ISO 9001(品質マネジメントシステム)は、グローバルなビジネスの現場で欠かせない信頼の証です。特に日本の製造業においては「取引先からの要求」「競争力の維持」「業務効率化」など、取得・運用のメリットが広く認知されています。
そのISO 9001が約10年ぶりに大きな改定期を迎え、2026年頃に最新版の発行が見込まれています。この動きは中小製造業にとっても他人事ではなく、どう備え、どう自社の成長に活かしていくかが問われるタイミングです。
本記事では、2026年に予定されている変更点や改定スケジュール、実務で求められる対応策について紹介します。また中小企業のための負担を抑えた運用のヒントや改訂期の補助金・資金調達の注目トピックまで解説します。
製造業において品質管理は、顧客満足や信頼獲得の要です。ISO 9001は、品質を維持・改善する国際標準規格として多くの企業で活用されています。
2026年に見込まれている改定では、グローバル化やデジタル化、サステナビリティなどの変化に対応した内容に更新される予定です。
ISO 9001は、製造やサービスの品質を継続的に改善し、顧客満足度を高めるための国際標準規格です。製造業の現場では、設備・人材・工程のすべてにおいて、「つくる力」、つまり品質を守る仕組みを整備することが欠かせません。
ISO 9001を取得して運用することで、品質管理体制を国際標準に沿って構築できるため、取引先や顧客からの信頼を獲得できます。また、不良品やクレームの発生を減らすことでコストを削減し、再発防止策を強化することも可能です。さらに、社員教育の体系化により、組織全体のスキルアップと責任の明確化が進み、持続的な業務改善(PDCA)の実践を通じて、変化する環境にも柔軟に対応できるようになります。
ISO 9001は2026年の改定で、品質管理だけでなく、品質文化や倫理、サステナビリティへの対応も求められるようになる見込みです。リスク管理や経営戦略との連動が明確化され、気候変動やESGへの配慮も条文に追加される予定です。
また、DXやデータ活用に関する手法も充実し、規格の柔軟性が高まります。ここでは、現行と2026年版の改定ポイントを整理し、どのような変化があるのかを解説する流れでご紹介します。
2026年版のISO 9001では、倫理やサステナビリティ、リスク管理、DX対応といった要素が主な追加・強化ポイントとなります。
具体的には、リーダーシップの項目では、品質文化の醸成や倫理的行動が明文化され、従業員一人ひとりの品質意識の向上が求められます。
リスク・機会管理の項目では、「未然対応」と「成長促進」を区別し、リスクと機会への対応アプローチがより詳細に整理されます。
また、ESGや気候変動、カーボンニュートラルへの対応が条文に統合され、企業のサステナビリティ対応が強化されます。
さらに、DXやデータ管理の実務に関する配慮も盛り込まれ、サプライチェーン全体を対象とした監査の適用範囲も明確化される予定です。
現行(2015年版) | 2026年版(案) |
|---|---|
品質管理の要求強化 | 品質文化・倫理・サステナビリティまで適用拡大 |
リスク+機会管理 | 条項の明確化+経営戦略と連動 |
気候変動・ESGの明記 | 条文の追加・明文化(『環境への配慮』義務化) |
DXやデータ活用の記載 | 管理手法解説の充実/手続きの柔軟化 |
ISO/TC176の公開スケジュール案によると、直近のISO 9001改定は2015年版から約10年ぶりとなる2026年9月が予定されています。具体的には以下のようなプロセスで進行しています。
内容 | スケジュール |
|---|---|
委員会ドラフト更新版(CD2) | 2024年末 – 2025年初頭 |
国際規格案(DIS) | 2025年6月30日登録 |
コメント受付 | 2025年8月~11月 |
最終国際規格案(FDIS) | 2026年4月 |
規格発行予定日 | 2026年9月 ※JISは3カ月後予定 |
正式に新規格が発行された後は、通常3年の移行期間が設けられ、2029年8月までに企業は新しい規格へ移行することが求められます。
今回の改定の背景には、ビジネスのグローバル化やサプライチェーンの変化、サステナビリティやESGへの対応、さらにDX(デジタル変革)やリスクマネジメントの重要性の高まりがあります。
また、ユーザーや現場の声を反映し、規格の「使いやすさ」や「柔軟性」を向上させることも目的とされています。
ISO 9001改定への備えとして、文書体系の棚卸しや内部監査の見直しを行う中小製造業の事例は数多く存在します。ここでは、実際に運用改善や組織改革につながった代表的な2つの事例をご紹介します。
ある岡山県の製造業では、長年ISO9001を保有していたものの、文書や手順が複雑化し、現場でほとんど活用されていない「形だけのISO」になっていました。
改定をきっかけに、品質マニュアルや手順書を一度すべて棚卸しし、現場ミーティングを通じて内容をシンプル化。内部監査の仕組みも見直し、実態に合わない項目を削除するなど、運用負荷の軽減を徹底しました。
その結果、ISOが「審査のための仕組み」から「現場を支える仕組み」へと変わり、社員が品質管理の重要性をより実感するようになったといいます。
参考:ISO9001運用改善のポイントと成功事例まとめ|中小企業の課題解決に役立つ記事リンク集 | 令和グループ(ISOコンサルティング)
群馬県の食品製造業G・Mフーズでは、経営トップがDX推進を強く後押しし、受注・在庫・工程の管理をクラウド化する取り組みを実施。同時にISO 9001を組織運営の軸として位置づけ、品質管理のルールやチェック体制を一段階引き上げました。
DXによる業務効率化とISOの運用改善が相乗効果を生み、品質の安定性が向上。顧客からの信頼度も高まり、新たな取引先の獲得につながったと報告されています。
参考:内臓専門業者で全国唯一のISO9001認証取得企業 経営トップがDXを推進 G・Mフーズ(群馬県) | 製造業(食料品)のICT導入事例 │中小企業応援サイト
ここではISO9001の改定や初回認証取得時に活用できる補助金例を紹介します。
全国の各都道府県や市区町村には、ISO認証取得に対する補助金制度を実施している自治体もあります。多くは中小企業向けで、ISO9001などの初回認証取得にかかる費用やコンサルタント費用を助成対象としています。
補助率や上限額は自治体ごとに異なり、地域によっては更新や改定費用にも対応しているケースもあります。自社の所在地の自治体の制度を確認することで、初期取得費用を補助金で抑えながらISO認証取得を進めることが可能です。
例えば世田谷区では、区内の中小企業を対象に「ISO取得支援事業」を実施しています。この制度では、ISO認証を取得する際に必要となるコンサルタント委託費や審査費用などを助成の対象としており、助成率は対象経費の2分の1以内、助成限度額は65万円です。
区内企業が初めてISO認証を取得する際に、費用面の負担を軽減できる制度となっています。申請には、事前に区への申請書提出が必要で、助成金交付前に契約や発注を行わないことなどの条件があります。
東京都中小企業振興公社が実施する「製品改良/規格適合・認証取得支援事業」では、ISO9001などのマネジメントシステム規格に関する「規格適合や認証取得に要する経費」が補助対象となります。
これには、コンサルタント費用や審査登録費用などが含まれ、認証取得や更新の際の初期費用を軽減できます。都内中小企業であれば、ISOに限らず品質管理や環境管理などの規格取得にも活用でき、費用面の負担を抑えつつ認証取得を進められる点がメリットです。
ISO9001の改定対応や運用改善そのものは、国の補助金の直接的な補助対象にはならない場合が多いものの、業務プロセス改善や教育などの関連施策がセットで発生する場合、補助対象となるケースがあります。
例えば、生産管理システムや在庫管理・品質管理システムの導入など、ISO 9001の要求事項に基づく工程管理の高度化や記録の電子化などを進める場合、経産省のものづくり補助金が対象となるケースがあります。
参考:ものづくり補助金とは?対象者や申請要件、補助額、申請方法をわかりやすく解説
また、従業員教育・スキルアップの領域においては、厚労省の人材開発支援助成金が対象になる可能性もあります。
参考:人材開発支援助成金とは?人材開発支援助成金のコース内容や申請から受給の流れなどを解説
国の補助金や助成金は制度により対象経費が大きく異なるため、どういった費用が発生するのかを事前に十分確認することが重要です。興味のある方は専門家に相談するようにしましょう。
ISO9001の2026年改定は、単なる「規格切替」に留まりません。今の仕組みを見直し、時代と自社に合った品質経営を進化させましょう。
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