企業が安定した成長を目指すためには、社会から必要とされる存在になることが重要です。「企業価値」は、世間から見て、会社がどのくらい経済的な価値を持っているのかを把握できる指標です。
本記事では、企業価値の定義や計算方法・企業価値を高めるコツなどを解説します。企業の価値を高める体制づくりの参考にしてみてください。
企業価値とは、企業が持つ全体的な経済的価値や魅力を測るための指標です。顧客や取引先が企業を選ぶのに、重要な役割を果たしています。
企業価値についてさらに詳しく知るために、定義と役割について理解を深めていきましょう。
企業価値の定義に決まった考え方はなく、企業によってさまざまな考え方が取り入れられています。算出基準となる価値には、貸借対照表から分かる純資産だけでなく、将来的に見込まれる利益・非事業用資産(預金・投資用有価証券・遊休地など)・のれん・無形資産・知的財産価値などを含む考え方もあります。
社外から見た企業価値は、貸借対照表の貸方に記載された株式価値と負債価値を合わせたものであることが一般的です。また、株主にとっての企業価値は、業績の著しい増加が見られる・経営基盤が強い・企業として利益を追求しているなどが挙げられるでしょう。
一方で、社内から見た企業価値は、社外とは視点が異なります。社内=従業員から見た企業価値は、金銭に関わるものではなく、働きやすさが大きなポイントです。主なポイントには、ワークライフバランスが保てるか・誇りと自信を持って働ける会社であるかなどがあります。
企業価値の大きな役割は、企業の社会的な位置付けを知り、優位性を保つことです。企業価値が高いと、TOBやM&Aの交渉場面で優位性を確保できます。
近年はVUCA時代と呼ばれており、先行きが不透明な状態が続いています。新型コロナウイルスの感染拡大やテクノロジーの急速な進歩は、多くの企業にとってビジネスモデルや価値観が大きく変わるきっかけになったのではないでしょうか。このような社会情勢の中で、企業の価値を正しく見極め、成長性や将来性を示すために、企業価値の重要性が注目されているのです。
さらに、社会の変化に伴い、企業倫理のあり方も大きな変化が見られます。企業の魅力や価値を可視化するためにも、企業価値が重要な役割を果たしています。
事業価値は企業価値の一部であり、企業が行った事業活動により発生した価値を指します。純資産価値に加え、のれん・無形資産・知的財産価値なども、事業価値のひとつです。
企業価値と事業価値の関係性は、以下の式で表すことができます。
企業価値=事業価値+事業以外の価値(非事業資産) |
つまり、企業価値は事業価値と事業外の資産を合わせたものなのです。事業外の資産に該当するものとして、預貯金・有価証券・投資有価証券・出資金・遊休地などがあります。
事業価値と企業価値が混同されるのは、スタートアップ企業やベンチャー企業などは事業外の資産を持っていないケースが多いためです。
株主価値とは、企業価値から負債(借入金)を差し引き、株主に帰属する価値を示すものです。株主価値と負債価額を足すと企業価値になるため、両者は全く異なる意味を持っています。
負債を企業価値の一部とみなすのは、企業の収益を見越して提供している資金と考えているためです。金融機関などの債権者や株主は、利息や配当金によって利益の還元を受けています。企業の利益が増えれば還元も増えることから、負債は必ずしもマイナスの意味を持つ価値ではないのです。債権者へ支払う利息は会計上の損益となり、課税所得が減るため、負債は節税効果も期待できます。
時価総額は、株価に発行株式数をかけて計算した数値です。企業の価値が分かる数値であるものの、企業価値とは異なる意味を持っています。
「事業価値との違い」で解説した計算式以外に、企業価値は以下の式でも表すことができます。
企業価値=時価総額+有利子負債 |
株価が関係しているため、株主価値と同様、株主に帰属する価値という考え方もあります。
EV(EnterpriseValue)は、企業価値を英語にした言葉ですが、全く同じ意味を持つ言葉ではありません。以下のように、企業を買収するのに必要な現金を差し引く計算方式が使われます。
EV=時価総額+有利子負債-現金(および現金同等物) |
企業買収完了後、負債返済に充てるため、現金および現金同等物を差し引いて考えます。
日本公認会計士協会では、「企業価値評価ガイドライン」を示しており、企業価値を形成する概念として5つの要因をあげています。そのうち、ここでは4つの要因について解説します。
一般的要因とは、企業を取り巻くマクロ環境を指しています。企業と無関係に起きているものであり、企業側でコントロールすることは不可能ですが、企業価値の計算には考慮が欠かせません。主な一般的要因には、以下の要素が該当します。
社会的要因
政治状況
経済政策・景気対策
法令
景気動向
企業の業種・業態および収益性などで構成されており、企業側でコントロールできます。ここで解説している要素のうち、最も改善しやすい要因です。主な企業要因は以下の通りです。
業種業態取引規模
評価対象会社のライフサイクルにおけるライフステージ(創成期・成長期・安定期・衰退期)
経営における戦略・計画と達成状況
収益性
財政状態
配当政策
企業の特異性(経営・営業・技術・研究など)
株式の分散や取引状況などが該当します。非上場企業は明確な株価がなく、株主や株式の状況が判断基準となります。主な株式要因は以下の通りです。
株主構成(株主の集中・分散の状況)
株主関係(同族関係、支配株主関係、一定の株主グループにおける形成状況)
株式の種類と発行状況(普通もしくは種類株式)
取引後の株主構成の変化
取引数量(全量・大量・中量・少量)
過去の売買の事例(株式における流動性)
株式譲渡制限の有無
企業価値をどのような目的で計算するのかを定めたものです。目的を明確にすることで、企業価値が適切に計算できます。主な目的要因には、以下のものがあります。
取引目的
裁判目的
処分目的
課税目的
PPA目的
企業価値は、前述した要因によって計算結果が大きく変わってきます。概念の捉え方によって評価方法が分かれますが、一般的に企業価値を計算する方法として、以下の3つが使われています。企業価値を適切に把握するには、状況に合わせて計算方法を選ぶことが必要です。
コストアプローチとは、企業が持つ純資産の時価評価額を、企業価値の基準とする計算方法です。貸借対照表に記載された資産から負債を差し引いて求める「簿価純資産法」と、時価評価した資産から負債を差し引く「時価純資産法」があります。
企業の財政状態が分かる貸借対照表から算出するため、計算しやすい点がメリットです。一方で、将来の収益性は考慮できず、企業清算などの場面で多く使われています。
将来獲得が見込まれる利益やキャッシュフローを基準として、企業価値を計算する方法です。見込まれる利益を現在の価値に直して計算する「収益還元法」・株主への配当金を基準に計算する「配当還元法」・企業の収益価値を基準に計算する「DCF法」があります。
企業の成長性や将来性が考慮でき、成長を期待できる企業が選択するケースが多いです。一方で、将来の企業の動向は主観を反映しやすいため、客観性を欠く点に注意しなくてはいけません。
上場企業であれば市場株価・非上場企業では同業他社や類似の事例を基準として、企業価値を算出する方法です。1か月から6か月の期間における類似企業の平均株価を基準とする「市場株価法」と、類似会社の評価倍率を基準とする「類似会社比較法」があります。
実際に取引されている株式を元にしているため、客観性に優れた判断が可能です。一方で、類似会社を見つけることが難しい場合もあり、類似と定める明確な基準が必要です。
企業価値は、ビジネスを適切に遂行するための重要な要素です。企業価値が高いとどのようなメリットがあるのか、ここでは3つ解説します。
M&Aの取引価格には明確な相場がなく、売り手と買い手の双方が取引価格に合意するには判断材料が必要です。この判断の基準として、企業価値が活用されます。
企業価値が高いと、吸収合併における交換比率を優位にできる可能性があります。さらに、買収から企業を守ることも可能です。
企業が金融機関から融資を受けるには、審査を通過しなくてはなりません。審査のポイントのひとつに企業の信頼度や返済能力が挙げられますが、企業価値の高さは安定した収益の確保を意味しているため、企業は融資を受けやすくなります。
投資家から受ける投資でも、同じことが言えます。投資家は安定した収益を望んでおり、収益確保のために企業価値が高い企業へ投資する傾向が強いのです。
企業が安定した収益を確保していると、健全な企業経営ができていることを意味しており、倒産リスクを軽減できます。企業価値が高いと融資を受けやすくなり、確保した事業資金を元手として企業を成長させ、企業価値を高めるという好循環が生まれます。
社会からの評価も高まり、さらなる利益の確保と企業価値の向上が実現できるでしょう。
企業価値を高め、企業がさらに成長していくためには、以下の3つのポイントが重要です。ひとつずつ詳しく見ていきましょう。
企業価値を高めるのに最も重要なのは、収益力の向上です。そのためには、利益を増やす・コストを減らすという2つの方法があります。しかし、コストを減らすには限界があるため、利益をより増やす施策が求められます。
利益を増やすには、以下に示す「売上5原則」を基にして戦略を立てましょう。多くの業種で使われており、他社との差別化で市場競争に勝つためのポイントです。
新規顧客の獲得
流出顧客の減少
購買頻度の向上
購買点数の増加
購入単価の向上
企業が持つ事業外資産は、企業価値に含まれるものの収益は発生せず、固定資産税も課せられます。事業外資産を活用し、事業に関係する運用を行ったり、事業外資産を手放しても問題ないのであれば売却を検討したりして、投資や運用を心がけることが必要です。企業経営をスリム化し、投資効率を上げていきましょう。
企業価値は、株主価値と負債価値の合計であると解説しました。しかし、負債が減ると自己資本比率が高まるため融資などが受けやすくなり、会社経営の安定や企業価値向上が期待できます。
自己資本比率が50%以上あると、融資などが受けやすくなります。今一度財務状況を見直し、負債を減らせるよう対策を検討しましょう。
この記事で解説したように、企業価値は企業の価値や魅力を測るための重要な指標です。企業価値が上がることで優位な取引が期待でき、企業全体の成長も見込めるようになります。
企業価値についてしっかりと把握し、より良い企業経営を目指していきましょう。