、事業承継士としてのスキルを維持・向上できます。
【単位の取得方法】
取得方法 | 取得単位数 |
---|---|
セミナー・研修に出席する | 1~2単位 |
セミナー・研修で講師をする | 事業承継センター主催のもの:2単位 事業承継協会が認めた外部機関のもの:1~3単位 単独開催など:1~10単位 |
機関誌掲載の継続研修問題を解いて合格する | 2単位 |
機関誌に記事を書く | 2または4単位 |
新聞・雑誌・WEB等に事業承継に関する記事を書く | 2~4単位 |
セミナー・勉強会を主催する | 2~3単位 |
事業承継のコンサルティングを行う | 1~10単位 |
事業承継士は、前提として公認会計士や税理士などの国家資格を保有したうえで、さらに事業承継に必要な実務面の知識を持つ専門家です。
事業承継は、単に株式を高値で売却できれば成功ではなく、会社が持つノウハウや理念などを受け継ぎ、事業承継をして良かったと満足できて初めて成功したといえます。事業承継に関する幅広い知見と専門性を併せ持つ事業承継士は、真に満足できる事業承継を行うための相談先として適しているといえるでしょう。
また、事業承継士は会員同士の交流などを通して広いネットワークを持っているので、税理士・弁護士など事業承継に不可欠な各分野の専門家とも連携しやすいといえます。
さらに、事業承継士はセミナーなどを通して常に最新動向をアップデートしているので、最新動向に精通した専門家に相談できるメリットもあります。
事業承継士は事業承継の専門家として、今後さらに需要が高まってくると考えられます。
事業承継の幅広い知見を得て活躍したいと考えている方にとって、非常に魅力ある資格だといえるでしょう。
興味のある人は本記事の内容を踏まえチャレンジしてみてください。