新型コロナウイルスの影響を受けている方は、資金繰りや財務の改善が見込める「資本性劣後ローン」を利用することができます。
ローンと聞くと抵抗感を持つ方もいらっしゃいますが、資本性劣後ローンは毎月の返済がなく、利息も経営状況に合わせて調整されるため、返済額を抑えて借入することが可能です。
本記事では資本性劣後ローンの概要とメリット・デメリット、注意点を解説します。資本性劣後ローンについて知りたい方はぜひ参考にしてください。
資本性劣後ローンとは、借入しても自己資本と見なされる劣後ローンのことを指します。
劣後ローンとは、他の債券などより支払い順位の低いローンのことです。例えば会社が倒産した時は資産整理を行い、従業員の給与や税金などを支払います。支払った後は「資産が減少している」もしくは「ほとんど残っていない」という状況になるケースが多いでしょう。劣後ローンは優先順位が低いため、回収できない可能性も高いローンのことです。その分利子も一般的なローンより高めに設定されている点が特徴です。
劣後ローンは負債ではなく自己資本の一部とみなされます。自己資本にみなされるということは、債務が増えず、資本比率が上がることから、財務規模が大きいと判断することもでき、他の融資を受けられる可能性も高くなります。これを資本性劣後ローンといいます。
資本性劣後ローンは金融機関によって名称が異なります。
日本政策金融公庫・・・新型コロナウイルス感染症対策挑戦支援資本強化特別貸付(新型コロナ対策資本性劣後ローン)
金融機関・・・資本性ローンや資本性劣後債など
資本性劣後ローンは新型コロナウイルス感染症の影響を受け、業績が悪化した企業や個人が利用します。
例えば既に借入している企業が業績悪化に伴い、金融機関からの追加融資が受けられず、経営に困っている方などが使用するケースが多いです。経営が改善されるうえ、資本金にも含まれるため、金融機関からの融資を受けられる可能性も高まります。
もちろん過重な借り入れをしてしまうと貸し倒れリスクも高まるため、適材適所に金融機関は融資の判断をしますが、資本金が増えるということは、会社の信用力にもつながります。結果経営悪化から改善され、倒産する企業が少なくなる特徴があります
ここでは資本性劣後ローンと通常の融資の違いについて、以下の表にまとめました。
項目 | 資本性劣後ローン | 通常の融資(事業用ローン・プロパーローン等) |
---|---|---|
対象者 | 新型コロナウイルス感染症の影響を受けた法人または個人企業の方であって、次のいずれかに該当する方 ・J-Startupプログラムに選定された方または独立行政法人中小企業基盤整備機構が出資する投資事業有限責任組合から出資を受けた方 ・中小企業活性化協議会(旧:中小企業再生支援協議会を含みます。)の支援を受けて事業の再生を行う方、または独立行政法人中小企業基盤整備機構が出資する投資事業有限責任組合の関与のもとで事業の再生を行う方 ・上記1および2に該当しない方であって、事業計画書を策定し、民間金融機関等による支援を受けられる等の支援体制が構築されている方 | 特に制限なし。ただし融資を受ける事業内容・目的や企業・個人の経営内容によって異なる。 |
返済期間 | 5年1ヵ月、7年、10年、15年、20年のいずれか | 5年から35年など金融機関によって異なる |
返済方法 | 期限一括返済(利息は毎月払) | 毎月返済 |
利率 | 融資後3年間は0.5% さらに3年目以降でも赤字期間は0.5% 黒字の場合は返済期間に合わせて以下の通り ・5年1ヶ月・・・2.6% ・7年・・・2.6% ・10年・・・2.6% ・15年・・・2.7% ・20年・・・2.95% | 0.9~3.5%(事業内容や企業規模によって異なる) |
担保・保証人 | 無担保・無保証人 | 保証人または連帯保証人または担保の設定が必要 |
その他 | ・債務は金融機関の資産査定上自己資本とみなす ・倒産が裁判所によって行われた場合は劣後する ・融資後5年間は返済できない | ・資本金とみなされず、債務となる ・倒産しても劣後しない(自己破産申告するケースが多い) ・期限に関係なく繰り上げ返済可能 |
対象者を見てわかる通り、経済産業省のJ-Startupプログラムに選定された方または、独立行政法人中小企業基盤整備機構が出資する投資事業有限責任組合から出資を受けた方などが対象者と限られているように見えます。
ただ実際は、事業計画書を策定し、民間金融機関等による支援を受けられる等の支援体制(融資後おおむね1年以内に民間金融機関等からの出資または融資による資金調達が見込まれること)も対象者であるため、一般的に新型コロナウイルス感染症の影響を受けた企業であれば適用可能です。
融資上限額は7,200万円です。まとまった資金調達を行いたい方におすすめのローンと言えるでしょう。
資本性劣後ローンには以下の5つのメリットが挙げられます。
資本性劣後ローンは月々の返済が利息だけとなります。例えば、2,000万円の資本性劣後ローンを期間10年、金利2.6%で借入した場合、本来元本も返済するとなると189,450円返済することになりますが、毎月の利息は22,784円で済むため、月々の返済負担を減らすことができます。
毎年直近決算の業績に応じて金利が0.5%となるケースもあるため、返済額が圧迫する可能性は低くなります。
資本性劣後ローンは借入した金額が資本に含まれるため、企業が他の融資を受けやすくなる特徴があります。資本金が多いということは、会社への信用力が上がることを意味します。
支払い能力も高いと判断されることから金融機関からの融資を受けやすくなるメリットがあります。
毎月の利息負担はあるものの、他の融資と比べて赤字期間は金利が安い傾向にあるメリットがあります。借入するローンの内容によるものの、資本性劣後ローンは税引後の純利益額が0円未満であれば、金利0.5%で借入できます。この金利はどのローンでもほとんど見られない低い金利です。
ただし、黒字経営が出た際は高い金利にもつながるため、後ほど詳しく解説します。
無担保・無保証人で借入できる点は、資本性劣後ローンの特徴です。本来借入する場合は、万が一返済が滞った時の対策として、資産価値のあるものを担保に設定します。また保証人をつけ、債務者に代わって弁済してもらうのが一般的です。
担保・保証人が設定できなければ受けられない融資が多い中、不要な点は大きなメリットと言えるでしょう。
法的倒産手続きが裁判所によって開始された際、全ての債務が完了した後の資産で返済します。従業員の給与などの方が優先順位が高いため、社員を最低限守ることが可能です。
5つのメリットを紹介しましたが、デメリットもあります。また借入するためには適用条件を満たす必要があるため、詳しく解説します。
借入して4年目以降に黒字が出た場合、一般的なローンと比較して金利が高い傾向にあります。原則5年1か月前は期限前返済ができないため、高い利率の返済を行っていくことになります。
赤字経営であれば0.5%の低金利が適用されるため、返済額が少なくなりますが、一方で経営が黒字化してきた際は注意してください。
資本性劣後ローンは一括返済です。毎月の利息は返済するものの、元本に関しては期限一括償還です。借入期間前に返済資金を用意しておくデメリットがあります。
資本性劣後ローンを受ける方は審査時に新型コロナ対策資本性劣後ローン専用の事業計画書を提出しなければいけません。
また融資実行後の資金繰りを含む報告をする義務もあります。融資を受けた後、「経営状況が黒字に向かっているか」「融資した金額が適切に使用されているか」をチェックするためです。資本性劣後ローンを借入する際は、毎期の経営状況の報告等を含む特約を締結しなければいけません。
今回は資本性劣後ローンの概要とメリットデメリット、注意点を解説しました。
新型コロナウイルス感染症の影響を受けた企業または個人の方は、資本性劣後ローンを借りることが可能です。もちろん審査をクリアする必要がありますが、適切な内容の事業計画書を提出し、毎期の経営状況を報告する締結をすれば、融資の審査は通るでしょう。
一方で、黒字経営になった際は高い金利となるため、専門家に相談しながら利用するか検討することをおすすめします。